Jet Black Witches - 1萌芽 -

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第26話 血筋 〜 Makoto ep5

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 無事出産した娘に『理≪まこと≫』と名付け、揃って自宅に戻り、娘の面倒は二人で交互に見ていくことで、今後の方針が決まる。

「よし、決定。それはそうと、いくつか確認、共有、整理をしておきたいと思ってるの」

「うん、お世話もだけど、今日の出来事について、だよね?」

 めでたいイベントではあったが、1日で数カ月分の行程を一気に成し遂げ、憔悴目前の疲れ具合にあったソフィア。顔は正面を保ったまま、横目で視線を合わせて頷きで返す。そこから目線を落として次のようなことをゆっくりと語り始める。

 ・マコトの知能、魔力等のスペックの高さ
 ・ジンとのオーラの交わりがきっかけ
 ・ソフィアへの魔力補充が、実は並行して胎児の成長の後押しまで盛大に行っていたかもしれないこと (常軌を逸する成長に繋がる)
 ・さらに以下のこと
  ・曖昧化の魔法をマコトも発動
  ・教えてもいないのに見様見真似でできてしまう
  ・魔力量はまだ小さいがイメージ的に的確に捉えて純度の高い魔法が発動できてしまう
  ・末恐ろしいほどの魔法の天才の予感
 ・マコト自身も曖昧化がかかり今日のことはおそらく覚えていない
 ・これから未来、無意識に魔法発動された場合の周囲への影響を懸念
  ・少なくとも物心つく年頃まではマコトの前では魔法発動は避ける

「や、そうだったの? オレがきっかけ? またやらかしちゃったわけか」

「ううん。確かにきっかけだったかもしれないけど、遅かれ早かれ起こっていたはずだから、かえって無事に収まった今回の状況は、きっとラッキーだったと思うわ」

「そうか。うん、そうだね……でも、まだ喋れもしないのに天才って、そんなにすごかったの?」

「何も教わることなく、目前のことを感じ取って、そのまま魔法発動なんて、今の私でもそうそうできるものではないわ。そのセンス自体は私の血筋だからとおおよそ理解できるけれど、生まれたての赤ちゃんが、となると話は変わってきちゃう。あまりにも驚異的すぎるわね。おそらくはあなたの血筋の影響じゃないかしら?」

「え、オレ?」

「そう。あなたよ」

 唐突にハチが回ってきたが、訳が分からず口ごもるジンにソフィアが付け足す。

「推測だけど、見たり聞いたり感じたことから、その本質的な部分を的確に捉えられる、そんな力がこの子には備わっているのだと思うの」

 理解の片鱗には触れただろうが、まだうまく伝えきれないと感じたソフィアは、例をあげようと記憶を探り、行き当たった思い出話をそのまま話し出す。

「そういえばジン? あなたって、私と話しているときでも、たまに明後日の方向の話をしているように感じて、何を言ってるの? と思うことがたまにあるんだけど……」

「明後日? え? ……」

 当時のソフィアは思っても口にするほどではなかったと判断して伝えなかったため、結果、初耳となるジンは驚きやや硬直してしまうが、かまわずソフィアは続ける。

「……暫く後になってから振り返ると、あなたの言ってたことが本質を捉えた最適解だったりしたことが何度かあったわね?」

 明後日の方向が実は最適解と言われたら、気もそぞろに取り直すジン。改めて記憶を振り返る。

「……そうだっけ? でも、あー、そういえばあったかなぁ、そんな感じのこと」

「そうよぉ、あのときのあなたには核心を見据え、その先にある結末が見えていたのよね? そんな能力がこの子に加わることで、本質的なところを捉えて具現化してしまったのね。そうとしか思えないもの」

 常々思っていた、ソフィアの中で気にかかるが聞けずにいたことでもある部分で、ふだんは目前の場面の状況が違いすぎることから切り出せずにいたことだが、これがジャストフィットな状況だと、今が好機とばかりにソフィアは話題としてジンにぶつけてみたようだ。

「いや、先のことが視えていたわけでなくて、ホンのちょっとした違いに気付いた程度なんだけど……」

 ぶつけられた話題に片鱗の説明だけで返すジン。しかし話の奥に侵入できそうな糸口を感じ取ったソフィアの瞳孔は僅かに開き、左目の眉が上がる。そしてその向こう側にあるものにこががれながら先を促す。

「へぇー。例えばどんなこと?」

「え? あぁ、例えば見た目で言えば、輪郭線がそこだけ僅かに飛び出た感じとか?」

 深堀りされるとは思っていなかったジン。少し驚き、また少しだけ補足して返す。ソフィアはその言葉に頷きつつもまだ浅さを感じ、さらに奥へと先を促す。

「他には?」

「あー、うん。それ以外では、状態とか時系列的な差違かな?」

 ソフィアの瞳孔がまた少し拡がる。これまでのジンは自身に関することや自分の考え方について聞かれることは少なかった。過去にあるにはあったが、細かく説明しようとすると、そこまでを必要としていないことが相手の面倒臭そうな態度に現れるため、それ以降は話すことすらはばかるようになる。

 今尋ねられることは想定していなかったが、大切な存在であるソフィアに不必要な長話をしないよう、ポリポリと鼻を掻きながら照れくさそうに小出しの言葉で返すジン。

 ところが、ジンの内側に秘めているもの、それを指し示していると思われるワードがソフィアセンサーにヒットする。両眉が上がり眼を大きく開くと、ソフィアの好奇心と探究心のギアが1段上がり、さらに深部へと促す。

「ほぅ、それよ! 詳しく……」

 ソフィアに問われ、思考の少し先にある部分、それが尋ねられているのだと理解すると、視線を左上と下を行き来させながら、返す言葉を紡いでいくジン。具体的な話は長くなるからそれを避けるように、うっかり熱中して暴走しないように気をつけながら、要点となる部分だけを拾い上げては綴り、返していく。

「例えば文字ならそれが表現する先に指し示すものや、時系列的な状態の表現。写真や映像なら色や形はもちろんだけど、何かが付け足されているような状態。そんなものの微妙な違いが気になっただけのこと。前提となる事象から、違和感? 何かそんな感じの整理のつかない気持ち悪さというのかな? そんな感覚が浮かび上がる、という感じで……あぁ、やっぱり長いよね?」

「ううん、大丈夫よ、続けてくれる?」

「あー、うん。えっと、その先には選択肢というか分岐点が膨大にあるんだけど、その違和感の正体が何かを辿っていくと、自ずと経路が定まっていって……もちろん判別が付きにくいところもたくさんあるんだけど、最初に見つけた差異や事象の前提から論理的な掛け算みたいなもの、えーと、これが成り立つならこちらは成り立たない、みたいな論理的な判断結果を組み合わせていくと……あぁ、その辺りはプログラミングにも近い感じかな? そこからあり得ない組み合わせを除いていって……すると、あれ? みたいな感じで答えっぽい結果に行き着くんだ。じゃあそれで合っているのかを確かめるために逆算していくフェーズで、今度はその答えを軸に逆の方向へ辿っていくんだ。すると、なるほど、そうか、という感じで繋がるんだ。なんかたまたま良い感じの答えに行き着いた……みたいな? まぁどれもたまたまだったような気もするよ? それにそうやって道筋を追わなくても、世の中のことはいい感じに繋がっているというか、多くの人や動物、気象、環境が密接に繋がってできているから、どこかが綻ぶと必ずどこかに皺寄せが発生するようにできていて、最初に感じた違和感もそんな皺寄せの結果であることが多いんだよね?」

 やはり少し長い説明になってしまったが、一しきり、問われていることの要点だけは綴れたと思うジン。話しきった満足感にソフィアを見上げると、ソフィアの目に細かすぎる言葉を放った自分がどのように映ったかがふと気になり、濁す言葉を付け足すジン。

「それほど大した話じゃないよ。たぶんただ細かすぎるだけなんだ。むしろ細かすぎて神経質だとかで気持ち悪がられないかが心配なくらい、あはははは」

「なぁに言ってるのかしら? でも、まあ、そうね。日本なんかの先進国だと、ゆとりある平和過ぎる時間の流れの中に身を置く女子なら、細かいことに拘る人種に対してはちょっと、いや思いっきり引いちゃうかもねー。確かに」

「やっぱり? うむむむぅ……そうなのかぁ……」

 ソフィアの言は説得力が高く、これまで推測の域を出なかった防護壁の正しさ、即ちそのボーダーラインを越えなかったからなんとかやってこれたことが証明されたようで、それを超える素の自分をさらけ出してしまった場合、思いっきり引かれ、立ち直れないほどのダメージを食らった自身の姿を思い浮かべ、がっくりと肩を落とし、しょんぼり俯き少し涙目になるジン。その落ち込み方を見据えたソフィアは、もしかしたら言い過ぎたかもな自覚と、大雑把な括りだったことと、優しさの塊のようなジンだから、必ずしもそれに該当するのではないことを言い直す。

「うーん。そうねえ。でもでも、引いちゃうのは、たぶん怪しさを感じたり、細かすぎる拘りを他の人に押し付けたりが原因で、心配りや解決事に対するものなら、むしろアバウトな人は嫌われて、そこに細心の注意を払える人なら好まれると思うなあ。ジンの場合もその後者の範疇だと思うから、怪しく見えなければ問題ないんじゃない? それに何かを解決してもらえた側にとっては、そんな緻密さもヒーローみたいなかっこよさに感じてくれるものよ?」

「そ、そう? でもまぁそんなわけだから、大した能力ではないんじゃないかな~」

 ソフィアの優しさに触れたのだと理解し気を取り直すジン。引かれないとしても、好印象ではないことも含めて、元の話となっている能力云々を打ち消そうとする。

 しかしそこにソフィアは食いつく。ジンの説明を字面だけで聞くなら、少し細かいところに気付ける賢さ程度の印象を受けるかもしれないが、ジンの気付きと論理展開により、ものの見事に難局を打開する姿をソフィアは過去に何度か目にしてきたからだ。そしてそのいずれでも、何事もなかったかのように一切の誇張のない自然体で、解決してよかったね、と小さな問題解決の体で終わらせてきたこともだ。

「いやいや、そこ重要なところ。ふつうの人なら気付きもしないところよ? なるほどね。よく見ていること、それで今生じている差違に気付けるところ。しかも時系列的に少しだけ未来の姿も視野に入ってる……これはもう、核心を見抜いている、といっても言い過ぎじゃないわ。不思議ね……改めて話してもらえたことでわかったけれど、頭の中では壮大すぎる分岐世界を相手に目まぐるしい試行錯誤が展開されていたってわけね? まるで科学者のような人となりにも思えてくるわ。なるほど……うーん、なるほどね。そうね、それなら合点もいくというものね」

「や、それ、持ち上げ過ぎじゃ……」

 ジンの特徴的な資質の要点を上げるソフィア。かいつまめば見抜くという大きな資質に集約されるが、その先の膨大な論理的照合をやりきる能力の奥深さも含め、称賛とともに納得の顔つきとなる。予想していなかったソフィアのそんな表情や言葉を受け止めるジンは、過大な評価ではと照れくさそうに返すが、それにもソフィアは突き返す言葉を放つ。

「ううん。気付いていないのかもしれないけど、あなたの資質とはそういうものよ? 自己評価が低すぎるんじゃないかしら?」

「そ、そう?」

「そうよぉ。欲のない優しい人だから、きっと手柄も誰かに譲っちゃうのでしょうけど、前面に押し出さないものは誰にも気付かれず評価もされない。それ即ちできないと思われているのと同じことよね。これまではそれでも良かったかもしれないけど、これからはそれじゃ困るんだからね。わかってる?」

「え? なぜわかるの? まるでオレの人生を見てきたみたい……まさか、そんな魔法でもあるの? それに困るって?」

「もう、わかるわよぉ。そんな魔法なんてないけど、あなたを見てればなんとなくの想像はつくわ。私だって、人を見る目だけは確かなのよ? それと忘れてない? ジン? あなたはお父さんになるのよ? 子は親の背中を見て育つものだから、この子にかっこいい背中を見せてあげなきゃ」

「は! そそそ、そうだよね……」

 これまでなかった新しい視点の存在に驚き、認識を新たにするジン。俯きながらソフィアの言葉を噛みしめ、子どもが見据える自身の背中をイメージする。

「……オレもしっかりしなきゃか。そうだな」

「ああ、しっかりはしてるのよ。あなたの行動はきちんとしているわ。ただ目に見えるあなたの姿が子どもに誇らしく映るかは別よね?」

「う! そうだね。……なるほど……うん。わかった」

 ソフィアの真意を汲み取り、逆光で眩しさの中、影となる父親の大きな背中を見つめる娘の姿を思い描く。揺るぎない自信が表れる凛とした後ろ姿のジン。ソフィアと概ね理解は一致していると思われるが、そこに娘がうっとりして好き好き光線を放つようなイメージも加わる。娘に愛されたいただの父親でもあった。

 目前のやや妄想にふけるジンを見届けると、ソフィアはさらに気にすべきことも付け加える。

「マコトちゃん? うー、やっぱり言いづらいかな。マコちゃんはあなた譲りの才覚を秘めている可能性が高そうね。頼もしいし、ふつうなら優秀な子に育ちそうだけど、わたしの血が混じることで非凡な人生となりそうなこともちょっと気にしなきゃだけどね」

「そうか、そうなんだな? まだオレには知らないことばかりだから、先の予測もできてないけど、これからを歩むマコトにとっては、ふつうとは違ういろいろな障壁が待ち受けているかもしれないってことか。父親として寄り添って生きていくんだから、オレにも勉強する義務があるってことだな?」

「そういうことになるわね。主には私側の事情だけど、あなたには頑張ってもらうしかないから、期待しているわね、ジン?」

「わかった。任せてくれ。っと言ってもわからないことばかりで不安はあるけど、そこはソフィアから学ばせてもらうことになるからよろしくね、ソフィア?」

「もちろんよ。それで早速だけど、さっき説明したように、世の中のことはもちろん、そもそも言葉すらもわかってないのに、息をするように魔法を発動されたらたまらないわ。少なくとも物心つくまで、暫くの間は魔法に触れないよう、私たちが気を配らなきゃなのよ。可愛い我が子だから護らなきゃ」

「おぅ。ふん (ヌ)! 護るぞぉ!!」

 急遽、新たに家族に加わった我が娘だからという理由以上の護らなければならない使命感を強く抱いたジンは、気持ちの昂ぶりにまかせてつい大声で唸ってしまう。

「ちょ、こら、ジン、声大きい……」
「ふぇ?」
「あ、すまん……」

 ジンの声にびっくりして眠りから覚めるマコト。まだ眼は閉じたままだが、驚きと恐れの感情のまま泣き出してしまう。

「ふみゅにゅ、ふ、ふ、ふぇぇぇん」
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