Jet Black Witches - 1萌芽 -

azo

文字の大きさ
18 / 40

第16話 入浴 〜 Sofia Awake ep2

しおりを挟む
 行ってから5分も経たずに緊急信号だ。

 ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ

 ん? 何かあったか? 急いで風呂の入り口に駆け寄る。

「どうした? 大丈夫か? 何かあった?」

 黒子は、か細い声で返事を返す。
「お風呂、気持ちいいのだけど、筋肉が緩みすぎたのか、腕ひとつ動かせないみたいなの」

「そ、そうか。よ、良かった。えっと、お風呂を出られないってこと?」
「いえ、それもあるけど、頭を洗いたいの。入浴するのを手伝って貰えないかな? って思って」

「え、え、えーと、見られても平気なの?」
「いやよ! 恥ずかしいに決まってるじゃない! でもね、わたし、あなたが信用できるもの。目を閉じて、私の言葉にそって、私の髪を洗ってほしいと思っています。お願いできますか?」

「きょ、今日は洗髪を諦めるという選択もあるのでは?」
「記憶がないから、よくわからないのだけど、よほどひどい1日だったのか、汗をかいたというレベルではないの。油を浴びたのか、煙にも巻かれたのか、草にもまみれて、泥だらけにもなって、ありえない状態なの。そんな状態の髪で寝たくないし、髪も痛めちゃう。何より命の恩人であるあなたに、汚いとか臭いとか思ってほしくないの」

「そんなこと思わないから大丈夫だよ?」
「ううん、私が許せないの。女の子としての矜持だってあるのよ」

 それでオレが洗うのなら同じじゃない? って、思ったけど、いったん飲み込んだ。

「そうしてほしいなら、そうするよ」
「じゃあ、目隠しできるもの。アイマスクか、なければ縛れるタオルか手ぬぐい。それと濡れてもいいように水着とTシャツに着替えて来てね」

「アイマスクなんてたぶんないよ。海パンはあったかな~? Tシャツ? 必要?」
「必要だよ~。私のことをやってもらっている間、寒いでしょ? それに私が目のやり場に困るじゃない」

「わかった。ちょっと待ってて」
「のぼせそうだから、早めにね」

「お待たせ~。アイマスクと海パンあったよ」
「アイマスクしたら入って来て! 早く」

「入るよ~」
「そのまま進んで。そう。そこで止まって。右前に一歩。左に90度回転。そう、右前に半歩。そしたら両手を50センチ位前に伸ばすと私の両肩があるの。そう。あっ、ひゃん」

「あ、ご、ごめん」
「ううん、冷たくてビックリしただけ。でも冷たくて気持ちいい。そしたら両手をわきの下に入れて、私を立たせてほしいの。私、手も足もうまく動かせないのよ」
「わかった」

 思いもよらぬ状況にドキドキするが、オレは善意の紳士。言われることを淡々とこなすだけだ。そう言い聞かせながら手を脇のあたりに差し込む。や、柔らかくて、スベスベしてる。女の子ってすごい。なんだか別の生物なのでは? と思えてしまう。

「ひゃう。う、そのまま上に持ち上げて。ア、アイマスク、してるよね?」

 いちいち発する言葉が脳裏を刺激する。いや、なんとも言えない魅力的な声が、心をくすぐり続けるんだ。人として、他人とを分かつ、見えない心の柵を、ミニチュアな黒子の妖精がひとつひとつ、優しく溶かしていく、そんな感じだ。まずい、このままじゃ心の奥まで丸見えになってしまう。落ち着け、オレ!

「だ、大丈夫。何も見えてないよ。じゃあ、持ち上げるよ」
「うん、お願い」

 ザバンっ。

「ひゃ。恥ずかしい。み、見えてないよね?」
「だ、大丈夫。見えてないけど。君の声の反応にこっちがドキドキしちゃうよ」

「ごめんなさい。じゃあ、外に出してほしいの。わきの下をそのまま持ち上げるか、無理なら、お、お姫さま抱っこで」
「うん、抱え上げてみるよ。せえの!」

 ザパァン。ピチャピチャ。

「足、ドラム缶に当たるみたいだけど、曲げられないの?」
「無理。それができないから、今お願いしてるのよ」

「そっか、ゴメン。身長差がもっとあれば、ヒョイって出せるけど。うーん。抱っこしかないかな? あっ、君が両手をオレの首に回して抱きつくようにすれば、オレの両手が空くから足をなんとかできるかも?」
「そ、それはダメよ。いい案だけど、今の私の手は力が出ないから、つかまってられないの。それにその、お、む、胸が当たっちゃうし、ごめんなさい」
「ぶっ!」

 お、む、胸? 超弩級の攻撃を受けた気がした。 (モヤモヤァ)
 見えないからこそ、想像が止められない。あぁぁ~~っ。

「ちょ、ちょっとぉ。素っ裸で抱え上げたまま、停止しないで~っ! 恥ずかしすぎる……」

 え? 想像を抑えようとするオレの良心の欠片に、非情な王手の一撃。す、素っ裸で、停止? ぐぁっ。脳内が加速する。彼女の甘い声から放たれる言葉だからこそ、今の見えていない羞恥心全開な状態を120%補完するには充分過ぎた。
 見えてないけれど、今のオレの手のひらには、リアル黒子の柔肌がある。そしてその指先には、その先の小高い丘へと続く麓の一角。その柔らかさたるや……だ、だだ、だめだ、その先を想像しちゃ。

 リアル黒子に触れている感触は、刺激的過ぎる脳内黒子姿を、さらに妖艶に補完する。オレの心を絡めとるのにそう時間は必要なかった。う、でちゃ……っ……た。うぅ。見てもいないのに。想像に負けたこと。理性が欲望に抗えなかったこと。何より、早かったこと。複雑な敗北感から、一気に放心状態に。

「ちょっとぁ。聞こえてる? 何で止まってるの? 恥ずかしいよぉ」

 ハッ! 一気に我に返る。良心の呵責から、自分の情けなさから、涙が出てきた。君を汚すつもりはないのにこの背徳感。

「ご、ごめん。ズズッ」
 彼女を足が着くまでゆっくり下ろす。

「泣いてるの? そんなにひどいこと言ったかしら? ごめんなさい。でも恥ずかしかったのよ」

 違うんだ。ごめんなさいはコッチのセリフ。
 でも彼女の声とその表情は、甘美な誘い。さっきの背徳感もなんのその。軽々と吹き飛ばしていく。瞬く間に、再び心は彼女色に染めあがる。それでなくても、第一印象で既にずきゅぅん、と打ち抜かれ、話すごとに好感度はうなぎ登り。声と言葉の波状爆撃。粉々になったというか、骨抜きにされたというか。もう彼女には抗えないことを一方的に悟る。

「じ、じゃあ、抱っこして出すね。右手は右肩で、うん、ここだよね」
「そう。その辺」

「左手は両足の膝の裏から、太ももにかかるところだよね?」
「たぶんそのあたりかな」

 左手で位置を確認しようとずらしていく。

「腰はこの辺?」
「ひゃ。そ、そこはお尻の近くだよ……」

「ご、ごめん。もしかして足が長いのかな?」
「さぁ、どうだろう? 全身を見た記憶もないからわからない」

「じゃあ、この辺が膝裏の太もも寄りのところ?」
「あっ、そ、そこは太ももだけど、お尻寄り。そこでも良いけど……ちょっと恥ずかしい、か、な?」

 ずきゅぅん。

「ごごご、ごめん。じゃあ、この辺?」
「そう。その辺」

「じゃあ、抱き上げるよ?」
「お願いします?」
「せいのっ!」

 じゃぽんっ。いっせいに抱え上げた。と思ったら、思ったより軽かったから、勢いが少し余って後ろによろける。
 抱き上げたしなやかな肢体が自分よりに。少し傾き加減なうえ、落としてはまずいと腕に力が少しこもった。あ、自分の右胸部分に彼女の二の腕と、その上に感じたことのない柔らかな感触。こ、これは、お、、、。い、意識が飛びそうだ。グルグル、回る。顔が熱すぎる。きっと真っ赤になってると思う。顔を見られてたら恥ずかしい。

 彼女から、心配される。
「だ、大丈夫?」
「う、うん」

 バ、バレてないみたいだ。ふぃーっ。
「じゃあ、左に90度回転してくれる? そう。半歩くらい前に椅子があるから、そこに座らせてほしいの」
「わかった。この辺かな?」

「半分お尻が落っこちちゃうから、10センチくらい前。そう。そこで下ろしてくれる? うん、ありがとう。じゃあ、今度は右前に一歩進んで、左90度回転。その辺にもう一つの椅子と、桶と、シャンプーと、リンスがあると思うから、それで髪を洗ってほしいの」
「わかった」

「あっ、その前に。今までのでわかったと思うけど、私の身体、なぜかいろいろ空っぽになっていたのか、身体がうまく動かせないの。でも、お風呂に浸かって、血が巡ろうとするけど、うまく流れないみたいで、今の状態なの。最初にしてくれたみたいに、手と足をほぐすように、軽くマッサージしてもらえると、少しは自由がきくような気がするの。今お願いできる?」

「いいよ。そんなことくらい。いつでもやってあげるから、いくらでも言いなよ」
「ありがとう。嬉しい」

「じゃあ、まず肩から揉もうか? 先に首まわりと肩をほぐしたほうが、血の流れ的にはいいような気がする」
「お任せします」

「じゃあ、始めるね」
「あっ、気持ちいい。すごく上手だね。頭の憂鬱さが薄れていく感じ。あっ、肩も。そこそこ。う、うん。こんなの初めて。天才なの? 毎日お願いしたいくらい」

 彼女の甘美な声と言葉が、脳をくすぐり続ける。

「うっ、ふぅーっ、うん、はぅ」

 終いには怒涛の重爆撃。オレのハートを守り固める強固な理性の鎧は、するりと脱がされ、小さく細かく揺さぶりがかけられたかと思ったら、最後の漏れるような吐息に、オレの素っ裸のハートはもう粉々に……

「あああ、あの、その声、ししし、刺激的すぎて、心臓が爆発しそうで、その……」
「あああ、ご、ごめんなさい。変ですか? 私の声」

「いや、変じゃなくて、むしろ凄く素敵な声で、でも、だからこそ、とろけちゃいそうで」
「え? いや、凄いのはあなたのマッサージのほうで、とろけちゃいそうなのは私のほうよぉ」

 端から見たら、何? この二人、みたいな会話だが、理屈じゃない。もうオレの心は鷲掴み状態だ。いやいや、勝負なんてしてるわけではないけれど、何故か敗北を認めざるを得なかった。ん? なにに? 

「いやいや、もうオレの負け。降参です。す、すす」

 ここでやめておけば良かったのに、後から後から湧き起こる心の声の濁流の圧に抗えず……

「好きです。愛しています。結婚してください。初めて見たときから一目惚れです」

 あ、極度にテンパってしまって、思わず心の声が零れてしまった。あぁぁぁ、もぅ止まれない。突っ走るしかない。

「き、君のことをどこの誰かも、何が好きで何が嫌いかもよく知らないし、君みたいな可愛い子が振り向いてくれる訳ないし、既に心に決めた恋人がいるのかもしれない。でも、会って間もない短い時間だけど、記憶を失っている、まさに素の君を見て、今まさに素っ裸の君を前にして、目に見えている今の君以上の本当の君がいるのかもしれないけど、今の君未満の君がいることはない。今後、これ以上の君を知るしかない以上、今の好きから、それ以上の好きになる未来しか思い当たらない」

 もぅなにがなんだかわからなくなってきた。でも発した言葉は終わらせなきゃ。

「その愛らしい顔、声、仕草、思いやる心。打ちのめされた敗北感しかない。君のすべてを一生をかけて見ていたい。そして守っていきたい。心からそう思う。
……あ、ああ、言ってしまった。あわわわ。思いっきりテンパってた。ごめん、忘れてくれていいよ」

 黒子はぽかーんとするばかりだった。

「そそそ、そ、それは、ももも、もしかしてプ、プロポーズなの?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...