最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜

楠ノ木雫

文字の大きさ
7 / 11

◇7

しおりを挟む
 ◇side.テオ

 たった今、皇城のとある一室であるここは戦場と化してしまっていた。

 とある人物が入ってきた瞬間に、だ。


「皇帝陛下、皇女殿下に、ご、ご挨拶いたします……お、初に、お目に、かかり、ます……ラメロス商会、商会長ロマロス・トアスと申します……」


 顔面蒼白、冷や汗ダラダラ。分かります、その気持ち。人間誰だって(一人を除いて)死にたくはないですからね。確か、ご結婚されていて子供もいるとか。流石に父親が死んだと報告はしたくありません、僕も。


「挨拶はいい、さっさと出せ」

「はッはいッ!!」


 皇女様も、だいぶ緊張されているようだ。大丈夫だろうか。

 商会長が今回持ってきたのは、皇女様に合わせた品物。積み木にジグソーパズル、絵本などが出てきた。

 どれも、5歳の皇女様にぴったりの品物ばかりだ。

 ……の、はずが、


「いらん」

「必要ない」

「もっとマシなものはないのか」


 と、皇女様の隣に居座るこのお方が一刀両断。おいおいなんて事してくれちゃってるんだ。使うのは陛下じゃなくて皇女様なんだぞ。


「人形はいらん」

「えっ」

「もうある。必要ない」


 あー、はいはい。なるほどなるほど。

 てか、どうして陛下がこんなところに? 仕事は? と思ったがもう全部処理済み。一体どこに行くつもりだと思ったらここだった。分かりやすすぎる。


「コホン、あの、恐れながら陛下、皇女殿下のご意見をお聞きしないのですか?」

「まだ5才だ、大人が見てやらんといけないだろ」

「はぁ、まぁそうですが……お使いになられるのは皇女殿下ですよ?」

「……」


 おぉ、考えてる考えてる。しかもこんなおかしな陛下を見た商会長も戸惑いを隠せないようだ。


「気に入ったものはあったか」

「え……」


 と、ぶっきらぼうお隣の皇女様に。もうちょっと優しく聞いてあげなきゃダメでしょ。ほら、言わんこっちゃない。戸惑ってらっしゃるじゃないですか。


「わ、わたし……いりません」

「何故だ」

「も、もう、たくさんもらって……」

「足りん」

「う……」


 陛下ぁぁぁぁ!! その言い方はないでしょぉぉぉぉ!!

 ほら見てくださいよ!! 皇女様の困った顔!! 貴方がそうさせたんですからね!! 分かってます!?


「はぁ、ならどうしたいのだ」

「……」


 ……陛下に子育ては危険だ、非常に危険だ。子供泣かせ、という異名が付きそうだ。陛下にはもっと恐ろしい異名があるというのに。

 だがこの状況、どうやって皇女様を救い出したらいいものか。


「お、恐れながら陛下」


 そう言い出したのは、皇女様の専属メイドであるカーシル。


「その、皇女殿下のお洋服を仕立てるのはいかがでしょう」

「服?」

「はい。皇女殿下のとても大事にされているクマさんのお人形と、お揃いにされては……」


 ナイス!! カーシル!! さすが皇女様の専属メイドなだけある!! 人選は間違っていなかった!!

 その提案に、陛下も考え込んでいるし、皇女様も今お抱えになっているクマのお人形を見て喜んでいる様子が見える。


「殿下、ではクマさんと一緒に遊ぶ遊び道具もお選びなさってはいかがですか?」

「一緒に?」

「はい。きっとクマさんもお喜びになりますよ」


 こくん、と頷いてくださった。うんうん、さすがカーシルだ。

 だが、どこか浮かない顔もしていたような気もした。

 陛下は……嬉しそうだなおい。いつもの陛下は一体どこに行ったんだ。

 それにしても、皇女様、陛下をあまり怖がっていないな。あの執務室の時よりも。プレゼント効果か? そのクマさん、結構気に入っていらっしゃってるようだし。それに、あの花束の件もある。

 最初の面会は最悪だったにもかかわらず、だ。あれはトラウマになってもおかしくないくらい衝撃的なものだったからな。

 ま、いい方向に進んでいるのであればそれに越したことはないな。


 そんな時、皇女様はふと僕の方を見た。何か言いたそうでもじもじしていて。だから、静かに皇女様の隣に膝を付いた。こっそりと、小さな声でこうおっしゃった。


「あのね、わたし、こんなにいらないの、だから、ね……その、孤児院の……」


 あぁ、なるほど。孤児院に残してきてしまったお友達の皆様にという事ですね! 何とお優しいんだ!! 


「陛下、皇女殿下が、あの孤児院に寄付をしたいそうなのですが」

「孤児院……」


 どの孤児院だ? と言いたそうだったけれど、途中で思い出したらしい。ちゃんと覚えとけそれでも一国の皇帝陛下か。という言葉は喉に押し込めた。不敬罪で頭と胴体がおさらばになるのはごめんだからな。


「いいだろう。その他に、建物を改築させるよう指示しろ」

「かしこまりました」


 ちょっと言葉が難しかったのか、皇女様はぽかんとしていて。カーシルがどういう事か教えて差し上げ、それを聞いた皇女様は驚いた顔をしていた。

 あの孤児院は、所々壊れていたりと目につく場所があった。あそこには小さい子供達も何人もいたから危ないなと思っていた。

 それを改築するとなれば、もっと快適した、過ごしやすい孤児院となるだろう。皇女様をお迎えに行った時、元気に走り回っていた子供達を何人も見たからな。僕としても嬉しい事だ。

 これで、皇女様に対する陛下の好感度が爆上がりになった事だろう。安心安心。いや、まだ不安要素はあるが。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

聖女召喚2

胸の轟
ファンタジー
召喚に成功した男たちは歓喜した。これで憎き敵国を滅ぼすことが出来ると。

元異世界転移者だけど、質問ある?

一樹
ファンタジー
かつて異世界転移したスレ主は、色々思うところがあってスレ建てをして、自分の身に何が起きたのかを語っていく。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

わたし、不正なんて一切しておりませんけど!!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
書類偽装の罪でヒーローに断罪されるはずの侍女に転生したことに就職初日に気がついた!断罪なんてされてたまるか!!!

解雇されたけど実は優秀だったという、よくあるお話。

シグマ
ファンタジー
 突如、所属している冒険者パーティー[ゴバスト]を解雇されたサポーターのマルコ。しかし普通のサポート職以上の働きをしていたマルコが離脱した後のパーティーは凋落の一途を辿る。そしてその影響はギルドにまでおよび……  いわゆる追放物の短編作品です。  起承転結にまとめることを意識しましたが、上手く『ざまぁ』出来たか分かりません。どちらかと言えば、『覆水盆に返らず』の方がしっくりくるかも……  サクッと読んで頂ければ幸いです。 ※思っていた以上の方に読んで頂けたので、感謝を込めて当初の予定を越える文量で後日談を追記しました。ただ大団円で終わってますので、『ざまぁ』を求めている人は見ない方が良いかもしれません。

処理中です...