バトル・オブ・シティ

如月久

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5.ニュータウン再構築

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 スパゲティを食べ終えたリョウは、まずいアイスコーヒーをすすりながら唸った。もう10分近く人口が増えていない。ゲーム上では1年以上が経過した。唐突にジャニスが口を開いた。
「もう迷ってても仕方ないんじゃない? コンビナートの近くの住宅を諦めて、もっと環境のいい場所に同じ規模のニュータウンを作りましょう」
「完成するには4、5年かかる。その間、人口の伸びが止まったら、夕方までには…」
 ジャニスは眉間に皺を寄せた。
「移住の補償金を支払って一気にやるしかないわ」
「補償金っていっても、この周辺には千人以上が住んでいるんだよ」
「企業にも出させるしかないわ。一時的に貯金と税収は減るけど、人口が減るよりはマシだと思わない?」
 リョウは頷いた。
「考えている間にもどんどん時間は経つ。やるなら早い方がいい。すぐに着手するよ。同時に、この住宅街の跡地に、何か人を呼べるものを造りたい」
「そうねえ…」
 ジャニスはパソコンの画面に目をやった。
「自動車工場なんてどうかしら」
「自動車工場?」
「そう。それも普通の乗用車じゃなくて、トラックとか工作機械とか、特殊な車両を製造する工場。『プレミアム』と戦う時に、そういう工場がいくつかあった方が心強いかもしれないわよ」
「軍需産業に転用するってことかい」
 ジャニスは小さく頷いた。
「実際もあるんでしょう。普段は全然違う機械を作っていた工場が、いつのまにか戦争用の兵器や部品を製造してるなんてこと」
「それはそうだ。工場ならコンビナートの近くでも環境にはうるさくないだろうし」
「その設定を済ませたら、店を出ましょう。電源コードも探さなきゃならないわ」
「ああ。ところで、ヨッシーのパソコンの方はどんな具合だい」
 ジャニスはノートパソコンをぐるりと回して、画面をリョウの方に向けた。
「これは…、ますます難しくなってきたな」
 リョウは「プレミアム・シティ」の様子を見て、絶望感に近い落胆を味わった。「プレミアム」はあのあと、「メガロポリス」に昇格した2つの国にあっさり勝ち、人口が5百万人に増えていた。民間空港のほか、軍用と思われる大きな空港が3カ所にあり、港もさらに巨大に整備されていた。驚いたのは航空母艦が3隻もいたことだった。市の中心部から10キロほど離れた場所には、巨大な軍の本拠地があった。街はさながら要塞都市で、難攻不落の様相だった。少なくとも今の「シティ・ジャニス」では、「プレミアム」に攻め込むどころか、10分も持ちこたえられそうになかった。
「強力な同盟国が必要ね。それも1つや2つじゃダメだわ」
 ジャニスはため息を吐いた。
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