月の明かりに照らされて

ビスメラ

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プロローグ

月明かりに照らされて

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第1節

穏やかな木漏れ日の中、風が通り抜ける時
彼らの胸騒ぎが起こり始める。
平成も終わり告げ新たな年号も20年は過ぎようとしていた頃、都会の大きな力に覆い尽くされ
もがき、這いつくばりながらも叫びを押し込みこれからやって来る新たな時代の風に吹き戻されてしまうとは、この時誰もが予想すらできなかった。
青い光に照らされた店先には、土曜の夜にはうってつけの人目を惹く巨大なオブジェが置かれておた。
織物を織る単調な機械音と共に真剣な眼差しで
織物と向き合ってる健一の姿がそこにあった。
全てを投げ出しその場所を見つけたどり着いたに彼は座っていた。
「その光る糸は何処から来た?」と店先で見ていた初老の客の視線の先に、健一の織る織物の中に混ざる1本の光る糸があった。
蒼く、鮮やかに輝きを放ち、天まで繋がっているかのように見えた。
悠久の古からの贈り物のようであった。
   時は平成初期で、かれこれ40年以上の事であった
湖畔に停めた車より降りてきた男がいた。
全てを失いかけ、毎日の日常が重くのしかかり今にも無くなりそうな自身をなんとか取り戻そうとしていた。岸田 裕作 今年で31歳になる。
彼には途方もなく馬鹿げた野望がある、その為に信濃の国を彷徨い叫びを湖畔にて放ち、クラプトンの奏でるブルースに心を委ねていたのであった。
あの頃、健一は裕作をまだ知らない、あの事があるまでは…。
冴子が帰宅するのはいつも深夜2時すぎ、六本木で
歌い帰路の途中に屋台の深夜うどんをすするのが日課であった。
クラブでの騒がしい喧騒から解き放たられる小さな至福の時であった。冴子は六本木でジャズを歌い続けて5年になる。ジャズがすきでもなく、歌い稼げる仕事と転々とした末に裕作の兄、健一に拾われた。
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