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第八部 二章「約束の日」
「純白星」
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「――お待たせいたしましたぁ!!」
唐突になんだ、と。口論を始めそうになっていたクロトはそのままの表情で思わず扉にへと顔を向ける。
開け放たれた役所の両開きの扉には、チラチラと祭りで見かけていた装束を纏う女性たちが。
「えっとぉ。可愛らしい妹さんをお待ちの茶髪で赤い上着を着たシャイなお兄さんはそちらでしょうか?」
女性の一人がこちらだろうと確認のため問いかける。
誰に吹き込まれたのか。いったい誰に妹がいて、誰がその兄だというのか。
「誰が兄妹だ!!」。そう言い返そうとしたクロトの口をネアは塞ぐ。
「はい、コイツですぅ♪」
……と。ネアが言う。
なるほど。デマを吹き込んだのはこの情報屋か。
「誰がシャイな兄だって? ああ??」
「あら~、ごめんなさ~い。無駄に殺気だった不愛想で態度の悪い底辺の輩だったわね~」
これには相手がネアだろうと魔銃を向けたくなる。
見えないところで銃をしまえとでも言わんばかりに、ネアは向けられた魔銃を片手で押しのけていく。
こちらのそんな様子など気づきもせず、あちらはあちらで話を進めていくというもの。
「ご要望通り、可愛らしく仕上げさせていただきましたよ~」
「元が可愛らしいから張り切っちゃったわ」
「やりがいがあるってものよねぇ」
きゃっきゃと楽しく、そしてなんと達成感に満ちた表情か。
準備が整ったとの知らせにネアはせめぎ合っていたクロトを突き飛ばし、彼女たちにへと駆け寄っていく。
「どれどれ~。……キャ~、もう可愛い!!」
待たせていらぬデマをまかれ、その代償がこの扱いか。地べたに突き飛ばされたクロトの短気が爆発するのも間近。
いつもは口うるさく止めようとするニーズヘッグも、この時は妙に静かでまるでいないかの様。
まだ手に魔銃はある。今ある溜まりに溜まった物をぶつけてもいいのでは? いや、いいに決まっている。
近くにネアがいようが関係がない。銃を役所にへと向ける……が。
ビシッと、ネアの手刀が右手を弾き、落とした魔銃を取り上げられた。
「な、なにしやが――」
文句を言い切るよりも早く、右腕を今度はネアに掴まれ引っ張られる。
「まあまあ♪ アンタも見てあげなさいよ!」
強引に腕を引かれ、その勢いで前にへと押し出される。
それを同時だったのか、役所側の女性たちも何かを押し出してきた。
衝突寸前でクロトは踏みとどまるも、向こうはそうはいかず、なんとか止まったクロトにへとぶつかる。
「ひゃうっ」
そこまで激しくないため、なんとかそれを受け止める。
その時、先ほどまであった殺気が嘘のように吹き飛び、クロトは双眸を丸くさせる。
視界にはいったのは、純白に金の髪が揺らめくというもの。上質な衣で仕上げられた祭りの装束。フリルや花で柔らかく飾られ、特徴的な頭部の大きなリボンには星の飾り。
ゆっくりと、目の前の少女はこちらにへと顔を上げる。
驚いた様子の顔で、頬を赤らめた少女。星の瞳をしたエリーとしばし目が合う。
「……」
「……~~~ッ!?」
エリーはようやく自分を受け止めたのがクロトだと気づくと、更に顔を真っ赤にさせて慌てて後退る。
「ク、クク、クロトさん!? こ、これは……その……っ」
あたふたと目を泳がせる。
どう説明していいのかわからず、混乱する様にクロトもどう反応していいかわからない。
「ち、違うんですクロトさん!」
エリーから後退って離れたというのに、クロトから離れだしたと勘違いでもしたのか、物申したい様のエリーは袖を掴みとって早口にぎこちない言葉を並べだす。
「こ、これはその、お祭りなのでこういうのを着るべきと聞いて。わ、私にはまだ早いと思ったんですが、皆さんやネアさんがどうしてもって……っ」
「……」
「ク、クロトさんは、こういうの、い、嫌ですよね!? 私なんてこういうの、に、似合わないですよね!? ねぇ!?」
「……」
しばらく聞いていれば、今度は全く関係のない事も言い出すエリー。
これは早々止まりそうにないだろう。そう思ったクロトは、無言のまま慌てふためくエリーの頭にバシッと手刀を落とした。
「……ぴうっ!」
周囲からそんな空気を潰す行為に驚きの声が上がる。
同時に、ネアからも批判の声が。
「アンタ、女の子のオシャレを見て第一反応がそれって最低だと思うんだけど?」
「お前らが勝手にやった事だろうが……」
なんとなく、事の詳細がわかった。
前もってこの役所で祭り装束の貸し出しをネアたちは知り、そして当日の最初に立ち寄り、この様になったわけだ。
エリーが直前戸惑っていた様子も、以前の船で見た様子と酷似している。ネアの強引な誘いに断り切れず、流されてまたこの様に着せ替えられている……と。
意を決した様にも見えていたが、やはり普段と違う様変わりには羞恥という拒絶反応が起きてしまうのだろう。
「……とりあえず、これで少しは落ち着いただろう?」
確かに落ち着きはしただろうが、腑に落ちないというのもネアの考えだ。
あれだけ黙りまくっていたニーズヘッグですら『それでいいのかよ』と、ようやく言葉を発するが、エリーの祭り装束を見て裏では衝撃を受けて悶えていた事ぐらい知っている。あえてそんな炎蛇の反応は無視の一点張りで通しておく。
頭を押さえていたエリーもなんとか落ち着いたのか、それでも顔を赤らめたままなかなか目を合わせようとしない。
「というか、このエリーちゃんの可愛さに感想の一つくらいないわけ? なんか一言くらい言ってあげなさいよぉ」
「……」
いったいこちらに何を求めているのか。
女性に対するお世辞もなにも知らない。それどころか興味もないというのに。そんな自分になんと言葉を返してやればいいというのか。
特に何も思い浮かばない。しかし、何かしら応えなければネアがうるさい。
……そして、炎蛇もうるさいというもの。
無言ではあるが、行動がなんとも鬱陶しい。先ほどから羽衣で頭を何度もビシビシと軽く叩いてくる。普段通りのそっけない言葉を選ぼうとする度にだ。
その言葉は違うと訴えてきている。
鬱陶しさが限界を超え、クロトは叩いてくる羽衣を掴み取り、そしてニーズヘッグにへと心の中で怒鳴る。
「なんだよクソ蛇! さっきから鬱陶しんだよ!」
『お前の気の利かない言葉選びも鬱陶しいわ!! 俺なら姫君褒めちぎりまくるっての!! せめて「似合ってる」の一言くらい言っとけ!!!』
……逆に怒鳴り返されてしまった。
思わず圧倒されてしまい返す言葉もない。それ以上は話さないと、ニーズヘッグは姿をくらましてしまった。
間も短くあったため、周囲は応えをずっと待っている。
何か一言でないのか、それとも呆気なくなにも言わずに終わってしまうのか。
そして、一番待っているのはエリーの方だろう。
うつむきながら指をいじり、時折目をクロトにへと向ける。
だが、当の本人がもしかしたら一番わかっていたのかもしれない。
この場で、クロトが一般的で在り来たりなお世辞の言葉すら返せないことくらい。
「……クロト……さん。私……こういうの…………似合って、ませんよね?」
エリーは自分の容姿に自信が持てずにいる。
他が称賛しようと、自分は誰よりも劣っている。そして、その印象的な星の瞳も、エリーにとってはコンプレックスの一つだ。
似合っていない。そう言えば、きっとエリーはそう受け止める事だろう。
だが。かと言って似合っていない、という事もなかった。
以前の船でもそうだったが、エリーには白い色がよく合っている。似合っているというよりは、違和感がない、というのが妥当だろうか。
そう思うのが一般的な「似合っている」というものなら、それでいいのではないのだろうか。
「……べつに。似合ってるんじゃねーのか?」
相も変わらずそっけなく、いつも通りの自分を通したつもりだ。
不愛想でそっけない。適当な言葉を選んでおいて、なんとなくで人との関りをやり過ごすのみ。
しかし、意外にもその応えはこの場に合っていたらしい。
エリーは顔を赤らめたまま、自分の期待を超える応えに目を見開く。その瞳の星は、彼女の感情を表す様に、明るく輝いている様にも見えた。
あの一言で本当に良かったのか。それだけでこの少女は、嬉しい、という感情を表すのか。
エリーはまたうつむいて、小さく「ありがとうございます……」と呟いた。
そして、周囲でこちらに向け拍手が送られてくる。
「よかったわぁ。お兄さんよく言えましたね」
「一時はどうなるかとひやひやしちゃいました」
「頑張りましたね」
……まさかとは思うが、この程度で称賛されているというのか。
そして兄でもない。そこには小さく「違う」と返しておく。
また別の事で殺意が湧きそうだ。
「まっ、頑張ったんじゃないの? お姉さんも褒めといてあげる」
「……だから、そういうんじゃねーって。あと、あの女どもなんとかしてくれねーか? 鬱陶しくて撃ちたくなる」
「……それはこの前助けてくれたお返しにお姉さんにどうにかしてほしいってやつ?」
「なんでもいいからとりあえず引っ込めてくれ」
「オッケー任してちょうだい♪ じゃあこれで借りは無しね」
この様な事で使い捨てる借りではないのだろうが、もうどうでもいいと呆気なく使う事とする。
ネアは取り上げた魔銃をクロトに返し、役所の女性たちを引き連れて建物の中にへと行ってしまった。
ようやく解放され、どうにか堪えきれた殺意が徐々に消えていく。
「とりあえず、これで終わりか。用事は済んだんだろ?」
これで、用事が済んだと思いたいものだ。
ネアもいない。後はこのような人の群れから遠ざかる。それでお終いだ。
あとはエリーがこのままネアを待ち、二人は祭りを、そして自分はこれ以上は不参加。納得のいく流れである。
「じゃあ俺は――」
このまま一時街から離れようとする。
……が。それを止める様に、エリーが袖口を摘まむ。
「……」
「……ぁ、あの。クロトさん」
まだ何かあるのか。呼び止められ、とりあえず話だけでも黙って聞く事とする。
「行きたい場所があるんですけど、……一緒に、いいですか?」
唐突になんだ、と。口論を始めそうになっていたクロトはそのままの表情で思わず扉にへと顔を向ける。
開け放たれた役所の両開きの扉には、チラチラと祭りで見かけていた装束を纏う女性たちが。
「えっとぉ。可愛らしい妹さんをお待ちの茶髪で赤い上着を着たシャイなお兄さんはそちらでしょうか?」
女性の一人がこちらだろうと確認のため問いかける。
誰に吹き込まれたのか。いったい誰に妹がいて、誰がその兄だというのか。
「誰が兄妹だ!!」。そう言い返そうとしたクロトの口をネアは塞ぐ。
「はい、コイツですぅ♪」
……と。ネアが言う。
なるほど。デマを吹き込んだのはこの情報屋か。
「誰がシャイな兄だって? ああ??」
「あら~、ごめんなさ~い。無駄に殺気だった不愛想で態度の悪い底辺の輩だったわね~」
これには相手がネアだろうと魔銃を向けたくなる。
見えないところで銃をしまえとでも言わんばかりに、ネアは向けられた魔銃を片手で押しのけていく。
こちらのそんな様子など気づきもせず、あちらはあちらで話を進めていくというもの。
「ご要望通り、可愛らしく仕上げさせていただきましたよ~」
「元が可愛らしいから張り切っちゃったわ」
「やりがいがあるってものよねぇ」
きゃっきゃと楽しく、そしてなんと達成感に満ちた表情か。
準備が整ったとの知らせにネアはせめぎ合っていたクロトを突き飛ばし、彼女たちにへと駆け寄っていく。
「どれどれ~。……キャ~、もう可愛い!!」
待たせていらぬデマをまかれ、その代償がこの扱いか。地べたに突き飛ばされたクロトの短気が爆発するのも間近。
いつもは口うるさく止めようとするニーズヘッグも、この時は妙に静かでまるでいないかの様。
まだ手に魔銃はある。今ある溜まりに溜まった物をぶつけてもいいのでは? いや、いいに決まっている。
近くにネアがいようが関係がない。銃を役所にへと向ける……が。
ビシッと、ネアの手刀が右手を弾き、落とした魔銃を取り上げられた。
「な、なにしやが――」
文句を言い切るよりも早く、右腕を今度はネアに掴まれ引っ張られる。
「まあまあ♪ アンタも見てあげなさいよ!」
強引に腕を引かれ、その勢いで前にへと押し出される。
それを同時だったのか、役所側の女性たちも何かを押し出してきた。
衝突寸前でクロトは踏みとどまるも、向こうはそうはいかず、なんとか止まったクロトにへとぶつかる。
「ひゃうっ」
そこまで激しくないため、なんとかそれを受け止める。
その時、先ほどまであった殺気が嘘のように吹き飛び、クロトは双眸を丸くさせる。
視界にはいったのは、純白に金の髪が揺らめくというもの。上質な衣で仕上げられた祭りの装束。フリルや花で柔らかく飾られ、特徴的な頭部の大きなリボンには星の飾り。
ゆっくりと、目の前の少女はこちらにへと顔を上げる。
驚いた様子の顔で、頬を赤らめた少女。星の瞳をしたエリーとしばし目が合う。
「……」
「……~~~ッ!?」
エリーはようやく自分を受け止めたのがクロトだと気づくと、更に顔を真っ赤にさせて慌てて後退る。
「ク、クク、クロトさん!? こ、これは……その……っ」
あたふたと目を泳がせる。
どう説明していいのかわからず、混乱する様にクロトもどう反応していいかわからない。
「ち、違うんですクロトさん!」
エリーから後退って離れたというのに、クロトから離れだしたと勘違いでもしたのか、物申したい様のエリーは袖を掴みとって早口にぎこちない言葉を並べだす。
「こ、これはその、お祭りなのでこういうのを着るべきと聞いて。わ、私にはまだ早いと思ったんですが、皆さんやネアさんがどうしてもって……っ」
「……」
「ク、クロトさんは、こういうの、い、嫌ですよね!? 私なんてこういうの、に、似合わないですよね!? ねぇ!?」
「……」
しばらく聞いていれば、今度は全く関係のない事も言い出すエリー。
これは早々止まりそうにないだろう。そう思ったクロトは、無言のまま慌てふためくエリーの頭にバシッと手刀を落とした。
「……ぴうっ!」
周囲からそんな空気を潰す行為に驚きの声が上がる。
同時に、ネアからも批判の声が。
「アンタ、女の子のオシャレを見て第一反応がそれって最低だと思うんだけど?」
「お前らが勝手にやった事だろうが……」
なんとなく、事の詳細がわかった。
前もってこの役所で祭り装束の貸し出しをネアたちは知り、そして当日の最初に立ち寄り、この様になったわけだ。
エリーが直前戸惑っていた様子も、以前の船で見た様子と酷似している。ネアの強引な誘いに断り切れず、流されてまたこの様に着せ替えられている……と。
意を決した様にも見えていたが、やはり普段と違う様変わりには羞恥という拒絶反応が起きてしまうのだろう。
「……とりあえず、これで少しは落ち着いただろう?」
確かに落ち着きはしただろうが、腑に落ちないというのもネアの考えだ。
あれだけ黙りまくっていたニーズヘッグですら『それでいいのかよ』と、ようやく言葉を発するが、エリーの祭り装束を見て裏では衝撃を受けて悶えていた事ぐらい知っている。あえてそんな炎蛇の反応は無視の一点張りで通しておく。
頭を押さえていたエリーもなんとか落ち着いたのか、それでも顔を赤らめたままなかなか目を合わせようとしない。
「というか、このエリーちゃんの可愛さに感想の一つくらいないわけ? なんか一言くらい言ってあげなさいよぉ」
「……」
いったいこちらに何を求めているのか。
女性に対するお世辞もなにも知らない。それどころか興味もないというのに。そんな自分になんと言葉を返してやればいいというのか。
特に何も思い浮かばない。しかし、何かしら応えなければネアがうるさい。
……そして、炎蛇もうるさいというもの。
無言ではあるが、行動がなんとも鬱陶しい。先ほどから羽衣で頭を何度もビシビシと軽く叩いてくる。普段通りのそっけない言葉を選ぼうとする度にだ。
その言葉は違うと訴えてきている。
鬱陶しさが限界を超え、クロトは叩いてくる羽衣を掴み取り、そしてニーズヘッグにへと心の中で怒鳴る。
「なんだよクソ蛇! さっきから鬱陶しんだよ!」
『お前の気の利かない言葉選びも鬱陶しいわ!! 俺なら姫君褒めちぎりまくるっての!! せめて「似合ってる」の一言くらい言っとけ!!!』
……逆に怒鳴り返されてしまった。
思わず圧倒されてしまい返す言葉もない。それ以上は話さないと、ニーズヘッグは姿をくらましてしまった。
間も短くあったため、周囲は応えをずっと待っている。
何か一言でないのか、それとも呆気なくなにも言わずに終わってしまうのか。
そして、一番待っているのはエリーの方だろう。
うつむきながら指をいじり、時折目をクロトにへと向ける。
だが、当の本人がもしかしたら一番わかっていたのかもしれない。
この場で、クロトが一般的で在り来たりなお世辞の言葉すら返せないことくらい。
「……クロト……さん。私……こういうの…………似合って、ませんよね?」
エリーは自分の容姿に自信が持てずにいる。
他が称賛しようと、自分は誰よりも劣っている。そして、その印象的な星の瞳も、エリーにとってはコンプレックスの一つだ。
似合っていない。そう言えば、きっとエリーはそう受け止める事だろう。
だが。かと言って似合っていない、という事もなかった。
以前の船でもそうだったが、エリーには白い色がよく合っている。似合っているというよりは、違和感がない、というのが妥当だろうか。
そう思うのが一般的な「似合っている」というものなら、それでいいのではないのだろうか。
「……べつに。似合ってるんじゃねーのか?」
相も変わらずそっけなく、いつも通りの自分を通したつもりだ。
不愛想でそっけない。適当な言葉を選んでおいて、なんとなくで人との関りをやり過ごすのみ。
しかし、意外にもその応えはこの場に合っていたらしい。
エリーは顔を赤らめたまま、自分の期待を超える応えに目を見開く。その瞳の星は、彼女の感情を表す様に、明るく輝いている様にも見えた。
あの一言で本当に良かったのか。それだけでこの少女は、嬉しい、という感情を表すのか。
エリーはまたうつむいて、小さく「ありがとうございます……」と呟いた。
そして、周囲でこちらに向け拍手が送られてくる。
「よかったわぁ。お兄さんよく言えましたね」
「一時はどうなるかとひやひやしちゃいました」
「頑張りましたね」
……まさかとは思うが、この程度で称賛されているというのか。
そして兄でもない。そこには小さく「違う」と返しておく。
また別の事で殺意が湧きそうだ。
「まっ、頑張ったんじゃないの? お姉さんも褒めといてあげる」
「……だから、そういうんじゃねーって。あと、あの女どもなんとかしてくれねーか? 鬱陶しくて撃ちたくなる」
「……それはこの前助けてくれたお返しにお姉さんにどうにかしてほしいってやつ?」
「なんでもいいからとりあえず引っ込めてくれ」
「オッケー任してちょうだい♪ じゃあこれで借りは無しね」
この様な事で使い捨てる借りではないのだろうが、もうどうでもいいと呆気なく使う事とする。
ネアは取り上げた魔銃をクロトに返し、役所の女性たちを引き連れて建物の中にへと行ってしまった。
ようやく解放され、どうにか堪えきれた殺意が徐々に消えていく。
「とりあえず、これで終わりか。用事は済んだんだろ?」
これで、用事が済んだと思いたいものだ。
ネアもいない。後はこのような人の群れから遠ざかる。それでお終いだ。
あとはエリーがこのままネアを待ち、二人は祭りを、そして自分はこれ以上は不参加。納得のいく流れである。
「じゃあ俺は――」
このまま一時街から離れようとする。
……が。それを止める様に、エリーが袖口を摘まむ。
「……」
「……ぁ、あの。クロトさん」
まだ何かあるのか。呼び止められ、とりあえず話だけでも黙って聞く事とする。
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