ヴィーナスリング

ノドカ

文字の大きさ
上 下
4 / 45
第1章 パペットマスター

1−3

しおりを挟む
「では、ライラ殿、美咲に蹴散らされないようにがんばってくだされ」
「あの、えろじじぃ、偉そうに! 」

 ライラと僕は続いて棺桶に入ってパワードスーツに乗り込む。
「ライラ、起動シークエンスは任せるよ。武装はそうだな、美咲の出方が分からないから防御中心の格闘戦用にするか」
「了解。美咲の新しい技が気になるね。防御重視でいいと思う」

 パペットの操作を直接行うのはライラだけど、意識は僕と繋がることで僕も操作している感覚はある。エンジェルはパペットマスターの指示を受けて戦うけど、戦う方法はそれぞれのエンジェル特有の技が用意されているし、美咲が用意したようにカスタマイズした新しい技を使うことも許されている。

「起動終了、武装はレーザーナイフ、ハンドガン、ハンドシールドを装備、出撃と同時に索敵開始!」
「美咲は無線を切ってステルスモードだな、ライラ、油断せずにいこう! 」

 僕らが使っているパペットは索敵範囲が短い、通常は索敵ドローンを事前に飛ばすんだけど、今回は時間がなくて飛ばさずにスタートしているから、移動しながら美咲たちを探すか、潜伏して待つか、悩むね。ただ、いつもの美咲なら数分も待てずに突っ込んできそうなもんだけど、今日は大人しいな......
  
 索敵をしていると「ビシッ」と目の前の壁に銃弾が打ち込まれた。とっさにライラは回避行動を、僕は発射地点の確認をする。いつも格闘戦で攻めてくる美咲が長距離戦? おかしいな、それが新しい技なのか?

「発射地点特定、500m先の教会の屋根の上か。どうする? 反撃? それとも......いや、待て、なにかおかしい、オプションを使おう、索敵ドローン発進! 」

 僕はどうしても美咲が長距離戦を仕掛けてくるとは思えなかった。いっちゃ悪いが、あいつは相手の隙を狙うなんてことはできない、我慢ができない性格だから。潜んで戦う? ありえない。ここは時間がかかるかもしれないけど、詳細な索敵のためにドローンで調べた方がいい。
 ライラはパペットを近くのガレージ内に潜ませると「深索敵モード」に移行した。このパペットだとドローンを使う「深索敵モード」時は動けなくなるけど索敵能力が一気に上がるから、美咲を見つけて、今度はこっちが攻める番だ。

「冬弥、見つけました。美咲です。でも、おかしいわ、パペットがやけに小さいような......あ、このパペットは、ぶ......」
「冬弥、覚悟っ! 」

 ライラが見つけた美咲のパペットは「分離型」パペットの「バックパック」だった。分離型パペットはさまざまな応用がきく「バックパック」を使うことができる。もちろん規定に合わせてそれぞれのモーター出力や攻撃力は小さくなるのだけど、美咲が使った長距離ライフル装備型バックパックのように固定砲台として使えるバックパックもあるから、複数箇所で攻撃ができたりする。美咲がそんな器用なことを思いつくとは......少しは知恵がついてきたらしい。

 本体のパペットは深索敵モードで動けない僕の目に突然現れるとレーザーナイフで攻めかかってきた。深索敵モードから通常モードに切り替えるには時間がかかり、美咲の攻撃をまともに左腕に受けてしまった。甲高い音と共に左腕はガレージ奥の壁にまっすぐ吹っ飛んでいった。僕は格闘戦が苦手だ、美咲と違って格闘術を習っているわけでもないから、うまく攻撃が当てられない。それにだ、相手と間近で目が合うのはなんとも恥ずかしいじゃないか。

「冬弥、距離を取ります、一旦引きます! 」
 左腕は失ったが、ライラが通常モードに移行に成功した。防御しつつ、ガレージからは離脱に成功したけど、美咲の攻撃が止むことはなかった。さらに、分離していたバックパックも援護射撃を始めていた。

「くそっ、美咲にしては頭を使った攻撃だな、ライラ、閃光弾の用意、撃て! 」

 美咲は美咲の兄、達夫さんからナイフの扱いを習っているし、柔道の黒帯だったりする。僕が格闘で美咲に勝てる確率はほぼ0。一旦距離を取るために目眩ましを使ってみた。

「ざーんねん! あんたの攻撃はお・み・と・お・し」

 美咲は閃光弾対策もなぜかバッチリだった。閃光弾は虚しく光り、光の中から美咲の渾身の一撃が僕とライラを襲う。攻撃を避けられなかった僕達のパペットはHP0となり、パペット戦は美咲の勝利に終わってしまった。

 あっという間のことに僕もライラも放心状態だった。

「やったーー! 勝ったわ、どうよ、冬弥、私のこのエレガントな戦い方は! 」
「エレガント? うーん、納得行かない......けど、負けは負けだね」
「ほっほっほぉ、ライラ殿ともあろうお方が見事に引っかかりましたな。では、敗者は、勝者の言うことをなんでも聞かねばなりません」

 タクはそういいながら嫌らしい顔でライラに近寄っていくが、さすがに美咲にどつかれた。ライラは美咲の「分離パペット作戦」を見破れなかったことがショックだったみたいで、その日一日ぶつぶつと反省というか、愚痴を僕にずーと言い続けた。消音モードにしても良かったんだけど、それがばれたときのライラの逆襲が怖かった。

 結果として美咲とのパペット戦は完敗だった。美咲はいつも単独のパペットで真っ正直に格闘戦に持ち込もうとするスタイルを止めて、小型パペットとバックパックの組み合わせを選んだ。僕らが使ったノーマルパペットは搭載できる武器は多いのに対し、小型パペットは1つしか搭載できない。けれど、今回のように遠くから射撃をするバックパックを使えば、本体パペットが気づかれずに対象に接近、奇襲攻撃ができる。もちろん、美咲のように格闘戦が得意だからできる無茶な戦いでもあるけど、こんな戦いかも面白いよな。ただ、この作戦、次は使えないよな。少なくともライラや僕の前では。
 美咲はとにかく喜んでた。あまりに喜ぶもんだから、いらっときたけど敗者は何も言えないよな。そうそう、美咲が「これからは分散の時代よ! 」と訳のわからないことも言ってた。もしかして、チーム戦であれを使うってこと? うーん、僕らはどうサポートしたらいいのか......




しおりを挟む

処理中です...