バトル・オブ・シティ

如月久

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同盟国交渉

7.経済封鎖

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 リョウは腕を組んだ。ジャニスの言う通りだった。掲示板などでの発言を見る限り、プレーヤーの間での「プレミアム・シティ」に対する反感は相当強いものがある。だが、正面切って敵対すると、大事に育ててきた街を一瞬にして奪われる。街がなくなるだけならまだしも、ヨッシー救出への協力を依頼するのなら、ヨッシーが敗戦後にどうなってしまったのかも説明せねばならない。つまり戦いに敗れた際の覚悟が必要になるのだ。「プレミアム・シティ」のオーナーは、かなり冷徹な人間に見える。軍事裁判というやり方からも、その人柄が想像できる。同盟を組んで宣戦布告する自分たちを、勝利した後に寛大に許すことはないだろう。ヨッシー以上に厳しいやり方で、罰しようとするに違いない。
「勝つか負けるか、二つに一つじゃ協力はしてくれないだろうね。少しでも勝ち目を増やしてくれそうなアイデアを示さなきゃ」
 ジャニスは頷いた。
「それでね。1つ考えたんだけど、経済的に封鎖する作戦はどうかな」
「北朝鮮やイラクみたいにかい?」
「そう。こっちには石油や金属資源があるんだから、まずは同盟国側から『プレミアム』への輸出を禁止するの。空母や戦闘機がたくさんあっても、石油がなければ動かないわ」
「その作戦は効果的だよ。石油がないんじゃ、戦争は長期間維持できない。というより、石油が確保できなければ、戦争を仕掛けられないかもしれない。時間が稼げるし、その間に、別の方面から揺さぶりをかけられる」
「別の方面?」
「そう。俺たちの街の銀行は、オイルマネーのお陰で、資金量が他の街とは桁違いだ。さっきの『ポーラスターズ』の街にあった銀行もなかなかの規模だったよ。この資金力を合わせて『プレミアム』の主要企業を全部乗っ取ってやるんだ。経済の屋台骨がボロボロになれば、戦争どころじゃなくなる。巨大な軍事費が足かせになって、直接戦争をする前に、自滅するかもしれない」
「でも、その作戦を実行すると…」
 ジャニスはリョウの言わんとすることに気付き、眉を曇らせた。
「俺たちの街が攻撃の矢面に立たなきゃならなくなる」
「耐え切れるかな」
「分からない。でも、そのくらいのリスクを背負わなきゃ、他の街は乗ってこないよ。ただ、この作戦には落とし穴がある。産油国が全部同盟側につかなきゃ、敵に油が渡ってしまう」
「産油国を全部?」
「そうだよ。そんなに数は多くないし、産油量は最初に掘り当てた俺たちが一番多いけど、それでも今は5つか6つの街で、俺たちの倍以上は生産している。この産油国全てに禁輸措置をとらせなきゃ、『プレミアム』は干上がらない。『メガロポリス』昇格前だったら、奴に直接奪われることはないけど、ゲームのルールからいくと、輸入という経済活動で今まで通りに油が手に入ってしまう。それじゃ意味がない。だから、産油国全部に禁輸措置を取ってもらわなければならないんだ。産油国が百万人以上だったとしたら、戦術はもっと厄介になる。もし産油国が1つでも敵の手に落ちたら、あっという間に全軍出動だよ。一気にカタがついてしまう」
「メガロポリスじゃない産油国全部を味方につけるのは難しそうね。スポーツみたいに独自の掲示板やブログが立ってないから、どこの誰かが全然分からない。連絡の取りようがないわ」
「とにかく、『プレミアム』に石油が一滴も届かなくなる方法を考えなきゃ」
 2人は黙った。リョウは冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出し、グラスに注いで、そのうちの1つをジャニスに手渡した。
「何だか、どんどん嫌な人間になっていくみたいな感じね」
 コーラを一口飲んだジャニスがポツリと言った。
「人を出し抜くために知恵を絞って、根回しして、そういうのって、余りいい気持ちはしない」
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