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第4章 燔祭
亜夢の誕生日 4
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神取が群がる人を掻き分け、施設へ入館すると、秦野は、医療関係者用の通用口を塞ぎ、厳重に鍵をかけた。
施設の中は幾分落ち着いている。建物の結界が、それなりに働いているようだ。
「どこ行ってたんですか!?遅いっすよ!」
秦野は、苛立ちを露わに責め立てる。
「……申し訳ない……少々、腹を下して……」神取は、顰め顔で腹をさすって見せる。
「はぁ?……まあ、そういうことなら……。だ……大丈夫ですか?ブースに薬あるんで、使ってください」
クールな顔で腹をさする神取から、秦野は思わず、神取のトイレで呻く姿を思い浮かべてしまい、あわや苦笑が漏れそうになる。秦野の苛立ちはすっかり霧散していた。
「お気遣いなく。だいぶ回復しました。ところで、これは一体?」
外に比べ落ち着いているとはいえ、順に迎え入れた患者は、すでに昨日の倍以上に膨れ上がっている。
「うちのIMS(Inner Mission Support)が今調査にあたってますが……」「アイムス?」
「あ!えっと……災害調査チームです」秦野は、危うく機密となっているインナーミッション関連の情報を漏らすところだった。神取は、あくまでも外部の人間である。
秦野は取り繕うように、話を進めた。
「やっぱり、諏訪湖の様子がどうもおかしいようなんです。見ました?」
諏訪湖は、この施設付近からも比較的見える位置にあるが、神取は、山の方から下ってくる際に、その異様な様子には気付いていた。
秦野が言うには、諏訪湖は現在、風も無いのに高い波を立てながら渦を巻き、夏の暑さの中、何故か霧状の雲が湖全体を覆い、異様な匂いを周辺に放っているという。
「……結界のある建物の中であれば、影響は緩和されるのですが、どうやら、どこもいっぱいで。それで、溢れた人が流れてきてるみたいなんですよ」
「なるほど……だが、ここもすでにキャパオーバーだが……」「ええ。それで今、<イワクラ>から対策チームがこちらへ向かってます。それから、IN-PSIDでも増援の準備をしているようですよ。なんでも、研究段階の結界装置を持ってくるんだとか」秦野は得意気に語っている。
「どちらにせよ、対策にはまだ時間がかかりそうですね。まずは、やれる事をやりましょう」
「ええ!」神取と秦野は、体育館に設営されている救護ブースへと足取りを早めた。
亜夢の誕生会は、一時間ほど経ち、食事もひと段落し始めたところだ。
「あっ、そうそう。亜夢ちゃん」
真世は、シンク付きカウンターの脇に置いたままにしてあった小さな包みを取ってくると、亜夢に差し出した。
「はい。これは、わたしから」
亜夢は、キョトンとしながら可愛らしいラッピング袋を匂いを嗅いで確かめる。
「食べ物じゃないよ。開けてみて」
袋の開け方もよくわからない亜夢に、開け口を教えて、真世は促した。
促されるまま袋を開け、中を覗き込む亜夢は、物珍しいものを見たかのような顔を浮かべ、袋から取り出す。
「あらぁ~可愛いシュシュね!」看護師が笑顔で言った。
涼やかな青系統のビーズをあしらったシュシュを手にした亜夢は、一体これは何なのだろうと、不思議そうに見つめていたが、日の光にビーズが煌めくと、窓辺に走り寄る。
ちょうど南中にある太陽に、亜夢はビーズを翳してみる。ビーズが太陽の光を乱反射して、部屋中に小さな宝石を撒き散らす。
亜夢は、いい事を思い付いたとばかりに、シュシュを腕輪のようにして手首に付けてみる。その両腕を高く上げ、幾度もビーズの角度を変えて、その光の散らばりが描く模様が変わるたびに、感嘆の声を上げていた。
「亜夢ちゃん、それさっ。髪に使うのよ。やってあげる」と、一人の看護師が、亜夢の背後にまわって髪をとる。
ところが髪に触れられたのが、気に障ったのか、頭を横に向け、看護師の手から逃げる。
「ほら、じっとして」看護師もめげない。
段々とムキになる看護師と、キラキラを楽しみながら、彼女の手を巧みにすり抜ける亜夢の、さながら古典映像史に登場するネコとネズミのコメディを彷彿とさせる攻防は、自然と皆の笑いを誘う。
「んっもう!」「いいよ。ブレスレットにしてもらっても構わないし……『亜夢ちゃん』は、この方が好きみたいだから」息を切らせて負けを認めた看護師に、真世は半笑いのまま、労いの言葉をかけていた。
亜夢が、舌を出して看護師に追い討ちをかけると、面白いくらいに看護師も反応するので、皆の笑いは一層大きくなる。
賑やかな笑い声は、療養棟の廊下にも響き渡っていた。
「あら、ずいぶんと賑やかなんですね」意外とばかりに幸乃は口にした。
貴美子に連れられ、療養棟を見て回っていた幸乃、咲磨親子は、ちょうど亜夢の部屋のあたりに差し掛かる。(担当医、伊藤も同行している)咲磨の部屋も、この同じフロアであり、部屋へと戻る途中であった。
幸乃が到着した昨晩は、随分と静まり返っていたので、日中であっても静かな場所と想像していたのだが……。
「ふふ、そこの部屋の子の誕生会だそうよ。あ、そうだ。少し顔を出していきません?同じフロアだし、紹介したいわ」貴美子はにっこりと微笑んで提案する。
「えっ、あっ……で、でもぉ……」突然の貴美子の提案に、慌てふためく幸乃。
「いいなぁ……誕生会。ね、かぁ様。行ってみよぉ?」「サク……お邪魔になるわ……」
「大丈夫ですわ」遠慮がちに窺う幸乃に、貴美子は優しく答えた。
「ねぇ、いいでしょ?」せがむ咲磨は、笑顔の中にどこか寂しさを滲ませていた。
考えてみれば、御子神様と呼ばれ、誕生日に呼べるような友達も居ない。ましてや、咲磨の誕生日は、教団内で儀式化され盛大に祝われるものの、大人たちの宴会を前に、お飾りのように座っているだけだった。前日か、翌日に家族だけの囁かなお祝いは欠かしたことはないが、バーチャルネットで知った誕生パーティーは、彼にとっては憧れだった。
「そ……それじゃあ、お言葉に甘えて。サク、少しだけよ」
幸乃の言葉に貴美子は頷くと、彼らを部屋へと誘導する。
ちょうど、部屋の中の笑い声が止み、代わりにバースデーソングが聞こえてきた。
貴美子は、口に人差し指を当てて、"お静かに"のサインを送り、ゆっくりと亜夢の部屋のドアを開ける。
部屋は遮光カーテンが閉められ、薄暗がりとなっていた。貴美子の先導で、入室する咲磨達には、誰も気付かない。皆の視線は、ケーキに立てられたキャンドルと、その光にソワソワしながら魅入っている今日の主役に注ぎ込まれていた。
「ハッピーバースデー、トゥ、ユー!おめでとう!!」
皆の祝いを合図に、亜夢は待ってましたとばかり、(先ほど教えてもらったとおりに)キャンドルの日を勢いよく吹き消す。亜夢は、自分の吐く息が、炎を消し去るのが面白くて堪らないようだ。
「……はは、まさかの二十歳」
サニは『2』と『0』を象った蝋燭に唖然とした。(初ミッションの時に、彼女の年齢は聞いていたが、皆すっかり記憶にはなかった)生まれはサニの方が半年早いとは言え、今日から、この『幼児』の年齢と、自分の年齢がしばらく並ぶのだ。
「へへっ。似たようなもんだろ」ティムがサニのボヤきに突っ込む。「どーゆー意味よ」ジト目になっているサニの横を、何かがすり抜けていった。
カーテンが開け放たれる。
「わぁ……大っきいケーキ!」「こ、こらサク!」
咲磨は、部屋の中心へと分け入っていた。
「えっ?誰、この子??」サニは、見慣れない子供に、ティムへの嫌味返しも、すっかり忘れてしまう。
「あら、おばあちゃん」真世は、伊藤と共に入室した祖母の姿に気づく。真世の声に何気に振り返ったサニは、ふと、伊藤と目が合う。慌てて視線を戻すサニ。
「どうかした?」怪訝に訊ねる直人。「ん?な、何でもないよ」サニは素知らぬ風に答えた。
直人も振り返るが、涼やかな雰囲気の若い医師が一人、パーティーの様子を楽し気に窺っているだけだった。
貴美子が一歩進み出る。
「紹介するわ。二つ隣の部屋に、昨日から入った須賀咲磨くんよ。こちらはお母様の幸乃さん。皆、仲良くしてね」
皆の視線が、新しい入居者親子へと注がれる。
「あ、ごめんなさい。突然!ご紹介頂きました、咲磨です」「す、須賀です。よろしくお願いします」
折り目正しい咲磨の挨拶の隣で、何度も頭を下げる幸乃。初々しい訪問者を、皆笑顔で歓迎した。
「あらぁ~~まぁ~~」「可愛い子ねぇ~~」
看護師らは、咲磨の、子供とは思えぬ品のいい立ち居振る舞いに感嘆する。
「それに比べて……」我らが"娘"、亜夢の方へと見やれば、目の前のケーキに飛びかからんばかり。
「見習ってほしいものねぇ……」看護師らは、頭に手を当てて、溜息を吐き出していた。
「まーだよ。切ってくるから」と、臨戦体勢に入った、亜夢の目の前から、真世はケーキを掻っ攫う。
「あ、あうぅ~~」獲物を奪われた亜夢の憂う瞳が、ケーキの軌跡を追いかける。すると、泳いだ視線の先に、亜夢の瞳が、柔らかな笑顔を浮かべた少年に、ぴたりと留まる。
「お姉さんの誕生日だったんだね」
咲磨はにこやかに亜夢に語りかけた。
その瞬間、亜夢は、胸の内で何かが目を開くのを感じていた。
直人も何かに気づいたように、亜夢を見やる。彼女は、時が止まったかのように動きを止めていた。
……貴方は……
「こんにちは!咲磨だよ。お姉さんは?」
「!?」
……我は…………我は一体……
亜夢の唇は、彼女の名を紡ぎ出す事ができないまま、ただ小さく震えていた。
施設の中は幾分落ち着いている。建物の結界が、それなりに働いているようだ。
「どこ行ってたんですか!?遅いっすよ!」
秦野は、苛立ちを露わに責め立てる。
「……申し訳ない……少々、腹を下して……」神取は、顰め顔で腹をさすって見せる。
「はぁ?……まあ、そういうことなら……。だ……大丈夫ですか?ブースに薬あるんで、使ってください」
クールな顔で腹をさする神取から、秦野は思わず、神取のトイレで呻く姿を思い浮かべてしまい、あわや苦笑が漏れそうになる。秦野の苛立ちはすっかり霧散していた。
「お気遣いなく。だいぶ回復しました。ところで、これは一体?」
外に比べ落ち着いているとはいえ、順に迎え入れた患者は、すでに昨日の倍以上に膨れ上がっている。
「うちのIMS(Inner Mission Support)が今調査にあたってますが……」「アイムス?」
「あ!えっと……災害調査チームです」秦野は、危うく機密となっているインナーミッション関連の情報を漏らすところだった。神取は、あくまでも外部の人間である。
秦野は取り繕うように、話を進めた。
「やっぱり、諏訪湖の様子がどうもおかしいようなんです。見ました?」
諏訪湖は、この施設付近からも比較的見える位置にあるが、神取は、山の方から下ってくる際に、その異様な様子には気付いていた。
秦野が言うには、諏訪湖は現在、風も無いのに高い波を立てながら渦を巻き、夏の暑さの中、何故か霧状の雲が湖全体を覆い、異様な匂いを周辺に放っているという。
「……結界のある建物の中であれば、影響は緩和されるのですが、どうやら、どこもいっぱいで。それで、溢れた人が流れてきてるみたいなんですよ」
「なるほど……だが、ここもすでにキャパオーバーだが……」「ええ。それで今、<イワクラ>から対策チームがこちらへ向かってます。それから、IN-PSIDでも増援の準備をしているようですよ。なんでも、研究段階の結界装置を持ってくるんだとか」秦野は得意気に語っている。
「どちらにせよ、対策にはまだ時間がかかりそうですね。まずは、やれる事をやりましょう」
「ええ!」神取と秦野は、体育館に設営されている救護ブースへと足取りを早めた。
亜夢の誕生会は、一時間ほど経ち、食事もひと段落し始めたところだ。
「あっ、そうそう。亜夢ちゃん」
真世は、シンク付きカウンターの脇に置いたままにしてあった小さな包みを取ってくると、亜夢に差し出した。
「はい。これは、わたしから」
亜夢は、キョトンとしながら可愛らしいラッピング袋を匂いを嗅いで確かめる。
「食べ物じゃないよ。開けてみて」
袋の開け方もよくわからない亜夢に、開け口を教えて、真世は促した。
促されるまま袋を開け、中を覗き込む亜夢は、物珍しいものを見たかのような顔を浮かべ、袋から取り出す。
「あらぁ~可愛いシュシュね!」看護師が笑顔で言った。
涼やかな青系統のビーズをあしらったシュシュを手にした亜夢は、一体これは何なのだろうと、不思議そうに見つめていたが、日の光にビーズが煌めくと、窓辺に走り寄る。
ちょうど南中にある太陽に、亜夢はビーズを翳してみる。ビーズが太陽の光を乱反射して、部屋中に小さな宝石を撒き散らす。
亜夢は、いい事を思い付いたとばかりに、シュシュを腕輪のようにして手首に付けてみる。その両腕を高く上げ、幾度もビーズの角度を変えて、その光の散らばりが描く模様が変わるたびに、感嘆の声を上げていた。
「亜夢ちゃん、それさっ。髪に使うのよ。やってあげる」と、一人の看護師が、亜夢の背後にまわって髪をとる。
ところが髪に触れられたのが、気に障ったのか、頭を横に向け、看護師の手から逃げる。
「ほら、じっとして」看護師もめげない。
段々とムキになる看護師と、キラキラを楽しみながら、彼女の手を巧みにすり抜ける亜夢の、さながら古典映像史に登場するネコとネズミのコメディを彷彿とさせる攻防は、自然と皆の笑いを誘う。
「んっもう!」「いいよ。ブレスレットにしてもらっても構わないし……『亜夢ちゃん』は、この方が好きみたいだから」息を切らせて負けを認めた看護師に、真世は半笑いのまま、労いの言葉をかけていた。
亜夢が、舌を出して看護師に追い討ちをかけると、面白いくらいに看護師も反応するので、皆の笑いは一層大きくなる。
賑やかな笑い声は、療養棟の廊下にも響き渡っていた。
「あら、ずいぶんと賑やかなんですね」意外とばかりに幸乃は口にした。
貴美子に連れられ、療養棟を見て回っていた幸乃、咲磨親子は、ちょうど亜夢の部屋のあたりに差し掛かる。(担当医、伊藤も同行している)咲磨の部屋も、この同じフロアであり、部屋へと戻る途中であった。
幸乃が到着した昨晩は、随分と静まり返っていたので、日中であっても静かな場所と想像していたのだが……。
「ふふ、そこの部屋の子の誕生会だそうよ。あ、そうだ。少し顔を出していきません?同じフロアだし、紹介したいわ」貴美子はにっこりと微笑んで提案する。
「えっ、あっ……で、でもぉ……」突然の貴美子の提案に、慌てふためく幸乃。
「いいなぁ……誕生会。ね、かぁ様。行ってみよぉ?」「サク……お邪魔になるわ……」
「大丈夫ですわ」遠慮がちに窺う幸乃に、貴美子は優しく答えた。
「ねぇ、いいでしょ?」せがむ咲磨は、笑顔の中にどこか寂しさを滲ませていた。
考えてみれば、御子神様と呼ばれ、誕生日に呼べるような友達も居ない。ましてや、咲磨の誕生日は、教団内で儀式化され盛大に祝われるものの、大人たちの宴会を前に、お飾りのように座っているだけだった。前日か、翌日に家族だけの囁かなお祝いは欠かしたことはないが、バーチャルネットで知った誕生パーティーは、彼にとっては憧れだった。
「そ……それじゃあ、お言葉に甘えて。サク、少しだけよ」
幸乃の言葉に貴美子は頷くと、彼らを部屋へと誘導する。
ちょうど、部屋の中の笑い声が止み、代わりにバースデーソングが聞こえてきた。
貴美子は、口に人差し指を当てて、"お静かに"のサインを送り、ゆっくりと亜夢の部屋のドアを開ける。
部屋は遮光カーテンが閉められ、薄暗がりとなっていた。貴美子の先導で、入室する咲磨達には、誰も気付かない。皆の視線は、ケーキに立てられたキャンドルと、その光にソワソワしながら魅入っている今日の主役に注ぎ込まれていた。
「ハッピーバースデー、トゥ、ユー!おめでとう!!」
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「……はは、まさかの二十歳」
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「へへっ。似たようなもんだろ」ティムがサニのボヤきに突っ込む。「どーゆー意味よ」ジト目になっているサニの横を、何かがすり抜けていった。
カーテンが開け放たれる。
「わぁ……大っきいケーキ!」「こ、こらサク!」
咲磨は、部屋の中心へと分け入っていた。
「えっ?誰、この子??」サニは、見慣れない子供に、ティムへの嫌味返しも、すっかり忘れてしまう。
「あら、おばあちゃん」真世は、伊藤と共に入室した祖母の姿に気づく。真世の声に何気に振り返ったサニは、ふと、伊藤と目が合う。慌てて視線を戻すサニ。
「どうかした?」怪訝に訊ねる直人。「ん?な、何でもないよ」サニは素知らぬ風に答えた。
直人も振り返るが、涼やかな雰囲気の若い医師が一人、パーティーの様子を楽し気に窺っているだけだった。
貴美子が一歩進み出る。
「紹介するわ。二つ隣の部屋に、昨日から入った須賀咲磨くんよ。こちらはお母様の幸乃さん。皆、仲良くしてね」
皆の視線が、新しい入居者親子へと注がれる。
「あ、ごめんなさい。突然!ご紹介頂きました、咲磨です」「す、須賀です。よろしくお願いします」
折り目正しい咲磨の挨拶の隣で、何度も頭を下げる幸乃。初々しい訪問者を、皆笑顔で歓迎した。
「あらぁ~~まぁ~~」「可愛い子ねぇ~~」
看護師らは、咲磨の、子供とは思えぬ品のいい立ち居振る舞いに感嘆する。
「それに比べて……」我らが"娘"、亜夢の方へと見やれば、目の前のケーキに飛びかからんばかり。
「見習ってほしいものねぇ……」看護師らは、頭に手を当てて、溜息を吐き出していた。
「まーだよ。切ってくるから」と、臨戦体勢に入った、亜夢の目の前から、真世はケーキを掻っ攫う。
「あ、あうぅ~~」獲物を奪われた亜夢の憂う瞳が、ケーキの軌跡を追いかける。すると、泳いだ視線の先に、亜夢の瞳が、柔らかな笑顔を浮かべた少年に、ぴたりと留まる。
「お姉さんの誕生日だったんだね」
咲磨はにこやかに亜夢に語りかけた。
その瞬間、亜夢は、胸の内で何かが目を開くのを感じていた。
直人も何かに気づいたように、亜夢を見やる。彼女は、時が止まったかのように動きを止めていた。
……貴方は……
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