ヴィーナスリング

ノドカ

文字の大きさ
上 下
17 / 45
2章 パペ部

2−8

しおりを挟む
 リューグナーとの激しい試合はよくも悪くもパペ部をさらに有名にしたらしく、パペ部の見学を希望する学生が一気に増えた。もちろんメンバーが増えることは嬉しい事なのだけど、一つ困ったことがあった。
 僕らのパペ部の設備はパペットの同時使用が4機まで、つまり、タッグ戦しかできない。普段はそれぞれシングル戦をしているから問題なかったのだけど、部が有名になり、入部者が出ればシミュレーターが足りなくなってしまう。学校には追加申請しているけど、かなり高価。ぽんぽん増やすわけにもいかない。そもそも、こんな田舎の学校にシミュレーターが4台もあるだけでも十分贅沢なんだけどね。

「困ったわね。せっかく入部してもらってもこれじゃ試合ができない」
 美咲は部長として学校と掛け合っていけど、良い回答はもらえていない。小町や沙織も一緒に考えているがどうにもならない。
「なあ、別に毎日やることはないんじゃね? 例えばくじ引きで分けるとか。それに毎日まじめに部に来くるのは俺らくらいだろうし」 
 虎之介の意見はもっともだが、美咲としてはいい機会なのでチーム戦も行えるようにシミュレーターの大幅増加、もしくは、新型のシミュレーターに変えてもらいたかったようだ。
 僕らが使っているシミュレーターは1台に付き1名が使える。でも、お金持ちの私学で導入が始まっている最新型なら、1台のシミュレーターで5人まで参加できる。つまり、2台あればチーム戦も可能ってこと。ただ、電気代とかメンテナンス費は僕らのものよりも数倍かかるみたいで、学校からすれば公立校で持つのは無理との回答だった。
「もう! ケチなんだから、私達はうまくすれば今年全国にだって行けるってのにぃ。ねえ、どこかにお金持ちでこの学校に喜んで寄付してくれるオヤジとか知らない? 」
「美咲、落ち着きなさいって。そんな人がいたら苦労はしないし。今は目先の大会に向けて対策を練りましょう? 新人が入ってきた時にはたまに私達の的をやってもらえばいいじゃない? 」
「小町、あんたはまったく......新人が入ってくれないと私達が卒業したら部がなくなっちゃうのよ? そんなの悲しいじゃない! 」
 美咲の言うとおり、パペ部は人気がない。パペットで戦うのを見ることは人気があるが、自分でやろうと思う輩は少ないのだ。見てるだけならパペット戦は迫力満点だ。でも、自分がそこに立ち、痛みを感じながら戦う? そんなのマゾがやることだよという陰口すら聞こえてきていた。また、パペット戦とは違い、自分は戦わず、エンジェルをさまざまなロボットに乗せて戦わせるゲームのほうが人気がある。僕も誘われることはあるけど、ライラだけに戦わせるのは僕は嫌だな。
 皆の意見が出尽くしたところで今日は解散となった。帰る準備をしていると母さんから研究所に来るように呼び出しがあった。なんだろう、珍しいな。僕のパペット戦の許可が下りるのかも!

「さて、僕は母さんに呼ばれてるから研究所に寄って帰るよ、じゃ、また明日! 」
 バス停に向かうため、部室を出ようとしたら、美咲に後ろからかばんを掴まれ、部屋に連れ戻されてしまった。「ちょと、待ってて! 」美咲は僕を座らせると小町とヒソヒソ相談を始めた。バスの時間まであまり時間が無いのだけどなあ。僕はなんとか逃げられないかと周りを見ていると、美咲と小町は時折こちらを見てニヤニヤしている。相談ごとは僕に関係することらしい。あの二人がニヤニヤしながら僕を観るときは必ず何かがあるんだよな。そして案の定、一緒に研究所に行くと言い出した。
「おいおい、呼ばれてるのは僕なんだけど? 美咲、ましてや小町まで......ぞろそろ行っていい場所じゃないんだけど? 」
「何言ってるの冬弥! おばさまにあなたのパペット戦の許可をおろしてもらうように一緒に頼みに行ってあげるわよ! 美少女二人がついていってあげるんだからありがたく思いなさい! 」
「そうよ、ありがたく思いなさい! 」
 小町も相槌を打っているけど、研究所に行って何がしたいんだか......いずれにしても僕には微塵もいいことがなさそうなのは確かだね。なんとか美咲たちに諦めさせようとしたけど、バスにしがみついてでもついてきそうだ。こうなったら沙織に説得してもらおう! と沙織の方に振り向くと「小町ちゃんが行くなら私もぉ」「俺は楽しそうだから」と沙織や虎之介までついてくると言い出す始末。
「はぁ、だからね......」
「あ、バスが来たわ、冬弥、急いで、ほら乗り遅れるから! 」
 美咲は最後の抵抗をする僕をバスに押し込むと、結局いつものメンバーで研究所に向かうことになった。













しおりを挟む

処理中です...