ヴィーナスリング

ノドカ

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3章 プライベートランド

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 永遠に、この左右に激しく振られる車内から出ることは無いんじゃないか? と思えるほど長くて辛い、そして、車のシートにしがみつくこと20分。ついに研究所の入り口の門までやってきた。
 「さあ、みんな、ついたわよ! 」
 「.......」
 みんな意識がどっかに飛んでいったかのように呆然としていた。ジェットコースターが大好きだと言っていた虎之介でさえ、うつむいて「はぁはぁ」と息が上がっていた。沙織に至ってはシートベルトを掴んだまま目をつむり固まっていた。僕は深呼吸をしてなんとか意識を取り戻すことに成功し、車から下りて門を見た。
 周りが森でぽつんと『高木仮想研究所』と書かれた汚い看板があるだけだったが、用心のため、ライラに周辺を調査させると、露骨に見えているカメラ以外にも、隠されたカメラ、赤外線カメラ、動態センサーなど ”普通じゃない装備” で満載らしい。
 「ここね、さあ、みんな、準備はいい? 戦いの始まりよぉ! 」
 美咲、先生がさっき言ったことをお前はもう無視するのか......
 美咲と小町、虎之介は僕と沙織の制止の声も聞かず、HMDを装着するとプライベートランドへ入っていった。
 「こらぁ! 玄関まで行ったら待ってるんですよぉ~ 」
 「先生、分かりましたぁ! 先に行って待ってま~す」
 美咲は振り向きもせず小町や虎之介と一緒に突撃していった。ように見えた。
 「えっ? 美咲ちゃん?! 」
 「ん? 美咲? 虎之介! 小町! 」
 3人はまっすぐの道路を走っていったのだが、途中ですぅと視界から消えてしまった。
 「プライベートランドって人も消せるのか! 」
 僕はてっきりおじいちゃんのイタヅラで3人が消えたと思ったんだ。でも、HMDを外してもそこには道路があるだけだった。まじかよ、3人同時に消えるなんて! 
 僕と沙織、先生はHMDを再度かけるとプライベートランドに突入した。しかし、特別な風景は何もなく、リアルのままだった。何も小細工はない。ライラにチェックさせてみたけどやっぱり何もなかった。おかしいな、じゃあ、あいつらが消えた理由は...... 
 「先生ぇ 助けてぇ......」
 「おまえら、何してんの? そんなところで」
 3人は落とし穴に落ちていた。そこは、道路がちょうど小さな山を超えて下ったところであり、入り口からは死角になっていた。でも、落とし穴というには大きすぎる。ちょうど視界から消える当たりに直径10m、高さ3mもの大きな穴が掘られており、3人は見事に落ちた。幸い怪我はなかったようだ。それもそのはず、穴の下には落ち葉でクッションが作られており、3人は落ち葉に埋まっていた。
 「くそっ! やられた! まずは出ないと......」
 虎之介は言いながら手足をバタバタさせていたが、体はどんどん落ち葉に飲み込まれていくようだ。ん? 深いな、まずいんじゃないか? 
 「虎之介! 動くな、小町、美咲も、その場でじっとしてろ、もっと埋まるぞ! 」
 「なんでよ、冬弥、こんなのただの落ち葉じゃないの! 」
 「小町、いいから、今捕まるものを渡す、それまで 」
 小町は僕の言うことを言わず、もがき始めた、その瞬間、3人は落ち葉の下に姿を消した。
 「美咲! 小町! 虎之介! 」
 3人の姿はすでになく、何度呼びかけても反応はなかった。
 「ライラ、チェックして、3人を探すんだ! 」
 「了解。冬弥、さらに3m下に構造物がある......3人の反応を発見、動いてるわ、でも、動態センサーでは捉えられるけど、通信できないみたい」
 「冬弥くん、私達じゃ何もできないわ、もう少し先にお祖父様がいる建物があるようだから、お祖父様に聞きましょう。穴に落ちないように迂回して行くわよ。ほら、沙織さん、小町ちゃんたちは大丈夫だから行きましょう! 」
 さすが先生、落ち着いてるな! でも、先生の後ろを歩いて気づいた、先生の足は震えていた。先生も頑張ってる、美咲頑張れよ。


 研究所はそこから300mほど進んだところにあった。呼び鈴を鳴らすと中から小型の人型ロボット? パペットじゃないな、もっと原始的な......歩行も危なっかしい2足歩行ロボットが僕らを出迎えてくれた。
 「冬弥様、先生、よくお越しくださいました。主人は今、手が離せません。応接間で待つように言付かっております。こちらへどうぞ」
 「待って、美咲、いや、友達が3人、向こうの穴に落ちてるんだよ。助けて欲しいんだ! 」
 「なるほど、予定では6名いらっしゃるとのことでしたが、なるほどなるほど。落ちてしまったのですか。分かりました。そちらの件はこちらで対応いたします。大丈夫ご無事ですから、皆様は応接間でお待ちください」
 ロボットは僕らを応接間に通すと「3名の方を助けてまいります」と言いながら席を外した。
 「冬弥くん、お祖父様のこと、どの程度聞いてるの? 」
 「ほとんどわかりません。ただ、いたずら好きとだけです」
 「そう、でも、これはいたずらの枠を超えてるわ! 」
 新先生が怒ったの見るのは初めてだったけど、顔にはあまり出ないタイプなんだね。手をぐっと握ってこらえていた。
 
 





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