Jet Black Witches - 2芽吹 -

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第7話 ニョロ太、心躍る

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 イルと、ニョロ太、ゲコ太を伴い、マコトは家の中に入っていくと、受け入れ準備をしてくれていたらしき両親の視線が集まる。

「あ、パパ、ママ、ただいま」

「マコト、おかえりー。風呂は準備できてるぞ」

 帰宅の挨拶を交わすと、向かって右奥に座っている父、ジンから、お願いしていた風呂の準備が終わっていることをにこやかに返される。

「ありがとうパパ」

 急にもかかわらず自分のお願いに応えてくれたジンへマコトは謝意と嬉しさ混じる最高の笑みを送る。

 ジンはいつもよりひときわ輝くマコトの笑顔に軽くノックアウトされる。見た目は平静を装っているから、妻ソフィア以外の誰にも気づかれることはなかったものの、ほんの数秒、意識が持っていかれたようだ。

 マコトの母、ソフィアは男の子達が視界に入ると、早速取り掛かれるように指示を伝える。

「その子たちなのね? そこのテーブルの上に座らせてくれる?」

「わかった」

 マコトはイルと見合わせ、それぞれニョロ太達の手を引きテーブルに向かいつつ、口だけはイルの紹介を始める。

「パパママ、この可愛い子がイル。仲良しなんだ。すごく賢くてテキパキしてるの」

 イルを大好きすぎるマコトは、少しでも両親に気に入ってもらいたいのか、短めだが、可愛い、賢いの全力アピールをぶちかます。横で突然聞かされるイルは恥ずかしくて堪らない。頬を紅く染め上げながら、慌てて自己紹介の挨拶を繰り出す。

「はは、はじめまして、イルです。いつもマコちゃんにお世話になっています」

 ただでさえ可愛らしいイルが心くすぐる声色に加えて初々しさまで足されたら、その破壊力も凄まじいものがあるようだ。さらに初顔合わせのフレッシュインパクトまで加わるから、部屋の右奥側、やや離れた位置に座るジンのハートも鷲掴みで、そのあまりの可愛らしさにジンは言いようもないくらいに相好を崩す。

「うわぁ、ほ、ほんとに可愛い子だね。現地の子と雰囲気が少し違うけどハーフなのかな?」

 大人の体裁を保ちたいジンは、心の内を悟られないよう平静を装いつつも褒めの言葉に質問を付けて返す。すると、可愛いと心から思ってくれたことがよくわかる褒め方だったせいか、イルは取り留めもなく心が揺さぶられ、顔全体をさらに赤らめながら、もじもじ、照れ照れの表情で、ぼそっと「ク……クォーター……です」と答える。イルをよく知る学校の友達に対するイルの態度は普段から毅然としていたせいか、直接褒められることが少なく、褒められ慣れてはいなかった。それゆえに上手な返し方のわからないイルの表情は初々しさに包まれたキラキラな眩さを放つ。ジンはその目映さにあてられ、やや驚きながら「おぉ」と心の声が口から漏れ出す。

 ジンと同様、ソフィアも『う、眩しい……』と心内で漏らしながら、何もかもが可愛らしい煌めく濁流に圧倒されるが、ソフィアの場合は、ただの受け身では終わらない。女性ならではの鑑定眼なのか、要所要所のチェックが無意識に発動する。目、鼻、口、顔の輪郭、肌、髪型、髪質、表情、体型、骨格、姿勢、ふとした所作など、ほんの一瞬のことだが、細かい粒度で捉えては僅かに目を見開き、ほぉほぉと心の奥に感触を刻んでいく。

 そうして一頻り見て終わる頃にはすっかりお気に入り状態となるのだが、『え? こ、これは……』と、ソフィアならではの特別の視点から一つの違和感というか特徴的な性質に気付き、『ふふふ……そうなのね……類は友を呼ぶ……のかしら?』と、しっかりと特徴を見定めていた。ソフィアより僅かに遅れるが、その性質はジンの目にも捉えられていた。ソフィアとジンは互いに見合わせ、驚きとなんだか嬉しそうな笑みを交わしていた。

 またイルの超絶美少女な見た目とは裏腹に、そんなことをまったく気にかける素振りも感じない、自覚すらしていないような素の性格にも好感度は増していくばかりだ。

『マコちゃとはまた違う愛らしさ。もうむぎゅーって抱き締めたいくらいよ。見てるだけでドキドキしちゃう可憐さ。まだまだ発見はありそうだけど、ひとまず堪能したわね』

 そう心で呟くと、ソフィアはご満悦の笑みと息を漏らし、改めて、ソフィアはお返しの挨拶に褒める言葉と謝意を添えて、優しい柔らかな眼差しで包み込むように返す。

「あらあら、ホントに可愛いらしい子ね。いつもマコちゃがお世話になってるのね。ありがとう。これからも仲良くしてあげてね」

 その超絶美少女ぶりを褒め称えられるがそんな自覚の薄いイルは、自身のことよりも、眼の前に現れた絶世の美女、過去に出会った美人はもちろん、映画やドラマに出てくるような美人女優さえも霞んでしまうくらいの美しさに圧倒され、『ふゎぁぁぁぁ……』っと、声にもならない息を漏らしながら、まるで夢心地のようにソフィアをうっとりと見入っていた。

 そんなところに急におはちが回って来たことに気付き慌てるイル。

「……え? あ! ははは、はい。もちりょん……んでで……すっ」

 本当にぼぉーっとしていたところへの不意打ちのようなソフィアの返しに、ふと我に返り、慌てふためき噛みまくるイルだった。湯気が出そうなほどの赤面状態だ。

「クスクスクス。慌てることはないのよ? 本当にどこまでも可愛らしいのね。それにしてもなんて素敵な髪なのかしら? 確かこの色、ストロベリーブロンドって呼ばれる、みんなが羨ましがる髪色よね? とても珍しいし、私は初めて見るけど、とても素敵で可憐ね」

 慌てるイルの初々しい姿を見ればこそ、いっそう愛でたい気持ちにかられるソフィアだが、さらに加えて一番の特徴ともいえる髪色を絶賛する。

「元々が超絶可愛い顔をしているうえに、この髪色が可愛さを爆発させているみたいね。それに……」

 それと同時にソフィアはちらりとジンを見やる。先ほどイルとの挨拶の場面では大人の体裁を保っていたジンだったが、イルの視点がソフィアに移ると、よほどイルが可愛く目に映ったのか、気を抜いたジンは緩みっぱなしの間の抜けた表情となっていた。そして、そんな変化を見逃したりはしないソフィアだった。

「……どうやらパパが好きそうな可愛さみたい。なんか顔がデレデレしてる。もう、パパ、守備範囲が広すぎない?」

 もちろん、子どもの愛らしさに対する反応であることはわかっていて、ソフィア自身も、イルの特別な可愛らしさに同じような感情を抱いているから十二分に理解できることだが、それでも腑抜けた表情になるほどの夫の変化は気になるようだ。念のためのくさびを打ち込みたいソフィアの牽制ジャブにジンは狼狽え反応する。

「そ、そそ、そんなことはないよ。ママ一筋だからね」

「あら? 冗談のつもりだったけど、その慌て方、うーん」

 ソフィアとしては、可愛いものを可愛いと思うことはごく普通の感じ方で、素直な反応を見せるジンだから、相手が子どもということもあり実はそれほど心配しておらず、くさびは打ち込めたと思うからもう大丈夫だと確信しているソフィアだが、それでも自分以外にそんな腑抜けた表情を見せることには微妙な気持ちが芽生えるのも確かであることを改めて認識する。

「まあいいわ。それより、その男の子たちを見なきゃだね」

 ひとまずジンは置いておき、ソフィアは本題の二人に取り掛かることを告げる。

「「よろしくお願いします」」
「はい。うん。目の回り以外は上手に除去できてそうね。目の回りのタオル、外すわよ? でも目は開けないでね」
「「はい!」」

 ソフィアはニョロ太とゲコ太の顔周りを交互に見比べ、まずは影響が少し大きそうなニョロ太を先に、特に目、口、鼻、耳の周りを集中的に診ていく。肝心の分泌物の毒を特定するために、マコトに尋ねる。

「マコちゃ、カエルの分泌物の毒って、この目尻に滲みてるやつかしら?」
「そうだけど、たぶん涙で薄まってるかも? こっちのハンカチのほうが、染み込んでるけど薄まってないやつだと思う」

「ちょっと油っぽい、これね」
「そうそう」

 ソフィアは分泌物の付着部分を指でなぞり、指に付着した油っぽいものを親指と人差し指で擦るように確かめると、ハンカチの縁で拭い去る。

「うん、除去対象は識別できそうだわ」

 なんとかなりそうだと聞いてマコトは感嘆の表情を見せる。それを見て、ウインクとサムズアップのジェスチャーを返しながらソフィアは続ける。

「任せなさい……顔以外は……うん。大丈夫かな?」

 今度は側面や頭の後ろ側に着目して診ていく。おそらく緊急度が低い部分だからたぶん手付かずなのかな? などと小さく呟きながらソフィアは続ける。

「髪の毛と、耳の裏、首回りはいっぱい付いてるね」

 除去すべき分泌物が掬える量に見えたからか、ソフィアは周囲を見回しゴミ箱を見つける。

「ちょっとゴミ箱取って」
「はいよ」
「はい、ありがとう。掬ってポイっと。掬ってポイっと」

 肌の表面と違い、髪の毛に押し当てるだけでは掬えない。オーラの触手のようなもので作業を行うから、見た目に詳細はわかりにくいが、おそらく櫛のようなもので、先端が鋸のようなギザギザな部分とそれを押し当てる土台となる平面をオーラで形作り、何段階かに分けて、髪の毛の束からこそぎ取るような作業となるようだ。ただ、肌表面よりは注意を払う必要がないのか、やや雑に見える動きでその分スピードも速そうに見える。ニョロ太が終わると、それより軽度のゲコ太も一気に済ませる。

「髪の毛と、耳の裏、首回りはこんな感じかしら?」

 一頻りの髪や頭の後ろ側の除去作業が終わったとみると、ソフィアはテーブルに予め準備していたコップを手に取る。

「お次は口っと。アルコール入りのうがい薬よ。はい、これを適量含んで口を濯ぐ。そうしたら、目の前にバケツあるから、そこに吐き出して」
「ありがとうございます」

 ニョロ太たちはコップを受け取り、うがいを始める。反対の手でバケツの位置を確かめ、濯いだものを吐き出す。
「グジュグジュ、ペッ」

「三回目からは喉のうがいも含めてね」
「ガラガラガラ、ペッ」

「そうそう、上手にできたね。もう、しゃべれるかな?」
「はい、ありがとうございます」

「よし、じゃあ、今度は目、行くよ。痛かったら言うのよ。滲みて痛いのは我慢するしかないけど、目そのものが痛いときはすぐに言うのよ。わかった?」
「はい」

 今度は目の回りだから、慎重に取り掛かるために、まずは状態観察だと、ソフィアは真剣な眼差しを近付け、一点を食い入るように見つめると、今度は角度を変え、光の反射を利用し、付着跡を浮かび上がらせてのチェックを行う。ここまでの一連の作業を、少しずつ範囲を変えて、所感を挟みながら繰り返す。

「睫毛、眉毛と周辺表面はOK。次は瞼の裏あたりだけど、ヘェ、意外に大丈夫そうだね。目尻付近にほんの少し染み込んでるくらいかな? 普通は本人パニクるから、目をたくさんこすって、もっと広範囲で悪化してるもんだけど、エラいね。我慢したんだね」

 ニョロ太が答える。基本ゲコ太は無口でニョロ太が代表して話す役目のようだ。

「いえ、すべては娘さんたちの指示が早く的確だったおかげです」

 ニョロ太の言葉の補足ついでに、イルはマコトをほめちぎる。

「あぁ、それ、マコちゃんがカエルの毒のことを知ってて、応急手当ての手際がすごかったからですよ。マコちゃんのママ」

 マコトにしてみれば、イルのおかげで締まりのある作業へと持っていったその手腕に感銘を受けている状況だから、負けじとイルをほめ返す。

「いやいや、この間、たまたまパパから教わったばかりだったのと、イルがテキパキしててすごいんだよ」

 それぞれが頑張ったことが伝わり微笑ましく思いながら取りまとめるソフィアは、次の指示を出す。

「そっかぁ、みんなの活躍ね。まぁいいわ。それより二人とも、お風呂に入ってらっしゃい。あ、もう、目を開けていいわよ。でもこするのはダメ。お風呂で全身とよく目を濯いでらっしゃい。あぁ、そうそう、服はここで全部脱いでいくのよ。洗わないといけないからね」

 ニョロ太、ゲコ太はおそるおそる目を開いてみた。

「うわっ、見えるし、痛くない。マコちゃん、イルちゃん、マコちゃんのお父さん、お母さん、ありが……えっ、きれい……。なんて美しさ? ……」

 最初、自身の状態に着目し、問題なさそうなことが確認できると、ニョロ太は自分のために力を尽くしてくれた面々に謝意を述べようとするが、最後のソフィアの顔をその瞳に映した瞬間、あまりの美しさに感謝の言葉も途切れて我を失う。

 ニョロ太の不審な言動にマコトはニョロ太の顔を覗き込む。すると目がハートマークに見え、あぁ落ちたな、とマコトは心内で呟きと溜め息を漏らす。

 遅れてゲコ太も同じような反応を見せる。それをチラッと続けざまに見たマコトの溜息はさらに重なる。

 続けてマコトはイルに目線を移す。すると、イルももじもじしながらソフィアに見惚れてる、そんな状況にマコトは軽く驚き頬を上げ笑みの息を漏らす。イルの場合だけはどこか嬉しそうな表情のマコトだった。ただでさえ可愛らしいイルにうぶな感情が加わるからか、思わず息を呑むような艶の増したその表情に愛くるしさも倍増するのだろう。意識を持っていかれそうになるが、踏みとどまり、再びニョロ太とゲコ太に視線を戻すと、マコトはボヤキをソフィアとジンに向けて投げつける。

「マァマ、またみたいだよ。ホント罪作りだよね。パァパ、また不安の種が増えたみたいよ? 困っちゃうね? やっぱり連れてくるのはやめた方がいいのかな?」

 一目惚れ症候群となるシーンはこれまで何度となく見てきたマコトだが、まさか同じ世代の男の子までとは、と呆れるばかりで、連れてくることの是非を唱える。

 だが、ソフィア自身は悪い気がしないこともあるが、マコトに不足しがちな友達との交流を促したいことを説く。

「いいじゃない。どんどん連れてきなさいよ。まぁ、立派なおうちではないけど、心温まる交流ができるのはいいことよ?」

 ちょうど今がキチンと確かめる良い機会と捉えて、遊びに来たい意志をイルは明らかにする。

「マコちゃん、私もまた遊びに来ていい?」
「イルはもちろんだよ。それにイルは女の子だし、ママを好きになってくれるのはマコも嬉しいもん。マコもママ大好きだから、仲間ができた感じかな?」

 どうやらイルはマコトにとって是も非もない特別な存在のようだ。そんな会話をしてると、我に返っていたニョロ太は、聞こえていた話におそらく便乗したいのだろうか。もじもじしながら言葉を発する。

「あ、ああ、あのボクらも遊びにき、来てもよ、よろしいでしょうか?」

「アハハハ、私はいいけど、ひとりじゃなくて、来るならみんなでいらっしゃい? ただ、マコちゃたちがいいと思うかはべつの話よ」

 ニョロ太の爆弾発言にも等しい申し入れにびっくりするマコト。いやいやいや、ってあなた誰よ? と心をざわつかせながら迎撃の構えで言葉を走らせる。

「エー! なに、ニョロ太、うちに来たいの? だって、ほぼ初対面だし、あなたの名前も知らないのよ? ねえ、イル?」

「えぇ? 知らないって?」

 了承されないかもしれないことはニョロ太の予想の範疇にあったものの、まさか知らない呼ばわりされるとは、これまで呼称しあっていたやりとりはなんだったのかと、ニョロ太は思わず驚きの声を漏らす。

 これにはイルも黙っていない。そもそも散々いたずらしかけているやつだからだ。

「そーよぉ。私も村長の息子さんとしか知らないし、そもそも、今日のこの騒ぎ起こした自業自得な張本人さんじゃない。それに私かマコちゃんにちょっかい出そうとしてたんでしょ? お友達にもなってないのに、それを一足飛びにマコちゃんのママに会いたいなんて、ありえないよ。私だってマコちゃんのママはまだ初対面なのに、ねぇ、マコちゃん?」

「えぇぇー?」

 あっという間に出来上がった却下の流れに、ニョロ太は驚きの声しか漏らせない。

 うっかり友だちになってはまずい。この話題はもうここで終わり。断ち切らなきゃ! そんな焦燥感にマコトは駆られ、強引でも話題転換させる言葉を放つ。

「そーだよ。というか、早くお風呂に入って毒を流してきなよ」

 しかし、解けない疑問にわだかまるニョロ太は食い下がり、投げ掛ける。

「あの? 知ってて愛称を付けてくれたんじゃなかったの? 変わった響きだけど、外国の言葉かな? オレ、ニール、それでこっちはゲイルです」

 真面目な顔で本名を告げるニョロ太。ニョロ太がニール、ゲコ太がゲイル。なんて偶然、というか、もう今日の出来事が起こったのはきっと運命だよ。一瞬のうちにそう思ったら、マコトは激しく吹き出さずにはいられなかった。

「ぷぅーーーっ! あははは、あははは、お腹痛い。偶然ね。ピッタリだったんだ。じゃあ、変える必要もないか? ニョロ太とゲコ太のままでいいよね? ねっ? イル」

 ことの経緯は知らないが日本語のわかるジンとソフィアは、ネーミングからなんとなく察していたようで、マコトと同じく、本名告白で軽く吹き出していた。初対面で失礼だからと顔を背け、かなり抑えたつもりのようだが、周りには十分伝わった。
 「「ぷっ」」

 イルは命名も成り行きも当然知っているが、笑っては可哀そうと思ったのか、吹き出すのはとどまれたが、笑うだけは笑いながら称賛で返す。
「うんうん、あははは、ナイスネーミング! マコちゃん」

 日本語のわからないニョロ太には何が可笑しいのかわからずのようだ。
「えぇ? な、なんか変な意味なの?」

 ソフィアはこの少しだけ可哀そうな流れを止めようと話を進める。

「あらら。あなた達、お友達じゃなかったのね? さっきも言ったけど、ここで全部脱いでいくのよ。マコちゃ、脱がして、連れて行ってあげて」

「了解ママ。イルも手伝って」
「え? ゎ、私も?」

 もうお年頃で、好意を寄せる女の子の前で脱ぐなんて羞恥の極みと思うニョロ太。
「わぁ、止めて恥ずかしいから、ごめんなさい。自分でできるからぁ……」

 恥ずかしがる様子にきょとんとするマコトだったが、男の子だからとはっぱをかける。

「あぁ、恥ずかしいんだね。でもパパの見慣れてるから気にならないし、いちいち見ないよ。男の子だから平気でしょ? バーンと見せびらかしなさいよ。イルもそうでしょ?」

 恥ずかしさに同意するイルは、突然ふられて動揺しながら返す。

「わわ、私はお母さんしかいないから、その初めて見たけど……あの、見ないようにするから、だ、大丈夫。た……ぶん」

 ニョロ太たちの必死の抵抗の言葉も空しく、抗えずに裸にむかれ、マコトたちに先導される。

「ば、ばか、ゴニョゴニョ (好きな娘の前なんて、しゅ、羞恥心がぁ)」

 必死に両手で前を隠すニョロ太。
 ゲコ太は終始静かに、前を隠して内股気味で付いて来る。

 マコトとイルが先導する形で前を歩くから、恥ずかしさもそれほどないだろうとマコトは思っていた。

「あ? 聞こえたぞぉ。好きな娘? やっぱりイルが好きなんじゃない」

「え? 私? 私はまだそういうのは考えられないよ」

 ニョロ太、ガーンと衝撃が走るとこうべを垂れて落ち込む素振り。イルの言葉に軽く傷心の表情だ。

「アハハハ、ドンマイ。タオルとひとまずパパの服を貸してあげる。私が持ってくよ。付いてきてね。それと、見たとおり、キャンプ生活してるから、お風呂はドラム缶だよ? 入れる?」
「え? 初めてだけど、たぶん大丈夫。それより、どこまで付いて来るの? 恥ずかしすぎるよ」

「ちょっとはガマンしなさいよ。それにお風呂の場所や要領わかんないでしょ?」

「それもそうだけどぉ……」

 ちょこちょこ振り返るたびに、顔だけ見るようにしているから、少しは気にならなくなったかと思ったのに。まだ言うか? と、ちょっとイラッとした表情でマコトはニョロ太の顔を覗き込む。

「あ、そんなことより、今日は本当にありがとう」

 が、話題が変わってきたので少し表情を緩めるマコト。

 すると、ニョロ太が話し始める。

「痛かったけど、被害はほとんどなかったし、マコちゃん? のお母さん、あんなに綺麗な人、初めて見たよ。まだドキドキしてる。ん? あれっ? マコちゃんも幼いと思っていたけど、よく見るとお母さん似ですごく可愛いね」

 不意打ちのジャブがクリーンヒット。マコトは思わず照れて俯いて視線を下げる。

「と、突然何よ!」

 あっ。っと次の瞬間、視線の先の異変にマコトは気付いてしまう。

「ととと、というか、きゃー、なんかエッチなこと考えてるでしょ? お、おちん、……ちょっとおっきくなってるよー、きゃー」

 不意の視線に慌てるニョロ太。

「わ、ば、ばか、見るなよ」
「き、急に誉めるからでしょ?! 恥ずかしくて、下向いちゃったじゃない! あぁ! もっとおっきくなった」

 噂では聞いたことがある状況を初めて目にするマコト。だからこそ細かな変化にも敏感だ。

「ば、ばか、可愛さを意識したら、勝手になっちゃったんだよ」

「そ、そーゆーもんなの?」

 そう言っている間にも、さらに大きく動き出す様子に、もぅマコトの目は釘付けだ。恥じらうのも忘れ、思わずしゃがみ込んで見入ってしまう。

 そんな状態になってしまうと、両手でも隠しきれないニョロ太。マコトの視線にあたふたあたふたパニック気味だ。

 二人の言葉に反射的に、振り返って下方を見やるイル。
「きゃっ」
「イルにも見られた! もーどーにでもして……」

 ニョロ太の中で何かが弾け飛んだ。
 ゲコ太ももじもじしてるが、つられて同じような状態だ。少し腰が引けて、なんとか隠そうとはしているが、隠しきれてない。

 まだまだ純真なマコトにとっては、目の前の状況変化に興味津々だ。

「イル、恥ずかしいけど、でも、おもしろいよ、これ。なんか別の生き物みたい」

「わわ、私もそんな状態の見るの初めて。恥ずかしくて直視できないはずなのに、目が離せない、どーしよー」

 顔を両手でしっかり隠し、恥じらいを見せるイル。しかしパーの形の手は、指間全開。視界全開。両目全開。瞬きなし。

「うわっ、見られてる恥ずかしさで余計に……うぅ。ば、ばか」

「あれっ? 泣いてるの? ごめんなさい。そんなに恥ずかしかったの? しょうがないなぁ。仕方ない。マコも脱ぐから、一緒に入ろっか?」

 見るに見かねて、一緒に入るなら恥ずかしさも収まるかとマコは服を脱ぎ始める。

「なっ! やめろ、バカァ」

 羞恥心全開とは裏腹に、蠢く興奮。高鳴る鼓動。トクン。既に感じ入っている。そんなところへさらなる刺激が舞い込む。トクン。思いもよらない言葉に膨らむ妄想。トットクン。マコちゃんの脱衣。トクントクン。一枚脱ぐ、もう一枚、、最後の一枚に手をかけ、ゆっくりと。トットッ。そしてすり落ちる。トットッ。ぐるぐると妄想は加速する。。一糸纏わぬ生まれたままの姿。トトトトッ、ドックン。ここまで僅か0.8秒。……っとそんな妄想がニョロ太の脳裏を高速に駆け抜け……弾けた。

「うっ……。し、しまった」
 っと、うっかり、、慌てふためき前を、いや超局部を両手で覆い隠すニョロ太。

 マコトの行動に慌ててイルが制止に入る。なんとかシャツ一枚脱ぎそうなところで乙女の危機は防がれる。

「マ、マコちゃん! ダ、ダ、ダメよ。乙女なんだから、そうそう裸は見せるものじゃないのよ!」
「お風呂はあっちだよね」

 ニョロ太は必死の形相で、被せ気味に尋ねる。

「うん」
「先に行ってる」

 絶対にバレてはならない、墓場まで持ち去りたい秘密とともに、慌ててこの場を立ち去りたい衝動に駆られ、ニョロ太はお風呂に駆け去る。ゲコ太もついて行く。

「わかった……あらら、返事も聞かないで走って行っちゃった。よほど恥ずかしかったんだね……ん?」

 クンクン。なにかの残り香? とマコトはなにかの匂いをキャッチする……が、すぐに消えてなくなり、首を傾げる。

「どうしたの? マコちゃん」
「ん? あぁ、なにかの匂いがした気がして……でも今は無くなったけど……あ! あいつらさてはお風呂にあまり入らないのか臭いんだよ、きっとそれかな?」
「あー、そうかも。そう言えば何かの匂い、私も感じたような。さっきはいろいろ恥ずかしかったからあまり気にならなかったのかな? きっと彼らは臭いんだね」

 どこまでも純真無垢な二人のやりとり。小さな品位を犠牲に辛うじて前途ある彼らの品性は今日も保たれる。

「そうだね。たぶんそうだよ。くちゃいのくちゃいの飛んでけー」
「え? 何それ、あははは、意味わからないけど、なんか可笑しな響きね」
「あー、そぉお? 日本でよく使われる言葉かな。臭いのバイバイみたいな? で、イル? そういうもんなの?」
「え? 何が? あぁ、さっきの話ね。そうよー。好きになった人にしか見せちゃいけないんだよ」

 好きになった人、というものがピンと来ないマコト。両親やイルに対しての大好きと思う感情とは少し違いそうなことをイメージするから、輪郭が曖昧な、ただ『好きになった人』というラベルが貼られたまだ会ったことのない誰かという存在でしかなかった。そこに境界線が引かれるらしいが、そう言えば、と昔の記憶を思い起こすマコト。

「ふーん? 去年まで近所の男の子たちと一緒によくお風呂に入ってたよ」
「それは、まだ分別の着かない幼児だからいいのよ。確かにマコちゃんもまだ幼いけど、他の子と違って、しっかりと分別付いてるでしょ? それにそろそろ恥ずかしいって気持ちも芽生えてきてるでしょう?」

 まだ何も見えてこないが、イルの放った『分別』という言葉は、今のマコトの日々を繰り返す中の行動を振り返れば、なんとなく当てはまることがいくつか思い当たることにマコトは気付く。

「ふーん、そういうものなのかぁ。そういえば、パパもママも、最近はキチンと向き合って話をしてくれるようになってきたのは、分別がある、って認めてくれているってことかぁ。それに、うん、その恥ずかしいって気持ち? ちょっと感じ始めてはいるんだよね。でも、急に恥ずかしがるのも変な感じで、どうしたらいいのかモヤモヤしてたんだ」

 ただ一人で考えることと違って、誰かと話し、その会話のやりとりから生まれる気付きがまた別の何かを形作る感覚に、マコトの心の奥底で嬉しい気持ちが芽生える。そして相手がイルだから余計に的を得た着想に繋がることから、イルとの会話がどんどん楽しいものに変わっていく予感。羞恥心という概念もそれを共有すべき相手がイルであるなら、これからのイルと過ごす時間はもっともっと楽しいものに変わっていくに違いないとマコトは思い始めていた。

「そうでしょ? もう恥じらいのあるレディとしての振る舞いをしていかなきゃ、だよ」
「わかった。ありがとう、イル。またいろいろ教えてね?」

 イルの内に秘める知識から、これからも教わりたいことの約束を取り付けるマコトだが、それはイルも同じ思いを持っているようだ。

「わかったわ。私もマコちゃんに教わりたいことたくさんできたしね」
「そうなの? イルの方がずっと物知りだと思うけどね。あっ、そうそう。ねぇねぇ、イルは知ってるの? なんで男の子のアレは、あんな風におっきくなるの? パパと一緒によくお風呂に入るけど、あんなの見たこと無いよ」

 早速イルの見識にマコトは問い合わせてみた。多くの人が知っているようなことだったとしても、このような類のことは誰にでも聞ける話ではなさそうなことから、今イルに尋ねておくべきだと考えたからだ。

「え? マコちゃんは知らないの? ま、まぁ、そうね。私だってまだ幼い部類に入る年齢だし、周りの同い年もみんな知らないくらいだもの。知らなくて当然かぁ。知りすぎてるのもなんだし、私だって、詳しい訳じゃないけど、軽く教えてあげる。あのね、ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョ。なんとなくわかったぁ?」
「えっと、なにかで読んだことがある、雄しべと雌しべ、みたいな話?」

 マコトはテレビやビデオなどの様々なコンテンツを数多く鑑賞してきたから、言葉としては認識していなくても、性に関する機微なカテゴリの知識であることを薄っすらと感じていたが、どのコンテンツでも、まるで示し合わせたかのような、肝心の部分が誤魔化されたものに仕上がっているため、そこだけぼんやりとしたイメージでそのまま放置していた状態だ。それゆえに、今それが解き明かされるのかと、少しドキドキしながら聞いていた。

「そうよ。まだ学校にも入ってないのによく知ってるね」
「エヘヘ、たぶんほとんどはアニメか、マンガからの仕入れた情報だよ。でも、それとアレがどう関係あるの?」

 突破口的な説明は受けて少々輪郭が見えてきた感じもしたが、まだぼんやりとしているから、マコトはさらに尋ねてみた。

「雄しべと雌しべは植物の話だけど、動物でいえば、雄と雌。人間でいえば男と女でしょ? お父さんもああいう風になるときがあって、そのおかげで今マコちゃんはここにいるのよ」
「え? ええ? お、雄しべがアレなら、雌しべって、もしかして……、エー!」

 お父さんとお母さんと子どもがいる家族という構成は当たり前で、そこに雌雄の別があることは自然に受け入れているから、これまで特に疑問に思ったことはなかったマコトだった。イルの言葉で初めて子どもが生まれる仕組みというものを意識し、マコトの脳裏に衝撃が走る。同時にこれまで観てきたいろいろなコンテンツのそういう伏せていた場面が次々にフラッシュバックしていく。一瞬で理解するには不明点が多すぎるが、伏せられていた何かが指しているものが何か? 新しい認識が心に刻まれるマコトは、まだ幼児ながらも大人への階段をひとつ登ったのだった。

「だから、アレがああなるのは、種の保存のための本能なのよ。マコちゃんがみんなに裸をバーンって見せちゃったら、男の人はみんなああなって、大変になるのよ。だから好きな人にしか見せちゃいけないのよ。もう意味はわかるでしょ?」
「う、うん……さっきのこと思い出して、恥ずかしくなってきちゃった。もー、じっくり見ちゃったよ。目に焼き付いちゃってる。あー、もう。ドキドキしてきた」

 説明する側のイルも、恥ずかしそうにやや頬を赤らめながらの講釈だが、新たな衝撃の事実の片鱗を垣間見ることとなったマコトは、その感受性が受け止めきれないくらいの新事実だったから、視線も表情も定まらず、ただ顔が茹だりそうなほどに紅潮しながら火照る顔面を両手で必死に仰いでいた。

「私もしっかり見ちゃったよ。まぁ、恥ずかしいけど、逆に興味もあったから、ドキドキ嬉しかったよ。マコちゃんのおかげだね。ありがとう」
「そっか。慣れるまでドキドキがすごそうだけど、このドキドキもいつか嬉しくなるのかな?」

 イルの言う、嬉しいドキドキ、という言葉はマコトにはとても新鮮な印象に映り、イルとのこれからはもっとドキドキする瞬間が待ち受けていると想像するマコトの表情はどこか期待に満ちていた。

「そうなるといいね。私とマコちゃんは、ちょっとエッチな女の子になるんだね、きっと」
「アハハハ、それもいいかもね」
「あ、長話しちゃった。タオルと着替え届けなきゃ!」

 イルとの会話はいつも中身もあって、楽しくて、いつも時間の経過を忘れちゃう、などと思いながらのマコトは、すっかり忘れ去っていたニョロ太たちのことをイルの言葉で思い出す。

「そーだった、あはっ?」

「あはっ? じゃないわね。私も忘れてたけど、一応病み上がりみたいなものだから、のぼせて倒れてなけりゃいいけど……」
「そーだった。まぁ、死んでなきゃ大丈夫だよ。パパとママが揃ってるから、大抵のことは大丈夫」

 両親在宅の心強さもあるが、この短い時間の間に本当に沢山のいろいろな情報が駆け抜けたからか、もう何があってもどんとこいなマコトだった。

「ずいぶんと乱暴な口振りね。まぁ、それだけお父さんとお母さんの持っている力が凄くて、あんな凄いことができるマコちゃんがそこまで信頼しているのだから、きっとそうなんだろうと思うけど。それはあとで聞かせてくれるんでしょう? ひとまずヤツら救出が先だね! 行こ!」
「よし行こう!」
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