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15.ルバート様の決意(1)
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「アメリア、俺はこれから今まで以上に眠り姫病の研究に力を入れようと思う。必ず俺が治療法を見つけてみせる。だから、待っていてくれないか。」
前日の大嵐が嘘だったのではないかと思うほどの清々しく晴れ渡ったあの日の朝、ルバート様は昇る朝日を背に受けながら、突然私にそう言った。
あの時、ルバート様は眠り姫病の治療法が見つかるまでは結婚を待つようにと言っただけなのに、何故ずっと側にいていいんだと思ってしまったんだろう。
大学一年の夏休み、セイレーンサガリバナの開花を見に帰った私に、母はたくさんの見合い話を取り揃えて待っていた。
この国の結婚適齢期は早い。
女性はほとんどが十代のうちに結婚する。
大学まで進学する女性がほとんどいないのはそのためだ。
大学進学は、辺境伯のウィルフレッド様のお口添えもあって、何とか許可してもらったけど、母は大学卒業したらすぐに結婚できるよう、婚約だけでもしておくようにと何度もしつこく言っていたのだ。
ルバート様には、その話をしなかったはずだけれど、おそらくどこかで話を聞いたのだろう。
母は、父が団長を務める辺境伯領騎士団の若手騎士の一人に話をつけたと言って、とにかくこの夏休みの間に一度会うようにと言ってきたのだ。
この国では女性が手に職をつけて生きていくのは難しい。
だから、母の言うことは正しいのだと思う。
けれど、その朝、ルバート様の言葉を聞いた私は、ルバート様が眠り姫病の研究を続けられるかぎりは、お側にいてもいいのだと思ってしまったのだ。
私はルバート様の才能を、どこかで侮っていたのだと思う。
何世紀にも渡って、誰も解決できなかった眠り姫病の治療法が見つかるなんて、思っていなかったのだ。
けれど、ルバート様はほんの数年のつもりで、そう言っていたに過ぎない。
なぜなら、あの時からルバート様は本気で姫の病気を治すおつもりだったのだから。
***
あれは、公務でお忙しいため、ほとんど顔を出されないフェリクス様が、珍しく研究室にいらしていた時のことだ。
「お前、進捗はどうなんだよ。急がないと結婚適齢期を逃してしまうぞ。」
応接室にコーヒーをお持ちしようとした時、「結婚」という言葉が耳に飛び込んできて、思わずノックするタイミングを失ってしまった。
「分かってる!姫が目覚めなければ、俺の結婚はない。だから、こんなに必死にやってるんじゃないか!」
冷や水を浴びせられたような気がした。
勘違いするんじゃないと、神様が警告してくださったのだと思った。
そうだ、そうだった。初めから分かっていたはずだ。
ルバート様は、ずっと姫のために研究を続けられているのだ。
姫が目覚められたら、私はルバート様のお側にはいられないと、あの時、胸に刻み込んだはずだったのに!
何故、こんなにも想いを積み重ねてしまったんだろうと思う。
辺境伯領に帰る旅路は長すぎて、ずっとそんなことばかりを考えてしまう。
貸切の馬車を仕立てたのもよくなかったなと今にして思う。
ウィルフレッド様のご好意もあって、今回は贅沢にも馬車を貸切にしたものの、一人で乗っているため気を紛らわすものがなく、ずっとルバート様のことを考えてしまう。
しかも、この道のりは思い出が多過ぎる。思い出さないなんて無理だ。
前日の大嵐が嘘だったのではないかと思うほどの清々しく晴れ渡ったあの日の朝、ルバート様は昇る朝日を背に受けながら、突然私にそう言った。
あの時、ルバート様は眠り姫病の治療法が見つかるまでは結婚を待つようにと言っただけなのに、何故ずっと側にいていいんだと思ってしまったんだろう。
大学一年の夏休み、セイレーンサガリバナの開花を見に帰った私に、母はたくさんの見合い話を取り揃えて待っていた。
この国の結婚適齢期は早い。
女性はほとんどが十代のうちに結婚する。
大学まで進学する女性がほとんどいないのはそのためだ。
大学進学は、辺境伯のウィルフレッド様のお口添えもあって、何とか許可してもらったけど、母は大学卒業したらすぐに結婚できるよう、婚約だけでもしておくようにと何度もしつこく言っていたのだ。
ルバート様には、その話をしなかったはずだけれど、おそらくどこかで話を聞いたのだろう。
母は、父が団長を務める辺境伯領騎士団の若手騎士の一人に話をつけたと言って、とにかくこの夏休みの間に一度会うようにと言ってきたのだ。
この国では女性が手に職をつけて生きていくのは難しい。
だから、母の言うことは正しいのだと思う。
けれど、その朝、ルバート様の言葉を聞いた私は、ルバート様が眠り姫病の研究を続けられるかぎりは、お側にいてもいいのだと思ってしまったのだ。
私はルバート様の才能を、どこかで侮っていたのだと思う。
何世紀にも渡って、誰も解決できなかった眠り姫病の治療法が見つかるなんて、思っていなかったのだ。
けれど、ルバート様はほんの数年のつもりで、そう言っていたに過ぎない。
なぜなら、あの時からルバート様は本気で姫の病気を治すおつもりだったのだから。
***
あれは、公務でお忙しいため、ほとんど顔を出されないフェリクス様が、珍しく研究室にいらしていた時のことだ。
「お前、進捗はどうなんだよ。急がないと結婚適齢期を逃してしまうぞ。」
応接室にコーヒーをお持ちしようとした時、「結婚」という言葉が耳に飛び込んできて、思わずノックするタイミングを失ってしまった。
「分かってる!姫が目覚めなければ、俺の結婚はない。だから、こんなに必死にやってるんじゃないか!」
冷や水を浴びせられたような気がした。
勘違いするんじゃないと、神様が警告してくださったのだと思った。
そうだ、そうだった。初めから分かっていたはずだ。
ルバート様は、ずっと姫のために研究を続けられているのだ。
姫が目覚められたら、私はルバート様のお側にはいられないと、あの時、胸に刻み込んだはずだったのに!
何故、こんなにも想いを積み重ねてしまったんだろうと思う。
辺境伯領に帰る旅路は長すぎて、ずっとそんなことばかりを考えてしまう。
貸切の馬車を仕立てたのもよくなかったなと今にして思う。
ウィルフレッド様のご好意もあって、今回は贅沢にも馬車を貸切にしたものの、一人で乗っているため気を紛らわすものがなく、ずっとルバート様のことを考えてしまう。
しかも、この道のりは思い出が多過ぎる。思い出さないなんて無理だ。
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