バトル・オブ・シティ

如月久

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シティ

2.IRをつくる

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「ギャンブルか?」
「それを言っちゃ身も蓋もない。カッコよく言えばIRだよ。統合型リゾート。せっかく何十万人も呼び込んでるのに、俺の町の観光資源は、テーマパークだけだろう。それはもったいないよ。何日か滞在して、たくさんお金を落としてもらうには、どうしたらいいかを考えたんだ」
「それはどうかな。現実の社会では、法律的に難しいだろう。特区という手はあるけど」
「だけど、ここはゲームの世界だろ。管理者に遊び心があれば、きっと認可してくれると思うよ。だって、俺の町には5軒もパチンコ屋があるんだぜ。カジノという設定だって、きっとあるよ」
「でも、ゲームメニューに、カジノという項目がなかったら、そう簡単にはいかないんじゃないか」
「そこで、頭を使ったんだよ」
 ヨッシーの口調がやや得意げになってきた。言いたくてしょうがない、といった風だ。リョウはヨッシーの気分をさらに高揚させてやろうと思った。
「プログラムを書き換えさせるような方法なんてあるのかい?」
「リョウは、陳情って制度、使ったことないだろう」
「ああ、農協から陳情されたことはあるけど」
「高速道が首都に通じるようになったら、使えるようになる新制度さ。どこにでもある普通の事業をやる時は、町の予算を組む時に、『補助事業』を頼むだけだろう? 答えは『認可』か『不認可』しかない。陳情はこれとは違うんだ。『こんな事業をやりたいのですが、どうですか』ってまず伺い立てて、『事業展開は不可能』という返事が来ても、『何とかなりませんか』って、いろいろと計画の細部を替えながら交渉したら、OKになることがある。俺の町の空港もそうやって3度目の陳情で建設が認可された。テーマパーク誘致とセットにしたら、やっとゴーサインがでたんだよ」
「それで、カジノ建設の陳情が通ったのか」
「ああ、もうすでに去年からやってる。2度ほどダメ出しされたけど、ちょっとダーティーな手を使ったら、返事のトーンが変わり始めた」
「ダーティーな手?」
 ヨッシーは少し間を置いて答えた。
「賄賂だよ」
「賄賂? 誰に、どうやって渡すんだよ。訳が分からない」
「菓子折りに包んで手渡すとでも思ったか? そんな単純なものじゃないよ。この前出した3回目の計画書で、首都側の取り分を増やしてやったのさ」
「取り分?」
「カジノの上がりの何%を胴元、つまり俺の街が取って、何%を首都に税金として納めるかっていう分配比率の問題さ。最初は、俺の街が2割、首都が1割、客が7割という配分だったんだけど、俺の街と首都の取り分を半々、20%ずつにした。それで、少し答えの調子が柔らかくなった気がする。本当は実弾だって飛ばしたい気持ちだ。直接賄賂をぶつける方法がないか、いろいろ調べてる」
「いつから造るつもりなんだ」
「認可が下りたらすぐにでも、と言いたいところだけど、高速道のインターと空港の起債償還が重なるんで、財政がちょっと苦しい時期なんだ。テーマパークの固定資産税を5年間猶予してるんで、それが解除されたら、すぐにでも取り掛かりたいと思っている。ゲームの管理者も、きっと俺とこうやって遣り取りしている間に、カジノパラメーターを追加するためのプログラム書き替えを準備をしているかもしれない」
「本当にヨッシーの話し方は、町長のようだな」
「町長じゃないぞ、もう市長になった。街の名前も変えたよ」
「名前を変えられるのか」
「町から市に昇格する時と、『メガロポリス』ができた時だけ、変更が可能になるらしい。『ヨッシー・タウン』じゃ重厚感に乏しいだろう。『ヨシダ・シティ』って名前にしたよ。ちょっとストレートすぎるけどな。ところで、リョウの町はどんな具合だ」
「それが、ちょっと想像もつかない形になって、正直面食らってる」
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