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◇side.テオ
たった今、皇城のとある一室であるここは戦場と化してしまっていた。
とある人物が入ってきた瞬間に、だ。
「皇帝陛下、皇女殿下に、ご、ご挨拶いたします……お、初に、お目に、かかり、ます……ラメロス商会、商会長ロマロス・トアスと申します……」
顔面蒼白、冷や汗ダラダラ。分かります、その気持ち。人間誰だって(一人を除いて)死にたくはないですからね。確か、ご結婚されていて子供もいるとか。流石に父親が死んだと報告はしたくありません、僕も。
「挨拶はいい、さっさと出せ」
「はッはいッ!!」
皇女様も、だいぶ緊張されているようだ。大丈夫だろうか。
商会長が今回持ってきたのは、皇女様に合わせた品物。積み木にジグソーパズル、絵本などが出てきた。
どれも、5歳の皇女様にぴったりの品物ばかりだ。
……の、はずが、
「いらん」
「必要ない」
「もっとマシなものはないのか」
と、皇女様の隣に居座るこのお方が一刀両断。おいおいなんて事してくれちゃってるんだ。使うのは陛下じゃなくて皇女様なんだぞ。
「人形はいらん」
「えっ」
「もうある。必要ない」
あー、はいはい。なるほどなるほど。
てか、どうして陛下がこんなところに? 仕事は? と思ったがもう全部処理済み。一体どこに行くつもりだと思ったらここだった。分かりやすすぎる。
「コホン、あの、恐れながら陛下、皇女殿下のご意見をお聞きしないのですか?」
「まだ5才だ、大人が見てやらんといけないだろ」
「はぁ、まぁそうですが……お使いになられるのは皇女殿下ですよ?」
「……」
おぉ、考えてる考えてる。しかもこんなおかしな陛下を見た商会長も戸惑いを隠せないようだ。
「気に入ったものはあったか」
「え……」
と、ぶっきらぼうお隣の皇女様に。もうちょっと優しく聞いてあげなきゃダメでしょ。ほら、言わんこっちゃない。戸惑ってらっしゃるじゃないですか。
「わ、わたし……いりません」
「何故だ」
「も、もう、たくさんもらって……」
「足りん」
「う……」
陛下ぁぁぁぁ!! その言い方はないでしょぉぉぉぉ!!
ほら見てくださいよ!! 皇女様の困った顔!! 貴方がそうさせたんですからね!! 分かってます!?
「はぁ、ならどうしたいのだ」
「……」
……陛下に子育ては危険だ、非常に危険だ。子供泣かせ、という異名が付きそうだ。陛下にはもっと恐ろしい異名があるというのに。
だがこの状況、どうやって皇女様を救い出したらいいものか。
「お、恐れながら陛下」
そう言い出したのは、皇女様の専属メイドであるカーシル。
「その、皇女殿下のお洋服を仕立てるのはいかがでしょう」
「服?」
「はい。皇女殿下のとても大事にされているクマさんのお人形と、お揃いにされては……」
ナイス!! カーシル!! さすが皇女様の専属メイドなだけある!! 人選は間違っていなかった!!
その提案に、陛下も考え込んでいるし、皇女様も今お抱えになっているクマのお人形を見て喜んでいる様子が見える。
「殿下、ではクマさんと一緒に遊ぶ遊び道具もお選びなさってはいかがですか?」
「一緒に?」
「はい。きっとクマさんもお喜びになりますよ」
こくん、と頷いてくださった。うんうん、さすがカーシルだ。
だが、どこか浮かない顔もしていたような気もした。
陛下は……嬉しそうだなおい。いつもの陛下は一体どこに行ったんだ。
それにしても、皇女様、陛下をあまり怖がっていないな。あの執務室の時よりも。プレゼント効果か? そのクマさん、結構気に入っていらっしゃってるようだし。それに、あの花束の件もある。
最初の面会は最悪だったにもかかわらず、だ。あれはトラウマになってもおかしくないくらい衝撃的なものだったからな。
ま、いい方向に進んでいるのであればそれに越したことはないな。
そんな時、皇女様はふと僕の方を見た。何か言いたそうでもじもじしていて。だから、静かに皇女様の隣に膝を付いた。こっそりと、小さな声でこうおっしゃった。
「あのね、わたし、こんなにいらないの、だから、ね……その、孤児院の……」
あぁ、なるほど。孤児院に残してきてしまったお友達の皆様にという事ですね! 何とお優しいんだ!!
「陛下、皇女殿下が、あの孤児院に寄付をしたいそうなのですが」
「孤児院……」
どの孤児院だ? と言いたそうだったけれど、途中で思い出したらしい。ちゃんと覚えとけそれでも一国の皇帝陛下か。という言葉は喉に押し込めた。不敬罪で頭と胴体がおさらばになるのはごめんだからな。
「いいだろう。その他に、建物を改築させるよう指示しろ」
「かしこまりました」
ちょっと言葉が難しかったのか、皇女様はぽかんとしていて。カーシルがどういう事か教えて差し上げ、それを聞いた皇女様は驚いた顔をしていた。
あの孤児院は、所々壊れていたりと目につく場所があった。あそこには小さい子供達も何人もいたから危ないなと思っていた。
それを改築するとなれば、もっと快適した、過ごしやすい孤児院となるだろう。皇女様をお迎えに行った時、元気に走り回っていた子供達を何人も見たからな。僕としても嬉しい事だ。
これで、皇女様に対する陛下の好感度が爆上がりになった事だろう。安心安心。いや、まだ不安要素はあるが。
たった今、皇城のとある一室であるここは戦場と化してしまっていた。
とある人物が入ってきた瞬間に、だ。
「皇帝陛下、皇女殿下に、ご、ご挨拶いたします……お、初に、お目に、かかり、ます……ラメロス商会、商会長ロマロス・トアスと申します……」
顔面蒼白、冷や汗ダラダラ。分かります、その気持ち。人間誰だって(一人を除いて)死にたくはないですからね。確か、ご結婚されていて子供もいるとか。流石に父親が死んだと報告はしたくありません、僕も。
「挨拶はいい、さっさと出せ」
「はッはいッ!!」
皇女様も、だいぶ緊張されているようだ。大丈夫だろうか。
商会長が今回持ってきたのは、皇女様に合わせた品物。積み木にジグソーパズル、絵本などが出てきた。
どれも、5歳の皇女様にぴったりの品物ばかりだ。
……の、はずが、
「いらん」
「必要ない」
「もっとマシなものはないのか」
と、皇女様の隣に居座るこのお方が一刀両断。おいおいなんて事してくれちゃってるんだ。使うのは陛下じゃなくて皇女様なんだぞ。
「人形はいらん」
「えっ」
「もうある。必要ない」
あー、はいはい。なるほどなるほど。
てか、どうして陛下がこんなところに? 仕事は? と思ったがもう全部処理済み。一体どこに行くつもりだと思ったらここだった。分かりやすすぎる。
「コホン、あの、恐れながら陛下、皇女殿下のご意見をお聞きしないのですか?」
「まだ5才だ、大人が見てやらんといけないだろ」
「はぁ、まぁそうですが……お使いになられるのは皇女殿下ですよ?」
「……」
おぉ、考えてる考えてる。しかもこんなおかしな陛下を見た商会長も戸惑いを隠せないようだ。
「気に入ったものはあったか」
「え……」
と、ぶっきらぼうお隣の皇女様に。もうちょっと優しく聞いてあげなきゃダメでしょ。ほら、言わんこっちゃない。戸惑ってらっしゃるじゃないですか。
「わ、わたし……いりません」
「何故だ」
「も、もう、たくさんもらって……」
「足りん」
「う……」
陛下ぁぁぁぁ!! その言い方はないでしょぉぉぉぉ!!
ほら見てくださいよ!! 皇女様の困った顔!! 貴方がそうさせたんですからね!! 分かってます!?
「はぁ、ならどうしたいのだ」
「……」
……陛下に子育ては危険だ、非常に危険だ。子供泣かせ、という異名が付きそうだ。陛下にはもっと恐ろしい異名があるというのに。
だがこの状況、どうやって皇女様を救い出したらいいものか。
「お、恐れながら陛下」
そう言い出したのは、皇女様の専属メイドであるカーシル。
「その、皇女殿下のお洋服を仕立てるのはいかがでしょう」
「服?」
「はい。皇女殿下のとても大事にされているクマさんのお人形と、お揃いにされては……」
ナイス!! カーシル!! さすが皇女様の専属メイドなだけある!! 人選は間違っていなかった!!
その提案に、陛下も考え込んでいるし、皇女様も今お抱えになっているクマのお人形を見て喜んでいる様子が見える。
「殿下、ではクマさんと一緒に遊ぶ遊び道具もお選びなさってはいかがですか?」
「一緒に?」
「はい。きっとクマさんもお喜びになりますよ」
こくん、と頷いてくださった。うんうん、さすがカーシルだ。
だが、どこか浮かない顔もしていたような気もした。
陛下は……嬉しそうだなおい。いつもの陛下は一体どこに行ったんだ。
それにしても、皇女様、陛下をあまり怖がっていないな。あの執務室の時よりも。プレゼント効果か? そのクマさん、結構気に入っていらっしゃってるようだし。それに、あの花束の件もある。
最初の面会は最悪だったにもかかわらず、だ。あれはトラウマになってもおかしくないくらい衝撃的なものだったからな。
ま、いい方向に進んでいるのであればそれに越したことはないな。
そんな時、皇女様はふと僕の方を見た。何か言いたそうでもじもじしていて。だから、静かに皇女様の隣に膝を付いた。こっそりと、小さな声でこうおっしゃった。
「あのね、わたし、こんなにいらないの、だから、ね……その、孤児院の……」
あぁ、なるほど。孤児院に残してきてしまったお友達の皆様にという事ですね! 何とお優しいんだ!!
「陛下、皇女殿下が、あの孤児院に寄付をしたいそうなのですが」
「孤児院……」
どの孤児院だ? と言いたそうだったけれど、途中で思い出したらしい。ちゃんと覚えとけそれでも一国の皇帝陛下か。という言葉は喉に押し込めた。不敬罪で頭と胴体がおさらばになるのはごめんだからな。
「いいだろう。その他に、建物を改築させるよう指示しろ」
「かしこまりました」
ちょっと言葉が難しかったのか、皇女様はぽかんとしていて。カーシルがどういう事か教えて差し上げ、それを聞いた皇女様は驚いた顔をしていた。
あの孤児院は、所々壊れていたりと目につく場所があった。あそこには小さい子供達も何人もいたから危ないなと思っていた。
それを改築するとなれば、もっと快適した、過ごしやすい孤児院となるだろう。皇女様をお迎えに行った時、元気に走り回っていた子供達を何人も見たからな。僕としても嬉しい事だ。
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