えっ、じいちゃん昔勇者だったのっ！？〜祖父の遺品整理をしてたら異世界に飛ばされ、行方不明だった父に魔王の心臓を要求されたので逃げる事にした〜

◇１１ あれ、意外と快適？

　無限倉庫の中をチェックしていくと、そろそろ外が暗くなってきた。

　でも当然部屋も暗くなってきて。この天井にぶら下がってるランタンを付ければいいんだろうけど……


『ルアン～、明かり付けるね～』

「どうやんの？」

『ただ魔力を注げばいいのよ』


　へぇ、魔力って事はMP的な？

　でもこんな高い所に設置されてるのに魔力を注ぐだって？　じゃあ触らなくても出来るって事か。何となくイメージでちょっとやってみたけど、あ、出来た。イメージでやってみたんだけど。スキルとか魔法とかって、イメージは結構大事なのな。

　この変身魔法とか、無限倉庫とかも何となくイメージでやってみたからそういう事なんだろうな。

　てかこのランタン結構明るいのな。日本にいた時の電気とあんま変わんないな。ろうそくの火ぐらいの明るさだったらどうしようって思ってたけど、これなら安心だ。


「とりあえず、風呂だな」

『一緒に入るか！　裸の付き合いってやつだな！』

『きゃ～♡』

「おい、トロワ。お前付いてこないよな」

『え、ダメ？』

「解除すんぞ」

『大人しく待ってまーす！』

「よろしい」


　なぁにが『きゃ～♡』だよ、変態め。てかそもそもバリスお前服着てないだろ、何が裸の付き合いだ。

　とりあえず、場所の説明とかされてないから受付の婆さん見つけて聞くか。あと、受付に書いてあったタオル貸し出し。あれも有料だったから払わないとな。取るとこは取るってか。

　探してみたら、食堂に行きついて。調理場か？　そこから音がしてるみたいだから覗いてみたら、いた。夕食の準備中だったのか。他には、いないな。婆さん一人でここ切り盛りしてんのか？　やべぇな、見た目７０代くらいなのに元気な婆さんだこと。

　あの～、と声をかけたら俺に気が付いたみたいで睨みつつ来てくれた。


「何だい、こっちは忙しいんだよ」

「あの、風呂の場所と、あとタオルの貸し出しお願いします」

「風呂はそこをまっすぐ行って突き当りを右、タオルはそこから勝手に持っていきな」


　ったく、こっちは忙しいってのに、とぶつぶつ言いながら戻っていった婆さん。お金、どこに置けばいいんだ？

　まぁとりあえずタオルを貰ってからお金を近くに置いておいた。

　聞いた通りに進んで曲がると、大きなのれんが二つ。右と左に別れていて、男の俺は左の方を使うらしい。


「おぉ、なんか古臭い銭湯みたいだな」


　ちゃんと脱衣所があって、沢山棚が並んでる。脱衣所の奥にある扉を開いたら、おぉ！　でっかい風呂だ！　結構広くないか！？　これなら入浴料取られても文句は言えないな。

　でも、どうすっかな。この右腕の紋章。勇者の証なんだろ、これ。じゃあ絶対見られちゃいけないやつだよな。

　包帯で隠してるけど、風呂に入るには外さないといけないか？　これ、誰でも入れるみたいだから他の男客入ってきたら見られちゃうわけだし。

　陰身魔法、は無理だな。腕が消えちまう。色々と訳ありな感じになっちまうな。


『わ～い！　風呂だぁ～！』

「ちょっと待てぃバリス！！」

『だめ？』

「まだちょっと待ってろ」


　あの調子じゃなんか壊しそうだ、ちゃんと見てなきゃいけない気がする。

　けど……そのまま、包帯を巻いたままでいっか。

　とりあえず、バリスを捕まえて風呂場に入った。


「ほーら目ぇつぶれ～」

『は～い！』


　洗ってやろうと思って座らせてみたけど、やけに素直だな、バリスのやつ。見た目うさぎだから、水とか洗われたりとか嫌がるんじゃないかって思ってたんだけど、別にそんな事はないみたいだ。

　てか、ふわふわな毛並みだからめっちゃ泡立ちいいな。触り心地もいいし。何かずっとして大気もしなくもない。


「おーいアグスティン、次はお前だからな」

『……』


　アグスティンは苦手のようだ。アグスティンの方がやりやすいと思ってたんだけど、違ったみたいだな。

　ほーら終わったぞ、そうバリスに言いつつ桶の水を上から勢いよくかけた。ブルブルブルっと身体の水を飛ばしたものだから俺にモロ水がかかって。それに気づかないバリスは楽しそうに湯船の方に走っていった。


「おい、走ると危ないぞ」


　そんな俺の声は聞こえなかったらしい、楽しそうに飛び込んでった。あーあ、あれで湯船のお湯三分の一は流れたか。ったく。


「ほら、もう終わるぞ」

『……』


　めっちゃ静かだな、アグスティン。しかも硬いから洗いづらいし。明日にでもスポンジを探して買ってこよう、ちょうどいいのがあるといいんだけど。

　でもなんか、俺アグスティンの背に乗ってここに来たんだけど……小さくなったアグスティンを洗ってるとなんか考えちまうな。

　ほら終わったぞ、そう言いながらお湯をかけると、我慢していたみたいだ、すぐに湯船に入っていった。どんだけ洗われるのが嫌だったんだよ。

　ま、でも暴れられなくて良かった。小さいけど暴れたら大変な事になりそうだし。俺のHPは変わらないだろうけど、ここが倒壊しちまうな。


「はぁぁぁぁぁぁぁ～」


　俺もすぐ身体を洗ってから湯船に。入ってみたら、湯加減最高。いいね～、ここにして良かった。お金はだいぶ取るけど。


『わ～い！』

「うわっ！？」


　いきなりバリスがバシャバシャと湯船を泳ぎだした。止めたけど。やめてくれ。


「はぁ～、足伸ばせる風呂っていいわぁ……」


　これが温泉で露天風呂だったらもっと最高だった。と言ってもここはあんまり人気のない、繁盛してないみたいな宿だしな。しかもやってるスタッフがあの婆さんだけときた。まぁ俺が見たのは婆さんだけって事だし、もしかしたら奥で誰か仕事してるのかもしれないけど。

　ちょっと、いやだいぶ心配してたけど、案外いい宿じゃん。まぁ、大通りとかにある宿ってどんな感じなのかは分からないけど。

　俺の知ってる異世界マンガとかって、風呂がある宿がないとこが多かった。顔を洗う水があるくらいだ。風呂は贅沢、貴族とかお金持ちだけ。っていうのが常識みたいな。

　いやぁ、俺の来た異世界が平民もちゃんと風呂に入れるところでよかったぁ。感謝だな。


「おいバリス、大丈夫か？　顔赤いぞ」

『そうか？』

「お前、逆上せたんだろ。あんなにはしゃいで」


　ほら出るぞ、と首根っこ掴んで強制的に脱衣所に連れてったのだ。勿論アグスティンも一緒にだ。

　離せと暴れるバリスを何とかバスタオルで拭き、アグスティンも拭いて。これは、もう一枚バスタオルが必要になるな。

　それと、トロワはどうしたらいいかな。女の子だから、一緒に入れないしな。あとで桶でも買ってみるか。小さくなったあのサイズなら、普通の桶でもお風呂になるだろ。


「あ、そういえばさ、お前達って飯食うのか？」

『メシ？　食えるけど必要ないぞ？』

『我らは食事せずとも生きられるが、食事が出来ないという訳ではない。食事を楽しむ事も出来るという事だ』

「へぇ～、じゃあお前達は食事するのか？」

『する！』

『我もするぞ』


　そうか、じゃあトロワもするかもしれないって事か。でも、さっき食堂みたいなところを見つけたんだよね。食堂でこいつらも食事をするってのはちょっとまずいよな。

　やっぱり食事ってあそこでするのかな。部屋に持ってってしてもいいのか聞いたほうがいいよな。この後出たら聞いてみよう。絶対なんか文句言われそうだけど。


　さて、また婆さん探しになるんだろうけど、さっきいた食堂の調理場にいるかな。そう思って覗いてみたら、あ、いた。


「今度は何だい」

「あの、夕食、部屋で食べていいっすか」

「はぁ？　ここで食わないってのかい」

「賑やかなのちょっと苦手で、あはは」

「はぁ、じゃあ勝手に持っていきな」


　今持っていけ、だそうだ。一体どこから出してきたのか、お盆に二枚のお皿とお椀一つを乗せてくれた。おぉ、なんか美味しそうなご飯だ。

　カトラリーは？　と聞いて眉間に皺を寄せつつ俺の横辺りを指さしていて。あ、あった。

　ありがとうございます、いただきます、と一言残してお盆をもらった。

　なぁんだ、ちゃんと言えば大丈夫じゃん。婆さんなんかじいちゃんに似てるな。


『ル～ア～ン～！！』

「う”っ！？」


　自室のドアを開けた瞬間、首が締まった。待っていたトロワがいきなり抱き着いてきたのだ。持っていた食事は落とさないよう回避したけど。

　遅いだのなんだのと言ってくるけど、はいはいとかわしつつ。昼間あんなに食べたけど、結構お腹空いてんだよね。


「やば、うまっ」


　ここの料理も美味しかった。この肉とか柔らかいし火の入れ加減もばっちりだし味付けも最高。

　やっぱりここ居心地良いかも。いいとこ見つけられてよかった。


『私にもちょーだいっ！』

「好きなの持ってけ」

『あーん♡』

「はいはい、口開けな」

『俺にもちょーだい！！』

「順番な」


　うちの子達は我儘な子ばかりらしい。というか、アンタら俺の倍以上生きてんだよな。全然見えないんだけど。

　まぁ、こんな生活も悪くないかな。