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第1章 誘い
魂たちの二重奏 2
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……サニ! ……
声のする方へ、サニが意識を向けると、同じくPSI-Linkシステムに接続している直人の姿があった。腕にはしっかりとあの赤ん坊、すなわち亜夢の『セルフ』を抱きかかえている。
外界の水流の圧力に、赤ん坊を持っていかれまいとしているようだ。まるで我が子を必死に庇う父親にしか見えない。
……へへっ、なかなか様になってますね、センパイ……
……か、からかうなよ! ……
照れ臭そうに返す直人に、優しく微笑み返すサニ。
……あの光の方だと思う……
直人が指し示した先に、激しく渦巻く、水流の奥底に微かな光点が見える。IMCから送られてくる、目標地点の座標方向とも一致している。
……うっわっ、あんなところに……
……サニ、頼む! ……
……はいはい。センパイはしっかり子守してて! ……
サニはその光点へ向けて、意識をさらに研ぎ澄ましていく。
「航路修正……座標1-1-1.5へ。速力二〇で五秒加速、続いてさらに速力二十五に増速……10-……-11-……2……へ。それから……」
サニは、うわ言のように修正航路の道筋を示す。その航路は、PSI-Linkシステムで共有され、ティムの扱う操縦系統へ、データが送信されてくる。ティムのコンソールモニターにも、その航路図が浮かび上がってきた。
「サニ、ナイスナビ!」ティムは一気に<アマテラス>の機関の出力を上げると、サニのナビゲーションに従い、船を進める。
直人とサニに続き、ティムも変性意識状態へと入っていく。変性意識状態下の活動能力は二人ほどではないが、知覚の拡大したティムも、操縦桿に備え付けられたモジュールを通してPSI-Linkシステムに接続し、より繊細な操船を可能にする。流れ来る漂流物を紙一重でかわしながら、次々とサニが示す座標へと<アマテラス>をひた走らせる。
「<アマテラス>、まもなく目標座標直下へ接近します!」
「現象界との時空間差が激しい。見失うなよ、田中! アイリーン!」「はい!」田中とアイリーンは声を重ねて東に返事を返す。
IMCでは、<アマテラス>から刻一刻と送られてくる時空間データと、移動する『低気圧』の中に取り込まれている、生体へのコネクション座標を擦り合わせ、再マッピングする作業を、田中とアイリーンが連携して、リアルタイムに実施していた。
時間が経つにつれ、保護カプセルの亜夢を照らす治療光は、暗黒の雲のようなモヤへと変化していく。カプセル内で心象世界の現象化が進んでいる。
……不味いんでないかい……今、あの娘に死なれては……
真世に取り憑いた式神、彩女は、IMCでインナーノーツらの奮闘を傍観していたが、亜夢の危篤を察すると、あたふたと対処に追われる真世に、苛立ちを募らせる。
……まったく、見てらんないよ! ……
彩女は、モニターをとおして、真世に指示を送る貴美子に意識を集中した。モニター越しではあるが、貴美子の処方イメージを何とか感知した彩女。
……なるほど……こうするんかい……
「……!」真世の頭が、一瞬仰け反る。
「真世? ……どうしたの⁉︎」その様子を見ていたのはモニター越しの貴美子のみ。IMCのスタッフは、誰も気づいていない。
「……大丈夫……」ゆっくりと、真世の頭が、元の位置に戻る。すると、先ほどまでの戸惑いが嘘のように、次々と処置をこなす真世。貴美子はその様子に目を見張る。
「……これで良いかしら……"おばあちゃん"」
「え……ええ……」自分が伝えようとしていた事まで完璧にこなす真世に、貴美子は驚きを隠せない。その真世の目に、何か得体の知れない不気味さを、一瞬感じとる貴美子。
しかし、次の瞬間。
「……あっ! えっと……」急に狼狽しだす真世。
「ごめんなさい。なんだかぼっとしちゃって……どこまで行ったっけ⁉︎」
「もう済んだわよ。貴女が全部やってくれたわ」モニター越しの祖母は、呆気にとられた顔でそう言うと、口を閉ざした。
「え? ……」真世が、眼下の亜夢の収容カプセルに目をやると、先ほどまで立ち込めていた暗雲が、解消されている。亜夢のバイタル値も、何とか持ち直していた。
どういう事なのか、さっぱりわからない真世は、怪訝そうに、亜夢の収容されているカプセルを呆然と見つめた。
「真世!」「は、はい!」狐につままれたように、きょとんとしていた真世は、東の呼びかけに引き戻される。
「まもなく<アマテラス>は、目標座標に到達する。生体側の反応に、十分注意してくれ。それと集中治療室の受け入れ準備を!」「わかりました!」
ミッション最終フェーズに突入するIMCに、緊張が漲る。
……さてと、いよいよかぃ……
彩女は、その冷たい視線を、カプセルの中の亜夢に投げかけた。
……目を覚ましておくれよ……
「……座標10-2-1へ……最終加速三〇……正面……目標座標直下……うっ……」
……サニ! ……
直人の潜在意識のビジョンから、サニのイメージが消失する。
変性意識から戻ったサニは、その身をレーダー盤へと、もたれさせる。
「……はぁ……はぁ……全ナビゲーション……終了……」
頭の中のメモリーが、一気に解放されるのと同時に、虚脱感が全身を襲う。
「よく頑張ったわ、サニ!」「……す、少し休ませてぇ……」
さすがにカミラも、それ以上、サニに言葉をかける気にはならない。サニの的確なナビゲーションにより、<アマテラス>は、時空間変動の潮流の合間を駆け抜けた。
「ティム! 速力そのまま! 一気に海面へ出る!」「了解!」
……もう少しだよ、亜夢……
なおも変性意識状態のまま、赤ん坊の姿をした亜夢の『セルフ』に語りかける直人。その腕に赤ん坊は、しっかりとしがみ付いている。
直人は変性意識の中で、サニが導いた先の空間に"目"を凝らす。
……何だ? ……
声のする方へ、サニが意識を向けると、同じくPSI-Linkシステムに接続している直人の姿があった。腕にはしっかりとあの赤ん坊、すなわち亜夢の『セルフ』を抱きかかえている。
外界の水流の圧力に、赤ん坊を持っていかれまいとしているようだ。まるで我が子を必死に庇う父親にしか見えない。
……へへっ、なかなか様になってますね、センパイ……
……か、からかうなよ! ……
照れ臭そうに返す直人に、優しく微笑み返すサニ。
……あの光の方だと思う……
直人が指し示した先に、激しく渦巻く、水流の奥底に微かな光点が見える。IMCから送られてくる、目標地点の座標方向とも一致している。
……うっわっ、あんなところに……
……サニ、頼む! ……
……はいはい。センパイはしっかり子守してて! ……
サニはその光点へ向けて、意識をさらに研ぎ澄ましていく。
「航路修正……座標1-1-1.5へ。速力二〇で五秒加速、続いてさらに速力二十五に増速……10-……-11-……2……へ。それから……」
サニは、うわ言のように修正航路の道筋を示す。その航路は、PSI-Linkシステムで共有され、ティムの扱う操縦系統へ、データが送信されてくる。ティムのコンソールモニターにも、その航路図が浮かび上がってきた。
「サニ、ナイスナビ!」ティムは一気に<アマテラス>の機関の出力を上げると、サニのナビゲーションに従い、船を進める。
直人とサニに続き、ティムも変性意識状態へと入っていく。変性意識状態下の活動能力は二人ほどではないが、知覚の拡大したティムも、操縦桿に備え付けられたモジュールを通してPSI-Linkシステムに接続し、より繊細な操船を可能にする。流れ来る漂流物を紙一重でかわしながら、次々とサニが示す座標へと<アマテラス>をひた走らせる。
「<アマテラス>、まもなく目標座標直下へ接近します!」
「現象界との時空間差が激しい。見失うなよ、田中! アイリーン!」「はい!」田中とアイリーンは声を重ねて東に返事を返す。
IMCでは、<アマテラス>から刻一刻と送られてくる時空間データと、移動する『低気圧』の中に取り込まれている、生体へのコネクション座標を擦り合わせ、再マッピングする作業を、田中とアイリーンが連携して、リアルタイムに実施していた。
時間が経つにつれ、保護カプセルの亜夢を照らす治療光は、暗黒の雲のようなモヤへと変化していく。カプセル内で心象世界の現象化が進んでいる。
……不味いんでないかい……今、あの娘に死なれては……
真世に取り憑いた式神、彩女は、IMCでインナーノーツらの奮闘を傍観していたが、亜夢の危篤を察すると、あたふたと対処に追われる真世に、苛立ちを募らせる。
……まったく、見てらんないよ! ……
彩女は、モニターをとおして、真世に指示を送る貴美子に意識を集中した。モニター越しではあるが、貴美子の処方イメージを何とか感知した彩女。
……なるほど……こうするんかい……
「……!」真世の頭が、一瞬仰け反る。
「真世? ……どうしたの⁉︎」その様子を見ていたのはモニター越しの貴美子のみ。IMCのスタッフは、誰も気づいていない。
「……大丈夫……」ゆっくりと、真世の頭が、元の位置に戻る。すると、先ほどまでの戸惑いが嘘のように、次々と処置をこなす真世。貴美子はその様子に目を見張る。
「……これで良いかしら……"おばあちゃん"」
「え……ええ……」自分が伝えようとしていた事まで完璧にこなす真世に、貴美子は驚きを隠せない。その真世の目に、何か得体の知れない不気味さを、一瞬感じとる貴美子。
しかし、次の瞬間。
「……あっ! えっと……」急に狼狽しだす真世。
「ごめんなさい。なんだかぼっとしちゃって……どこまで行ったっけ⁉︎」
「もう済んだわよ。貴女が全部やってくれたわ」モニター越しの祖母は、呆気にとられた顔でそう言うと、口を閉ざした。
「え? ……」真世が、眼下の亜夢の収容カプセルに目をやると、先ほどまで立ち込めていた暗雲が、解消されている。亜夢のバイタル値も、何とか持ち直していた。
どういう事なのか、さっぱりわからない真世は、怪訝そうに、亜夢の収容されているカプセルを呆然と見つめた。
「真世!」「は、はい!」狐につままれたように、きょとんとしていた真世は、東の呼びかけに引き戻される。
「まもなく<アマテラス>は、目標座標に到達する。生体側の反応に、十分注意してくれ。それと集中治療室の受け入れ準備を!」「わかりました!」
ミッション最終フェーズに突入するIMCに、緊張が漲る。
……さてと、いよいよかぃ……
彩女は、その冷たい視線を、カプセルの中の亜夢に投げかけた。
……目を覚ましておくれよ……
「……座標10-2-1へ……最終加速三〇……正面……目標座標直下……うっ……」
……サニ! ……
直人の潜在意識のビジョンから、サニのイメージが消失する。
変性意識から戻ったサニは、その身をレーダー盤へと、もたれさせる。
「……はぁ……はぁ……全ナビゲーション……終了……」
頭の中のメモリーが、一気に解放されるのと同時に、虚脱感が全身を襲う。
「よく頑張ったわ、サニ!」「……す、少し休ませてぇ……」
さすがにカミラも、それ以上、サニに言葉をかける気にはならない。サニの的確なナビゲーションにより、<アマテラス>は、時空間変動の潮流の合間を駆け抜けた。
「ティム! 速力そのまま! 一気に海面へ出る!」「了解!」
……もう少しだよ、亜夢……
なおも変性意識状態のまま、赤ん坊の姿をした亜夢の『セルフ』に語りかける直人。その腕に赤ん坊は、しっかりとしがみ付いている。
直人は変性意識の中で、サニが導いた先の空間に"目"を凝らす。
……何だ? ……
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