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第一章 久遠なる記憶
畏れ、そして愛 1
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北京軍立病院のPSIシンドローム特殊医療区画のコントロールブースでは、焔凱ら火雀衆が、持ち込んだ精神感応装置と、それを接続したコントロールブース側設備の同期調整にあたっている。
装置上部に設けられたモニタリングパネルに、早速、いくつかの反応が浮かび上がる。
「飛煽、霊視できるか?」
「どぉれまぁ~、やってみますかねぇ」
飛煽は、斜視の瞳を中央に寄せ、装置に四つある感応モジュールのひとつに意識を集中する。
「……どうだ? 何が見える?」
霊体の瞳でモジュールの奥底のPSI情報の細波を読み取る飛煽の霊視を、焔凱と熾恩は、幾分、緊張した面持ちで見守る。
「……地震……水……いや、土、黄色い土砂……洪水…………暗い……」
飛煽は、自らの裡に浮かびあがるイメージを淡々と呟く。
「なんだよ、それ! 意味わからねぇ」「よせ、熾恩!」
飛煽は、呼吸を深め意識を更に暗闇の深淵へと導く。
「…………黒い……渦……いや、……これは鱗……」
「そんなのどーでもいいんだよ、飛煽! 異界船は何処だ⁉︎」「こら、やめろ!」「飛煽!」
飛煽に飛びかかりそうな熾恩を、焔凱は羽交締めにして抑えていた。熾恩は体を捩りながら、焔凱に抗議する。
「……ごちゃごちゃうるせえ!」霊視を中断させられた飛煽は、熾恩を睨み付けて声を荒げた。
「すまん、で、どうなんだ?」焔凱は、熾恩を突き飛ばすように解放すると、飛煽に問う。
「はっきり見えたのは、大量の土石流……大洪水の光景さぁ……けぇど、そのもっと深ぁ~~いところに何かいるぜぇ」飛煽は、ニンマリと答えた。
「異界船は?」焔凱を押し退けながら、熾恩が問う。
「……ここにはいねぇ。けど……青い光がチラチラ見えた。あれは……」
「さっき見た、もう一つの異界船⁉︎」熾恩は即座に推測する。
「おそらくなぁ~~」
「って事は……」軽く顎をさすりながら、焔凱は笑みを浮かべた。
「こいつに網張って待ってりゃ~~、"白いヤツ"も~、向こうからやってくるかもぉ~~」挑発するような飛煽の視線が、熾恩を焚き付ける。
「よっしゃ!」熾恩は、自らの拳を反対の掌に打ちつけ、気合いを入れた。
「さっさと来やがれ! 《異界船|白いヤツ》!」
****
「どう、IMCとの連絡は、まだ回復しませんか?」<天仙娘娘>隊長、劉は、自席ユニットを副長、楊の席へと寄せながら問う。
「……全く……どうやら集団無意識に繋がっている、患者達の固有無意識間を転々と流されてるみたい……」楊は、何度かChina支部IMCへの通信を試みるが、通信PSIパルス波のデータを見る限り、あたりに吸収され、通信可能な次元領域にまで届いていない。ブリッジ全周モニターに目をやれば、黄土色か、黒色の靄を映し出すのみで、<天仙娘娘>は波動収束が定まらない、流動的な時空間漂っているようである。
「集団無意識領域がまだ活きてるなら、通信が繋がっても良さそうなもんだけど~」ブリッジ端に席を移動させた明明が、背中を向けたまま呟く。
「現宙域は、この船の限界スレスレ、集団無意識よりさらに高次元領域。おまけに時間座標が移動のたびに跳躍しまくって……何より、アタシたちを喰らい込んでいる"コイツ"が、"通信妨害"すんのよ!」楊は、苛立ちに美貌を歪める。
「閉じた閉塞空間……智愛、あと、どのくらい保ちそうですか?」努めて冷静に、劉は確認する。
「ん~、あと二時間半……くらいかなぁ……」言いながら智愛は、ブリッジ中央で正面への睨みを怠らない、静の席へと自席ユニットをそろそろと寄せてゆく。
「嗚呼、私たちここでもう……でも、貴女となら~~」静の席の隣にピタリとシートユニットを寄せ、智愛は、静の腕に擦りつく。
「わっ! 智愛! は、離せ!」静は、智愛に取られた腕の産毛が逆立つのを感じた。
「ねぇ、このまま一緒に死んだら、私達、心中だね?」大きな眼を潤ませた智愛は、ニンマリと微笑んで見せる。
「わたしは死なん!」静は、取られた腕を振り解こうとするも、智愛はイソギンチャクのように食らいついて離さない。
「バカなこと言ってないで、離せ!」「あ! バカ、バカって言った? 酷い~~」「あ、いや、じゃなくて、ええと……て、何? この匂い」鼻をつく油とスパイスの混じった臭いが、静の鼻腔をくすぐる。
「えぇええぇ~~臭い? アタシ、臭いの?」智愛はたまらず、自分の身体の臭いチェックを始めた。
「いや、お前じゃない……あ、明明!」
「あぁん? んぐ……ぬぅんだい?」振り向いた明明は、口をモグつかせている。明らかに何かを頬張っていた。
「なんだい、じゃない!」静は、細眉を吊り上げ、明明を睨み付ける。
「うわ、やだ! 臭ってきた!」臭いは、ブリッジ上層の、副長席にまで達したようだ。
「えぇ⁉︎ だって、ブリッジはいいだろ?」明明は悪びれる風もない。
「明明! そ、それはそうだけど、今食べなくても! それにアンタのそれ、臭いキツすぎ!」
「だってぇぇぇ……あ、楊姐もおひとつどう?」言いながら、明明は自席を楊に近づける。
「い、、いらん! 寄るな! 智愛、ブリッジの脱臭、どーなってんの?」
「エネルギーセーブ中で~~す」智愛は、しれっとした顔で答える。
「……ふぅ……」劉が額に手を当て、ため息を漏らした時。
「ん?」船体に振動が走る。瞬く間に、振動は激しさを増す。
「やっば! また来た⁉︎」楊はすぐさま、震源の確認に取り掛かる。
『……なぜ……なぜだ…………どうして……』
ブリッジに、何かの意志が、彼女らの解する言語に翻訳された音声となって再現される。
「な、なんだよ、この声⁉︎」「構ってはなりません! 今は、この次元震をやり過ごす事に集中!」
『……くくく……我、死すとも……この恐れ、この怒り……消せはせぬ……我は! ……』
「各自、シートロック!」
各シートを支えるアームが収縮、折り畳まれ、シートはブリッジ中央の幹に固定される。
「正面! 衝撃波来ます!」
振動に併せて、全周モニターは、土石流に攪拌される、大河の底を映し出す。
「障壁展開! 最大防御!」
装置上部に設けられたモニタリングパネルに、早速、いくつかの反応が浮かび上がる。
「飛煽、霊視できるか?」
「どぉれまぁ~、やってみますかねぇ」
飛煽は、斜視の瞳を中央に寄せ、装置に四つある感応モジュールのひとつに意識を集中する。
「……どうだ? 何が見える?」
霊体の瞳でモジュールの奥底のPSI情報の細波を読み取る飛煽の霊視を、焔凱と熾恩は、幾分、緊張した面持ちで見守る。
「……地震……水……いや、土、黄色い土砂……洪水…………暗い……」
飛煽は、自らの裡に浮かびあがるイメージを淡々と呟く。
「なんだよ、それ! 意味わからねぇ」「よせ、熾恩!」
飛煽は、呼吸を深め意識を更に暗闇の深淵へと導く。
「…………黒い……渦……いや、……これは鱗……」
「そんなのどーでもいいんだよ、飛煽! 異界船は何処だ⁉︎」「こら、やめろ!」「飛煽!」
飛煽に飛びかかりそうな熾恩を、焔凱は羽交締めにして抑えていた。熾恩は体を捩りながら、焔凱に抗議する。
「……ごちゃごちゃうるせえ!」霊視を中断させられた飛煽は、熾恩を睨み付けて声を荒げた。
「すまん、で、どうなんだ?」焔凱は、熾恩を突き飛ばすように解放すると、飛煽に問う。
「はっきり見えたのは、大量の土石流……大洪水の光景さぁ……けぇど、そのもっと深ぁ~~いところに何かいるぜぇ」飛煽は、ニンマリと答えた。
「異界船は?」焔凱を押し退けながら、熾恩が問う。
「……ここにはいねぇ。けど……青い光がチラチラ見えた。あれは……」
「さっき見た、もう一つの異界船⁉︎」熾恩は即座に推測する。
「おそらくなぁ~~」
「って事は……」軽く顎をさすりながら、焔凱は笑みを浮かべた。
「こいつに網張って待ってりゃ~~、"白いヤツ"も~、向こうからやってくるかもぉ~~」挑発するような飛煽の視線が、熾恩を焚き付ける。
「よっしゃ!」熾恩は、自らの拳を反対の掌に打ちつけ、気合いを入れた。
「さっさと来やがれ! 《異界船|白いヤツ》!」
****
「どう、IMCとの連絡は、まだ回復しませんか?」<天仙娘娘>隊長、劉は、自席ユニットを副長、楊の席へと寄せながら問う。
「……全く……どうやら集団無意識に繋がっている、患者達の固有無意識間を転々と流されてるみたい……」楊は、何度かChina支部IMCへの通信を試みるが、通信PSIパルス波のデータを見る限り、あたりに吸収され、通信可能な次元領域にまで届いていない。ブリッジ全周モニターに目をやれば、黄土色か、黒色の靄を映し出すのみで、<天仙娘娘>は波動収束が定まらない、流動的な時空間漂っているようである。
「集団無意識領域がまだ活きてるなら、通信が繋がっても良さそうなもんだけど~」ブリッジ端に席を移動させた明明が、背中を向けたまま呟く。
「現宙域は、この船の限界スレスレ、集団無意識よりさらに高次元領域。おまけに時間座標が移動のたびに跳躍しまくって……何より、アタシたちを喰らい込んでいる"コイツ"が、"通信妨害"すんのよ!」楊は、苛立ちに美貌を歪める。
「閉じた閉塞空間……智愛、あと、どのくらい保ちそうですか?」努めて冷静に、劉は確認する。
「ん~、あと二時間半……くらいかなぁ……」言いながら智愛は、ブリッジ中央で正面への睨みを怠らない、静の席へと自席ユニットをそろそろと寄せてゆく。
「嗚呼、私たちここでもう……でも、貴女となら~~」静の席の隣にピタリとシートユニットを寄せ、智愛は、静の腕に擦りつく。
「わっ! 智愛! は、離せ!」静は、智愛に取られた腕の産毛が逆立つのを感じた。
「ねぇ、このまま一緒に死んだら、私達、心中だね?」大きな眼を潤ませた智愛は、ニンマリと微笑んで見せる。
「わたしは死なん!」静は、取られた腕を振り解こうとするも、智愛はイソギンチャクのように食らいついて離さない。
「バカなこと言ってないで、離せ!」「あ! バカ、バカって言った? 酷い~~」「あ、いや、じゃなくて、ええと……て、何? この匂い」鼻をつく油とスパイスの混じった臭いが、静の鼻腔をくすぐる。
「えぇええぇ~~臭い? アタシ、臭いの?」智愛はたまらず、自分の身体の臭いチェックを始めた。
「いや、お前じゃない……あ、明明!」
「あぁん? んぐ……ぬぅんだい?」振り向いた明明は、口をモグつかせている。明らかに何かを頬張っていた。
「なんだい、じゃない!」静は、細眉を吊り上げ、明明を睨み付ける。
「うわ、やだ! 臭ってきた!」臭いは、ブリッジ上層の、副長席にまで達したようだ。
「えぇ⁉︎ だって、ブリッジはいいだろ?」明明は悪びれる風もない。
「明明! そ、それはそうだけど、今食べなくても! それにアンタのそれ、臭いキツすぎ!」
「だってぇぇぇ……あ、楊姐もおひとつどう?」言いながら、明明は自席を楊に近づける。
「い、、いらん! 寄るな! 智愛、ブリッジの脱臭、どーなってんの?」
「エネルギーセーブ中で~~す」智愛は、しれっとした顔で答える。
「……ふぅ……」劉が額に手を当て、ため息を漏らした時。
「ん?」船体に振動が走る。瞬く間に、振動は激しさを増す。
「やっば! また来た⁉︎」楊はすぐさま、震源の確認に取り掛かる。
『……なぜ……なぜだ…………どうして……』
ブリッジに、何かの意志が、彼女らの解する言語に翻訳された音声となって再現される。
「な、なんだよ、この声⁉︎」「構ってはなりません! 今は、この次元震をやり過ごす事に集中!」
『……くくく……我、死すとも……この恐れ、この怒り……消せはせぬ……我は! ……』
「各自、シートロック!」
各シートを支えるアームが収縮、折り畳まれ、シートはブリッジ中央の幹に固定される。
「正面! 衝撃波来ます!」
振動に併せて、全周モニターは、土石流に攪拌される、大河の底を映し出す。
「障壁展開! 最大防御!」
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