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私には古の魔女の血が流れている。
そのため、私の系譜には時折、魅了という魔法で相手を惑わす術を使える者が現れるという。
私の母もまた魅了眼の持ち主で、父を惑わし、そして切り捨てられた。
美しい瞳と夫からの愛を失った母は、その後、自らの命を絶ったという。
そして、父から捨てられた私は、母の妹だという叔母に引き取られ、そこで養育された。
真実の愛の相手と再婚した父は、叔母に私の養育費は払ってくれたらしい。
「お前は偽りの愛から生まれた呪われた子さ。ここに置いてもらえるだけ感謝するんだね。」
物心ついた頃には、そこで叔母とその家族から虐げられていた。
誰からも愛されず、誰の温もりも知らず、ただ息をしていた。
本来なら、私はそのまま小さくて暗い部屋の片隅で生きていくことしかできないはずだったのだ。
運命が大きく変わったのは、八歳だったあの日。
突然、父が私を迎えに来たのだ。
その時初めて知ったことだが、父はこの国の侯爵家の人間で、政敵の娘が王太子の婚約者に選ばれることを阻止したかったらしい。
後妻との間に生まれたのが皆、男子だったため、私のことを思い出したのだろう。
そうして連れて来られた王宮の中庭で、私はあの方と出会ってしまった。
今でもはっきりと覚えている。
初めて見た時、天使が舞い降りたのだと思った。
日差しを集めたかのような美しい金色の髪。
夏の青空を切り取ってはめたかのような澄んだ青い瞳。
「大丈夫?」
そう言って、慣れないドレスで無様に転んだ私に、手を差し伸べてくれたその人の笑顔を見た時、私は思ってしまったのだ。
ああ、いつもこんな風に誰かが私に微笑みかけてくれたらいいのに。
私は愛に飢えていたのだ。
父からも母からも誰からも愛されず、いつも冷たい目で蔑まれていた。
侯爵家に引き取られてから、令嬢としての教育を全く受けて来なかった私を待っていたのは、教育という名の下に行われる絶え間ない暴力だった。
目立たないところを鞭で打たれ、言葉で傷つけられ続ける日々。
王太子が婚約者を選ぶ茶会の席が設けられる今日の日のために、寝る間も惜しんで準備を重ねてきた。
だから、あの優しい笑顔を向けられた時、つい強く願ってしまったのだ。
この優しい眼差しが、ずっと私を見ていてくれたらいいのにと。
そして、その時、私の力が目覚めた。
私を助けてくれた少年は、急にうっとりとした表情で私を見つめた。
その眼差しは、熱に浮かされた時のように曇って見えた。
そして、彼は私の手を握り私の名前を尋ねた。
何が起きたのか分からず固まった私とは対照的に、父には全てが分かったのだろう。
「ユージーン殿下、大変失礼いたしました。こちらは私の娘、リリアーナでございます。静養のため郊外の邸宅にいたため、このような場には今日が初めてでして。まだいろいろと不慣れで申し訳ありません。」
父はこれまで私には見せたことがない笑顔で、そう答えた。
「クローデン侯爵の御令嬢だったのですね。初めまして、リリアーナ嬢。」
殿下はそう言って跪くと、私の指先にキスをした。
私を見つめる眼差しはどこまでも優しかった。
そのため、私の系譜には時折、魅了という魔法で相手を惑わす術を使える者が現れるという。
私の母もまた魅了眼の持ち主で、父を惑わし、そして切り捨てられた。
美しい瞳と夫からの愛を失った母は、その後、自らの命を絶ったという。
そして、父から捨てられた私は、母の妹だという叔母に引き取られ、そこで養育された。
真実の愛の相手と再婚した父は、叔母に私の養育費は払ってくれたらしい。
「お前は偽りの愛から生まれた呪われた子さ。ここに置いてもらえるだけ感謝するんだね。」
物心ついた頃には、そこで叔母とその家族から虐げられていた。
誰からも愛されず、誰の温もりも知らず、ただ息をしていた。
本来なら、私はそのまま小さくて暗い部屋の片隅で生きていくことしかできないはずだったのだ。
運命が大きく変わったのは、八歳だったあの日。
突然、父が私を迎えに来たのだ。
その時初めて知ったことだが、父はこの国の侯爵家の人間で、政敵の娘が王太子の婚約者に選ばれることを阻止したかったらしい。
後妻との間に生まれたのが皆、男子だったため、私のことを思い出したのだろう。
そうして連れて来られた王宮の中庭で、私はあの方と出会ってしまった。
今でもはっきりと覚えている。
初めて見た時、天使が舞い降りたのだと思った。
日差しを集めたかのような美しい金色の髪。
夏の青空を切り取ってはめたかのような澄んだ青い瞳。
「大丈夫?」
そう言って、慣れないドレスで無様に転んだ私に、手を差し伸べてくれたその人の笑顔を見た時、私は思ってしまったのだ。
ああ、いつもこんな風に誰かが私に微笑みかけてくれたらいいのに。
私は愛に飢えていたのだ。
父からも母からも誰からも愛されず、いつも冷たい目で蔑まれていた。
侯爵家に引き取られてから、令嬢としての教育を全く受けて来なかった私を待っていたのは、教育という名の下に行われる絶え間ない暴力だった。
目立たないところを鞭で打たれ、言葉で傷つけられ続ける日々。
王太子が婚約者を選ぶ茶会の席が設けられる今日の日のために、寝る間も惜しんで準備を重ねてきた。
だから、あの優しい笑顔を向けられた時、つい強く願ってしまったのだ。
この優しい眼差しが、ずっと私を見ていてくれたらいいのにと。
そして、その時、私の力が目覚めた。
私を助けてくれた少年は、急にうっとりとした表情で私を見つめた。
その眼差しは、熱に浮かされた時のように曇って見えた。
そして、彼は私の手を握り私の名前を尋ねた。
何が起きたのか分からず固まった私とは対照的に、父には全てが分かったのだろう。
「ユージーン殿下、大変失礼いたしました。こちらは私の娘、リリアーナでございます。静養のため郊外の邸宅にいたため、このような場には今日が初めてでして。まだいろいろと不慣れで申し訳ありません。」
父はこれまで私には見せたことがない笑顔で、そう答えた。
「クローデン侯爵の御令嬢だったのですね。初めまして、リリアーナ嬢。」
殿下はそう言って跪くと、私の指先にキスをした。
私を見つめる眼差しはどこまでも優しかった。
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