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第4話 トップシークレット
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不思議な力についてのマコトの告白を受け、ソフィアは力に纏わるあらゆる視点からの考え方などを説明する。マコトの理解はある程度整うが、話後半部分で、魔女であるかどうかの目線で語られたことに違和感を感じ、ソフィアに問う。
マコトの問いに思わず沈黙するソフィア。そこから先は後戻りができない話だからだ。いずれは話すつもりでも、今がそのときかの判断は難しいものがあるようだ。
ソフィアはそれ以上のことを口にしてよいか、視点をあちこちに目まぐるしく飛ばしながら、思案に思案を重ねる。暫くして、意を決したようにソフィアは口を開く。
「ここからはトップシークレットよ。口外すれば、ママはもちろん、パパもマコちゃも、そこに関わった人も、みんな消される可能性が生まれてしまうの。誰にも喋らず、悟られないって誓える?」
「消されるって? もしかして殺されるの?」
「そういうことになる可能性は否めないわ」
あまりにも唐突に、物騒な言葉がソフィアの口から零れたことにマコトの意識はついていけなかった。
マコトは言葉により連想される「死」というものが自分に降り注ぐことを示していることだけは、説明の文章的に理解する。それでも、誓いを守れなかったときの未来が悪夢のような信じがたいことだと文章的な字面の上では理解できるものの、マコトはそんな状況下に自分が置かれているビジョンが思い描けないようだった。
それはまるで小説の物語や映画のワンシーンのような絵空事で、マコトにとって、まるっきり他人事にしか思えない。頭の中を飛び回る凶悪な単語で頭が混乱しながら、それがソフィアの口からマコトに向けて発せられたことに、ただただショックを受けている状態だ。
暫くマコトを見据えていたソフィアは、マコトの動揺具合のピークを越えたと感じ取ったのか、言葉を付け足す。
「今、頭の整理ができないようなら、この話は止めようか?」
「うっ、だっ、大丈夫。誰にも話さないって誓うよ。マコの口は固いもん」
「あれっ? この間、ママの失敗をパパにポロっとバラしてたじゃない?」
「あ、あれは、……ついだよ、つい。それに今のとは重要性が全く違うでしょ?」
「あはは、わかった。慌て方が可愛いよ。うん。マコちゃの言葉を信じるよ。カワイー、マコちゃ、愛してるっ! ぎゅーっ」
そんな言葉を発しながら、ソフィアはマコトに思いっきり抱きつく。
「もぅ」
―― ヴゥー、大人はズルい。
―― うぅん、ズルいのはママだ。
―― マコの好みも弱点も知り尽くされてるのかな?
―― いつもママの手のひらの上で転がされてる感じ。
「それじゃあ続けるね。簡単にいうと、ママの生まれた国は北欧のN国というのは知っているよね。あまりに遠いし行ったことがないから、詳しいことまではわからないと思うけど」
「ママがあんまり話さないからでしょ?」
「そうだね。まぁ、話せなかったんだけどね。ごめんね、マコちゃ」
「うん、いいよ。続けて、ママ」
「ママの生まれた国には北欧神話ってのがあって、いろいろと神聖な逸話もあるけれど、それとは別に……、というか、別じゃなく実は関連するのかもしれないけど、そこは魔女発祥の地でもあるといわれているの。知る人ぞ知る、なんだけどね」
「うん」
「さっき話したように、長い歴史の中では、「魔女狩り」や「魔女裁判」といった、魔女ではない普通の、何の罪もない女性が言い掛かりをつけられ、世界中で何万人も殺されたの。今で言うところの明らかな冤罪でね。でもそのなかに本物の魔女はほとんど含まれてないの」
「魔女たちはうまく逃げちゃったの? 何となくズルい気がしてしまう。無関係な人ばかり虐殺されたわけでしょ?」
「うん、でももしも魔女が名乗り出たら、もっと虐殺の規模は拡大してたと思うし、事態が収拾するためには、魔女なんていない、って結末しかありえなかったと思う。魔女だって何の罪も犯してない訳だしね」
「そ、そーだよね。名乗り出たら、余計に大掛かりな処刑が続いたのか。うん。そうかも」
「魔女といってもざっくり言えば、ほうきで空を飛べるくらいだもの。戦闘力があるわけでもないから、非魔女を救うこともできずに、早期に辺境に引っ込んでひっそりと暮らしてたのよ」
「えっ? 爆裂魔法とか、水魔法とか、転移魔法とか、いろんなことができるんじゃないの?」
「アハハハハハッ、マコちゃってば、アニメの見過ぎ! あれは面白おかしくするために、自然の法則を無視して作者が勝手に産み出したものだよ。特に最近は面白ければ何でもありありだよね。ただ実際には、森羅万象、物理の法則には逆らえるはずがないから、できることは限られるわね」
「ウー、子供の夢が砕け散った気がする」
「まぁ、マコちゃってば、大人の階段をひとつ登ったのね。今夜はお赤飯がいいかしら?」
「もぉ!」
膨れっ面のマコトを横目にソフィアは話を続ける。
「これは遠い昔の言い伝えで、真実のほどはよくわからないのだけれど、ある魔女が極東から遠征してきた武人と恋に落ちて、生まれた女の子がいたの」
「うん? ほぅほぅ」
―― 話のテイストが切り替わった。
―― なんだか面白そうな話かな?
「武人は祖国へ赤子ともども帰投する旨を伝えるけど、魔女は生家の継承を選択した。結局なんやかんやあって、武人ともども、幼子を抱いて戻るけれど、その子は漆黒の髪だったため、周囲から忌避される存在だったのね。まぁ、日本人との子だから、黒くても不思議じゃないのだけど、そもそも、この時代の人たちは、自分たちとその伝統を基準に逸脱を認めない輩が多かったと思うのよ」
「え? 漆黒?」
マコトは自身の髪色の漆黒をややコンプレックスに感じているから、自然に引っかかりを憶える。
「ところが、その子が成長するにつれて、大人顔負けの秀でた能力を見せ始めると、見方を改め、長老達は心酔するように変わっていったの」
「ふむふむ」
「そうして魔女の里ともいわれるその地で、血筋を絶やさず、村の秘宝とばかりに秘匿され続けていったわ」
「秘宝? そんなに?」
「表舞台に出てくることはないまでも、『漆黒の魔女』の異名とともに、数々の危機の解決に暗躍していく。そうして、代々、血筋は紡がれていくのだけれど、世代を重ねるほどに血脈も薄まり、また魔女の素性隠蔽の情勢も相まって、いつしか伝説としても忘れ去られるようになっていったの」
「そうなんだ」
「現代になって、この血脈の子孫がN国第三王子に見初められ、王室入りしたのが、ママのお母さまのアイリ、あなたのお婆さまになるわね」
「え?! お、おうしつ? えーっ? とっ、突然なに?」
―― 遠い昔から綴られる物語調にとっぷりと浸りながら興味津々で聞き入っていたところ、身近な時代だけど住む世界がかけ離れた王室? への突然の爆弾トリップ発言?!
―― しかもママのママが?
―― 展開が急すぎ!
―― あまりの隔たりに心臓がびっくり。ヒッ!
―― 一瞬止まった?
と直ぐにマコトの鼓動は超高速再稼働する。
……バコ、バコ、バコバコバコバコ……
龍が荒れ狂うが如く、マコトの血流が体内で暴れ回る。
マコトは目は焦点を迷わせながら瞬き続け、頭の整理が追い付かないのに、言葉を発しようと口がハクハクし、両手は所在なく動かし続ける状態だ。マコトは意表を突かれ過ぎたようだ。
想定を超えるマコトの反応が面白すぎたのか急にソフィアは吹き出す。
「クッ、フフフッ、アハハハハハ……マコちゃ、おもしろーい。いいね、その反応。日記に書いとかなきゃ。アハハハハハ」φ(..)メモメモ
左手で腹を抱えながら、右手でメモを取るソフィア。整理はついてないが、笑われたことで、ふと我に帰り、頬を膨らませるマコト。
「もおー、なんで笑うの~。フツウびっくりするでしょう? なんなの王室って? ここはアフリカの草原で節約必須のキャンプ暮らしだから、貧しい人の暮らしとも大差ないよね? そりゃあ、ママは綺麗すぎて、佇まいもどちらかと言えば優雅にも見えるけど、そうは見えないくらいオッチョコチョイでもあるし、それにN国の他の人にも会ったこともないのに、いきなり王室は無理があるでしょ? 今日はエイプリルフールだったっけ? たちの悪い冗談は止めてよ。心臓が止まるかと思った」
「あら? きれい? うふふ。ありがとう。でもオッチョコチョイは余計よ。プンプン。それに嘘は全く言ってないわよ」
「えっ? 王室はホントのことなの? じゃあ、ママは王女? ってこと?」
「何番目かの王女だったけど、結婚しちゃったから、今は違うのかもしれないわ。日本の皇室では結婚すると皇族ではなくなるって聞いたことがあるもの。まぁ、今の扱いは聞いてみないとわからないわね。それに、この間まで記憶喪失だったから、最新情勢はわからないし、勢力争いとか教会介入とか、いろいろあって、あっちでは私、死んだことになってたからね。ふふっ」
「ふふっ、じゃないよ。今なんかサラッとすごく重要そうな言葉を流したような……記憶喪失とか、死んだとか言わなかった?」
「えーっ、言ったっけ? まぁ、それはどうでも良いから置いといて……」
「どうでも良くないよ!」
「まぁまぁ、話が脱線するから続けるね。その話はまた今度ということで」
「ウー……」
「ってなわけで、マコちゃとママは、魔女の末裔ってことなのよ。わかった?」
「えっ??」
―― そうだった。
―― 王室発言に意識を奪われていたけど、元は魔女の話から語り継がれたことを思い出した。
―― 何がなにやら……、もう無理……。
突然の魔女認定に、マコトは体のすべての機能が停止したかのように沈黙を続けた。より正確には、脳が思考することを拒否しているようだった。
しばらく待って、ソフィアは話を続けた。
「そこら辺のただの魔女ではなくて、さっき話した『漆黒の魔女』というサラブレッド的な魔女だけどね」
マコトの反応は薄い。薄いが聞こえてはいるようで、ピクリと反応していた。
……
少し待つと、無表情な顔で、マコトは少し口を開いて呟きを漏らす。
「そこら辺に魔女はいないし、大体ママは金髪じゃん?」
「アハハ、『そこら辺』は言い過ぎたね。ゴメンゴメン。ママも生まれたときは黒髪だったのよ。それが漆黒の魔女を継承している証だし、魔力を制御できるようになると、本来の髪色になるの。マコちゃの場合は、金髪か、パパ譲りの栗色の髪のどちらかね」
「うん……」
もう驚くことに疲れてしまったのか、マコトは無表情のままに頷く。
「マコちゃは、その歳にして、大人顔負けな頭脳と行動力があると思うの。そのことには気付いてる?」
「あ、うん、思い当たるふしはたくさんある」
「そうでしょ? それってパパの頭の良さもあると思うけど、漆黒の魔女の血も色濃く受け継いでいるからだと思うの。まぁ、オーラが見える時点でほぼほぼ確定なんだけどね」
……
「立て続けの衝撃が大きすぎて、受けとめるのも、そろそろ限界みたいだね。続きはまた後日にしようか」
「えっ? まだたくさん続きがあるの?」
「うん。まだまだ大事な情報が控えてるよ。せっかくだから、今度はパパも一緒にお話ししようか」
「パパには話してもいいことなの?」
「その後日の説明のときまでは、パパに話してはダメよ! 中途半端な説明じゃ誤解を招くだけだから。それとね、ママだけなら、隠しておいてもよいと思ってたけど、マコちゃもママと同じなのなら、パパも巻き込んで理解してもらった方が、絶対にいいと思うの。マコちゃが困ったときにパパに助けて欲しいしね。それにパパの頭脳も借りたいところだからね。うふん、パパのびっくり具合も今から楽しみだわ。 (……ビデオに撮ろうかしら……)」
心の声がうっかりだだ漏れるソフィアだった。
「つ・か・れ・た・ぁ・……。ハァーッ。今日はもう寝るね。ファーっ、クフッ」
マコトは飽和状態の頭で言葉少なくあくびが漏れる。
「うん、疲れたでしょう? よく頑張ったね~。おいで、抱っこしてあげる。今日のことは全部受け止めきれなくてもいいからね~。今日は何も考えずにお休みなさい。忘れちゃったって、もう一度お話する機会があるのだから、大丈夫よ~」
トテトテ近寄り、もたれかかるマコトをソフィアは優しく抱き寄せ、そぉーっと抱きかかえた。愛狂おしい我が子の頭を撫で、頬を寄せる。
「お・や・す・み・な・・さ……ぃ、すぅーっ、すー」
おやすみのあいさつを言い終えるより早く、マコトは静かに寝息をたてる。
「あらっ、寝付きがいいのね~、クスクスッ。天使の寝顔は最高の癒しよね~。愛しきマコちゃ、おやすみ、チュッ」
マコトの問いに思わず沈黙するソフィア。そこから先は後戻りができない話だからだ。いずれは話すつもりでも、今がそのときかの判断は難しいものがあるようだ。
ソフィアはそれ以上のことを口にしてよいか、視点をあちこちに目まぐるしく飛ばしながら、思案に思案を重ねる。暫くして、意を決したようにソフィアは口を開く。
「ここからはトップシークレットよ。口外すれば、ママはもちろん、パパもマコちゃも、そこに関わった人も、みんな消される可能性が生まれてしまうの。誰にも喋らず、悟られないって誓える?」
「消されるって? もしかして殺されるの?」
「そういうことになる可能性は否めないわ」
あまりにも唐突に、物騒な言葉がソフィアの口から零れたことにマコトの意識はついていけなかった。
マコトは言葉により連想される「死」というものが自分に降り注ぐことを示していることだけは、説明の文章的に理解する。それでも、誓いを守れなかったときの未来が悪夢のような信じがたいことだと文章的な字面の上では理解できるものの、マコトはそんな状況下に自分が置かれているビジョンが思い描けないようだった。
それはまるで小説の物語や映画のワンシーンのような絵空事で、マコトにとって、まるっきり他人事にしか思えない。頭の中を飛び回る凶悪な単語で頭が混乱しながら、それがソフィアの口からマコトに向けて発せられたことに、ただただショックを受けている状態だ。
暫くマコトを見据えていたソフィアは、マコトの動揺具合のピークを越えたと感じ取ったのか、言葉を付け足す。
「今、頭の整理ができないようなら、この話は止めようか?」
「うっ、だっ、大丈夫。誰にも話さないって誓うよ。マコの口は固いもん」
「あれっ? この間、ママの失敗をパパにポロっとバラしてたじゃない?」
「あ、あれは、……ついだよ、つい。それに今のとは重要性が全く違うでしょ?」
「あはは、わかった。慌て方が可愛いよ。うん。マコちゃの言葉を信じるよ。カワイー、マコちゃ、愛してるっ! ぎゅーっ」
そんな言葉を発しながら、ソフィアはマコトに思いっきり抱きつく。
「もぅ」
―― ヴゥー、大人はズルい。
―― うぅん、ズルいのはママだ。
―― マコの好みも弱点も知り尽くされてるのかな?
―― いつもママの手のひらの上で転がされてる感じ。
「それじゃあ続けるね。簡単にいうと、ママの生まれた国は北欧のN国というのは知っているよね。あまりに遠いし行ったことがないから、詳しいことまではわからないと思うけど」
「ママがあんまり話さないからでしょ?」
「そうだね。まぁ、話せなかったんだけどね。ごめんね、マコちゃ」
「うん、いいよ。続けて、ママ」
「ママの生まれた国には北欧神話ってのがあって、いろいろと神聖な逸話もあるけれど、それとは別に……、というか、別じゃなく実は関連するのかもしれないけど、そこは魔女発祥の地でもあるといわれているの。知る人ぞ知る、なんだけどね」
「うん」
「さっき話したように、長い歴史の中では、「魔女狩り」や「魔女裁判」といった、魔女ではない普通の、何の罪もない女性が言い掛かりをつけられ、世界中で何万人も殺されたの。今で言うところの明らかな冤罪でね。でもそのなかに本物の魔女はほとんど含まれてないの」
「魔女たちはうまく逃げちゃったの? 何となくズルい気がしてしまう。無関係な人ばかり虐殺されたわけでしょ?」
「うん、でももしも魔女が名乗り出たら、もっと虐殺の規模は拡大してたと思うし、事態が収拾するためには、魔女なんていない、って結末しかありえなかったと思う。魔女だって何の罪も犯してない訳だしね」
「そ、そーだよね。名乗り出たら、余計に大掛かりな処刑が続いたのか。うん。そうかも」
「魔女といってもざっくり言えば、ほうきで空を飛べるくらいだもの。戦闘力があるわけでもないから、非魔女を救うこともできずに、早期に辺境に引っ込んでひっそりと暮らしてたのよ」
「えっ? 爆裂魔法とか、水魔法とか、転移魔法とか、いろんなことができるんじゃないの?」
「アハハハハハッ、マコちゃってば、アニメの見過ぎ! あれは面白おかしくするために、自然の法則を無視して作者が勝手に産み出したものだよ。特に最近は面白ければ何でもありありだよね。ただ実際には、森羅万象、物理の法則には逆らえるはずがないから、できることは限られるわね」
「ウー、子供の夢が砕け散った気がする」
「まぁ、マコちゃってば、大人の階段をひとつ登ったのね。今夜はお赤飯がいいかしら?」
「もぉ!」
膨れっ面のマコトを横目にソフィアは話を続ける。
「これは遠い昔の言い伝えで、真実のほどはよくわからないのだけれど、ある魔女が極東から遠征してきた武人と恋に落ちて、生まれた女の子がいたの」
「うん? ほぅほぅ」
―― 話のテイストが切り替わった。
―― なんだか面白そうな話かな?
「武人は祖国へ赤子ともども帰投する旨を伝えるけど、魔女は生家の継承を選択した。結局なんやかんやあって、武人ともども、幼子を抱いて戻るけれど、その子は漆黒の髪だったため、周囲から忌避される存在だったのね。まぁ、日本人との子だから、黒くても不思議じゃないのだけど、そもそも、この時代の人たちは、自分たちとその伝統を基準に逸脱を認めない輩が多かったと思うのよ」
「え? 漆黒?」
マコトは自身の髪色の漆黒をややコンプレックスに感じているから、自然に引っかかりを憶える。
「ところが、その子が成長するにつれて、大人顔負けの秀でた能力を見せ始めると、見方を改め、長老達は心酔するように変わっていったの」
「ふむふむ」
「そうして魔女の里ともいわれるその地で、血筋を絶やさず、村の秘宝とばかりに秘匿され続けていったわ」
「秘宝? そんなに?」
「表舞台に出てくることはないまでも、『漆黒の魔女』の異名とともに、数々の危機の解決に暗躍していく。そうして、代々、血筋は紡がれていくのだけれど、世代を重ねるほどに血脈も薄まり、また魔女の素性隠蔽の情勢も相まって、いつしか伝説としても忘れ去られるようになっていったの」
「そうなんだ」
「現代になって、この血脈の子孫がN国第三王子に見初められ、王室入りしたのが、ママのお母さまのアイリ、あなたのお婆さまになるわね」
「え?! お、おうしつ? えーっ? とっ、突然なに?」
―― 遠い昔から綴られる物語調にとっぷりと浸りながら興味津々で聞き入っていたところ、身近な時代だけど住む世界がかけ離れた王室? への突然の爆弾トリップ発言?!
―― しかもママのママが?
―― 展開が急すぎ!
―― あまりの隔たりに心臓がびっくり。ヒッ!
―― 一瞬止まった?
と直ぐにマコトの鼓動は超高速再稼働する。
……バコ、バコ、バコバコバコバコ……
龍が荒れ狂うが如く、マコトの血流が体内で暴れ回る。
マコトは目は焦点を迷わせながら瞬き続け、頭の整理が追い付かないのに、言葉を発しようと口がハクハクし、両手は所在なく動かし続ける状態だ。マコトは意表を突かれ過ぎたようだ。
想定を超えるマコトの反応が面白すぎたのか急にソフィアは吹き出す。
「クッ、フフフッ、アハハハハハ……マコちゃ、おもしろーい。いいね、その反応。日記に書いとかなきゃ。アハハハハハ」φ(..)メモメモ
左手で腹を抱えながら、右手でメモを取るソフィア。整理はついてないが、笑われたことで、ふと我に帰り、頬を膨らませるマコト。
「もおー、なんで笑うの~。フツウびっくりするでしょう? なんなの王室って? ここはアフリカの草原で節約必須のキャンプ暮らしだから、貧しい人の暮らしとも大差ないよね? そりゃあ、ママは綺麗すぎて、佇まいもどちらかと言えば優雅にも見えるけど、そうは見えないくらいオッチョコチョイでもあるし、それにN国の他の人にも会ったこともないのに、いきなり王室は無理があるでしょ? 今日はエイプリルフールだったっけ? たちの悪い冗談は止めてよ。心臓が止まるかと思った」
「あら? きれい? うふふ。ありがとう。でもオッチョコチョイは余計よ。プンプン。それに嘘は全く言ってないわよ」
「えっ? 王室はホントのことなの? じゃあ、ママは王女? ってこと?」
「何番目かの王女だったけど、結婚しちゃったから、今は違うのかもしれないわ。日本の皇室では結婚すると皇族ではなくなるって聞いたことがあるもの。まぁ、今の扱いは聞いてみないとわからないわね。それに、この間まで記憶喪失だったから、最新情勢はわからないし、勢力争いとか教会介入とか、いろいろあって、あっちでは私、死んだことになってたからね。ふふっ」
「ふふっ、じゃないよ。今なんかサラッとすごく重要そうな言葉を流したような……記憶喪失とか、死んだとか言わなかった?」
「えーっ、言ったっけ? まぁ、それはどうでも良いから置いといて……」
「どうでも良くないよ!」
「まぁまぁ、話が脱線するから続けるね。その話はまた今度ということで」
「ウー……」
「ってなわけで、マコちゃとママは、魔女の末裔ってことなのよ。わかった?」
「えっ??」
―― そうだった。
―― 王室発言に意識を奪われていたけど、元は魔女の話から語り継がれたことを思い出した。
―― 何がなにやら……、もう無理……。
突然の魔女認定に、マコトは体のすべての機能が停止したかのように沈黙を続けた。より正確には、脳が思考することを拒否しているようだった。
しばらく待って、ソフィアは話を続けた。
「そこら辺のただの魔女ではなくて、さっき話した『漆黒の魔女』というサラブレッド的な魔女だけどね」
マコトの反応は薄い。薄いが聞こえてはいるようで、ピクリと反応していた。
……
少し待つと、無表情な顔で、マコトは少し口を開いて呟きを漏らす。
「そこら辺に魔女はいないし、大体ママは金髪じゃん?」
「アハハ、『そこら辺』は言い過ぎたね。ゴメンゴメン。ママも生まれたときは黒髪だったのよ。それが漆黒の魔女を継承している証だし、魔力を制御できるようになると、本来の髪色になるの。マコちゃの場合は、金髪か、パパ譲りの栗色の髪のどちらかね」
「うん……」
もう驚くことに疲れてしまったのか、マコトは無表情のままに頷く。
「マコちゃは、その歳にして、大人顔負けな頭脳と行動力があると思うの。そのことには気付いてる?」
「あ、うん、思い当たるふしはたくさんある」
「そうでしょ? それってパパの頭の良さもあると思うけど、漆黒の魔女の血も色濃く受け継いでいるからだと思うの。まぁ、オーラが見える時点でほぼほぼ確定なんだけどね」
……
「立て続けの衝撃が大きすぎて、受けとめるのも、そろそろ限界みたいだね。続きはまた後日にしようか」
「えっ? まだたくさん続きがあるの?」
「うん。まだまだ大事な情報が控えてるよ。せっかくだから、今度はパパも一緒にお話ししようか」
「パパには話してもいいことなの?」
「その後日の説明のときまでは、パパに話してはダメよ! 中途半端な説明じゃ誤解を招くだけだから。それとね、ママだけなら、隠しておいてもよいと思ってたけど、マコちゃもママと同じなのなら、パパも巻き込んで理解してもらった方が、絶対にいいと思うの。マコちゃが困ったときにパパに助けて欲しいしね。それにパパの頭脳も借りたいところだからね。うふん、パパのびっくり具合も今から楽しみだわ。 (……ビデオに撮ろうかしら……)」
心の声がうっかりだだ漏れるソフィアだった。
「つ・か・れ・た・ぁ・……。ハァーッ。今日はもう寝るね。ファーっ、クフッ」
マコトは飽和状態の頭で言葉少なくあくびが漏れる。
「うん、疲れたでしょう? よく頑張ったね~。おいで、抱っこしてあげる。今日のことは全部受け止めきれなくてもいいからね~。今日は何も考えずにお休みなさい。忘れちゃったって、もう一度お話する機会があるのだから、大丈夫よ~」
トテトテ近寄り、もたれかかるマコトをソフィアは優しく抱き寄せ、そぉーっと抱きかかえた。愛狂おしい我が子の頭を撫で、頬を寄せる。
「お・や・す・み・な・・さ……ぃ、すぅーっ、すー」
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