INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh

文字の大きさ
145 / 293
第3章 死者の都

継承 2

しおりを挟む
直人の意識は、まるで氾濫した河川のような激流の只中に投げ込まれていた。

過去から未来へ連綿と続く、あらゆる生命の意識の積み重ねとでもいうのだろうか?

それらを呑み込み、母なる源へと誘う……それが『メルジーネ』という存在の本分なのであろうか?

自らの意識もまた、その流れの中の一つの泡に過ぎないのだ……直人はそう直観する。

……アムネリア……きみは……きみという存在は……この全てを引き受けて……

胸の内で何かが、その流れに共鳴し、生み出された振動が全身を揺さぶっていた。

何処からともなくアムネリアの声が響いてくる。

……なおと……

…………あの者の魂はここに居ます……

……アムネリア!……何処!?あの人は何処に!?……

……すぐそこに……

PSI-Linkシステムによって、心象に描かれるPSI波動砲のターゲットスコープには、幾重にも折り重なって、渦を巻く水流が打ちつけてくる。無理にでも自己を意識し続けなければ、たちまち濁流に飲まれることであろう。

…………想いを重ねて……これは、貴方にしかできない……

……想いを……重ねる?……

”レギオンの木”、あの大珠の実の中に意識が囚われたときに感じた感覚を思い出しながら、直人は、その激流に意識を沈めていく。

……ナギワ姫……

自身に叩きつけてくる水流の感覚が、激しい憎しみ、怒り、悲しみ、そして恨みとなって襲いくる。それが、震災被災者らの無念であることは直ぐに感じ取れていた。

「くぅ……っ!」

直人は、PSI波動砲のグリップにしがみ付く。全身が引き裂かれそうだ。

「ナオ、エネルギー充填120%!いつでも発射できるぞ!」アランが声を張り上げている。

仲間の緊張が、背中にのしかかってくる。


直人は呼吸を整え、もう一度、更なる深みに変性意識を落としていく。

…………皆……生きたかった……

打ち付けてくる想念の波の中に、微かにあの大珠の実の中で聞こえた声がある。直人は、そこに精神の切先を集中させる。

……は皆を……この地を……守れなんだ……

……皆を殺したは……

声に集中していくと、直人は喉元を押し潰されるような感覚を覚え始める。

……は……の定めを呪う……

……皆よ……呪え……愚かな……このを……

激しい痛みが喉元を襲う。それが何度も何度も繰り返す。

……大珠よ……愛おしき、の地……らがたまよ……

…………たまを喰らい…………

……黄泉がえりたまえ……

拳銃型PSI波動砲発射装置のグリップが、べとりとしたものに包まれ、赤黒く染まった何かが滴り落ちる。

………大樹に実る果実のごとく、古き衣を脱ぎ捨てる蛇のごとく……幾度も生まれ変われ…………

……………遥か永き時を生き長らえたまえ……

再び喉元を襲う鋭利な痛みが、熱を帯び拡がっていく。

……な……ナギワ姫!!……

直人は、心象のターゲットスコープ中央に、不意にその姫の姿が浮かび上がる。

巨大な翡翠の原石であろう大岩に、半身が水に浸かったような身を預け、青緑の光が宿る瞳を煌々とさせながら、自身の首元に鋭利な黒曜石の刃を突き立てていた。

飛び散った血飛沫は、大岩を濡らす度に、まるで砂に染み込む水のように吸収され、岩の中の翡翠が暗緑の妖光を放つ。

……なぎ……わ……?…………

血に塗れたナギワ姫の見開かれた青緑に灯る瞳が、直人を捉える。

……もういい!もういいんだ!……

……を呼ぶ、うぬは……たれか……

……貴女の魂を……送りに来た!……

……送る……?……だと……


心象の中で直人は、PSI波動砲のターゲットを姫が身を寄せる大岩に絞り込んでいく。

……あの木……あの実の中で、オレは感じた……

……貴女の本当の想い……願い……


…………それは、その翡翠じゃない!!…………

直人の呼びかけに、ナギワはゆらりと身を起こすと、ふわふわと波打つ髪を逆立て、血塗れの首を振りかぶる。

……黙れ……

ナギワが頭を一振りすると、その長い髪が直人を襲い、全身に絡み付いていく。

直人の心象と同期して、特異点の中央に残る木の枝が無数に枝分かれしながら伸び、<アマテラス>に絡みついてくる。

ブリッジの軋みと共に、ホログラムのアムネリアが、苦痛に顔を歪める。

「くっ!ナオ、どうした?PSI波動砲はまだ!?」堪らずカミラが叫ぶ。皆の視線が直人に集まる。

『……大丈夫……信じて……なおとを……』

発したのは、ホログラムの『メルジーネ』だった。その清らかな声は、インナーノーツと彼らを見守る一同の焦燥を、たった一言で鎮めていった。

『なおと……』


……わかったようなことを……

ナギワの髪が、直人の身体を徐々に締め上げ、直人の意識を探り回していく。

……ふっ……ふふふふ……はははは!!……

……そうか、うぬも同じか?……

……なれば!共に祈り、呪うがよい……大珠様がうぬの穢れも、過ちも……

……皆、喰らってくれようぞ!……

……うぬのその穢れが、大珠様の力となるのだ!!……

翡翠の大岩が一際、青か緑か血の色か、いずれともつかぬ妖光に彩られる。直人は、その背後に奇妙な気配を感じていた。

…………わかる……わかるよ……

……オレも……オレだって……そうやって……

…………いたほうが……楽になれる……

……けど!……

ナギワは、直人の意外な返しに僅かな怯みを見せた。

直人は、心象の中で絡め取られた腕をなんとか持ち上げると、再びPSI波動砲の照準を大岩の妖光へと当てていく。

……けど……オレは……

…………まだ、死ねない……

……犠牲にしてしまった……

グリップを握りしめ直す。

………あの人達を弔い……あの人たちの願いを引き継ぐ………

……………貴女の願いを、現象界に継なぐ!!……そのためにも!……まだ、死ぬわけには!!……

目の前の、奇妙な男の心は、今にも折れそうな、張り詰めた弓のようだった。ナギワには、その脆い心が、手に取る様に見えていた。

だが、どういうわけか……そのギリギリで踏みとどまり、ナギワの誘いを跳ね除けていたのだ。

……なんだ……うぬは……何なのだ……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...