ヴィーナスリング

ノドカ

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3章 プライベートランド

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 美咲たちが戦っている中、僕と沙織、新先生は第二研究所に移動していた。第二研究所とは名ばかりで単なる修理工場だったけどね。中にはリアルで使うパワーローダーやら二足歩行ロボットやらで一杯だった。また、奥には冷却設備と共に多数のコンピューターが並んでいた。今どき個人でこれだけのコンピュータを持つなんてやはりおじいちゃんはただものじゃない。
 「冬弥くん、HMDをかぶってみて」
 沙織に言われるまで気付かなかったが、ランドではこの研究所はプライベートランドの管理ルームになっていた。なるほどあのコンピューター群はプライベートランドを動かしているのか。そして、ランド内でもコンピュータが動いているのだけど、一台のコンピューターの上でタマが気持ちよさそうに眠っていた。
 「タマがいる! 沙織、先生気付かれないように回りこんで捕まえよう! 」
 「わかった」
 「わかったわ」
 僕らはタマに気付かれないようにコンピュータのラックに隠れながら近づき、一斉に飛びかかった。
 「にゃ! にゃにをする! 」
 「大人しくしろっ」
 タマは暴れに暴れたが持ってきた電磁ロープで縛り上げることができた。でも、あまりに縛りすぎたために若干苦しそうだった。
 「おみゃえら、こんなことをして、許されるとおもっているのかにゃ! 絶対にゆるさないにゃ! 」
 「タマくん、ごめんなさいね。大人しくしてくれるなら緩めてあげるけど、どうする? 」
 「むむっ あなたはどなたですかにゃ? 」
 「初めまして、冬弥くんたちの担任の里美ともうします。この度、あなたの力を借りるためにやってきました。どうか私達に力を貸してもらえないかしら? 」
 「お、大人の色気、素敵だにゃぁ、いいにゃ、条件を飲んでくれるならシミュレータの一台や二台動かしてやるにゃ」
 「ほんと!? やったぁ 冬弥くん、これで問題解決ね。沙織さんも良かったわね」
 「はい、でも、タマちゃん、条件ってなに? 」
 「ふふふ、それは、新先生が我輩を飼ってくれることにゃ! 」
 「な、タマ、だってお前、おじいちゃんのペットだろ? 」
 「問題ニャイ、あのじじいにはいつもいつも面倒ばかり押し付けられてきたにゃ、これからは、きれいなお姉さんといつもいっしょにゃあ」
 「お断りします」
 「えええっ! 」
 僕と沙織、そしてタマも新先生の即決に驚いていた。この時代、ペットとは言っても世話をする必要は無いし、最悪自室からは追い出すことも可能。だからタマをペットとして預かっても新先生は嫌なら部屋に進入許可を出さなければいいだけなのだけどな。
 「先生、ペット嫌いですか? 」
 「そうじゃないのよ、冬弥くん、タマちゃんは素直そうだけど、私、エンジェルとか苦手でね。だから、タマちゃんといえども飼えないのよ」
 ランドがリアルと共存しているとはいえ、エンジェルを認めないという人たちも少なからずいる。エンジェルを避ける理由は自分の行動すべて見ることができるからと言われている。ただ、セキュリティを厳しく設定をすればプライベートは守られる。それでも感覚的にいつもいるエンジェルを嫌がる人はそれなりにいるんだよね。エンジェルを使わずともランドは利用できるし、こればかりは個人の感覚だから仕方ない。
 「タマちゃん、ごめんね。私もムックンがいるから飼ってあげられない。でも、先生、部室で飼うというのはどうでしょうか? シミュレーターとして居るわけだから部活の間は相手をしてあげられるし」
 「それは問題ないわよ。どうかしらタマちゃん、私は飼ってあげられないけど、学校にいればたくさんの生徒たちがいるし寂しくないわよ? 」
 「ふん、吾輩の申し出を断るとはいい根性しとる、でも、気に入った! 新先生我輩は絶対にあきらめにゃいにゃ! まずは学校で我輩の素晴らしさを見て惚れるがいいにゃ! 」
 タマの仁王立ちに皆が笑っているとおじいちゃんから緊急通信が入っていた。
 「冬弥、タマは捕まえられたか? そうか、分かった。それでじゃ、困ったことになっておる。プライベートランドで異常が発生しておる。今そっちに向かうから詳しい話は後でじゃ、ただ、タマにプライベートランドの状況を確認させてくれるか、そうそう、くれぐれも観るだけじゃぞと伝えてくれぃ」
 おじいちゃんの真面目な声を初めて聞いた気もするけど、タマは僕が言う前にプライベートランドへの監視に入っていた。
 「なんじゃこれは! まったく、どこのどいつじゃ、人様のプライベートランドに手を出すとは......返り討ちにしてくれる! 」
 「待てタマ、おじいちゃんは観るだけにしとけって」
 「そんな悠長なことを言っておる場合じゃないぞ、このままだと中にいるエンジェルたちが皆殺しになってしまう」
 「な、なんだってぇ! 」
 タマとの会話は新先生や沙織にも伝わっており、二人とも不安そうにしていた。
 「タマちゃん、どういうことなのか説明できる? 」
 「里美殿か、詳しくはそら、ジジィがやってきたから聞いてくだされ、吾輩はまず、こやつと一戦始めねばならぬのでな」 
 そういうとタマはハンガーの奥にあった青いパペットに乗り込みプライベートランドの接合部へと突入していった。
 「待てと言っておろうが! まったく、タマの奴め! はぁはぁ」
 「おじいさま、これはどういうことなんですか? 」
 「今、タマが言っておったろ? プライベートランドに侵入されておる。それもわしのセキュリティを破るような輩じゃ、相当な手練じゃて。問題なのは侵入者がプライベートランドを破壊しようとしていることじゃな、中にいる人間三人は強制排除できるが、エンジェルはプライベートランドから出て来られないようになっておる。そして、プライベートランド消失とともに意味消失する」
 「ま、まってよ、そんなことありえるの? プライベートランドから一緒に強制排除したらいいじゃない、データなんだし、できないの? 」
 「冬弥......お前は、まったく、母親から何を学んでおる? プライベートランドは確かにワシが作ったものじゃが、ランドの力を借りているにすぎない、ということは侵入者はランドのセキュリティすら破れる強者じゃて、そんな奴がエンジェルを強制排除できないようにしとるんじゃぞ? 簡単にはいかんわい。それに、人間を強制排除した瞬間、エンジェルは自身の制御ができなくなり行動が停止じゃろうな。今エンジェルが動けるのはセキュリティが破られていない、ランドが人間と行っている通信を間借りして使っているからじゃからの。通信が立たれたエンジェルはただのデータになってしまうわい」
 「そんな......」
 「お祖父様、ランドのセキュリティ部隊に連絡を」
 「いや、そんなことはすでに終わっておるよ、奴らも動いておる、それでも侵入者を排除できずいにるようでな。だから、これからワシ自ら侵入者と対峙してやろうと来てみたんじゃが、ワシのパペット「震龍」をタマがもっていってしもうた。これじゃ、手が出せないわい」
 タマが乗って行ったパペット「震龍」は対侵入者用にカスタマイズされたパペットだそうだ。プライベートランドには無数の侵入者からの攻撃があるそうで、それに対峙するために半自動で動くセキュリティロボットでもある。ただ、本来はロザリー用に作っているためにタマだと100%の力を発揮できないかもしれない。それになぜタマが戦いに出たのかもおじいちゃん的にはわからないらしい。
 「こうしていても仕方ない、まず、現状確認する。お嬢さんたち手伝ってくれるか? そこのコンピュータにモニターを直結して中を見るんじゃ、ロザリー頼むぞ、それと、冬弥、お前には別な任務がある」
 そう言うと、おじいちゃんは沙織と新先生にロザリーを預け、僕とライラだけをハンガーの外に連れだした。
 「冬弥、お前、ランクSの件は聞いておるな? 」
 「え、なんでそのことを? 」
 「詳しくはあとで弥生さんから聞くんじゃな、さて、お前さんにはランクSの力を使ってタマを助けてもらいたい、アヤツはもともと回線とプライベートランドのメンテナンスとセキュリティの力しか持っておらん、ロザリーと違って侵入者との戦闘などできんわい。冬弥、タマのパペットを操って助けて欲しい。なあに、あのパペットならライラがしっかり動かせるわい」
 「えっ! 待ってよ! そんな急に使ったこともないパペットを? それにプライベートランドに入ったらライラだって危ないんだろ? ほかに方法はないの? 」
 「残念じゃが、あの侵入者の力はワシや弥生さんの力をはるかに超えておる、今すぐにでもプライベートランドを破壊してもおかしくないんじゃ、頼む、タマをすくってやってくれ、恐らく奴は自分のミスで侵入を防げなかったと考えたんじゃろ、誰よりも戦いが嫌で優しい奴なんじゃ、パペットに乗ることすら嫌がっていたのに」
 「冬弥、私なら心配ありません。中にいるエンジェルたちも助けたいです。行きましょう」
 「おまえな、そんなこと言ったって......」
 ライラはまっすぐ僕を見ると優しく微笑んでいた。自分が危険なことを承知した上で仲間を助けたいんだな。
 「わかった。ライラ、移動中にパペットの操作マニュアルを見ておいて、それとおじいちゃん、この力、誰にも話してないんだ。特に美咲には。だから......」
 「ああ、分かっておるよ。どうか、タマと三人のエンジェルたちを無事に連れ帰って来てくれ」
  
















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