おっさん、ドローン回収屋をはじめる

ノドカ

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第1章 ドローン回収業という職業

1−4 おっさん、交渉材料になる。

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 回収対象のドローンは、株式会社 飛物のTX-45。冷蔵機能、衝撃吸収、加速機能搭載。主に医療アイテム運搬用として設計された機体。
 飛物は日本のメーカー、壊れやすい物などを安全に運ぶための各種装備が充実している。特に、医療現場からの絶大な信頼を得ている会社でもある。また、回収業者からは「実物を見たことがない」と言われるほど回収対象になったことがない。墜落はもとより、撃墜されることもほぼないと言われているドローンだった。

 飛物の一番の特徴は、加速機能。レース用ドローンにも匹敵するほどの加速をしながら、中身の安全性を担保する姿勢制御機能があり、攻撃者から荷物を守っている。
「TX-45ってシリーズ最高加速じゃん、そんな機体をどうやって捕まえたんだろ?」
 よどは防御方法確立のためさまざまなドローンを実際に運転している。
「飛物のドローンはやばい、あれ落とす方法なんてないでしょ!」
 防御のためには攻撃者視点も大事なのだが、防御A.i構築で日本屈指の実力者でもあるよどの高評価ドローンが墜落している。
「荷物はどうだ? 故障箇所の特定も頼む」
 ドローンの回収に向かいながらよど、チェンに確認させる。マルチローター、モーター、バッテリーなどほぼ使い物にならない状態だったが、幸い荷物は問題ないようだ。
「荷物はっと……血液ね、Rh null、null?」
「ちょっとまって、nullって書いてるの? よどちゃん」
 サイカの声にびっくりしながら、再度確認する。
「うん、みたことないね。誤植かな」
「いえ、それであってるんだと思う。そう、Rh null型ね。とても珍しい。世界でも数十人しかいないはず、そんな血液を運ぶドローンを狙うなんて、なんて悪党なの!」
 握っていたペンが折れてしまった。「ご、ごめんなさい」落ちた破片を拾いながら、サイカは冷静になろうとしていた。
 サイカの母親は血液が間に合わなかった。この血液を周りの人間から輸血してもらえない誰かが待っているのだ。
「急いで運びましょ、ドローンの状態は? 修理できそう?」
「だめね、冷蔵モジュールは生きてるけど、モーター含めすべてやられてる。しかも、この重量だとうちのドローンじゃ運べないし、困ったね」
「じゃあ、車で運ぶか? 搬送先どこだ?」
 ドローンの積載量は厳密に決められている。冷蔵モジュールは30kg。うちのドローンの積載量はせいぜい10kg程度だから無理だ。2機使って運ぶ案も考えたが危険が大きすぎる。車で運ぶしかない。
「子夜市の総合病院ね。ここから200km。車だと4時間くらいかかるわね。本来の到着予定時間は約1時間後、かなり難しい」
「病院に問い合わせてみたよ、手術は2時間後らしい、血液が届かなければ対応できないと言ってる」
 チェンが残念そうに伝えながら、マルチドローンによる運搬ができないかシミュレーションする。
 周辺にいる同業者にも問い合わせてみたが、運べるドローンはいなかった。なにか方法はないか?車の中でギアを使い、さまざまなシミュレーションをしているサイカが「これならいける!」と案をだしてきた。

 サイカの案は実現可能だと思う。よど、チェンも行ける! と太鼓判。問題なのは使うドローンだった。
「サイカ、わかってると思うが、このドローンは聖のところのやつだぞ?」
「ええ、わかってる、でも、LI-260なら積載量も、航続距離も十分だわ。うちの工房でも長距離運搬の新しいパーツ開発のために発注済みだもの。聖には私から話すから」
 聖は全国組織の回収会社Talegaurad(テールガード)の支店長。もともとサイカと同じ会社にいた同期でもある。
 サイカが辞める前から一緒に回収業をやろうと誘っていた。サイカは「回収業は絶対にやらない」と固辞していたが、会社を辞め、うちの手伝いをしているのがわかると、うちの会社は目の敵にされてしまい、現場でぶつかりあうこともあった。
「聖だってわかってくれる、人の命がかかってるんだから」
 サイカは急いでプライベート回線で聖を呼び出す。
「ひさしぶり。こんな時間にどうしたの?」 
「お願いがあるの、テールガードが持つLI-260で血液を運んでくれないかしら?」
「その案件なら、そちらで対応済みでしょ? うちは間に合わなかったみたいだけど。それに200km先なんて営業管轄外よ」
 聖はうちの状況をモニタリングしていたようだ。知った上で拒否しているのか?
 聖を自分は知っている。サイカには内緒だがマッサージの客でもある。サイカに施術している特別コースはしてないけどね。
 聖は特別コースを希望していたが、あれは身内以外にはやばいからな。

「だ・か・ら、人の命がかかってるのよ、管轄とかどうでもいい、操縦はうちでやるし、なんなら、LI-260うちで買い取るから使わせて!」
「はぁ、あなたねぇ、一方的すぎるでしょ。昔からなにも成長してないのね。誰も貸さないとは言ってないわ。条件があります」
「な、なによ?」
「簡単なことよ、LI-260の工房によるメンテナンス、そして、おっさんを一日私に貸しなさい」
 ん? 今なんて言った? 自分を貸せ? 
 いやいや、40過ぎたおっさんに何をさせようってんだよ。
「聖さん? こんな、汚いおっさんなんて、使うだけあなたが汚れます。ここは私がお相手しましょう」
「うせろ、変態」
 チェンの女癖の悪さはかなり広まっているらしく、聖の汚い物を見るかのような目線は変態のチェンとはいえ、かわいそうすぎた。
「別にとって食わないわよ、ちょっとやってほしいことがあるだけ。どう? おっさん一人でLI-260使い放題よ、おいしいでしょ?」
 よど、サイカは不安そうな顔をしていたが、チェンは羨ましそうにしている。いや、何されるかわからないのにどうして喜べるんだ? だが、悩んでいる場合じゃない、LI-260ゲットを最優先にしよう。
「わかった、この仕事が終わったら好きにしろ」
「素直でいいわね。し、仕方ないから貸してあげる。約束は守ってよね!」
 聖の声が上ずっていたのが気になったが、テールガード社ドローン整備所にあるLI-260、緊急スタンバイ完了をよどが確認した。
 さあ、200kmのドローン宅配の開始だ!
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