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命の平等さについて
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「先生、命は平等なんですか?」
生徒の阿部 宝頼(あべ ほうらい)は先生である私に聞いてきた。
まいったな。
私、塚地 智数(つかじ ともかず)の職業は小学校の教師だった。
命は平等なのか?そんなことをただの教師が知っているはずがないし、明確な答えはおそらくない。
「阿部君は信仰している宗教とかはあるのか?」
「いえ、ありません」
「命が平等かは信仰している宗教によって異なる・・・」
この答えは時間稼ぎだ。この答えで納得してくれるなら一番いいが、阿部はそんなタイプではない。
阿部は頭がいいし、偏屈者だ。一番厄介なタイプだ。
阿部は自分が納得する答えがわかるまで、なぜなぜ攻撃をしてくる生徒だ。早速次の攻撃をしてきた。
「先生はいつも、問題の答えは科学的、論理的に考えるのが普通って言ってるじゃないですか」
「それは、そうだが・・・いいか、命の平等さは科学的に考えることではない」
「なぜですか?」
やはりなぜなぜ攻撃をしてきた。
どうすれば納得してくれるだろう?各宗教でケース別に答えるか?いや、そんなことでは阿部は納得しないだろう。
「命は科学的ではないのはなぜですか?」
「命は科学的ではないのはなぜですか?」
「命は科学的ではないのはなぜですか?」
しつこいな。
「自明だからだ。自明であれば証明する必要は、ない」と答えた。
適当に言ってしまった。大丈夫だろうか?
受け答えしているうちに急に答えを閃いた。
「いいか、命が平等かを決めるのは感情でも、論理でもない。各々の価値観で決まるものだ」
「価値観?価値観と感情は違うものですか?」
こいつは本当に小学生か?
「違う。価値観は論理と感情から各々の人間が決めるものだ。なにか宗教を信仰しているならそれも価値観の一つだ」
「命が平等かは各々で違う、例えば先生と阿部君のように・・・」
「それが先生の答えですか?」
「そうだ」
阿部が言った。
「僕は先生の価値観を聞きたいんです」
「それを答える前に、阿部君の価値観を聞こうじゃないか」
「いいですよ」
「阿部君はこの地球のどこかで今この瞬間も人間の命が失れていることに、いちいち心を痛めるか?」
「はい、心を痛めます」
「そうか」続けて聞く。
「これは仮にの質問だ。家族が死んだときと遠くの誰かが死んだとき、同じように心を痛めるか?人を殺したときと虫を殺したときの気持ちは一緒か?」
言った後、これは先生が生徒に投げかける質問ではないなと気づいた。阿部以外の生徒はドン引きしている。
阿部は言った。
「どちらも一緒だと思います」
「本当か!?」
「はい、僕はすべての命が平等だと考えています」
仏教的な考えだな。と思った。仏教はよく知らないが・・・ここまで徹底して平等だと考えていたとは驚きだ。
「次は先生の価値観を教えてください」
ここは大事なところだ。
「先生は、命は平等ではないと考えている」
「じゃあ、結局命は平等ではないんですね」
「なぜそうなる。先生は神様ではない」
「だって、先生は平等ではないという価値観でしょ?」
「そうだが、人間という種族の一人ひとりはみんな平等だと思っている。先生はともかく、この教室の生徒みんな一人ひとりとも平等に接しているつもりだ」
「一部の偉い人間の命は平民よりも重いと思いますか?」
阿部は普遍的な真理を聞いているんじゃない、ポジショントークをしたいんだ。と、今思った。
「そんなことはない、だが少なくともこの学校の生徒はみんな平等に大事にしたいと思っている」
学校と言ってもここは田舎で生徒数は極端に少ない。このクラス35人で全校生徒だ。1~6年生が混ざって授業をしている。
失言してないだろうか?教師として、この答えは大丈夫だろうか?と自分に問いかけた。
「綺麗事のようにも聞こえますが、わかりました」
阿部は納得してくれたようだった。よかった。
その時だ。阿部は突然カバンから猟銃を取り出した。そして近くの生徒に向けて撃った。
ドン。
生徒は死んだ。頭を撃たれたからだ。
教室は勿論パニックになった。
教卓に隠れながら言う。
「何をしてるんだ!やめなさい!」
教師なら当然言う言葉だ。だが隠れてそれを言うのは少し違う。と思った。こんなときなのに。
どうする、どうする・・・
そう迷っているうちに生徒は次々に撃ち殺されていく。
「みんな逃げろ!」
こっちを先にいうべきだった。
生徒の一人が言う。
「先生、ドアが・・・ドアが開かないんです」
なんでだ?最初からこれをやるつもりでドアに細工をしていたのか?
ドン。
ドアのことを報告した生徒が撃たれた。
阿部が持っている猟銃のリロードの隙に取り押さえるか。
そんなことをして死んだらどうする!?嫌だ!死にたくない!自分の命がいちばん大切だ。
いや、この教室で唯一大人な私は生き残って阿部を止めなくてはいけない!これは言い訳か?
そうこうしているうちに次から次へと生徒が撃たれて死んでいく。
「生き残っているみんな!ドアはすぐには開けられないが窓はどうだ!?」
「開かないです!」
ドン。また撃たれた。
「窓をどうにかして破壊できないか!?」
もう生き残っている生徒は5人ほどだ。パニックになった子供の力では窓の破壊は無理だ。
「窓はこの銃だったら破壊できるかもしれないぞ。頑丈な窓だから」と、阿部は言った。
ここは田舎の学校だから、他のクラスはない。職員室は遠い。助けは期待できない。
生徒は阿部以外全員撃ち殺されていた。
「なぜ俺を狙わない!?」
「先生には生徒の命の重みを実感してもらおうと思いまして・・・」
警察が来るのも期待できない。
「撃ち殺す気?」
「いや、あなたは殺しません。それでは」
ドン。
阿部は自分で自分を撃った。
私はひとり生き残った。そして逮捕された。生徒皆殺しの犯人として。
阿部は予め私の指紋を教室からテープか何かに取って、銃に移していた。
私は取り調べで潔白を訴えたが、聞き入れてもらえなかった。
生徒が全員撃ち殺され、残っているのは私だけ。銃からは私の指紋。
どうしようもなかった。
うざかったんだ、特に阿部は。だから私は生徒を皆殺しにしたんだ。
今までの話は取り調べで私が助かろうとして言った嘘だ。阿部と命の平等さについて話したのは本当。
私が・・・生徒を皆殺しにしたんだ。そして一番うざかった阿部に罪をなすりつけようと思った。阿部の指紋をとって。
しかし一部始終を外で遠くにいた職員に見られていたらしい。間違いなく私は死刑になるだろう。
でも、生徒の命は皆平等だ。みんな殺せてよかった。
生徒の阿部 宝頼(あべ ほうらい)は先生である私に聞いてきた。
まいったな。
私、塚地 智数(つかじ ともかず)の職業は小学校の教師だった。
命は平等なのか?そんなことをただの教師が知っているはずがないし、明確な答えはおそらくない。
「阿部君は信仰している宗教とかはあるのか?」
「いえ、ありません」
「命が平等かは信仰している宗教によって異なる・・・」
この答えは時間稼ぎだ。この答えで納得してくれるなら一番いいが、阿部はそんなタイプではない。
阿部は頭がいいし、偏屈者だ。一番厄介なタイプだ。
阿部は自分が納得する答えがわかるまで、なぜなぜ攻撃をしてくる生徒だ。早速次の攻撃をしてきた。
「先生はいつも、問題の答えは科学的、論理的に考えるのが普通って言ってるじゃないですか」
「それは、そうだが・・・いいか、命の平等さは科学的に考えることではない」
「なぜですか?」
やはりなぜなぜ攻撃をしてきた。
どうすれば納得してくれるだろう?各宗教でケース別に答えるか?いや、そんなことでは阿部は納得しないだろう。
「命は科学的ではないのはなぜですか?」
「命は科学的ではないのはなぜですか?」
「命は科学的ではないのはなぜですか?」
しつこいな。
「自明だからだ。自明であれば証明する必要は、ない」と答えた。
適当に言ってしまった。大丈夫だろうか?
受け答えしているうちに急に答えを閃いた。
「いいか、命が平等かを決めるのは感情でも、論理でもない。各々の価値観で決まるものだ」
「価値観?価値観と感情は違うものですか?」
こいつは本当に小学生か?
「違う。価値観は論理と感情から各々の人間が決めるものだ。なにか宗教を信仰しているならそれも価値観の一つだ」
「命が平等かは各々で違う、例えば先生と阿部君のように・・・」
「それが先生の答えですか?」
「そうだ」
阿部が言った。
「僕は先生の価値観を聞きたいんです」
「それを答える前に、阿部君の価値観を聞こうじゃないか」
「いいですよ」
「阿部君はこの地球のどこかで今この瞬間も人間の命が失れていることに、いちいち心を痛めるか?」
「はい、心を痛めます」
「そうか」続けて聞く。
「これは仮にの質問だ。家族が死んだときと遠くの誰かが死んだとき、同じように心を痛めるか?人を殺したときと虫を殺したときの気持ちは一緒か?」
言った後、これは先生が生徒に投げかける質問ではないなと気づいた。阿部以外の生徒はドン引きしている。
阿部は言った。
「どちらも一緒だと思います」
「本当か!?」
「はい、僕はすべての命が平等だと考えています」
仏教的な考えだな。と思った。仏教はよく知らないが・・・ここまで徹底して平等だと考えていたとは驚きだ。
「次は先生の価値観を教えてください」
ここは大事なところだ。
「先生は、命は平等ではないと考えている」
「じゃあ、結局命は平等ではないんですね」
「なぜそうなる。先生は神様ではない」
「だって、先生は平等ではないという価値観でしょ?」
「そうだが、人間という種族の一人ひとりはみんな平等だと思っている。先生はともかく、この教室の生徒みんな一人ひとりとも平等に接しているつもりだ」
「一部の偉い人間の命は平民よりも重いと思いますか?」
阿部は普遍的な真理を聞いているんじゃない、ポジショントークをしたいんだ。と、今思った。
「そんなことはない、だが少なくともこの学校の生徒はみんな平等に大事にしたいと思っている」
学校と言ってもここは田舎で生徒数は極端に少ない。このクラス35人で全校生徒だ。1~6年生が混ざって授業をしている。
失言してないだろうか?教師として、この答えは大丈夫だろうか?と自分に問いかけた。
「綺麗事のようにも聞こえますが、わかりました」
阿部は納得してくれたようだった。よかった。
その時だ。阿部は突然カバンから猟銃を取り出した。そして近くの生徒に向けて撃った。
ドン。
生徒は死んだ。頭を撃たれたからだ。
教室は勿論パニックになった。
教卓に隠れながら言う。
「何をしてるんだ!やめなさい!」
教師なら当然言う言葉だ。だが隠れてそれを言うのは少し違う。と思った。こんなときなのに。
どうする、どうする・・・
そう迷っているうちに生徒は次々に撃ち殺されていく。
「みんな逃げろ!」
こっちを先にいうべきだった。
生徒の一人が言う。
「先生、ドアが・・・ドアが開かないんです」
なんでだ?最初からこれをやるつもりでドアに細工をしていたのか?
ドン。
ドアのことを報告した生徒が撃たれた。
阿部が持っている猟銃のリロードの隙に取り押さえるか。
そんなことをして死んだらどうする!?嫌だ!死にたくない!自分の命がいちばん大切だ。
いや、この教室で唯一大人な私は生き残って阿部を止めなくてはいけない!これは言い訳か?
そうこうしているうちに次から次へと生徒が撃たれて死んでいく。
「生き残っているみんな!ドアはすぐには開けられないが窓はどうだ!?」
「開かないです!」
ドン。また撃たれた。
「窓をどうにかして破壊できないか!?」
もう生き残っている生徒は5人ほどだ。パニックになった子供の力では窓の破壊は無理だ。
「窓はこの銃だったら破壊できるかもしれないぞ。頑丈な窓だから」と、阿部は言った。
ここは田舎の学校だから、他のクラスはない。職員室は遠い。助けは期待できない。
生徒は阿部以外全員撃ち殺されていた。
「なぜ俺を狙わない!?」
「先生には生徒の命の重みを実感してもらおうと思いまして・・・」
警察が来るのも期待できない。
「撃ち殺す気?」
「いや、あなたは殺しません。それでは」
ドン。
阿部は自分で自分を撃った。
私はひとり生き残った。そして逮捕された。生徒皆殺しの犯人として。
阿部は予め私の指紋を教室からテープか何かに取って、銃に移していた。
私は取り調べで潔白を訴えたが、聞き入れてもらえなかった。
生徒が全員撃ち殺され、残っているのは私だけ。銃からは私の指紋。
どうしようもなかった。
うざかったんだ、特に阿部は。だから私は生徒を皆殺しにしたんだ。
今までの話は取り調べで私が助かろうとして言った嘘だ。阿部と命の平等さについて話したのは本当。
私が・・・生徒を皆殺しにしたんだ。そして一番うざかった阿部に罪をなすりつけようと思った。阿部の指紋をとって。
しかし一部始終を外で遠くにいた職員に見られていたらしい。間違いなく私は死刑になるだろう。
でも、生徒の命は皆平等だ。みんな殺せてよかった。
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