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第4章 燔祭
二人の神子 5
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森部の書斎には、彼の蔵書が、所狭しと無造作に積まれていた。
電子端末はあるにはあるようだが、動くのかさえ怪しいかなり古い機種だ。どうやら森部は紙の媒体を好むらしく、自らプリントしたものをファイルにしたり、業者に頼んで製本したものを収集しているようだ。かなり古いものもあるらしく、古書独特のカビっぽい匂いが鼻をつく。
ざっと題字を見ると、縄文遺跡関連の資料や、古今東西の生贄に関する資料が大半を占める。
机の上には、これも今は手に入りにくい紙媒体のノートが山積みされている。神取は、その一つを手に取り、中を確認していく。古来からの生贄の屠り方を研究、考察していたらしい。
室内を見回せば、諏訪の御頭祭で捧げられる物と同等の鹿の頭や実際、森部が屠ったのであろう生贄の剥製が陳列されていた。
「……そうとうな肝いりですね」流石の神取もその場の一種異様な空気に圧迫感を覚える。そのまま室内を見回し続けると、古ぼけた本棚が目に止まった。その中段ほどに、『御子神様と教団の歩み』とタイトルの書かれたアルバムが無造作に置かれている。神取は、そのアルバムを手に取った。
中の写真は一枚一枚、現像したものであり、レザー仕上げのアルバムも特注品であろう。教団の記念誌のようなものである事は、すぐにわかった。
四年ほど前からの記録のようだ。
そこには咲磨と教団信者らの交流、咲磨が不思議な能力を発揮し、信者らを癒している場面、須賀家と森部が、咲磨を囲んで和やかに写っている写真もあった。
「御子神か……神が生贄とは……何の皮肉か……」
ページをめくっていくと、社殿で咲磨を中心に、祈祷を行なっている場面の写真が目に留まった。
「これは!?」神取の霊眼は、そこに写っていた何者かの存在を捉えていた。神取は、他に手がかりがないか、森部の研究資料にも目を通す。
机の中央に置かれたままのノートが、神取を引き寄せる。直感のまま、神取はノートを開いた。
案の定、生贄に関する考察だ。古代、生贄が本来どのような役割をしてきたのか、またその効果を享受するために生贄をどう生かし、どう屠るのか……そんなことをひたすら研究していたようである。だが、ノートの半分も過ぎると、白紙のままのページが続く。
もう何も記述が無いかと、ノートを置きかけた神取の目が、突如、見開いた。
「!?」
『御魂 人にあらず 死生転じ 生きるなり』
ノートの見開きいっぱいに、突然、大きく書き殴られた文言が現れる。
「なんだ、これは?」殴り書きされたその文言に手をかざす。かすかに霊的な反応がある。
いわゆる自動書記と言う類のものであろう。
「やはり…何者かの意思が……」
その時、白い蝶が神取の目の前を横切った。神取の霊眼にのみ見える蝶、警戒にあたらせていた下級式神(妖精のようなもの)だ。
神取は、執務室に隣接した物置部屋に身を隠す。それと同時に、執務室のドアが静かに開く。
壁の影から、様子を伺う神取は、部屋へと侵入してくる人影を見定める。
「……烏の女か」
先ほどから感じていた視線はこの女のものだと気づく。神取を追跡してきたのであろう。
……ふ、我が師に『信頼』の二文字は、やはり無し……か……
あたりを警戒しながら、室内へ踏み込んでくる。このままでは、烏の女と接触するのも時間の問題であろう。
……さて、どうしたものか……
物置部屋は、小窓があるものの脱出ができるほどの大きさではない。此方に寄るようであれば、不意を突いて意識を奪うか……
神取が思案を巡らせていると、部屋のドアが再度、今度は荒々しく開け放たれる音がする。
「そこで何をやっているか!!」
「す、すみません!!部屋を間違えて!!」
神取が、執務室の方を覗き見ると、烏の女は、後から来た屈強な警察官らしき男と、彼の部下らしき男に詰め寄られている。
「お前達夫婦が、何やら嗅ぎ回っていたのはわかっている。ようやく尻尾を出したな。何者だ!?」
男達は、距離を詰めていく。
後退りながら、窓の方へと後退する女に、部下の方が飛びかかる。軽い身のこなしで、その男の腕を交わすと、後ろ手に捻り上げるが、屈強な男の動きは、彼女の動きを上回っていた。
「チィ!!」僅かな隙に、女は背後を取られていた。警棒のグリップエンドが、女の後頭部を襲い、彼女は、その場に倒れ込んだ。
「ったく、手間取らせやがってぇ!」部下の警官が、二、三つま先で小突く。
屈強な男の方は、無線で何かやり取りしている。どうやら、社殿の方へ、忍び込んだのがもう一人いたようだ。会話の内容から、そちらも彼らの仲間に捕まったらしい。
「よし、連れていくぞ」
無理矢理、女を立たせると、足元がおぼつかない彼女を引きずるようにして、二人の男が部屋を後にする。
女達のざわめく声が聞こえる。
物置部屋を出た神取は、部屋が見渡せる位置に据え付けられている面を見つけると、裏に念を込めた人型を忍ばせ、速やかに侵入の痕跡を消し、執務室を後にした。
電子端末はあるにはあるようだが、動くのかさえ怪しいかなり古い機種だ。どうやら森部は紙の媒体を好むらしく、自らプリントしたものをファイルにしたり、業者に頼んで製本したものを収集しているようだ。かなり古いものもあるらしく、古書独特のカビっぽい匂いが鼻をつく。
ざっと題字を見ると、縄文遺跡関連の資料や、古今東西の生贄に関する資料が大半を占める。
机の上には、これも今は手に入りにくい紙媒体のノートが山積みされている。神取は、その一つを手に取り、中を確認していく。古来からの生贄の屠り方を研究、考察していたらしい。
室内を見回せば、諏訪の御頭祭で捧げられる物と同等の鹿の頭や実際、森部が屠ったのであろう生贄の剥製が陳列されていた。
「……そうとうな肝いりですね」流石の神取もその場の一種異様な空気に圧迫感を覚える。そのまま室内を見回し続けると、古ぼけた本棚が目に止まった。その中段ほどに、『御子神様と教団の歩み』とタイトルの書かれたアルバムが無造作に置かれている。神取は、そのアルバムを手に取った。
中の写真は一枚一枚、現像したものであり、レザー仕上げのアルバムも特注品であろう。教団の記念誌のようなものである事は、すぐにわかった。
四年ほど前からの記録のようだ。
そこには咲磨と教団信者らの交流、咲磨が不思議な能力を発揮し、信者らを癒している場面、須賀家と森部が、咲磨を囲んで和やかに写っている写真もあった。
「御子神か……神が生贄とは……何の皮肉か……」
ページをめくっていくと、社殿で咲磨を中心に、祈祷を行なっている場面の写真が目に留まった。
「これは!?」神取の霊眼は、そこに写っていた何者かの存在を捉えていた。神取は、他に手がかりがないか、森部の研究資料にも目を通す。
机の中央に置かれたままのノートが、神取を引き寄せる。直感のまま、神取はノートを開いた。
案の定、生贄に関する考察だ。古代、生贄が本来どのような役割をしてきたのか、またその効果を享受するために生贄をどう生かし、どう屠るのか……そんなことをひたすら研究していたようである。だが、ノートの半分も過ぎると、白紙のままのページが続く。
もう何も記述が無いかと、ノートを置きかけた神取の目が、突如、見開いた。
「!?」
『御魂 人にあらず 死生転じ 生きるなり』
ノートの見開きいっぱいに、突然、大きく書き殴られた文言が現れる。
「なんだ、これは?」殴り書きされたその文言に手をかざす。かすかに霊的な反応がある。
いわゆる自動書記と言う類のものであろう。
「やはり…何者かの意思が……」
その時、白い蝶が神取の目の前を横切った。神取の霊眼にのみ見える蝶、警戒にあたらせていた下級式神(妖精のようなもの)だ。
神取は、執務室に隣接した物置部屋に身を隠す。それと同時に、執務室のドアが静かに開く。
壁の影から、様子を伺う神取は、部屋へと侵入してくる人影を見定める。
「……烏の女か」
先ほどから感じていた視線はこの女のものだと気づく。神取を追跡してきたのであろう。
……ふ、我が師に『信頼』の二文字は、やはり無し……か……
あたりを警戒しながら、室内へ踏み込んでくる。このままでは、烏の女と接触するのも時間の問題であろう。
……さて、どうしたものか……
物置部屋は、小窓があるものの脱出ができるほどの大きさではない。此方に寄るようであれば、不意を突いて意識を奪うか……
神取が思案を巡らせていると、部屋のドアが再度、今度は荒々しく開け放たれる音がする。
「そこで何をやっているか!!」
「す、すみません!!部屋を間違えて!!」
神取が、執務室の方を覗き見ると、烏の女は、後から来た屈強な警察官らしき男と、彼の部下らしき男に詰め寄られている。
「お前達夫婦が、何やら嗅ぎ回っていたのはわかっている。ようやく尻尾を出したな。何者だ!?」
男達は、距離を詰めていく。
後退りながら、窓の方へと後退する女に、部下の方が飛びかかる。軽い身のこなしで、その男の腕を交わすと、後ろ手に捻り上げるが、屈強な男の動きは、彼女の動きを上回っていた。
「チィ!!」僅かな隙に、女は背後を取られていた。警棒のグリップエンドが、女の後頭部を襲い、彼女は、その場に倒れ込んだ。
「ったく、手間取らせやがってぇ!」部下の警官が、二、三つま先で小突く。
屈強な男の方は、無線で何かやり取りしている。どうやら、社殿の方へ、忍び込んだのがもう一人いたようだ。会話の内容から、そちらも彼らの仲間に捕まったらしい。
「よし、連れていくぞ」
無理矢理、女を立たせると、足元がおぼつかない彼女を引きずるようにして、二人の男が部屋を後にする。
女達のざわめく声が聞こえる。
物置部屋を出た神取は、部屋が見渡せる位置に据え付けられている面を見つけると、裏に念を込めた人型を忍ばせ、速やかに侵入の痕跡を消し、執務室を後にした。
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