Jet Black Witches - 2芽吹 -

azo

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第24話 イルとアイドル

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 天気が悪く外の修練ができないため、急遽、行われた今日のパパの座学、フライト講座は、一区切りついたところで、パパから室内実技が提案される。

「今日はこんなところかな? 頭も程よく疲れただろうから、今度は室内でできる実技といこうか?」

 室内だと、つぶてなど、攻撃系は無理だから、オーラの操作か、限定的な浮揚訓練かな?

「といっても、マコトとイルの差が大きすぎるから、少しだけイル向けの補強を行いたいな?」
「マコもそれがいいと思う」

「イルは嬉しいけど、マコちゃんに申し訳ないなぁ」
「マコはイルが早く成長してくれたほうが嬉しいから、気にしなくて大丈夫だよ。イル、気にしすぎ!」

「わ、わかったわ、じゃあ、パパ、どうぞよろしくです」
「おう、じゃあ、フライト講座にも関連するから、今日は浮揚することを練習しよう。それだけなら室内でも充分できるし、マコトは前にやったことの精度向上を目標にするといいよ」
「わかりました」
「マコ了解。やったねイル。飛ぶのは楽しいよ」

「そうなんだ」
「じゃあ、まずイルは飛ぶならどういうスタイルがいい? 考えていることか、なければ興味のある方向性でもいいよ。魔女といえば箒に跨がるのがポピュラーな気がするけど、魔法なら何だってできそうだから好きなものがあるならそれもOKだと思う。ちなみにマコトはエアボードなんだ。どう? 何かある?」

「うーん、箒はスタンダード感があるのはいいのだけど、魔女を連想させやすいから、ちょっと避けたいかな? で、エアボードもかっこよさそうで、最低限の扱い方はマスターしておきたいところです。ただ、ひとつ試してみたい形があって……」
「ん? なになに? イルはなんかアイデア思いついたの?」

「え? アイデアってほどではないけれど、うーん、うまく説明できるかな? エアボードに乗るマコちゃん、とてもかっこよくて勇ましい印象です。でも、常にバランスをとる必要があって、言い換えれば、常に不安定とも言えるのかな? って。イルはその、何かに掴まっていたい衝動に駆られるけれど、そこには何もないことがちょっぴり不安に感じる気がするの」

「ほぅほぅ。じゃあ、イルはやっぱり箒派かな?」

「ううん、さっきも言ったとおり、箒は避けたい。そこで思ったのは、足場付きの杖みたいなものがあったら、掴まっていられるし、立ったままだけど、乗るという形態にもなるし、ちょうど杖の上部の握るところがパパが説明してくれた飛行機の操縦桿の役割で、倒した方向に進んでくれるイメージ。もしも高速飛行するときは、そのまま杖? というか棒を進行方向に倒したイメージで、飛行機の機軸みたいになって、それに掴まる感じなの。その状態は箒に跨がったときの高速飛行にも似てると思うの。たぶん空気抵抗を減らすために上半身は倒して、足も後に引いて、軸に沿うようなスタイルになるのかな、って想像してる」

「なるほど。通常のちょっとした移動なら、棒は立った状態で、その足場にイルは立って、操縦桿のような移動制御をするわけか。それで早く飛ばなきゃならない時は90度倒した状態に移行して掴まって飛ぶんだね? うん。おもしろい。イルの発想は柔軟だね? うまく完成できたらオレも使ってみたいな」

 ……ピチョン……ん? 

 イルは鏡のような水面に一滴が落ちて、生まれた波紋のような感覚を覚える。

「え? マコのエアボードもカッコいいでしょ?」

「うん。それを乗りこなすマコトはすごくカッコいいと思う。すごくワイルド。でもそこまでの若い感性がないと、しんどいときもありそうで、このイルのアイデアは、たぶんその折衷案なんだと思う。ざっくり言えば、エアボードに操縦桿を突き刺した感じ? あぁ、そういえば日本で昔、ローラースルーゴーゴーってのが流行ったことがあったな? うん。これいいかも? イルはその方式でいってみようか? 今度試作してみるから少し待ってて? それで、そういうことなら、エアボードの操作は感覚が共通するから、いったんはマコトと同じ方式で訓練してみようか?」

「はい! よかった。奇抜すぎて怒られるかと思ってたから嬉しい」

 ……ピチョン……まただ……

「良かったね? イル。良いのができたら、マコのエアボードにも良いところはフィードバックさせてもらってもいぃい?」

「もちろんだよ、マコちゃん。そんな風にアイデアが実現して、さらにはアイデアが発展して、別のアイデアと融合して、っていう流れ。なんかとても嬉しい。ドキドキして、新しい世界が生まれることをイメージするとなんかゾクゾクする、夢みたいなプロセス。もしかしてイルは発明家になりたいのかな? わぁぁ、私、なんか未来の私の姿が垣間見えた気がする。ありがとう、マコちゃん、ジンさま、じゃなかったパパ?」

「ふむ。イルはエンジニア系が向いているのかもしれないな? オレに近しい感覚を持ってる気がする。イルはそっち方面、物を造ったりする系の作業もこれからやってみるか?」

 ……あ、また……あ、何かが見える?

 イルの心が小刻みに揺らぐ。いや、これは心が震えているのか?

「え? そういう方向性も考えていいの?」
「あぁ、もちろん。イルの人生だから、思った方向へ進めばいいさ。それでできれば、その力をマコトやオレたちにも向けてくれるなら、万々歳さ」

 イルは、パパが重ねていく言葉ごとに、身の内に秘める領域、心の空間の無意識に感じていた境界線が急速に取り払われていく感覚に一瞬飲み込まれる。

 と、その輪郭が弾け、今まで何も見えてなかった線の向こう側。イルは、まだぼんやりだけど、確かな広がりを感じていた。新しい何かに出会えそうな予感が心いっぱいに埋め尽くす。

「うん。うん。うん。うん。なんで、皆さんは、こんなにも……うぅ……嬉しい。私からどんどん、どんどん、可能性が引きずり出されて……夢が湧き上がるこの感覚。私の生きる世界がこんなにも色鮮やかに、まだ見ぬ未来が、そこに至る選択肢が無限に増えていく感覚」

「皆さんが私たち親子を救い出してくれて得られた幸福感。それだけでももったいないくらいの幸せだったのに。そんな皆さんと同居させてもらえるだけでも、罰当たりなくらいの楽しく幸せだと思っていたはずなのに。魔法の世界に触れさせてもらえて、もう絶頂の幸福感に満たされたと思っていたのに。死ぬかと思うくらいびっくりさせられては、なんとか新しい世界観の常識に踏みとどまれて、安堵する、という流れが何度もあって。もう、さすがにこれ以上はないかと思っていたはずなのに。まだまだ冒険の途中だったのかな? まだまだこんなワクワクドキドキは続くのかな? イルは付いていけるのかな?」

「アハハハ、イルってば、おもしろいね? まだまだ続くに決まってるでしょ? これから日本やN国にも行くから、イルの知らないドキドキはまだまだたくさんあるし、あぁ、そうだ。たぶんイルはアイドルにならなきゃいけないから、もっともっと忙しくなると思うよ?」

「ア、アイドル? も、もしかしてあの日本の歌ったり踊ったりするヤツ?」
「そうそう。なんかママが言ってたんだけど、N国のプロジェクトでアイドル事業をやるらしくて、その牽引役にマコは駆り出されるんだって? イルと同居する前の話だから、今はイルもいるなら当然イルも参加するに決まってるもん。だってこんなに可愛いんだから出さないはず無いでしょ?」

「え? 本当に? 私も?……」

 イルは一人妄想の世界に没入したっぽい?

 頬を少し赤らめて、目がグルグルしてるような? 時々、フフって顔を緩めては、しかめ面に戻ったり、を繰り返しながらなんか呟き始めてる。

「…………昔テレビで見たことがあるアレ?…………」
「…………なんかヒラヒラふわふわな衣装?…………」
「…………眩いカラフルなスポットライト?…………」
「…………たくさんのファンとの掛け合い?…………」
「…………キュートな笑顔でズキューンっ?…………」
「…………キャー、キャー、キャー、キャー…………」
「…………そ、そんな華やかな世界に私が?…………」
「…………イヤイヤイヤイヤ、ありえない?…………」
「…………でもそんな? いや、まさかね?…………」
「…………そういえば小さい頃そんな夢を?…………」
「…………イヤイヤ、私なんかがそんなぁ?…………」
「…………でも何が起こっても不思議じゃ?…………」

 この間約10秒。現実世界に舞い戻ったイルは興奮気味にまくし立てる。

「こ、この話はソフィーに聞けばわかるの? 一体いつ頃のお話? 歌が歌えないとダメだよね? 私、音痴じゃないかな? 私も可愛くなれる? レッスンとか受けられるんだよね? ぜぇぜぇぜぇ。あぁ、また、呼吸するのを、忘れてた、あー、苦しかった」

「アハハハ、大丈夫? イルはアイドルになりたかったんだ?」

「だだだ、だって、誰しも女の子はああいうヒラヒラした華やか世界を一度は夢見るものよ?」

「そういうもんなの?」
「あ、あぁ、マコちゃんはちょっと違いそうね? でも突然なんでそんな話が出てくるの? いつも唐突すぎるよ~。もうマコちゃんたち一家と一緒にいると毎日がびっくり箱よ? こんな世界があっていいのかしら? どんなSF小説だって、ここまでの凝縮された驚きの急展開は見たことも聞いたこともないわよ?」

「でも、アイドルって、華やかではあるけど、かなり厳しい競争世界だから大変だと思うよ? 大丈夫?」

「あー、うん。そうだよね? 甘い世界ではないとは思ってる。やってみないと大丈夫なんて言えるはずはない。でもふつうはその入り口に立つこともできないんだよ? なんの繋がりが?」
「あぁ、N国のプロジェクトって言ってたわね? ソフィーは金髪碧眼の女の子たちの可愛さを前面に押し出したアイドル事業が根付けば、国家事業として外貨獲得もできるし、そういう少女たちが活躍できる道筋も確保できるなら、もっとN国も発展できると考えたのかあ」
「うん。なるほど、面白いね、その発想。マコちゃんみたいな、金髪碧眼のふわふわピチピチな可愛らしい女の子が、N国にはたくさんいるのなら、凄いアイドルユニットができそうな予感がするわ」

「あー、なんか、イルもノリノリだね? きっとママと気が合うと思うよ。というか、説明もほとんどなしにそこまで分析理解するイルの頭脳はさすがだね? まだ実現するか懐疑的だったけど、イルが参加するなら間違いなく実現しそうだね?」

 かちゃ、パタン。こっ、こっ、こっ、こっ

「ただいま~、帰ったわよ~」
「お帰り~、ママ、ケイン」
「お帰り、お母さん、ソフィー」

「ただいま、マコちゃん、イル」
「あらっ? 修練中だったのかしら?」

「あぁ、そう。今日は座学やって、浮遊する実技訓練を始めようとしていたところなんだけど、またまた、いつものように脱線してね~」

「あら? 楽しい話なのかしら?」
「あ! ママ? イルがアイドル計画、すごい乗り気だよ?」
「え、あら? 本当? どこまで話したのかしら?」

「あぁ、マコはN国のアイドル事業で、きっとイルもアイドルになるんだよ、って言ったくらいかな? そしたらイル、またまた解析構築した推測を返してきて、ママが説明してたくらいの碧のほうのプラン内容を話し始めるの。すごいでしょ? イルってば。ふふん」

「あら、またまたマコちゃも恒例のドヤ顔なのね? でもあのときはマコちゃだけだったけど、こんなに可愛いイルちゃがいるなら、碧のほうはイルちゃにお願いできそうね?」

「でしょ? ちょっと肩の荷が下りたかな? イルがいると心強いね。良かった」
「え? いったいなんの話? あお?」

「ああ、ごめんごめん。金髪碧眼の少女ユニットだから碧眼の碧、でもう一つ、どうなるかがちょっと微妙なんだけど、魔女の里にも貢献したいから、選抜する魔女の里の少女で、できれば漆黒の魔女の力を付与できるなら黒髪少女のユニットも作りたいなぁって思ったの。だからこっちは黒。碧い妖精たち『Azure Pixies』と、漆黒の妖精たち『JET BLACK Pixies』の二段構えでいきたいなぁって思ったの。でもマコちゃからの指摘で、漆黒の力はいたずらに増やさないほうがいいみたいな話で、ちょっとその部分は検討余地ありなところなのよ。まぁ、このアイドル事業もN国に戻ってお祖父様とお話しする必要があるから、まだ確定ではないのよ?」

「ふんふん。ではその計画にイルも混ぜてもらえるということですか?」
「そのつもりだけど、手伝ってくれるかしら? まぁ、すごく大変なんだけどね」

「ぜ、是非是非お手伝いをば。ふんふん」
「あら? そんなに乗り気なら嬉しいし助かるわぁ」

 ケインもなんだかうずうずし始めてる。
「そのお話、私も関わらせてもらえるのかしら?」
「あらー? ケインも興味があるの? でもアイドルは無理よ? 少女ユニットだからね」

「いやいや、それはわかってるわよ、さすがに。ただ、そんな華やかな世界に関われるのはドキドキしちゃうもの。憧れるわ」

「うん。わかっているのね? 良かったわ。というか、ほんとうは私が参加したかったから、ケインも若さを取り戻したその美貌で打って出たいのかな~って思ったのよ」

「え? ソフィアは出るつもりだったのかしら?」
「いやいや、この計画は私が16のときに立てて実行しようとしたものよ? あの事件さえなければね。まぁ、そのおかげでジンに巡り会えたのだから、今更どうこう言うつもりもないし、外見的にはまだいけそうかな? とも思ったけど、さすがに一児の母じゃねぇ?」

「あぁ、まぁね。でもその外見なら確かにいけなくもない気がするけど、一児の母だけじゃなくて王女だから、世間からの突き上げが凄そうな気もするわね?」
「でしょう? それに私、身バレNGって事務所に言われてるしー。」

「じ、事務所? もうそこまで進んでるの?」
「嘘よ。アイドル気分で言ってみたかっただけ。でも、身バレNGは本当よ? だから私は消息不明のままになってるのよ」
「そう、それは辛いわね。ごめんなさい。気付かなかったわ」

「アハハハ、いやいや、今のほうが楽しいから、私はずっとこのままでもかまわないのよ? だってその前の生活は王宮から外に一歩も出れないんだもの。今はそんな縛りがないし、ジンと出会えて、マコちゃとの家族の暮らし。毎日が幸せいっぱいだもの。ケインたちも加わってくれたから、毎日飽きることがないし、これからまた日本にも行けるしね? まぁ、お母様たちと会えないのが少しだけ淋しいくらいかな?」

 会話の区切りを見つけたパパは、宙ぶらりんとなり果てた室内実技を強引に終わらせる。

「いろいろ脱線しまくったけど、室内実技やるにももう夕刻だから、今日はここまで。お疲れさま」

「「お疲れさまでした」」
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