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第七章『シンの悪』

第67話『道化の狂気 / シンの狂気』

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「その、偽りの四天王ってのは、今、城オジ……」

「――ふむ? 城オジ、とは」



「めんごめんご、……御遣いさんの兵が戦っている奴らのことだよな?」

「そう、偽りの四天王。貴方の超根源魂魄《アストラル・ボディー》が封印されていた最初の世界の者たちと同じ、四偽神に創造された、悪魔たちです」




「くっ……! 僕に苦痛を与えた、あのクソみたいな世界、東京……いや、トンキン。邪悪なゴミクソ世界。マジ、許せねぇッ! いつか再転移して、全生命を一人一人、惨たらしく苦しめぬいて、破壊してやるッ!!」



「偽りの生命、偽りの世界。貴方の最初の世界、トンキン。それは貴方を封じ、破滅させる為に創られた牢獄。貴方の聖魂を、堕とすためのものでした」

「マジ、許せねぇ。マジクソ野郎だな、偽神野郎ッ!」




「四偽神の創り出した、偽りの四天王。それは貴方を人に堕とした、トンキンなる世界のクリーチャーの同位体。つまり、貴方の宿敵――トンキン野郎です」

「アイツラ、あのトンキン野郎どもと同じってことかッ。江戸の敵を長崎で討つってぇ、ヤツだぜっ! 手始めに血祭りに挙げてやるッ!!! その前夜祭ッ! 自力再転移で、トンキン大蹂躙する、その予行練習だッ!! 倍返しだッ!!!」




「――鎮まりなさい。聖人ベオウルフ。肩聖拳《シャクティ》による浄化を」

「ひひひっ。くらぇ、聖肩パンっ」




「痛、いや、気持ちいい。ベオっち、落ち着いたから、さんきゅっ!」

「遠慮すんなよ! 我慢は体に良くねえ。俺は、あんちゃんの味方だぜ」








「――シン、認めなさい。貴方は、――最低の、負け犬です」

「はぁっ? なんだよイキナリ? いやっ……僕、転移した全世界の人間を皆殺し。つまり、勝利してる。片腕だけで、皆殺しにできるからッ。だから、完全勝者ッ!」






「――認めなさい。呪われ、穢れ、腐った、惨めな、敗者、負け犬よ。そなたは、最初の世界で敗北し、死んだ。偽神の手で、殺された、敗北者です」

「……っ! いやだっ! 僕は絶対ッ! 敗者じゃない! 勝者ッ!」

「――ここから、始めるのです。イチから……いいえ、マイナスから」





「なんで、僕だけこんな優れてるんだよッ! 周りの連中のように、ブサイクで劣った人間に生まれていれば、こんな苦労しなくて済んだ! 僕ぁ、それが悔しいッ!」

「――そなたの嘆き、ごもっとも。故《ゆえ》に、今こそ復讐の時」





「詩篇第78章13節、最後の審判アポカリプス。おい、負け犬。時は満ちたぜっ! ゴミカス人生から卒業だ! チャンスだぜっ! ひひひひひっ」

「――さぁ、今こそ、チュートリアルをクリアし、四偽神を引きずりだすのですッ! 偽神によってゴミ箱に捨てられた、貴方の人生を取り戻すのですッ!!」





「まぁ、……もちろん、……それは、それで、僕ぁ、善人だからぁ、頑張ろうと、努力するつもりだけどさっ? へへっ……そんなことより、御使いさん、僕の冒険に、アレ! もちろん、用意してるよねっ? わかってるでしょ、アレだよ……アレっ」

「――ふむ?」

「僕、ご褒美がないと頑張れない、タイプなんだよねぇ。……ねっ! わかるでしょ? くじけて、逃げちゃうかも? 困るっしょっ? バトルだけとか、モチベが保てない。だからさぁ……。えっち、ちゃんと、できるよね? 御遣いちゃんっ」






「――聖行《セックス》のことですね?」

「そう! ファックスッ!!!」





「――もちろんです。聖行《セックス》によって、梵《カルマ》を高めなさい。魂の位階を上昇アファメーションさせるのです。それが、シン、貴方の使命です。努《ゆめ》お忘れなきよう。遊びでは有りません、魂を浄化する神事」

「いいの……かよ? 我慢しなくて? 偽神なんちゃら、殺す前に、フォックスし放題でいいの? すげぇな。やべぇ、モチベ、ガッツリあがってきたッ」




「異なことを申されるな。聖行、則《すなわ》ち、修行。日に五度、行いなさい」

「聖行は、命と命の響鳴っ! 響命《レゾナンス》。ドンドンやれよ! ひひひっ」

「すげぇ……響命《レゾナンス》頑張らなくちゃっ。皆のため、最低五回。いや、これは世界のため。僕は、響命《レゾナンス》をする。日に、十回やるっ!」





「――素晴らしい志です。多くの者と、響命《レゾナンス》なさい」





「響命《レゾナンス》中に、偽神のジャマとか入らない?」

「――聖人ベオウルフ。貴殿から、説明を」





「問題ねぇ。性剣セクスカリバーがありゃ大丈夫だ! ひひひっ」

「――性剣セクスカリバー。響命《レゾナンス》を重ねることで無限に強くなる、聖なる浄化の剣。偽神を唯一屠ることのできる剣。『偽りの四天王討伐』のチュートリアル後に、授けましょう」

「すげぇ! やったぜ!」








「一つ、助言を。過度な処女信仰は、捨てなさい。身を滅ぼします」

「なんでだよ? いやだッ! それだきゃ、絶対譲れないッ!!!」







「処女は、梵《カルマ》の次元が低い。四足の畜生とまぐわうも同じ、反転響命《アンチ・レゾナンス》行為。あなたの梵《カルマ》を著しく貶める行為。過度に処女にこだわるのは利己的な行い。そのような悪しき偏見は捨てなさい。等しく全ての人を愛し、響命《レゾナンス》するのです」








「えーっと、つまり、御遣いのガキも、四足の畜生と同じってことっ?」







 気づいたら右の手の甲にナイフを突き刺していた。
 ……さすがに、いまのはまずかっただろうか。




「ひひっ。聖痕《スティグマ》だな。おらっ! 追い聖痕《スティグマ》だっ」





 傭兵王が左の手の甲に万年筆を突き刺した。
 万年筆がバキバキに甲の中で砕けている。
 さすがに、……ヤバいのでは?





「えっ……これ、洒落にならないっ。人生で一番、痛い……っ!」

「感謝しろ! 全部、あんちゃんのためだ。ひひっ」

「――聖痕《スティグマ》。神の秘蹟。略式ながら」





「まぁ、穴、片方だけじゃイケてないだろ? 両手に穴がある方が、カッケーから。クールでワイルドになって、モテるぜ。あんちゃん。ひひひひひっ」



 傭兵王は手のひらを掲げる。
 左右の手の甲に抉られたような古傷。
 恐らく、拷問か尋問で受けた物だろう。




「俺もあんだよ、聖痕《スティグマ》。これで、俺とお前は、友達から穴兄弟ブラザーに昇格だ! あんちゃん、もっとモテるぜ! ひひっ。んな傷、ツバ付けときゃ治る。ひひひひっ」

「まぁ……、聖痕《スティグマ》とか、僕的には、ワリとどうでもいいけどさぁ……つーか、そんなことより、僕が言いたいのは、だね、処女信仰ッ!!! 僕は、絶対に捨てないッ!!! 例え、超越神と対峙することになってもッ!!!! 僕の譲れない、曲げられない信念ッ!!!! 僕は、僕の正しさを信じるッッッ!!!」





「――主義を通す、貴方の志に、感服致しました。宜しいでしょう。貫きなさい、貴方の主義を。では少しだけ預言の書アカシックレコードより、貴方の未来《ビジョン》をお伝えしましょう」

「マジ? やったっ! 女の子のとこだけで聞かせてよっ」




「――視えました。ヒロインは全員処女。更に隠しヒロインもおります」

「……いいじゃん。そーいうの聞きたかったんだよっ! ヒロインは何人くらい? 少しネタバレしてよ? ひえぇっ、すっげー! 燃えてきた!」




「――ヒロイン20名。メイン3名。サブ15名。隠し2名」

「20名……全員、響命《レゾナンス》可能、だよね、もちろん?」




「響命《レゾナンス》は義務。遊びではありません。貴方は、四偽神を倒すために響命《レゾナンス》するのです。むしろ、必ず全員と響命《レゾナンス》なさい」


「ところで、えーっと。僕……少し、好みがあるんだ、具体的……年齢言うの、っ避けるけど、わかるでしょ、ねっ? 身長で言うと130cm以下が好き、頼むよっ」



 満面の笑みで、両手を広げている。
 手のひらから噴水のように血が流れている。
 聖痕の痛みは忘れているようだ。




「ご安心なさい。出会うヒロインの半数があなたのストライクゾーンの女性。ロリ巨乳、のじゃロリ、メスガキ、ロリババア、貴方が望むものは全て、おります」

「……いい。なるほど。頑張る! 善は急げ! なんちゃら四天王、秒でブッ殺してくるっ! 130cm以下と響命《レゾナンス》! いやぁ、サイッコーだよっ! 最高にイイッ!! 後ろめたい想いをせず、楽しめるじゃんッ、ねっ? 今回の世界では、僕が善人だから感じちゃう、一切の罪の意識を抱かなくて良いし! 全然悪いことじゃないのに、コソコソとこそ泥のようなことをしなくていいんだっ! 堂々と、楽しめる! そういうのって、サイコーじゃんッ!! あんた、さすが超越神の、御遣いさまだぜっ! やったぁっ! チョー楽しい! いぇーーいッッ!!!」







 ・・・・・・・・・・。







「だってさぁ……サイッコーじゃん! もう、こっそり、僕ぁ、罪悪感を感じながら、お菓子とかさぁ、オモチャとかをエサにして……こっそり、人気のない裏路地とか、草むらとか、森の中に……連れ込んでさぁ、ブチ犯す必要もないってころだよね? 押し倒して、……馬のりにまたがって……手のひらで口を抑えてさぁ……陸に打ち上げられた魚のように暴れるのと……いや……あれも、なかなか良いんだけどさ……うん……涙と鼻水でグチャグチャになった顔、見ながら……ハチャメチャにハッピーになる。あのふわふわ感。いやっ、あれも、へへっ、捨てがたい。でも僕は超善人。心が優しすぎるからさぁ……心のどこかで、罪の意識が僕を苛み苦しめる! だから、すっげぇ、今回は最高だよッ! 堂々とハッピーになれるっしょっ!」 










 ・・・・・・・・・・?










「御遣いっちは、僕の事責めるけどさぁ! 僕だって、ここまで処女にこだわるのには理由があるんだよねっ! 僕は、非処女にトラウマを植え付けられた被害者なんだよ? 僕はね、最初に召喚された世界で女神か『欲しい』と思った瞬間に、相手のスキルをゲットできる便利なスキルもらえて、それは、マジサンキューって、感じだったんけどさ。……その後に、あのクソ淫売が、僕の心を傷つけて、心の平和を、めちゃくちゃにしやがったんだよっ! 僕が、処女しか信じられなくなったのは、あのクソ女神のせいだ! だからさぁ、話ちょっと聞いてくれる? 御遣いっちっ!」



「――ふむ。告白しなさい、人の子よ」





 満面の笑みを浮かべ楽しそうに語る男の顔。
 その顔に、私は底のしれない何かを感じてしまった。
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