226 / 280
第八部 二章「約束の日」
「純白星」
しおりを挟む
「――お待たせいたしましたぁ!!」
唐突になんだ、と。口論を始めそうになっていたクロトはそのままの表情で思わず扉にへと顔を向ける。
開け放たれた役所の両開きの扉には、チラチラと祭りで見かけていた装束を纏う女性たちが。
「えっとぉ。可愛らしい妹さんをお待ちの茶髪で赤い上着を着たシャイなお兄さんはそちらでしょうか?」
女性の一人がこちらだろうと確認のため問いかける。
誰に吹き込まれたのか。いったい誰に妹がいて、誰がその兄だというのか。
「誰が兄妹だ!!」。そう言い返そうとしたクロトの口をネアは塞ぐ。
「はい、コイツですぅ♪」
……と。ネアが言う。
なるほど。デマを吹き込んだのはこの情報屋か。
「誰がシャイな兄だって? ああ??」
「あら~、ごめんなさ~い。無駄に殺気だった不愛想で態度の悪い底辺の輩だったわね~」
これには相手がネアだろうと魔銃を向けたくなる。
見えないところで銃をしまえとでも言わんばかりに、ネアは向けられた魔銃を片手で押しのけていく。
こちらのそんな様子など気づきもせず、あちらはあちらで話を進めていくというもの。
「ご要望通り、可愛らしく仕上げさせていただきましたよ~」
「元が可愛らしいから張り切っちゃったわ」
「やりがいがあるってものよねぇ」
きゃっきゃと楽しく、そしてなんと達成感に満ちた表情か。
準備が整ったとの知らせにネアはせめぎ合っていたクロトを突き飛ばし、彼女たちにへと駆け寄っていく。
「どれどれ~。……キャ~、もう可愛い!!」
待たせていらぬデマをまかれ、その代償がこの扱いか。地べたに突き飛ばされたクロトの短気が爆発するのも間近。
いつもは口うるさく止めようとするニーズヘッグも、この時は妙に静かでまるでいないかの様。
まだ手に魔銃はある。今ある溜まりに溜まった物をぶつけてもいいのでは? いや、いいに決まっている。
近くにネアがいようが関係がない。銃を役所にへと向ける……が。
ビシッと、ネアの手刀が右手を弾き、落とした魔銃を取り上げられた。
「な、なにしやが――」
文句を言い切るよりも早く、右腕を今度はネアに掴まれ引っ張られる。
「まあまあ♪ アンタも見てあげなさいよ!」
強引に腕を引かれ、その勢いで前にへと押し出される。
それを同時だったのか、役所側の女性たちも何かを押し出してきた。
衝突寸前でクロトは踏みとどまるも、向こうはそうはいかず、なんとか止まったクロトにへとぶつかる。
「ひゃうっ」
そこまで激しくないため、なんとかそれを受け止める。
その時、先ほどまであった殺気が嘘のように吹き飛び、クロトは双眸を丸くさせる。
視界にはいったのは、純白に金の髪が揺らめくというもの。上質な衣で仕上げられた祭りの装束。フリルや花で柔らかく飾られ、特徴的な頭部の大きなリボンには星の飾り。
ゆっくりと、目の前の少女はこちらにへと顔を上げる。
驚いた様子の顔で、頬を赤らめた少女。星の瞳をしたエリーとしばし目が合う。
「……」
「……~~~ッ!?」
エリーはようやく自分を受け止めたのがクロトだと気づくと、更に顔を真っ赤にさせて慌てて後退る。
「ク、クク、クロトさん!? こ、これは……その……っ」
あたふたと目を泳がせる。
どう説明していいのかわからず、混乱する様にクロトもどう反応していいかわからない。
「ち、違うんですクロトさん!」
エリーから後退って離れたというのに、クロトから離れだしたと勘違いでもしたのか、物申したい様のエリーは袖を掴みとって早口にぎこちない言葉を並べだす。
「こ、これはその、お祭りなのでこういうのを着るべきと聞いて。わ、私にはまだ早いと思ったんですが、皆さんやネアさんがどうしてもって……っ」
「……」
「ク、クロトさんは、こういうの、い、嫌ですよね!? 私なんてこういうの、に、似合わないですよね!? ねぇ!?」
「……」
しばらく聞いていれば、今度は全く関係のない事も言い出すエリー。
これは早々止まりそうにないだろう。そう思ったクロトは、無言のまま慌てふためくエリーの頭にバシッと手刀を落とした。
「……ぴうっ!」
周囲からそんな空気を潰す行為に驚きの声が上がる。
同時に、ネアからも批判の声が。
「アンタ、女の子のオシャレを見て第一反応がそれって最低だと思うんだけど?」
「お前らが勝手にやった事だろうが……」
なんとなく、事の詳細がわかった。
前もってこの役所で祭り装束の貸し出しをネアたちは知り、そして当日の最初に立ち寄り、この様になったわけだ。
エリーが直前戸惑っていた様子も、以前の船で見た様子と酷似している。ネアの強引な誘いに断り切れず、流されてまたこの様に着せ替えられている……と。
意を決した様にも見えていたが、やはり普段と違う様変わりには羞恥という拒絶反応が起きてしまうのだろう。
「……とりあえず、これで少しは落ち着いただろう?」
確かに落ち着きはしただろうが、腑に落ちないというのもネアの考えだ。
あれだけ黙りまくっていたニーズヘッグですら『それでいいのかよ』と、ようやく言葉を発するが、エリーの祭り装束を見て裏では衝撃を受けて悶えていた事ぐらい知っている。あえてそんな炎蛇の反応は無視の一点張りで通しておく。
頭を押さえていたエリーもなんとか落ち着いたのか、それでも顔を赤らめたままなかなか目を合わせようとしない。
「というか、このエリーちゃんの可愛さに感想の一つくらいないわけ? なんか一言くらい言ってあげなさいよぉ」
「……」
いったいこちらに何を求めているのか。
女性に対するお世辞もなにも知らない。それどころか興味もないというのに。そんな自分になんと言葉を返してやればいいというのか。
特に何も思い浮かばない。しかし、何かしら応えなければネアがうるさい。
……そして、炎蛇もうるさいというもの。
無言ではあるが、行動がなんとも鬱陶しい。先ほどから羽衣で頭を何度もビシビシと軽く叩いてくる。普段通りのそっけない言葉を選ぼうとする度にだ。
その言葉は違うと訴えてきている。
鬱陶しさが限界を超え、クロトは叩いてくる羽衣を掴み取り、そしてニーズヘッグにへと心の中で怒鳴る。
「なんだよクソ蛇! さっきから鬱陶しんだよ!」
『お前の気の利かない言葉選びも鬱陶しいわ!! 俺なら姫君褒めちぎりまくるっての!! せめて「似合ってる」の一言くらい言っとけ!!!』
……逆に怒鳴り返されてしまった。
思わず圧倒されてしまい返す言葉もない。それ以上は話さないと、ニーズヘッグは姿をくらましてしまった。
間も短くあったため、周囲は応えをずっと待っている。
何か一言でないのか、それとも呆気なくなにも言わずに終わってしまうのか。
そして、一番待っているのはエリーの方だろう。
うつむきながら指をいじり、時折目をクロトにへと向ける。
だが、当の本人がもしかしたら一番わかっていたのかもしれない。
この場で、クロトが一般的で在り来たりなお世辞の言葉すら返せないことくらい。
「……クロト……さん。私……こういうの…………似合って、ませんよね?」
エリーは自分の容姿に自信が持てずにいる。
他が称賛しようと、自分は誰よりも劣っている。そして、その印象的な星の瞳も、エリーにとってはコンプレックスの一つだ。
似合っていない。そう言えば、きっとエリーはそう受け止める事だろう。
だが。かと言って似合っていない、という事もなかった。
以前の船でもそうだったが、エリーには白い色がよく合っている。似合っているというよりは、違和感がない、というのが妥当だろうか。
そう思うのが一般的な「似合っている」というものなら、それでいいのではないのだろうか。
「……べつに。似合ってるんじゃねーのか?」
相も変わらずそっけなく、いつも通りの自分を通したつもりだ。
不愛想でそっけない。適当な言葉を選んでおいて、なんとなくで人との関りをやり過ごすのみ。
しかし、意外にもその応えはこの場に合っていたらしい。
エリーは顔を赤らめたまま、自分の期待を超える応えに目を見開く。その瞳の星は、彼女の感情を表す様に、明るく輝いている様にも見えた。
あの一言で本当に良かったのか。それだけでこの少女は、嬉しい、という感情を表すのか。
エリーはまたうつむいて、小さく「ありがとうございます……」と呟いた。
そして、周囲でこちらに向け拍手が送られてくる。
「よかったわぁ。お兄さんよく言えましたね」
「一時はどうなるかとひやひやしちゃいました」
「頑張りましたね」
……まさかとは思うが、この程度で称賛されているというのか。
そして兄でもない。そこには小さく「違う」と返しておく。
また別の事で殺意が湧きそうだ。
「まっ、頑張ったんじゃないの? お姉さんも褒めといてあげる」
「……だから、そういうんじゃねーって。あと、あの女どもなんとかしてくれねーか? 鬱陶しくて撃ちたくなる」
「……それはこの前助けてくれたお返しにお姉さんにどうにかしてほしいってやつ?」
「なんでもいいからとりあえず引っ込めてくれ」
「オッケー任してちょうだい♪ じゃあこれで借りは無しね」
この様な事で使い捨てる借りではないのだろうが、もうどうでもいいと呆気なく使う事とする。
ネアは取り上げた魔銃をクロトに返し、役所の女性たちを引き連れて建物の中にへと行ってしまった。
ようやく解放され、どうにか堪えきれた殺意が徐々に消えていく。
「とりあえず、これで終わりか。用事は済んだんだろ?」
これで、用事が済んだと思いたいものだ。
ネアもいない。後はこのような人の群れから遠ざかる。それでお終いだ。
あとはエリーがこのままネアを待ち、二人は祭りを、そして自分はこれ以上は不参加。納得のいく流れである。
「じゃあ俺は――」
このまま一時街から離れようとする。
……が。それを止める様に、エリーが袖口を摘まむ。
「……」
「……ぁ、あの。クロトさん」
まだ何かあるのか。呼び止められ、とりあえず話だけでも黙って聞く事とする。
「行きたい場所があるんですけど、……一緒に、いいですか?」
唐突になんだ、と。口論を始めそうになっていたクロトはそのままの表情で思わず扉にへと顔を向ける。
開け放たれた役所の両開きの扉には、チラチラと祭りで見かけていた装束を纏う女性たちが。
「えっとぉ。可愛らしい妹さんをお待ちの茶髪で赤い上着を着たシャイなお兄さんはそちらでしょうか?」
女性の一人がこちらだろうと確認のため問いかける。
誰に吹き込まれたのか。いったい誰に妹がいて、誰がその兄だというのか。
「誰が兄妹だ!!」。そう言い返そうとしたクロトの口をネアは塞ぐ。
「はい、コイツですぅ♪」
……と。ネアが言う。
なるほど。デマを吹き込んだのはこの情報屋か。
「誰がシャイな兄だって? ああ??」
「あら~、ごめんなさ~い。無駄に殺気だった不愛想で態度の悪い底辺の輩だったわね~」
これには相手がネアだろうと魔銃を向けたくなる。
見えないところで銃をしまえとでも言わんばかりに、ネアは向けられた魔銃を片手で押しのけていく。
こちらのそんな様子など気づきもせず、あちらはあちらで話を進めていくというもの。
「ご要望通り、可愛らしく仕上げさせていただきましたよ~」
「元が可愛らしいから張り切っちゃったわ」
「やりがいがあるってものよねぇ」
きゃっきゃと楽しく、そしてなんと達成感に満ちた表情か。
準備が整ったとの知らせにネアはせめぎ合っていたクロトを突き飛ばし、彼女たちにへと駆け寄っていく。
「どれどれ~。……キャ~、もう可愛い!!」
待たせていらぬデマをまかれ、その代償がこの扱いか。地べたに突き飛ばされたクロトの短気が爆発するのも間近。
いつもは口うるさく止めようとするニーズヘッグも、この時は妙に静かでまるでいないかの様。
まだ手に魔銃はある。今ある溜まりに溜まった物をぶつけてもいいのでは? いや、いいに決まっている。
近くにネアがいようが関係がない。銃を役所にへと向ける……が。
ビシッと、ネアの手刀が右手を弾き、落とした魔銃を取り上げられた。
「な、なにしやが――」
文句を言い切るよりも早く、右腕を今度はネアに掴まれ引っ張られる。
「まあまあ♪ アンタも見てあげなさいよ!」
強引に腕を引かれ、その勢いで前にへと押し出される。
それを同時だったのか、役所側の女性たちも何かを押し出してきた。
衝突寸前でクロトは踏みとどまるも、向こうはそうはいかず、なんとか止まったクロトにへとぶつかる。
「ひゃうっ」
そこまで激しくないため、なんとかそれを受け止める。
その時、先ほどまであった殺気が嘘のように吹き飛び、クロトは双眸を丸くさせる。
視界にはいったのは、純白に金の髪が揺らめくというもの。上質な衣で仕上げられた祭りの装束。フリルや花で柔らかく飾られ、特徴的な頭部の大きなリボンには星の飾り。
ゆっくりと、目の前の少女はこちらにへと顔を上げる。
驚いた様子の顔で、頬を赤らめた少女。星の瞳をしたエリーとしばし目が合う。
「……」
「……~~~ッ!?」
エリーはようやく自分を受け止めたのがクロトだと気づくと、更に顔を真っ赤にさせて慌てて後退る。
「ク、クク、クロトさん!? こ、これは……その……っ」
あたふたと目を泳がせる。
どう説明していいのかわからず、混乱する様にクロトもどう反応していいかわからない。
「ち、違うんですクロトさん!」
エリーから後退って離れたというのに、クロトから離れだしたと勘違いでもしたのか、物申したい様のエリーは袖を掴みとって早口にぎこちない言葉を並べだす。
「こ、これはその、お祭りなのでこういうのを着るべきと聞いて。わ、私にはまだ早いと思ったんですが、皆さんやネアさんがどうしてもって……っ」
「……」
「ク、クロトさんは、こういうの、い、嫌ですよね!? 私なんてこういうの、に、似合わないですよね!? ねぇ!?」
「……」
しばらく聞いていれば、今度は全く関係のない事も言い出すエリー。
これは早々止まりそうにないだろう。そう思ったクロトは、無言のまま慌てふためくエリーの頭にバシッと手刀を落とした。
「……ぴうっ!」
周囲からそんな空気を潰す行為に驚きの声が上がる。
同時に、ネアからも批判の声が。
「アンタ、女の子のオシャレを見て第一反応がそれって最低だと思うんだけど?」
「お前らが勝手にやった事だろうが……」
なんとなく、事の詳細がわかった。
前もってこの役所で祭り装束の貸し出しをネアたちは知り、そして当日の最初に立ち寄り、この様になったわけだ。
エリーが直前戸惑っていた様子も、以前の船で見た様子と酷似している。ネアの強引な誘いに断り切れず、流されてまたこの様に着せ替えられている……と。
意を決した様にも見えていたが、やはり普段と違う様変わりには羞恥という拒絶反応が起きてしまうのだろう。
「……とりあえず、これで少しは落ち着いただろう?」
確かに落ち着きはしただろうが、腑に落ちないというのもネアの考えだ。
あれだけ黙りまくっていたニーズヘッグですら『それでいいのかよ』と、ようやく言葉を発するが、エリーの祭り装束を見て裏では衝撃を受けて悶えていた事ぐらい知っている。あえてそんな炎蛇の反応は無視の一点張りで通しておく。
頭を押さえていたエリーもなんとか落ち着いたのか、それでも顔を赤らめたままなかなか目を合わせようとしない。
「というか、このエリーちゃんの可愛さに感想の一つくらいないわけ? なんか一言くらい言ってあげなさいよぉ」
「……」
いったいこちらに何を求めているのか。
女性に対するお世辞もなにも知らない。それどころか興味もないというのに。そんな自分になんと言葉を返してやればいいというのか。
特に何も思い浮かばない。しかし、何かしら応えなければネアがうるさい。
……そして、炎蛇もうるさいというもの。
無言ではあるが、行動がなんとも鬱陶しい。先ほどから羽衣で頭を何度もビシビシと軽く叩いてくる。普段通りのそっけない言葉を選ぼうとする度にだ。
その言葉は違うと訴えてきている。
鬱陶しさが限界を超え、クロトは叩いてくる羽衣を掴み取り、そしてニーズヘッグにへと心の中で怒鳴る。
「なんだよクソ蛇! さっきから鬱陶しんだよ!」
『お前の気の利かない言葉選びも鬱陶しいわ!! 俺なら姫君褒めちぎりまくるっての!! せめて「似合ってる」の一言くらい言っとけ!!!』
……逆に怒鳴り返されてしまった。
思わず圧倒されてしまい返す言葉もない。それ以上は話さないと、ニーズヘッグは姿をくらましてしまった。
間も短くあったため、周囲は応えをずっと待っている。
何か一言でないのか、それとも呆気なくなにも言わずに終わってしまうのか。
そして、一番待っているのはエリーの方だろう。
うつむきながら指をいじり、時折目をクロトにへと向ける。
だが、当の本人がもしかしたら一番わかっていたのかもしれない。
この場で、クロトが一般的で在り来たりなお世辞の言葉すら返せないことくらい。
「……クロト……さん。私……こういうの…………似合って、ませんよね?」
エリーは自分の容姿に自信が持てずにいる。
他が称賛しようと、自分は誰よりも劣っている。そして、その印象的な星の瞳も、エリーにとってはコンプレックスの一つだ。
似合っていない。そう言えば、きっとエリーはそう受け止める事だろう。
だが。かと言って似合っていない、という事もなかった。
以前の船でもそうだったが、エリーには白い色がよく合っている。似合っているというよりは、違和感がない、というのが妥当だろうか。
そう思うのが一般的な「似合っている」というものなら、それでいいのではないのだろうか。
「……べつに。似合ってるんじゃねーのか?」
相も変わらずそっけなく、いつも通りの自分を通したつもりだ。
不愛想でそっけない。適当な言葉を選んでおいて、なんとなくで人との関りをやり過ごすのみ。
しかし、意外にもその応えはこの場に合っていたらしい。
エリーは顔を赤らめたまま、自分の期待を超える応えに目を見開く。その瞳の星は、彼女の感情を表す様に、明るく輝いている様にも見えた。
あの一言で本当に良かったのか。それだけでこの少女は、嬉しい、という感情を表すのか。
エリーはまたうつむいて、小さく「ありがとうございます……」と呟いた。
そして、周囲でこちらに向け拍手が送られてくる。
「よかったわぁ。お兄さんよく言えましたね」
「一時はどうなるかとひやひやしちゃいました」
「頑張りましたね」
……まさかとは思うが、この程度で称賛されているというのか。
そして兄でもない。そこには小さく「違う」と返しておく。
また別の事で殺意が湧きそうだ。
「まっ、頑張ったんじゃないの? お姉さんも褒めといてあげる」
「……だから、そういうんじゃねーって。あと、あの女どもなんとかしてくれねーか? 鬱陶しくて撃ちたくなる」
「……それはこの前助けてくれたお返しにお姉さんにどうにかしてほしいってやつ?」
「なんでもいいからとりあえず引っ込めてくれ」
「オッケー任してちょうだい♪ じゃあこれで借りは無しね」
この様な事で使い捨てる借りではないのだろうが、もうどうでもいいと呆気なく使う事とする。
ネアは取り上げた魔銃をクロトに返し、役所の女性たちを引き連れて建物の中にへと行ってしまった。
ようやく解放され、どうにか堪えきれた殺意が徐々に消えていく。
「とりあえず、これで終わりか。用事は済んだんだろ?」
これで、用事が済んだと思いたいものだ。
ネアもいない。後はこのような人の群れから遠ざかる。それでお終いだ。
あとはエリーがこのままネアを待ち、二人は祭りを、そして自分はこれ以上は不参加。納得のいく流れである。
「じゃあ俺は――」
このまま一時街から離れようとする。
……が。それを止める様に、エリーが袖口を摘まむ。
「……」
「……ぁ、あの。クロトさん」
まだ何かあるのか。呼び止められ、とりあえず話だけでも黙って聞く事とする。
「行きたい場所があるんですけど、……一緒に、いいですか?」
0
あなたにおすすめの小説
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
婚約破棄?責任を取らされた王太子はホームレスになりました
鷹 綾
恋愛
「真実の愛を見つけた」
そう宣言し、王太子は公爵令嬢である私との婚約を一方的に破棄しました。
隣に立っていたのは、身分違いの平民の娘。
王国中が祝福すると思っていたのでしょう。
――けれど、貴族は沈黙しました。
なぜならこの国の流通、軍需、財政、その要の多くを握っているのは公爵家だからです。
私は怒鳴りません。
泣きません。
縋りません。
ただ、契約を見直しただけ。
「婚約破棄には、当然、責任が伴いますわよね?」
市場が揺れ、物価が上がり、軍の補給が滞り、王家の実権は静かに崩れていく。
それでも王太子は気づかない。
やがて開かれる評議会。
下される廃嫡。
そして追放。
真実の愛を選んだ王太子は、王冠を失い、家を失い、名前さえ失う。
責任を――取らされたのです。
これは、感情で復讐する物語ではありません。
秩序を守るために、責任を明確にしただけの話。
そして国は、新しい王を迎えることになる。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる