ヴィーナスリング

ノドカ

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5章 新型パペット

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 蒼龍に残ったライラはショートカットになっているばかりか、フェイスペイントをして雰囲気がまったく違う。普段のライラは真面目で、操縦桿を握る目も真剣なのだが、このライラは操縦桿を握りながら時折笑みを見せ、目が血
走っている。

 「雰囲気ががらっと変わってるじゃないか」

 蒼龍は重量が軽くなっているので走行スピードを上げられるが、ライラのモーター調整でゼロを抱えているように見えた。

 「ほう? 分離せずに移動とは、でも、スナイパーライフルは無しか、リモートで打てるように設置してきたか? もしくはゼロにもたせて......やはり冬弥ライラの組み合わせは成功だな。ここまで蒼龍をしっかり操作してくるとは思わなかった。分離したかも分からない。隠れて様子をみるか? いや、ここは正面から戦ってみるか」
 蒼龍が広場に到着し、周囲を警戒していると、後ろから達夫さんが操縦する青龍がやってきた。
 「冬弥、逃げまわるかと思ったが、格闘で俺に勝てると思っているのか? 」
 「格闘ではね! 」 

 蒼龍は達夫さん目掛けてハンドガンを連射するが、全て交わされ、逆に達夫さんの青龍がロングソードを振り下ろしながら突進してきたが、蒼龍は腕のプロテクタでロングソードをいなし、青龍と距離を取ると、そのままハンドガンで攻撃を続ける。蒼龍の射撃はライラの補正でかなり精度が高く、ピンポイントで青龍の足の関節にダメージを与え、青龍は距離を取らざる得なかった。

 「さすがに命中精度が高くて近づけないなあ、蒼龍はそれほど射撃用の機体じゃないが。さすがライラ。すごいなあ。うんうん。困ったなあ、ああ、困った、近づけない、どうしようぉ。なんつってな。青龍を舐めすぎだぞ、冬弥! 」

 青龍はプロテクタを全て排除するとモーター出力を全開にしてロングソードを構えてダッシュしてくる。
 「ライラ姉、ゼロからの狙撃用意! 」
 「そうだ、やっちまえ、ライラ姉! こっちは任せろ! 」
 「了解! 狙うわよ! 」

 蒼龍は青龍のロングソードを脇で受け止める。激しい突進もあり、蒼龍のプロテクタだけではなく、各部関節まで悲鳴を上げるが、ロングソードの突きは上部に集めたプロテクタを破損しながらも防ぐことができた。しかし、突進は止めることはできず、そのまま背後にある壁まで押しこまれてしまった。
 「冬弥、男らしく剣を受け止めたのは褒めてやるが、接近戦に持ち込まれたのは失敗だったな? 」
 「そう思う? ライラ姉! 」
 蒼龍は青龍と対峙しながら、うまくゼロの射線に誘導していた。
 「了解です、冬弥」

 ゼロが放つライフル弾は青龍の頭を狙い撃ち見事に粉砕した。行動不能に陥った青龍は膝から崩れ落ち、勝負が決まった。

 「ピィィィィィィィィィ!」

 試合が終了するとランドからも排出され、リアル(応接間)に戻っていた。
 「なんだよ、冬弥、やはりゼロを分離してたのか。蒼龍の動きからはまったくわからなかったぞ、あんな短期間でよく演技できたもんだ 」
 「ライラとライラ姉がうまくやってくれたよ。それに達夫さんだって、あの煙幕の後、探索ドローンを飛ばさなかったしね。ハンデくれすぎ」
 「ハンデですか、なるほど。達夫さん、いきがって戦闘を仕掛けた割にだめだめですね? ゼロの存在を知っているなら、煙幕の後、確実に探索しながら戦闘を仕掛けるべきだったのでは? もしくは、冬弥くんと同様、マーカーで位置を確認しておくべきだったですよね? 」
 「赤城、そういうな、お前だって見ただろ? あの蒼龍の動き。あんなの見せられたら分離せず、射撃に切り替えたんだと思うじゃないか?
 スナイパーライフルをリモート制御で撃ってくるとは思ってたから派手に動きまわって、狙われないようにしたんだけどな。まさか、射線にひっぱりだされ、しかも、ヘッドショットなんてな。リモート制御じゃ無理だよなあ」

 「お互いに相手を知っていればこその戦いだったようだね。冬弥くん、このまま蒼龍を使ってみてくれるかな? 君さえ良ければだが? 」
 「分かりました。相良さん、お預かりします。ただ、ノーマル戦にしか出ないので、良いデータが得られるとは思いませんが......」
 「ははは、大丈夫だよ。君が使うことに意味があるんだ。ライラ君が2台のパペットを効率的に操作できるのは、君がいるから可能なんだよ。しかも、その力はランクの力じゃない、君自身の指揮官としての能力だ。もう少し、自分の力に自信をもつといい」
 「そうだぞ、冬弥、格闘や射撃では勝てないかもしれないが、複数の機体を操れるなら戦い方は一気に増える。どう戦うか楽しみにしているよ」

  蒼龍はノーマルパペットに改めて調整(デチューン)されて僕の手元にやってきた。そして、ライラは蒼龍、ゼロを扱うためにまさに『分離』して戦うことになった。
 「改めて、冬弥。ゼロを操縦します、ライラ姉です、よろしく。そして、こちらが蒼龍を操縦する......」
 「おっす! さっきはおつかれ、ライラ姉と共によろしく頼むわ」
 「こら! 冬弥に向かって失礼でしょ! 」
 (いつもの)ライラはショートカットのライラに向かって頭を叩いていた。どちらも髪型以外はほぼ一緒なので間違えないようにしないとな。でも、ライラとライラ姉か。変だよねえ。でも、いまさらライラ以外にどう呼んだら? 迷っている僕にショートカットのライラが提案してくれた。
 「そんなに悩むなよ。いいじゃねえかライラとライラ姉で、ん? 変だって? なら、戦闘時は蒼龍、そしてゼロで。ライラは1人の時に呼んでくれたらいい。合体している時には姉貴が主に出るけど、俺もしっかり見てるからな。
 俺は分離した時にしか出てこない。ただ、俺が蒼龍で、姉貴がライラという呼び方だとライラでもある俺はちょっと、さ、さみしいかな......で、でも、冬弥に任せるぞ」

「わかった。戦闘時は蒼龍、ゼロと呼ぶことにする。

 でもな、ショートカットのライラ。君だって僕の大事なライラに変わりないんだよ? これからも不甲斐ない僕をよろしく」
 「なっ! ライラ姉、冬弥ってなにか? こんなに、か、かわいい奴だったのか? ま、任せておけ、蒼龍は俺がしっかり操ってお前を勝たせてやる! 」
 「冬弥、もう、二人目のライラとも仲良くやってるのか? はあ......お前ってやつは。意外とそういう特技があったのかもしれないなあ。美咲に告げ口してやろ」
 「達夫さん! 」


 僕の新しいパペット蒼龍、ゼロは僕に戦い方を決めさせてくれた。蒼龍型はさらに多くの分離機構、もしくはオプションにも対応できる。公式戦までにいろいろ試さないと。
 そして、ライラが分離することでこれまで見えなかった、もう一人のライラとも会えた。雰囲気がだいぶ違う二人だけど、これからの戦いでは彼女らの力ももっと活かして勝利を掴まなくちゃね。




第一部  完
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