INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh

文字の大きさ
38 / 293
第1章 誘い

生と死の狭間で 6

しおりを挟む
 
「真世、インナーチャイルド、いや『セルフ』の生体側の受け入れポイントは、特定できているか?」
 
「え……ええ」モニターに見入っていた真世は、藤川の不意の確認に戸惑いながら、解析結果をモニターに投影する。
 
「おばあちゃんがいうには、最初のミッションで、インナーチャイルドの反応が顕著だった、子宮のあたりに誘導するのがベストだと……」
 
「うむ……。田中くん、すぐに無意識域の該当座標を割り出してくれ」
 
「了解しました」田中は自分の席に戻ると、即座に作業を始める。
 
「おじいちゃん、もしかしてこれって……この子の生まれる前の……」臨床心理士でもある真世は、生体の反応と心象風景から推察する。
 
「胎内記憶……か?」「ええ」
 
「施設を転々とした為か、亜夢の出生の記録は散逸してますからね……」腕を組みながら東は、藤川に調べてみる価値はありそうだと私見を述べた。
 
「ま……マジ!?」不意に田中が声をあげた。
 
「どうした、田中?」
 
「該当座標特定……できましたが……」田中の顔に躊躇の色が浮かぶ。
 
 
「何ですって!?」カミラは動揺と、抵抗の入り混じった声を張り上げた。
 
「危険なのは百も承知だ。だが、生体とのコネクション座標は、『低気圧』の内部を示している。亜夢を救うにはあの、『低気圧』の中心に飛び込んでもらうほか、ない」
 
 <アマテラス>ブリッジのメインモニターに映し出されている東は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、苛酷な指令を伝えていた。
 
「簡単じゃん! 時空間転移でピョイインと……」サニが手振りでその様子を見せながら、あっけらかんとした口調で提案した。
 
「『低気圧』は、常に移動している上に、この水流と気流では、転移先座標情報が、転移中に撹乱されてしまう。それこそ危険だ」東はサニの提案を退ける。
 
「んー、じゃ同調率を落として波動フィールド内の現象化を弱めるとかぁ……?」
 
「ダメだ! そんなことしたら"この子"はまたあそこに落ちる! もう助からないよ!」
 
 最初のミッションで、カミラがとった危機回避策を思い出し、ぼんやり口にしたサニのアイディアを、今度は直人が強い口調で却下した。
 
 亜夢の『セルフ』は、<アマテラス>と一体となっていることで、かろうじてこの荒れ狂う表層無意識域に留まっていられるのだ。同時に<アマテラス>の周辺に広がる心象世界は、『セルフ』が感じ取っている世界でもあり、『セルフ』との同調によって、波動フィールド内に現象化したものである。『セルフ』との同調を抑えれば、確かに<アマテラス>が心象世界から受ける影響は少なくなるが、それは同時に、この嵐の中で、かろうじて『セルフ』を繋ぎ止めている、命綱の結び目を緩めるような行為に等しい。
 
「……だよね~」サニは溜め息混じりに呟くと、視線を宙に浮かせる。
 
「かといって正面突破? そいつも無茶な話だぜ」吹き荒れる暴風に吹き飛ばされないよう、船を懸命に維持しながら、ティムは悪態めいた口調で言い放つ。それはパイロットとしての的確な判断であった。
 
「ティムのいうとおり……正面からぶち当たったのではそもそも<アマテラス>の船体は持ちません……いったいどうすれば……」カミラが不安げに問う。
 
 沈黙に包まれるIMCと、<アマテラス>のブリッジ。その問いに皆、口を閉ざした。 その間にも爆弾低気圧状のエネルギーの渦は勢力を増し、<アマテラス>も荒れ狂う風雨に、態勢を維持するのがやっとであった。
 
 
「海へ潜るのだよ」
 
 いっ時の静寂を、藤川の言葉が打ち砕く。
 
「しょ……所長、それはどういう……」
 
 <アマテラス>は、暴風によって巻き起される荒波の海から、やっと脱出したばかりだ。東は、藤川の思惑を図りかねていた。
 
「もし、この心象世界の海が、自然の海と同等であるなら、荒波は海面のみ……海中は比較的穏やかなはずだ」
 
 暴風による、高波の影響が少ない深度まで潜航し、『低気圧』に接近。その中心で海上に出る。そのまま上昇気流に乗って、特定された生体とのコネクション座標に到達、そこで亜夢のセルフと、生体の同調確立を試みる。
 
「……しかし所長。海中の状況はまるで掴めていません。よもや海中も……」東は、リスクを指摘せずにはいられない。
 
「他に良い手があるかね?」藤川は穏やかな口調の中に、静かな覚悟を忍ばせる。
 
 東はそれ以上、言葉は出なかった。<アマテラス>のブリッジを映し出している、通信ウィンドウに向き直る。
 
「……インナーノーツ。聞いた通りだ。やってくれるか?」東が強張った表情のまま、インナーノーツに問う。
 
 海中を進む……確かにそれが、最良の策ではありそうだ。だが、かろうじて脱出できた時空間断層といい、このミッションをこのまま継続するのは、危険が大き過ぎるのではないだろうか……隊員達を無闇に危険には晒せない……カミラは、東への返答を渋る。
 
「隊長!」
 
 力強い声音にカミラは顔を上げた。
 
 カミラを促したのは、直人だった。意志の灯る、強い眼差しが、カミラを見据えている。
 
 カミラは、直人のその強い意志に圧倒された。
 
 普段はどこか、他人と距離を置き、心の内を明かすことのない直人が、必死に亜夢を救おうとしている……何がそこまで、直人を突き動かすのだろうか。カミラは不思議にすら感じた。
 
「やるも何も、やるっきゃないっしょ」
 
「ティム、上手いこと潜ってよね。波は嫌いよ」「はは、酔いたくなけりゃ、突入時の海面トレース、抜かりなく」
 
「ティム、サニ……」直人の気概に便乗したティムとサニは、着々と次の行動の準備を始めた。
 
「センパイが珍しくやる気だもんねぇ~。付き合いますって」そう口にしながらサニは、自分の方へ振り向いた直人に目配せし、彼女なりの覚悟を、直人に伝えた。すぐにレーダー盤に向き直り、海面の波のトレースを開始、突入ルートの選定に入る。
 
「『この子』だって。ふふ、なんか面白いもの見れそうだし」何を考えたのか、ひとりほくそ笑むサニ。
 
「前に使ったシールドも、改良してシステムに組み込んでいる。『セルフ』との同調さえ保てれば、 そう簡単に沈みはしないさ、カミラ」アランも、若手3人の意志を後押しする。
 
「アラン……」カミラの口元から、小さな笑みがこぼれる。
 
「まったく、こういう時だけは結束するんだから……」
 
 カミラは顔を上げ、正面のモニターに映る東を見据えた。
 
「チーフ! <アマテラス>はこれより、目標『低気圧』中心への突入を敢行します! サポートをお願いします」
 
「うむ……突入から帰還まで、全面的にバックアップする。必ず、生きて戻れ!」
 
「了解!」カミラの凛とした声が、IMCに鳴り響く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...