バトル・オブ・シティ

如月久

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エピローグ

2.与えられた罰

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 パソコンを落とすため、リョウが「シティ」を閉じようとした瞬間、見慣れたシティの画面に、見慣れない黒枠のウインドウが開いた。そこにはこう書いてあった。
<メガロポリスの旧「プレミアム・シティ」の管理者は、途中で自国の管理を放棄し、他のプレーヤーに多大な迷惑をかけました。これは、当ゲームのルールを大きく逸脱しています。
 当「シティ」管理者は、旧「プレミアム・シティ」管理者のルール違反に対して罰を下します>

「何だよ、これ」
 リョウが言いかけた途端、隣のシモヤマの部屋から爆音と悲鳴が聞こえてきた。リョウとジャニスは顔を見合わせ、すぐに部屋を飛び出した。
「シモヤマ、どうした。何かあったのか」
 リョウはドアを叩いた。返事はなかった。ドアに耳を近づけてみると、うめき声のようなものが聞こえた。リョウはドアノブをひねった。案の定、鍵はかかっていなかった。学生はいちいち自分の部屋に鍵をかけないのだ。
 ドアを開けると、中からはプラスチックが焦げたような異臭が漂ってきた。部屋の奥の方は、煙に包まれていた。うめき声はその中から聞こえていた。
「シモヤマ、大丈夫か」
 リョウは土足のまま、勝手に部屋に上がった。声のする方に行くと、シモヤマが倒れていた。顔から大量に出血し、シアトル・マリナーズのTシャツが真っ赤に染まっていた。
「痛い…、目が…」
 出血の大半は両目からのようだった。
「どうしたんだ、何があったんだ」
 リョウはそう言いながら、室内を見回した。まず目に飛び込んできたのは、テーブルの上のパソコンだ。今は、パソコンというより、その残骸がわずかに残っているだけだった。
「爆発したのか、パソコンが」
 シモヤマは、うめきながらも何度か頷いた。ジャニスは部屋の外で、救急車を呼んでいた。

<罰を与えます>

 リョウの脳裏に、さっきの「シティ」管理者の言葉が蘇った。「まさか、シモヤマが」ー心の奥から「それはあり得ない」という声が聞こえてきたが、管理者の言葉に呼応したかのように起こった爆発は、それが真実だと告げているかのようだった。リョウはもう何を信じていいのか分からないまま、ただ血だらけのシモヤマの脇に黙って跪いているしかなかった。
 やがて遠くから救急車のサイレン音が聞こえてきた。
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