INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh

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第4章 燔祭

涅槃の彼方へ 5

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「……亜夢と咲磨の『セルフ』……回収‼︎」

PSI-Linkダイレクト接続から戻ったサニは、叫んで報告した。

「PSI-Link、対象者のPSIパルス検知! 接続確認‼︎ いけるぞ、カミラ‼︎」

「機関再起動! PSIバリア全力展開! 押し返せ‼︎」

カミラの発令で、咲磨のPSIパルスとリンクを形成した<アマテラス>の二つのPSIパルス反応炉が、急速回転を始める。フルパワーに達した機関は、<アマテラス>の全身に生命の脈動を巡らせ、PSI-Link深くまで干渉してきていた呪術結界のPSIパルスを堰き止める。

「アムネリア!」

カミラの目の前で、膝を屈していたアムネリアのホログラムが、ゆっくりと立ち上がる。まだ全てではないが、石化の呪縛はハラハラと崩れ落ち、彼女の放つ清らかな水流のオーラの中に消えていく。


「何ぃ⁉︎」飛煽の斜視の瞳が、勢いよく顔の中央に寄る。

「狼狽えるな!」法力に集中していた煌玲も、獲物の変化に気づいていた。

「最後の悪あがきだ! 抑えにかかるぞ!」

火雀衆の三人は、集中を高め、術の威力を高めていく。境内と祈祷場を取り囲む結界に仕掛けられた感応増幅器が、呼応して振動し始めていた。


「押されている! このままでは跳ね返せない!」アランのコンソールモニターのなかで、PSI-Link同調率を示す横棒の割合グラフが伸び縮みを見せている。グラフは、インナーノーツが捉えられない、何者かの呪縛パルスと、咲磨のPSIパルスとのリンク割合が、押し引きを示していた。

咲磨の肉体に一酸化炭素の危険が及ぶ予測時間も、残り数分に迫っている。メインモニターに示されたそのタイマーを睨め付け、カミラは声を張った。

「咲磨くん! ここからは、あなたの意志! 生きようと願う想い次第! 力を貸して! 皆んなでここを出るのよ‼︎」

「咲磨!」「いつまでも寝てんな! 早く目ぇ覚ませ‼︎」インナーノーツは口々に呼びかけていた。

『さくま!』

閉じ込められた祈祷場で、蛇体に持ち上げられたままになっている咲磨の身体が身じろぎを始めた。肉体の両の眼に光が戻る。

「……あむ……ぼ……くは……くっう‼︎」

咲磨の全身の痣が蠢く。『ヤマタノオロチ』が、咲磨の意識を再び取り込もうとしている。

……行かせぬ……戻って……の元へ……帰って来て……

直人は、自分を縛り付ける『ヤマタノオロチ』の戒めから、そこに残された、あの女シャーマンの微かな想念の声を感じとる。

……クニも……民も……失われてゆく……

また別の想念も流れ込む。

…………仏など、この国には要らぬ! ……古来の神を蔑ろになど……何故できようか⁉︎ ……

……我らは代々……こうやって子らを捧げてきた……逃れられぬ宿命なのじゃ……

赤裸々な啜り泣く声、悔恨の吐露。直人が感じ取っている想念の大河は、そのまま咲磨の小さな身体に流れ込んでいる。

全ては、失う哀しみから生まれていた。癒えぬ哀しみを怒りに変え、連綿と怨念を積み上げてきた。それが『ヤマタノオロチ』……

……咲磨くん! ……

直人には、『ヤマタノオロチ』が引き戻そうとする咲磨の魂が見える。

……さくま‼︎ ……

亜夢が、時空間の狭間から咲磨の片腕を掴んで必死に食い止め、サニもそれに加勢した。

苦しみの中で、咲磨は、想念の流れをもう一方の意識の腕で抱擁するように受け止める。

直人は気づく。咲磨は能力者サイキッカーだとミッションに臨む際のブリーフィングで説明があった。

……心を慰め、癒やす力……

その力を使おうとしているのだ。

……無茶だ、咲磨くん! ……キミ一人で、抱えきれるもんじゃない! ……

……さくま‼︎ ……

…………いいんだ……わかってたんだ、僕……

……これが、僕の生まれてきた理由わけ……僕のすべき事……

「がぁああ‼︎」だが、咲磨の肉体は、耐えきれず、浮き出た痣は、皮膚を破り、血潮を撒き散らす。

咲磨の苦悶の叫びが、<アマテラス>ブリッジに木霊する。

「はは……お兄さんの言うとおり……一人じゃキツいや……」

…………一人で抱えなくたっていい……そうなんだね?……

咲磨は血の滲む口元に、柔らかな笑を浮かべていた。

……あむちゃん……お兄さん……

…………お願い……手伝っ……て…………

咲磨の肉体が著しく弱まっている事を、皆が感じ取っていた。

……さくまぁ‼︎ ……

……咲磨くん‼︎ ……直人は、決意に顔を上げた。

……アムネリア‼︎ ……

直人の呼ぶ声に、アムネリアのホログラムが輝きで応える。

……オレごと、『ヤマタノオロチ』を! ……

アムネリアのホログラムが、姿を変えていく。

「これは……『メルジーネ』⁉︎」カミラが、唖然となって叫んだ時には、メルジーネは水柱となってブリッジ天井まで立ち昇ると、そこから今度は瀑布さながらの様相を見せながら投影機の底へと流れ込んでいく。

……咲磨くん! その痛み、哀しみ……オレも一緒に! ……『ヤマタノオロチ』! ……来い! ……

激しく渦巻く清流が、直人を縛り上げている『ヤマタノオロチ』の影ごと絡みとる。直人は、その水流の中で、自分の肉体へと意識を集中した。

「ぐっくくうぅうっ‼︎」

直人は、激しい痛みと共に肉体に意識が戻る。痛みに全身が蝕まれるようだ。

「ナオ! ……オマ⁉︎ 」戻った直人の顔に驚いたティムは、思わず席から立ち上がっていた。

直人の顔に、咲磨と同じ赤黒い痣が浮かび上がり、蠢いていた。

「……こ、こんな痛みを……あの子は一人で……」

火照る痣に顔中に汗を滲ませた直人は、ティムに小さく微笑んで答えると、声を張った。

「隊長! 意見具申!」


「絞めろぉ~! 奴を! 絞め殺せぇ~~‼︎」

飛煽は、瞬きもなく血走る目玉で異界を覗き込みながら、喚き散らす。先ほどから異界船は、濁流を飲み込み、それによって彼らの力は押し返されている。

「まさか……『大神』の力を取り込んだというのか?」念を注入しながら、煌玲が発する。

「馬鹿か⁉︎ 自殺行為だぜ!」熾恩は鼻で笑って一蹴し、念に力を込めた。

「いや、そうとも言えん……何が狙いだ⁉︎ 異界船?」焔凱は、徐々変わりつつある異界船の気配に違和感を覚えていた。
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