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第3章 死者の都
神は来たりて 5
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けたたましいアラートがブリッジに鳴り響く。
「で……出た!?直上!!」サニは動揺を隠せないまま、報告する。
突如出現した『レギオン』は、口のような部位を拡げ、<アマテラス>の頭上を襲う。
「ティム!!」「ちぃぃ!!」
咄嗟に回避行動に動くも、一足遅い。『レギオン』の牙が<アマテラス>に迫る。
「やらせるか!!」
直人は瞬時にブラスターの照準を『レギオン』の口腔内に絞り込み、最大仰角の一斉射撃を叩き込む。
ブラスターの直撃ごと<アマテラス>を飲み込もうと差し迫るレギオン。それを寄せ付けまいする直人のPSI-Linkシステムとの同調が、否応なく跳ね上がっていく。
「ぬおぉぉぉおお!!!」
レギオンと<アマテラス>の中間にエネルギーボルテックスが燻り一進一退を繰り広げる中、直人は、変性意識下でレギオンの瞳が、こちらをじっと見つめている事に気付く。
……なんだ?……
瞳の中に様々な陰が映り込む。
日を浴びて、キラキラと輝く清流に洗われる河原のような場所が見える。
喜びの中に生まれる緑味がかった宝玉。
……これは……翡翠……?
ひとつひとつが、個性的な形を持ついくつもの宝玉、『大珠』の影が瞳に映り込み、白や青や緑と光の渦を巻いている。
しかし、その渦は光だけではなく、瞳の周辺から無数の根のように伸びてくる闇をも巻き込み、聖なる翡翠の輝きを包み隠していく。
争う人影、血潮を撒き散らしながら、宙空を舞う首、羨望と妬みを剥き出しにした女達のせせら笑う姿……
……泣いてる?……
いつしかレギオンの隻眼に浮かんだ影を、潤いが覆い隠していく。その潤いの中に沈みゆくかのように、瞳の影形が遠のく。
……淵……あの淵か?……
そうだ、今まさにここで目の前のレギオンと死闘を繰り広げている最中だったはず。
淵は誘うかのような、妖しげな濃緑色の光を暗闇の中に灯しながら渦巻き、周辺を惹きつける。
佇む直人をすり抜けるように、死霊達の魂がその中央へと引きづり込まれていく。抵抗する力がないのか、まるですべてを諦め切っているかのように、彼らは次々と為されるがままに、淵へと引き摺り込まれる。
……だめだ……そこは、その光は!……
闇の中で揺らめく翡翠色を放つ魔光。
……そこへ……行っては……
ゆらゆらと揺れる光は、直人の肉体的な感覚を飲み込んでゆくようだ。全てを包み込むかのように……
…………許しとでも?……そこへ行けば……
………………オレも……………
全身の生気が吸い取られている。抵抗する気力も、失せてゆく。
……なおとぉぉー!!!………
誰かの呼ぶ声が一瞬、聞こえた気がする。しかし、直人にはもう届かない。
渦巻く数多の霊体に巻き込まれ、死を受け入れる心地良さ……全てが許される安らぎに直人の潜在意識は溶け込んでいく。
「シールド全開!対ショック防御!!」カミラの咄嗟の発令も、完全に遅れをとった。
シールドの出力が増幅しきる一瞬の間隙にレギオンの歯牙が喰らい付く。
サニが思わず悲鳴をあげ、ティムは反射的に腕で顔を覆い、身を固く身構える。アランは動揺を抑えながらシールドの出力全開に努め、カミラは奥歯を噛み締めながらモニターを睨む。
<アマテラス>のブリッジは、絶望と共に闇に包まれる。
その瞬間、レギオンが作り出していたその影が、再び何事もなかったかのように空間へと溶け込んでいった。
「ど……どうした?」ティムは、腕を下げながらあたりを伺う。
「サ……サニ、すぐに索敵!」「は、はい!」
呆気にとられながらも、カミラは気持ちを立て直す。アランはすぐにダメージチェックに入る。
「インナーノーツ!!無事なのか!?応答せよ!!インナーノーツ!!」焦りを隠せない東の叫び声がブリッジに木霊する。どうやら、通信が一時乱れたようで、<アマテラス>の状況を把握しきれていない様子だ。次元量子マーカーのお陰で何とか通信を維持できていた。
「こちら、インナーノーツ。なんとか……まだ無事なようです。ですが……」言いながらカミラは、サニに報告を促す。首を振って返答するサニ。
「また、見失いました。ここはヤツのテリトリー、こちらからの捕捉がまるで……」「せ、センパイ!!」報告を遮ったサニの、悲鳴がかった声に、カミラが直人へと視線を向ける。
直人が自席からブリッジ床に崩れ落ちるところだった。居ても立っても居られないとばかりに、サニとティムが直人の元へと駆け寄っていた。
「か……風間くん!!」IMCで見守っていた真世も、思わず自席から立ち上がる。
IMC、<イワクラ>の皆の間に、そしてムサーイドの眼を通してミッションを垣間見る老翁らにさえも動揺が駆け抜ける。
「おい、またかよ!?ナオ!しっかりしろ!!」「センパイ!!」
カミラとアランも駆けつける。直人の顔相は青白く、まるで生気を感じられない。
抱え起こしたティムは、その身体から急速に体温が失われていくのを感じていた。先程の症状とは明らかに違うことをティムは直感した。
「ナオ!!どうしたってんだ、おい!!」
ティムの揺さぶりに力なく直人の腕が垂れ落ちる。
「センパイ!?」「ナオ!」「ナオーー!!」
「で……出た!?直上!!」サニは動揺を隠せないまま、報告する。
突如出現した『レギオン』は、口のような部位を拡げ、<アマテラス>の頭上を襲う。
「ティム!!」「ちぃぃ!!」
咄嗟に回避行動に動くも、一足遅い。『レギオン』の牙が<アマテラス>に迫る。
「やらせるか!!」
直人は瞬時にブラスターの照準を『レギオン』の口腔内に絞り込み、最大仰角の一斉射撃を叩き込む。
ブラスターの直撃ごと<アマテラス>を飲み込もうと差し迫るレギオン。それを寄せ付けまいする直人のPSI-Linkシステムとの同調が、否応なく跳ね上がっていく。
「ぬおぉぉぉおお!!!」
レギオンと<アマテラス>の中間にエネルギーボルテックスが燻り一進一退を繰り広げる中、直人は、変性意識下でレギオンの瞳が、こちらをじっと見つめている事に気付く。
……なんだ?……
瞳の中に様々な陰が映り込む。
日を浴びて、キラキラと輝く清流に洗われる河原のような場所が見える。
喜びの中に生まれる緑味がかった宝玉。
……これは……翡翠……?
ひとつひとつが、個性的な形を持ついくつもの宝玉、『大珠』の影が瞳に映り込み、白や青や緑と光の渦を巻いている。
しかし、その渦は光だけではなく、瞳の周辺から無数の根のように伸びてくる闇をも巻き込み、聖なる翡翠の輝きを包み隠していく。
争う人影、血潮を撒き散らしながら、宙空を舞う首、羨望と妬みを剥き出しにした女達のせせら笑う姿……
……泣いてる?……
いつしかレギオンの隻眼に浮かんだ影を、潤いが覆い隠していく。その潤いの中に沈みゆくかのように、瞳の影形が遠のく。
……淵……あの淵か?……
そうだ、今まさにここで目の前のレギオンと死闘を繰り広げている最中だったはず。
淵は誘うかのような、妖しげな濃緑色の光を暗闇の中に灯しながら渦巻き、周辺を惹きつける。
佇む直人をすり抜けるように、死霊達の魂がその中央へと引きづり込まれていく。抵抗する力がないのか、まるですべてを諦め切っているかのように、彼らは次々と為されるがままに、淵へと引き摺り込まれる。
……だめだ……そこは、その光は!……
闇の中で揺らめく翡翠色を放つ魔光。
……そこへ……行っては……
ゆらゆらと揺れる光は、直人の肉体的な感覚を飲み込んでゆくようだ。全てを包み込むかのように……
…………許しとでも?……そこへ行けば……
………………オレも……………
全身の生気が吸い取られている。抵抗する気力も、失せてゆく。
……なおとぉぉー!!!………
誰かの呼ぶ声が一瞬、聞こえた気がする。しかし、直人にはもう届かない。
渦巻く数多の霊体に巻き込まれ、死を受け入れる心地良さ……全てが許される安らぎに直人の潜在意識は溶け込んでいく。
「シールド全開!対ショック防御!!」カミラの咄嗟の発令も、完全に遅れをとった。
シールドの出力が増幅しきる一瞬の間隙にレギオンの歯牙が喰らい付く。
サニが思わず悲鳴をあげ、ティムは反射的に腕で顔を覆い、身を固く身構える。アランは動揺を抑えながらシールドの出力全開に努め、カミラは奥歯を噛み締めながらモニターを睨む。
<アマテラス>のブリッジは、絶望と共に闇に包まれる。
その瞬間、レギオンが作り出していたその影が、再び何事もなかったかのように空間へと溶け込んでいった。
「ど……どうした?」ティムは、腕を下げながらあたりを伺う。
「サ……サニ、すぐに索敵!」「は、はい!」
呆気にとられながらも、カミラは気持ちを立て直す。アランはすぐにダメージチェックに入る。
「インナーノーツ!!無事なのか!?応答せよ!!インナーノーツ!!」焦りを隠せない東の叫び声がブリッジに木霊する。どうやら、通信が一時乱れたようで、<アマテラス>の状況を把握しきれていない様子だ。次元量子マーカーのお陰で何とか通信を維持できていた。
「こちら、インナーノーツ。なんとか……まだ無事なようです。ですが……」言いながらカミラは、サニに報告を促す。首を振って返答するサニ。
「また、見失いました。ここはヤツのテリトリー、こちらからの捕捉がまるで……」「せ、センパイ!!」報告を遮ったサニの、悲鳴がかった声に、カミラが直人へと視線を向ける。
直人が自席からブリッジ床に崩れ落ちるところだった。居ても立っても居られないとばかりに、サニとティムが直人の元へと駆け寄っていた。
「か……風間くん!!」IMCで見守っていた真世も、思わず自席から立ち上がる。
IMC、<イワクラ>の皆の間に、そしてムサーイドの眼を通してミッションを垣間見る老翁らにさえも動揺が駆け抜ける。
「おい、またかよ!?ナオ!しっかりしろ!!」「センパイ!!」
カミラとアランも駆けつける。直人の顔相は青白く、まるで生気を感じられない。
抱え起こしたティムは、その身体から急速に体温が失われていくのを感じていた。先程の症状とは明らかに違うことをティムは直感した。
「ナオ!!どうしたってんだ、おい!!」
ティムの揺さぶりに力なく直人の腕が垂れ落ちる。
「センパイ!?」「ナオ!」「ナオーー!!」
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