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第一部 呪哭の灯火
第一章 月灯りに照らされて
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第1幕 邂逅
ざわめく木々の中、沈んでいく真っ赤な空にのみ込まれながらも凛とした花のような少女がそこにいた。神社の社からどこか遠くを見ながらリンゴをかじる少女は、この場所に迷い込んだ子供を見つけるとその場を後にする。
辺り一面の景色はこの場所に迷い込んだ雫という少年には見覚えがあるように思えた。しかし、見ていた夢を忘れてしまうようにぼんやりとした記憶にすぎない。それでもなぜだか、雫はこの神秘的な空間に懐かしさと少しばかりの恐怖を感じた。どうやって迷い込んだかもわからない。村にある鳥居をくぐると気づいたらここにいた。この異様なまでの静けさの中、神社の境内から社へと目を向けるとすぐそばに雫と同年齢、17歳くらいの少女がいた。
少女の頭には角が生えていた。
リンゴを丸かじりしながら心配そうに雫を見ている。
少女「泣いてるの?もう大丈夫だよ?」
雫は自分自身がいつの間にか涙していたことに気づかなかった。何故だか、自分でも分からないのに不思議と気持ちが高ぶっていく。
雫「君の名前は?」
「灯。私は灯(アカリ)、100年ここで君たち人間を見守ってきた鬼神だよ。」
雫と灯、2人の出会いがこの物語の始まりだったーー
雫は自身の記憶を遡る。
今日は鬼神祭。死者を悼み笑顔で迎え入れる祭りだ。名前の由来はかつてこの鬼灯村を滅ぼそうとした存在を鬼神がその命と引きかえに追い払い、今も尚、あの世とこの世の境で見守っているという伝説から来ている。
雫はこの鬼灯村に来て10年経つ。あまり過去のことは覚えていないが、唯一記憶しているのはこの10年に一度の鬼神祭だった。見たこともないおかしな食べ物や遊びがそこには存在し、誰もが皆、笑いあっている。外の街や国々では戦争すらも巻き起こっているのに、その全てを忘れてしまうかのような一夜の煌めきを雫は覚えている。
昼下がり、暑い季節にはこの時刻が最も夏を感じるだろう。
鬼灯村の人達はみな祭りの準備に勤しんでいる。わずか数十人にも満たない人口での日々の生活も、祭りの準備も人手はどこまであっても足りない様子だ。
雫はいつも夜行性であり、部屋にこもっては小説の執筆を続けている。この村の村長、鬼灯アサヒの計らいと人脈により、過去5年での雫の出版した小説は大陸中で好評のため広く知られている。
昼過ぎまでだらしなく寝ていた雫を家の外から11歳前後の子供たちが起こしにやってきた。
ドアの向こうで叫ぶ子供は2人。妹思いの少年、ナツと元気いっぱいの女の子のハナだ。2人は兄妹で幼い頃に両親を亡くしている。
ハナ「起きてよ~!雫~!」
ナツ「まだ寝てるの~?雫兄ぃ?」
雫「祭りまでには起きるから今日は寝かせてくれないか…」
ナツ「村長がハルト兄さんの墓参りに行ってこいってさ~!」
ハナ「行ってこ~い!出てこ~い!17さ~い!」
雫「わかった!わかったから!それと17歳になるのは明日!まだ16歳だよ。」
身支度を終えて、村の離れにある墓地へと向かうために家を出る。鬼灯村に限らず、この世界には死者の成れの果てのようなモンスターが存在する。日中には出くわすことはないが、夜になると活発になり生きている者を襲う。いつからいるのか分かってはいないほど昔から存在する奴らは呪哭と呼ばれている。そのため、村や都市は壁で外界と隔たれている。100年ほど前に列車が完成し、大陸中の都市間をクロストリア中央駅を経由して交通を結んでいる。しかし、鬼灯村は辺境の村であるうえに常駐する車掌が呑んだくれのために1日2回しか普段は運行されない。
列車以外で村を出るのなら馬を借り、日暮れまでに戻らなければならない。もちろん、自分の身を守れる程度の力がなければ子供だけの外出は許されない。
雫は村に在住している兵士もどきから戦闘訓練を受けているため外出に問題はない。装備を確認し、馬に乗って村を出発する。
数km先にある墓地へと到着した雫は、馬を降りて奥へと進んでいく。「鬼灯ハルト」の名前を見つける。祈るように手を合わせていると中年の男が近づいてくる。彼は鬼灯ハルトの父、鬼灯アサヒ。村長だ。
アサヒ「…もう2年も立つのが信じられないが、私の息子は村の子らを、大勢の人の命を救って死んだ。人々は息子を英雄と称えたが私にとっては生前から誇らしくかけがえのない存在だった。早くに妻に先立たれて男手一人で育てた息子は、この村のしきたりの祭りがとても好きでね。だからこそ、私は息子が大切に思ってくれたこの村で無事に鬼神祭を開けることを嬉しく思うんだ。雫…君が村に来て私の息子の1人となったその日から、私は家族の絆を忘れたことはない。そしてそれはこれからもだろう。」
雫「…そうだね、僕もだよ。それにこの2年でやって来たあの人たちにも祭りを手伝ってもらえるから、きっと最高の祭りになる。だからハルト兄さんも来てくれるさ。」
アサヒ「ああ。彼らにも世話になっている…というか世話しているというか…。まあ賑やかなのはいいことだ。いつまでも後ろは見ていられん。私は村長だからな!私がしっかりせねば!そうだ、そろそろ村に戻って出店の準備を手伝ってやってくれ。私はもう少しここにいる。」
雫「分かった。」
村へ戻ると皆が慌ただしく祭りの準備をしている。
「看板の塗装材はどこだ~!?」
「白髪の兄ちゃんが盗っていたの見たぞ!」
「つまみ食い犯をとっ捕まえたぞ!
縄もってこい!」
「おい誰だ!謎の汁を大鍋で作ったのは!」
「ダメです!親方味見しては…親方ァ!!」
村の入口まで村民の忙しそうな声が響いてくる。たまにおかしいのが混じってる気がするがきっと気のせいだろう。そういうことにしておこう。
祭り会場は村の奥にある林道を越えた場所だ。鬼灯村は居住地区と自由地区の2つの地区で構成されている。村民が住む家々の奥にある林道を抜けると、自由地区がある。そこは普段、村民の訓練場や放牧場所として使われているが祭りの日には会場として利用される。さらにその奥地には神殿があり、祭りの終盤にそこで打ち上がる花火が名物だ。
林道には鳥居が出入口に2つある。雫は初めてこの村に来たあの日を思い浮かべながら、林道へと足を踏み入れる。
記憶を胸に鳥居をくぐる。
1歩進むと空気が変わった。
風が撫でると世界が変わった。
ざわめく木々の中、沈んでいく真っ赤な空にのみ込まれながらも凛とした花のような少女がそこにいた。
「灯。私は灯(アカリ)、100年ここで君たち人間を見守ってきた鬼神だよ。」
第2幕 君を連れて
鬼神と名乗る少女は夢幻ではなく、確かにここに存在していた。まるで時が止まっているかのような静寂。時折、風に揺れる木々や草花の音が優しく響く。この場所を一言で表すのなら神社になるのだろう。社に通じる参道の両脇には蒼い綺麗な花がその地を埋めつくしている。目に見えるものや差し込む光、どこか悲しげな音に太陽のような匂い。五感を通して雫の心に暖かさが伝わる。
目の前に広がる光景に、どこか懐かしいような、寂しいように感じた雫は涙を流していた。
灯「迷い込んじゃったんだね…君。名前はなんて言うの?」
雫「…雫。泣いてるつもりはなかったんだけどね。迷い込んだというと…」
灯「君はいわゆる神隠しっていうのにあっちゃったんだよ。時々、雫みたいにこっち側にやって来ちゃう人達がいるんだよ。すぐに帰してあげるから心配しないで!」
雫「神隠し…。ここは死後の世界になるの?」
灯「意外と落ち着いてるね。半分は正解。ここは神籠(カミカゴ)と言ってあの世とこの世の境目になる場所なんだ。私は産まれた時からここに居るみたいで、もうそろそろ100年になるのかな?ずっとここで現世と地獄を繋ぐ入口を守ってるの。私こう見えて神様なんだよ?鬼でもあるみたいだけど。」
雫「現世と地獄を?」
灯「うん。人は死んだら天国に旅立ってしまうんだけど、心に罪を抱える人は地獄に落ちてしまうの。天国へ向かう人は、時間をかけて新しい命となってまた現世に生まれ変わる。地獄に落ちてしまえば苦しみに灼かれて罪を償い続ける。人の心を取り戻すまでね。で、その地獄から人の魂が現世に流れ込まないように私が見張ってるの。まあ神様と言っても私に出来ることはそんなになくて、ここにいて鬼神の力を垂れ流してるだけで地獄の門を開かないようにしてるんだ。」
雫「灯は100年もここにいるのなら、結構な高齢者ってことなのか…。」
灯「ナッ!?私こう見えて神様なんだけど!!ここは時間の流れが外とは違うから私はまだ17歳くらいですぅ!外の100年は実質ここの17年くらいだからね!」
灯がプンスカ怒っている。これは雫が悪い。
雫「ごめんごめん。でも、それなら僕がここに来てからの時間は外の時間と比べて経過が早くなるのならもう何年も僕は失踪してることになるのかな。」
灯「そんなことはないよ。少し複雑なんだけど時間の流れは私にだけ適応されるの。理由はここに私を閉じ込めた人がそう設定した…って意味わからんくなってきた。リンゴ食べよ。」
灯は賢そうに見えて結構バカだった。
雫「…なんとなく今のでわかったよ。きっと先代の神様か何かがそうやったってことだ。それに外部の人間と接している間は恐らく時間の設定を解除されるから問題はないということだね。」
灯「そ、それが言いたかったんだよ~!」
雫「でも夜になると動き出す怪物たちは死者とは関係ないの?」
灯「…あれは記憶。人は死んだ後、魂は死後の世界に旅立てるけれど、肉体…つまりは器に残された負の記憶が人を襲ってるの。それはさっき私が言ってた、地獄から魂が流れ出ないように入口を閉ざしてる意味にも繋がるんだよ。現世に存在する負の記憶の成れの果てである彼らに魂が戻ってしまう。そうなってしまえば彼らは更に強くなって人を襲ってしまう。」
雫「でも…人のため、世界のためとはいえ灯が1人ですべてを抱え込まなきゃいけないなんて、そんなのおかしいよ。灯はそれでいいの?」
質問ばかりだ。しかもこれは良くない質問だ。
それを分かっていても雫は灯の心を知りたかった。何故かはわからない。雫はただ、灯を知りたかった。
灯「そうだね。ここは寂しいし、とても退屈で死んでしまいたいって思うこともあるよ。でもね、私はここから外の世界を見ることが出来るの。外の世界は戦争だとか貧困だとか苦しい辛いことがいっぱいある。それでも悪いことばかりじゃなくてとても大きな列車や、美味しそうな食べ物が並んで…祭りっていうのかな、すごく楽しそうで…。この死に溢れた世界に抗い続けている人達のためなら、私はいつまでもここに居るよ。」
雫は心を動かされていた。自己犠牲は正義ではない。本当の正しさというのも分かりはしないのだろう。ただ、それでも灯の言葉には強く、優しい覚悟を感じた。だが、その覚悟を尊重したうえで、灯を救いたい。少しの間だけでもいい。永遠にも等しい時間の中で他人を思いやる彼女の心を救いたい。それが雫の本心であり、雫にとっての正義だった。
雫「…今夜、僕が住んでいる鬼灯村で祭があるんだ。鬼神を祀る村だから君の祭だ。灯、君も行ってみないか?今まで1人きりで頑張ってきたんだ。少しくらい自分自身のために時間を使ってもいいんじゃないかな。」
灯「でも、私がここを出たらどうなるか分からない。祭りには行きたいよ。ここから出る方法も分かってる。けど…」
灯にとって外の世界は憧れであり恐怖だ。それに神籠を離れることでどこまで世界への影響があるかも分からない。少なくとも神籠の中では願うだけで衣食住は叶うし、安全な場所から世界を見ることが出来る。それでも雫の目を見ると、心が熱くなる。
産まれたときから1人だった。自分の使命も世界の仕組みも神籠に満ち溢れる光が教えてくれた。顔も知らない誰かのために生きてきた。一度だけで良い。少しだけわがままを言ってみたい。
雫の言葉は灯にとって、雲の切れ間から流れ出る光のように眩しく、強く心を照らしてくれる。
灯「行きたい!私、君と一緒に祭へ行きたい!」
灯は雫の手を握る。
雫「どこへだって君を連れていくよ」
たとえ、どんな世界でも君を連れていくーー。
第3幕 ひとときの夢
風が頬を撫でると鈴の音がなる。
気がつくと2人は鬼灯村の祭会場への林道に居た。聴こえてくる祭囃子が心を踊らせる。
雫「行こう!」
灯は初めての外の世界に興奮と恐怖を感じたが、雫に手を引かれると勇気が湧いてきた。
鳥居を抜けると、眩い光が2人を包んだ。色とりどりに煌めくその景色は雫と灯に大きな感動を与えた。食べ物や娯楽の出店が立ち並び、賑やかな音と匂いが人々を笑顔にしている。
灯はつい先程まで感じていた外の世界への恐怖を忘れ、屋台へと足早に向かう。
雫「焦らなくていいから!迷子にならないでよ。」
灯「りんご飴2つください!雫!お金!」
雫「そうか僕が払わないといけないのか…。貯金足りるかな。」
灯「雫!串焼きだよ!串焼きがあるよ!!」
数分間のうちに食べ物ばかりを雫は買わされていた。貯金のほとんどが灯の食費で消えていく。雫は小説家でかなり稼げてはいるのだが、収入の8割を鬼灯村に譲渡しているため貯金は多くはない。そのおかげで村人は安定して生活を送る事が出来、祭りの資金にも貢献している。しかし、これはまずい。面白いほどに金が消えていく。
雫が灯の気をそらそうと、出店の釣り屋に行く。そこでは20歳ほどの青年が店を取り仕切っていた。
「いらっしゃい!って…あ!雫じゃないか!雫が女の子を連れているなんて珍しいね。」
雫「案内してるだけだよ。この子は灯。外から来た子だよ。」
灯「ねぇ、釣り屋って何!?」
雫「釣り屋は生け簀から魚を釣るゲームだよ。この人はタツ。夜煌祭という傭兵の1人だ。」
灯「よろしく!タツさん!私釣りって初めて!!」
タツ「よろしくね、灯。釣りは簡単だよ。釣り糸を垂らして、糸が動いたらすぐに釣り上げる!釣れた魚はここで調理してそのままあげるから、ぜひ挑戦してみてね!」
2人は釣り糸を垂らす。灯はすぐさま釣り上げて魚を焼いてもらう。
タツ「はいどうぞ~!まだまだ祭りは続くから楽しんでいってね~!」
灯「美味し~!あ、あそこにもまだ行ってないお店あるよ雫!」
魚を食べながら灯は怪しい出店を指さす。
雫「食べてから話しなよ。あそこは…ダメだ。やめた方がいい。」
タツ「うん、命が惜しいならあそこには行かない方がいいね。なんたってあそこはラキさんが…」
忠告も虚しく、灯はすでにその店に足を運んでいた。
灯「すみませーん!ハリセン焼きひとつくださーい!」
タツ&雫「話聞いてた!?」
看板にはLaki’s kitchenと書かれている。知る人ぞ知るやばい雰囲気を醸し出している。
「お!お客さん通だね~!このラキアルさん特性のハリセン焼きをご所望とはお目が高いね!」
ラキと名乗る若い店主は調理台から聞こえるはずのない音を出しながら話す。
ラキ「女の子は1つで、雫はいらないのか?」
雫「遠慮しとくよ…。灯はまあきっと本当に神様だし、ラキのハリセン焼きも素材は知らないけどきっと焼くだけだろうから大丈夫だ。きっと。それに一応止めたからね。」
笑顔で待つ灯の隣で、雫は問題ないはずだと自分に言い聞かせていた。
ラキ「はい出来上がり~!」
魚らしき何かの物体を手渡す。モザイクかけた方がいいんじゃないのかこれは。
灯「いただきまーす!パクッ…オrrrrrrrrr」
灯は1口食べると店の隣で、秒で吐く。
ラキ「ありゃ、フグの毒を抜き忘れてた。」
雫「フグ!?誰だこの人に出店任せたのは!」
ラキ「大丈夫大丈夫、さぁこれでも飲んで。」
怪しげな瓶を灯に手渡す。灯と雫はそのガラス瓶の液体の色がおかしいことに気がついていなかった。
灯「い、いただきますぅ…ゴクッ…オrrrrrrrr」
チ───(´-ω-`)───ン
雫「嫌ァ!人殺し!じゃなくて神殺し!!
いったい何飲ませたの!?」
ラキ「え?滋養強壮の毒マムシ。」
雫「何てことを!!」
灯「少し楽になってきたけど、死ぬかと思った…。」
ラキ「毒を以て毒を制s」
ブスっと鈍い音がした。
言いかけたところでラキの眉間に矢が刺さる。
チ───(´-ω-`)───ン
灯「嫌ァ!人殺し!」
雫「大丈夫この人定期的に撃たれてるから。」
「射的屋でーす。どうですお客さん1発殺って行きませんか~?」
ラキと同年齢、21歳くらいの白髪で琥珀色の瞳をした人殺し…もとい射的屋が弓を持って物騒な客寄せをしている。
雫「助かったよザック。せっかくだしやっていくよ。」
シュタッと的の中心に矢が当たる。雫は剣よりも弓の方が得意だった。
灯「えぇ、なんでそんなに当てれるの~!?」
灯の放つ矢は的を外れている。
雫「集中して風を読むんだよ。でも僕よりザックの方がすごいんだよ?弓の達人なんだから。」
ザック「…手で弓を引くんじゃない。体全体で引いてみろ。」
灯「体で?」
ザック「そうだ。足を肩幅まで開き、腰落として胸を張れ。手は弓に添えるだけだ。そして風の音が止めば、それが合図だ。」
今度は命中した。
灯「やった~!!当たったよ~!!」
ザック「覚えが早いな。雫に教えた頃を思いただすよ。」
雫「ザックの教え方が上手いんだよ。ラキやかけるに剣を教わったときは、ズパっと真っ直ぐ斬る感じ~みたいな…」
ザック「そいつらは教えるのが下手なだけだ。特にラキは俺が知る中でも、いや今はどうかは分からないか。」
談笑をしていると、若い男がやってきた。
青い瞳に、紫と黒が入り交じった髪の男だ、
「やあ、雫とザック。それと…君は外からのお客さん…確か灯ちゃんだったかな?」
ザック「なんだ、無名。お前も射的をやりに来たのか?」
灯「むめい?私のことを知ってるの?」
無名「うん、訳あって無名と名乗ってるんだ。君のことはそこでのびてたラキから聞いたよ。」
雫「よく聞き出せたね。」
無名「まあね、大変だったよ。そうそう、遊びに来た訳じゃなくてちゃんとした用事で来たんだ。」
ザック「何かあったのか?」
無名「…特別傭兵、夜煌祭は全員、神殿前の広場に集合するようにと村長から。今夜は外の化け物も活発になっている。なんだか嫌な予感がするよ。」
その場にいた4名は神殿前の広場へと向かった。
第4幕 不穏
4人は祭り会場の最終地点にある神殿広場へと歩を進める。
無名「ラキは先に向かわせたけど、途中でかけるを見つけないと。」
ザック「あのバカは食い逃げで捕まってたぞ。」
雫「かけるはいつも落ち着きがないね…。」
灯「かけるって人も変な人なの?」
無名「変人には変わりないけどね。かけるは竜人なんだよ。僕と一緒に育った兄弟のような存在だ。仲良くしてやってくれないかな。」
灯「もちろん!でも、竜人って鬼を食べた人の末裔なんでしょ…?私、食べられないかな…。」
雫「竜人が人であるときに鬼を食らったのは、はるか昔。その代償に龍のような角と翼が生えただけで、今は鬼や人を食べるようなことはしないよ。まあ翼はあっても飛べないけど、その代わりに人の2倍の力を持つと言われてるね。」
無名「灯、君は鬼神だと聞いたけど、絶滅危惧種の鬼とは少し違うみたいだね。でも出来ればそのことは秘密にしておくべきだ。僕達はどうとも思わないけど、ほとんどの人間は鬼や竜人を強く恨んでいるからね。」
灯「うん…そうだよね。」
ザック「おい、あれみろよ。」
出店から離れ、ザックが指さす方には簡易的な鉄格子で阻まれた牢屋があった。中には赤く鋭い目、角と翼を持つ青年がいた。
かける「よう!お前ら!こんなところで会うとは偶然だな!!頼みがあるんだが、助けてくれないか?」
明るく助けを乞う変人のようだ。
灯「お、おはこんばんにちわ…!灯と申します!!」
灯は天敵かと警戒し、強く緊張していた。
かける「見ない顔だな!よろしく!!俺はかける!」
無名「開けてやるから早く出てくれ。これから神殿広場へ向かう。」
雫「いつもこの人はこりないね…。」
灯「ねえ、かけるの好きな食べ物は何!?」
かける「食えるものは全部好きだが、強いて言うなら…串焼きかなぁ。」
灯「私も!」
意気投合しつつ、神殿広場に到着した。一行は広場中央にいるアサヒ村長とラキアルと合流する。
アサヒ「来たか。ラキアルから灯については聞いている。それと、外部警備の者からの報告では村の外では辺り一体がいつも以上に化け物どもで埋め尽くされているそうだ。本来、村の外からの客人は歓迎しているし、祭の開催前に怪しいものがいないか検問も怠ってはいない。だが今夜は日暮れ時に列車を止め、門は閉ざした。その上で、怪しいものがいるとの報告が上がっている。灯については夜煌祭による警備と調査、雫の同伴が前提だが、問題は無いと思っている。しかし、不穏な空気が漂っているために君たちをここへ呼んだ次第だ。」
無名「灯については不思議なことに神隠しから雫を連れ戻したと聞いた。数十年前から神隠しは存在するし、鬼神であるというのも信じられなくもない。ただ、怪しい者というと、検問をすり抜けたことになるよね。」
ラキ「壁でもよじ登ってきたんじゃない?」
かける「腹減った~。」
灯「った~。」
ザック「検問をすり抜けるとなると、一理あるな。過去には俺とラキはよじ登って入ってきた。道具があっても常人じゃあまず無理だから、それなりの手練だぞ。」
各々が考えを深める中、花火があがる。空に響き渡る轟音、煌めいて散りばめられた星屑のような火薬。灯は初めての光景に息を飲んだ。
アサヒ「おい待て、まだ花火が上がる時間ではないぞ。」
少しの沈黙が、夏の夜風に確かな冷たさを残した。
神殿の入口、大広間になっている壇上には怪しげな男が立っていた。髪の7割が白く、3割が黒く変色している。瞳は黄色く光、凍りつくような目だ。まるで歴戦の兵士のような隙の無さに、恐怖と静寂を与える異質な空気をまとっている。
上がり続ける花火を背に、夜煌祭は武器をかまえる。が、誰一人として男の間合いに踏み入ることが出来ずにいる。
「鬼神祭をお楽しみの皆様、今晩は。私はファースト。この決してあけることの無い夜の始まりに立ち会わせて頂くものです。」
ザック「何者だよアイツ。」
ラキ「あれは今の私たちじゃ勝てないな。」
アサヒ村長「誰も手を出すな!…ファースト、話を聞こう。君は何者で、何が目的なんだ?」
ファースト「我々は呪哭。(ジュコク)世界を呪い、死を与え哭く、世界の理です。私はその始まりにすぎない。目的は人類の滅亡。この世界にもう夜明けが来ることはありません。」
不穏の先には、恐怖が待っていた。
第5幕 脱兎のごとく
ファーストの冷酷な目を見てしまった灯は生まれて初めて死を意識した。
ファースト「皆さんは光栄にも世界で最初に呪哭と共に旅立てるのです。間もなく外より彼等がやってきます。どうか残された3日間、死を楽しむといい。」
打ち上がる花火に紛れて一際大きな音が大地を揺らした。まるで爆弾のようなものが起爆したように思える。無名がいち早くその音を察知した。
鬼灯村、居住区域の東西にそびえたつ壁が破られた音だった。
無名「今の音、もし壁が破壊されたなら外の怪物が押し寄せてくるよ…!爆弾だとしたら多分あの男の仲間だ!敵は複数いる!!」
アサヒ「警備の者は住民と客人の避難誘導!この場にいる全てのものを列車に乗せろ!猶予は20分だ!それまでに誰一人見捨てることなく駅まで走らせろ!!」
既にパニックになった住民をなだめつつ、アサヒ村長が周囲に呼びかけ、避難誘導を開始する。
ザック「かけると俺は敵の牽制をするべきか!?」
アサヒ「いや、君たちがこの場で一番戦える…。だからこそ優先して逃げ遅れた者たちを誘導してくれ!君らが列車にたどり着いたら出発する!」
無名「それに牽制する必要はないみたいだ。どうやらあの男は鬼灯山の山頂に向かってる!きっと仲間と落ち合うんだ。ならこの機を逃さず僕らは逃げることに専念すべきだ!」
かける、ラキアル、タツは会場で避難誘導をしている。辺りからはゾンビや死者のような呪哭と呼ばれる怪物が現れている。一同は呪哭を迎撃しながら、駅までの避難および逃亡を完了しなければならない。
混乱の中、雫に助けを求める少年がいた。ナツだ。
ナツ「助けてくれ!雫兄ぃ!大変なんだ!妹が…ハナが!」
怯えるナツの肩に両手をかけ、膝をつき目線を合わせる。
雫「落ち着くんだ!大丈夫だから、落ち着いて話してくれ!」
ナツ「…ハナが、ウチにいるんだ!花火を父ちゃんと母ちゃんに見せたいからって、2人の写真を取ってこようとして、1人で大丈夫だと言うから、ついて行かなかったんだ…俺のせいだ!」
雫「大丈夫!ハナは強い女の子だ。きっとまだ家にいる。今すぐに助けに行くから!」
しかし、一人で少年を守りながら救出に行くには危険すぎる…。雫は思考を巡らせる。後悔のないように、今できる最善の選択を…!
雫「タツ!かける!僕と一緒に来てくれ!ハナがまだ家にいるんだ!助けに行く!」
2人が応答しつつ敵を薙ぎ払う。
その場にいる生存者は皆無事に広場を抜けたようだ。
だが、灯はまだ恐怖にのまれ、動けないでいた。光る炎、呪哭と呼ばれる怪物…死者の哭く声、恐怖を加速させる悲鳴、うまく息が出来ない…。少しずつ声が聞こえてくる。
雫「り…!灯!」
灯はようやく正気に戻った。
灯「わ、私…」
雫「灯もついてきてくれ!大丈夫、怖くても僕がいる。皆がいるから!」
雫は灯の手を取って脱出を目指す。
無名「僕とザック、ラキは病院の患者の救出に行く!きっと動けない患者がいたら、バリケードを設置して数分間は耐えるはずだ!後で落ち合おう!」
一同は神殿前の広場を後にした。
神殿の奥には鬼灯山の頂上へ通じる山道がある。普段は封鎖されているが、ファーストはそこへ向かっていた。頂上には底の見えない、地底へと続く大きな大穴が存在する。鬼灯村の伝説にはかつて、呪われた魂がそこへ落とされ、地獄へ落ちると言われている。いわば地獄の門になりうる場所なのだった。
穴の前にファーストは立っていた。
ファースト「この場所は思い出すことのない記憶なのだろう…。しかし、私にとっては忌まわしい過去の終焉だ。お前たちもそうだろう?」
どこからか、ファーストと同じような風貌の2人の男女が現れる。
ファースト「首尾はどうだ、サード」
サード「東西の壁に穴を開けておいたぞ。ハハッ!」
サードと呼ばれる男は不気味に笑っている。長い髪を後ろでくくり、中性的な顔立ちとはうってかわって、無駄のない均整のとれた筋肉をしている。狂気に触れたような笑みを浮かべ、その口の両端に縫い目が存在する。
サード「セカンドは『何だか満足行かないわ!』って顔で滑稽だなぁ!」
もう1人の呪哭の女性は、肩まである髪をなびかせ、サードを睨む。その場にいる3人は、容姿から推測できる年齢は20代前半だろうか…。しかし、彼らからは若者にはない、ただならぬ気迫がある。
セカンド「…うざ。でも、確かにそうよ。先に厄介そうな連中は始末しておけばよかったのよ。逃がして泳がせるなんてつまらない。早く殺してあげたらよかったのに。」
ファースト「私たちが手を下すほどでもないだろう。それに、レイからは先に地獄を開門するように指示を受けている。」
セカンド「だとしても、障害になりそうな存在は排除しなければ後から痛い目にあうわよ。」
ファースト「こちらにはサードもいる。現世の呪哭が人類ごときに負けることはない。地獄の門が開門する3日後、我らが呪哭の王、レイがこの門を通る時、夜は完全に世界を包み込む。彼らの勝機は万に一つもないだろう。」
呪哭の3人は一呼吸おくと、穴へと手を伸ばす。
数秒後、奈落のような穴の底から赤い光が溢れる。
世界から夜明けが奪われる。地獄の門が開門し、人類の滅亡まであと3日。
第6幕 終わりの始まり
鬼灯山から放たれる光は祭会場まで逃げている灯の瞳にも映っていた。
目まぐるしく変化する目の前の光景に、誰もが恐怖を隠せなかった。特に、灯にとっては初めて触れる世界への興奮と、死への恐怖による感情が思考を停止させていたのだろう。しかし、灯の心には何よりも罪悪感が深く巣くっていた。
なぜなら今、この現状を引き起こしてしまったのはーー。
かける「気をつけろ灯!」
ゾンビの呪哭が灯に襲い掛かった瞬間、かけるが剣で攻撃をそらす。
即座にその頭をタツが撃ち抜く。
雫、ナツ、灯、タツ、かけるは敵を迎撃しながら住居区域へと向かっている。
タツ「さっき警備から予備の武器をもらってきた!雫と灯はこれで自分の身を守ってくれ!さすがにザックやラキがいないと全員を守り切れる余裕がない!」
タツはそう言うと2人に弓と剣を手渡した。
かける「使い方はわかるな!?教えてる暇はないぞ。」
灯「うん。大丈夫。今は大丈夫だから、ありがとう。2人とも。」
雫は灯の変化に気が付いていたが、自身の不安を伝播させないように振舞うので精一杯だった。
雫「…急ごう!ナツの家は居住区域の東南だ!」
呪哭をかいくぐり、祭会場から居住区域に繋がる林道へと5人は走り抜ける。
タツは懐かしい青年とすれ違ったような気がした。振り返らずに突き進むタツを、優しい蒼い瞳が見つめている。
「それでいい。振り向くな、タツ…。」
雫たちが先行して居住区域へと向かい、数分後には神殿広場での避難誘導は完了していた。
ザック、無名、ラキアルは迅速に敵を迎撃しながら逃げ遅れたものがいないかを確認する。夜煌祭の中で最も実力のあるザック、豊富な知識と判断力に優れた無名がいたからこその芸当だ。アサヒ村長は警備の者を何人か連れて住居区域の中央エリアへ、ザックたちは同エリア内の西南部の病院へと向かった。
鬼灯村、居住区域、病院内。1階では荷を積んでバリケードしていた痕跡がある。
3人は一つ一つの部屋を確実にチェックする。中に入り込んでいる呪哭を倒しつつ、二階廊下で合流する。
ザック「…血痕もない。見回りの警備が無事に避難させたようだな。」
無名「こっちにも誰もいないみたいだ!」
ラキアル「怪我人もいるかもだろうから、倉庫から医薬品をとってきておいたよ。」
本来、武器を扱える者は基本的には弓、または剣を使用しているがラキアルは木の棒を使っている。普段から使用し、殺傷能力の高いザックの使う斧や弓とは違い、ラキアルは武器としての用途に期待の出来ない棒を使い、呪哭を相手取っている。
ザック「ラキ、今は緊急を要する。さっきの男を見ただろ?剣を握らなければ守れるものも守れない。そろそろ覚悟を決めとけよ。」
ラキ「…わかってる。」
ラキアルの手は震えていた。武器を手に取ることは簡単なことでは無い。外敵から命を守るための道具は、時として相手の命を奪うこともある。戦わなければ生きていけない世界で、皆、それを理解しているからこそ生きている。だが、ラキアルは死を知りすぎているからこそ剣を握ることが出来なかった。
無名「住宅地に火の手が回ってきている。壁の爆破から引火に繋がったのかもしれない。急ごう!」
どこからか回る火が村を包んでいる。熱い炎は生暖かい風にのり、人々への恐怖をさらに煽っていく。雫たちはナツの家へ到着していた。家の前には呪哭がうろついている。タツとかけるを中心に呪哭を一掃する。
弓矢がゾンビの頭を貫く。灯の矢だ。
タツ「雫はここでナツを守れ!俺とかけるで脱出経路を確保する!灯が中でハナを見つけてくれ!」
かける「中に敵はいないと思うが急いでくれ!」
灯は玄関のドアを開けると目の前の階段へと駆け上がる。鍵はかかっていなかったが、侵入者の形跡は無い。人の気配は上だ。2階廊下の奥の部屋へと向かう。
ハナ「怖いよ…お父さん、お母さん…。」
静かに震え、泣いている少女を見つける。灯は少女に手を伸ばす。
灯「もう大丈夫!下でお兄さんが待ってる。さあ行こう!!」
ハナ「…うん!」
家を飛び出すと、かける達が呪哭と応戦している。ナツがハナへと駆け寄り抱きしめる。
ナツ「良かった!心配したんだぞ!ごめんな兄ちゃんが付いててやれなくて…。」
ハナ「大丈夫。お姉さんが助けてくれたから。」
タツ「2人とも怪我は無いね?行こう!ここから駅まで走るんだ!」
雫「ありがとう灯。ハナを見つけてくれて。」
灯「私の方こそ、ハナちゃんに勇気をもらった気がするよ。」
住民の逃げ遅れがいないかを確認しつつ、雫たちは鬼灯村の南端にある駅へと到着する。駅の入口では先に到着していたザックたちが呪哭の侵攻を防いでいる。
ザック「急げ!お前達で最後だ!」
一同が列車に乗ると直ぐに発車する。夜煌祭5名と灯、雫はアサヒ村長を探し、先頭車両へと向かう。ナツとハナは村の大人に預けて落ち着かせることに。
アサヒ「皆、よくやってくれた。灯にも危険な状況下での協力を感謝する。被害状況についてだが、鬼灯村に居た120名から行方不明者および確認できた死亡者は8名。本当に残念だが、脱出開始から発車までの猶予は30分が限界だった…。皆はよくやってくれていた。これは私の責任だ。」
沈黙が空気を重くする。
無名「…怪我人や避難した病人は?」
アサヒ「ああ、全員避難している。人数は怪我人が18、病人が4だ。足腰の悪い老人が3人いる。」
灯「山の光について何か知ってる…?逃げる時に見たの。」
アサヒ「詳しくはわからない。ただ、私が代々伝えられてきたのは、山頂には地獄へ繋がる大穴があるということだけだ。落下の危険があるため封鎖していたのだが、ファーストと名乗る男がそこで何かをしたのかもしれない。」
無名「ファーストは自らを呪哭だと言っていた。外の怪物をそう呼んでいたのは昔の事だったはずだ。それにファーストとその仲間には知性や目的があった。敵の規模は分からない。呪哭は太陽に弱いが、奴はもう夜は明けないと言った。もしファーストの言葉を信じるのなら、世界の終わりまであと3日。そしてここが始まりだ。」
雫「…終わりの始まりだ。」
鬼灯村は壊滅。世界を包む闇は人の心をも飲み込んでいく。どんな絶望にも光が差すのなら、諦めずにいられるだろうか。走る列車は月灯りに照らされてーー。
第1章 月灯りに照らされて [完]
ざわめく木々の中、沈んでいく真っ赤な空にのみ込まれながらも凛とした花のような少女がそこにいた。神社の社からどこか遠くを見ながらリンゴをかじる少女は、この場所に迷い込んだ子供を見つけるとその場を後にする。
辺り一面の景色はこの場所に迷い込んだ雫という少年には見覚えがあるように思えた。しかし、見ていた夢を忘れてしまうようにぼんやりとした記憶にすぎない。それでもなぜだか、雫はこの神秘的な空間に懐かしさと少しばかりの恐怖を感じた。どうやって迷い込んだかもわからない。村にある鳥居をくぐると気づいたらここにいた。この異様なまでの静けさの中、神社の境内から社へと目を向けるとすぐそばに雫と同年齢、17歳くらいの少女がいた。
少女の頭には角が生えていた。
リンゴを丸かじりしながら心配そうに雫を見ている。
少女「泣いてるの?もう大丈夫だよ?」
雫は自分自身がいつの間にか涙していたことに気づかなかった。何故だか、自分でも分からないのに不思議と気持ちが高ぶっていく。
雫「君の名前は?」
「灯。私は灯(アカリ)、100年ここで君たち人間を見守ってきた鬼神だよ。」
雫と灯、2人の出会いがこの物語の始まりだったーー
雫は自身の記憶を遡る。
今日は鬼神祭。死者を悼み笑顔で迎え入れる祭りだ。名前の由来はかつてこの鬼灯村を滅ぼそうとした存在を鬼神がその命と引きかえに追い払い、今も尚、あの世とこの世の境で見守っているという伝説から来ている。
雫はこの鬼灯村に来て10年経つ。あまり過去のことは覚えていないが、唯一記憶しているのはこの10年に一度の鬼神祭だった。見たこともないおかしな食べ物や遊びがそこには存在し、誰もが皆、笑いあっている。外の街や国々では戦争すらも巻き起こっているのに、その全てを忘れてしまうかのような一夜の煌めきを雫は覚えている。
昼下がり、暑い季節にはこの時刻が最も夏を感じるだろう。
鬼灯村の人達はみな祭りの準備に勤しんでいる。わずか数十人にも満たない人口での日々の生活も、祭りの準備も人手はどこまであっても足りない様子だ。
雫はいつも夜行性であり、部屋にこもっては小説の執筆を続けている。この村の村長、鬼灯アサヒの計らいと人脈により、過去5年での雫の出版した小説は大陸中で好評のため広く知られている。
昼過ぎまでだらしなく寝ていた雫を家の外から11歳前後の子供たちが起こしにやってきた。
ドアの向こうで叫ぶ子供は2人。妹思いの少年、ナツと元気いっぱいの女の子のハナだ。2人は兄妹で幼い頃に両親を亡くしている。
ハナ「起きてよ~!雫~!」
ナツ「まだ寝てるの~?雫兄ぃ?」
雫「祭りまでには起きるから今日は寝かせてくれないか…」
ナツ「村長がハルト兄さんの墓参りに行ってこいってさ~!」
ハナ「行ってこ~い!出てこ~い!17さ~い!」
雫「わかった!わかったから!それと17歳になるのは明日!まだ16歳だよ。」
身支度を終えて、村の離れにある墓地へと向かうために家を出る。鬼灯村に限らず、この世界には死者の成れの果てのようなモンスターが存在する。日中には出くわすことはないが、夜になると活発になり生きている者を襲う。いつからいるのか分かってはいないほど昔から存在する奴らは呪哭と呼ばれている。そのため、村や都市は壁で外界と隔たれている。100年ほど前に列車が完成し、大陸中の都市間をクロストリア中央駅を経由して交通を結んでいる。しかし、鬼灯村は辺境の村であるうえに常駐する車掌が呑んだくれのために1日2回しか普段は運行されない。
列車以外で村を出るのなら馬を借り、日暮れまでに戻らなければならない。もちろん、自分の身を守れる程度の力がなければ子供だけの外出は許されない。
雫は村に在住している兵士もどきから戦闘訓練を受けているため外出に問題はない。装備を確認し、馬に乗って村を出発する。
数km先にある墓地へと到着した雫は、馬を降りて奥へと進んでいく。「鬼灯ハルト」の名前を見つける。祈るように手を合わせていると中年の男が近づいてくる。彼は鬼灯ハルトの父、鬼灯アサヒ。村長だ。
アサヒ「…もう2年も立つのが信じられないが、私の息子は村の子らを、大勢の人の命を救って死んだ。人々は息子を英雄と称えたが私にとっては生前から誇らしくかけがえのない存在だった。早くに妻に先立たれて男手一人で育てた息子は、この村のしきたりの祭りがとても好きでね。だからこそ、私は息子が大切に思ってくれたこの村で無事に鬼神祭を開けることを嬉しく思うんだ。雫…君が村に来て私の息子の1人となったその日から、私は家族の絆を忘れたことはない。そしてそれはこれからもだろう。」
雫「…そうだね、僕もだよ。それにこの2年でやって来たあの人たちにも祭りを手伝ってもらえるから、きっと最高の祭りになる。だからハルト兄さんも来てくれるさ。」
アサヒ「ああ。彼らにも世話になっている…というか世話しているというか…。まあ賑やかなのはいいことだ。いつまでも後ろは見ていられん。私は村長だからな!私がしっかりせねば!そうだ、そろそろ村に戻って出店の準備を手伝ってやってくれ。私はもう少しここにいる。」
雫「分かった。」
村へ戻ると皆が慌ただしく祭りの準備をしている。
「看板の塗装材はどこだ~!?」
「白髪の兄ちゃんが盗っていたの見たぞ!」
「つまみ食い犯をとっ捕まえたぞ!
縄もってこい!」
「おい誰だ!謎の汁を大鍋で作ったのは!」
「ダメです!親方味見しては…親方ァ!!」
村の入口まで村民の忙しそうな声が響いてくる。たまにおかしいのが混じってる気がするがきっと気のせいだろう。そういうことにしておこう。
祭り会場は村の奥にある林道を越えた場所だ。鬼灯村は居住地区と自由地区の2つの地区で構成されている。村民が住む家々の奥にある林道を抜けると、自由地区がある。そこは普段、村民の訓練場や放牧場所として使われているが祭りの日には会場として利用される。さらにその奥地には神殿があり、祭りの終盤にそこで打ち上がる花火が名物だ。
林道には鳥居が出入口に2つある。雫は初めてこの村に来たあの日を思い浮かべながら、林道へと足を踏み入れる。
記憶を胸に鳥居をくぐる。
1歩進むと空気が変わった。
風が撫でると世界が変わった。
ざわめく木々の中、沈んでいく真っ赤な空にのみ込まれながらも凛とした花のような少女がそこにいた。
「灯。私は灯(アカリ)、100年ここで君たち人間を見守ってきた鬼神だよ。」
第2幕 君を連れて
鬼神と名乗る少女は夢幻ではなく、確かにここに存在していた。まるで時が止まっているかのような静寂。時折、風に揺れる木々や草花の音が優しく響く。この場所を一言で表すのなら神社になるのだろう。社に通じる参道の両脇には蒼い綺麗な花がその地を埋めつくしている。目に見えるものや差し込む光、どこか悲しげな音に太陽のような匂い。五感を通して雫の心に暖かさが伝わる。
目の前に広がる光景に、どこか懐かしいような、寂しいように感じた雫は涙を流していた。
灯「迷い込んじゃったんだね…君。名前はなんて言うの?」
雫「…雫。泣いてるつもりはなかったんだけどね。迷い込んだというと…」
灯「君はいわゆる神隠しっていうのにあっちゃったんだよ。時々、雫みたいにこっち側にやって来ちゃう人達がいるんだよ。すぐに帰してあげるから心配しないで!」
雫「神隠し…。ここは死後の世界になるの?」
灯「意外と落ち着いてるね。半分は正解。ここは神籠(カミカゴ)と言ってあの世とこの世の境目になる場所なんだ。私は産まれた時からここに居るみたいで、もうそろそろ100年になるのかな?ずっとここで現世と地獄を繋ぐ入口を守ってるの。私こう見えて神様なんだよ?鬼でもあるみたいだけど。」
雫「現世と地獄を?」
灯「うん。人は死んだら天国に旅立ってしまうんだけど、心に罪を抱える人は地獄に落ちてしまうの。天国へ向かう人は、時間をかけて新しい命となってまた現世に生まれ変わる。地獄に落ちてしまえば苦しみに灼かれて罪を償い続ける。人の心を取り戻すまでね。で、その地獄から人の魂が現世に流れ込まないように私が見張ってるの。まあ神様と言っても私に出来ることはそんなになくて、ここにいて鬼神の力を垂れ流してるだけで地獄の門を開かないようにしてるんだ。」
雫「灯は100年もここにいるのなら、結構な高齢者ってことなのか…。」
灯「ナッ!?私こう見えて神様なんだけど!!ここは時間の流れが外とは違うから私はまだ17歳くらいですぅ!外の100年は実質ここの17年くらいだからね!」
灯がプンスカ怒っている。これは雫が悪い。
雫「ごめんごめん。でも、それなら僕がここに来てからの時間は外の時間と比べて経過が早くなるのならもう何年も僕は失踪してることになるのかな。」
灯「そんなことはないよ。少し複雑なんだけど時間の流れは私にだけ適応されるの。理由はここに私を閉じ込めた人がそう設定した…って意味わからんくなってきた。リンゴ食べよ。」
灯は賢そうに見えて結構バカだった。
雫「…なんとなく今のでわかったよ。きっと先代の神様か何かがそうやったってことだ。それに外部の人間と接している間は恐らく時間の設定を解除されるから問題はないということだね。」
灯「そ、それが言いたかったんだよ~!」
雫「でも夜になると動き出す怪物たちは死者とは関係ないの?」
灯「…あれは記憶。人は死んだ後、魂は死後の世界に旅立てるけれど、肉体…つまりは器に残された負の記憶が人を襲ってるの。それはさっき私が言ってた、地獄から魂が流れ出ないように入口を閉ざしてる意味にも繋がるんだよ。現世に存在する負の記憶の成れの果てである彼らに魂が戻ってしまう。そうなってしまえば彼らは更に強くなって人を襲ってしまう。」
雫「でも…人のため、世界のためとはいえ灯が1人ですべてを抱え込まなきゃいけないなんて、そんなのおかしいよ。灯はそれでいいの?」
質問ばかりだ。しかもこれは良くない質問だ。
それを分かっていても雫は灯の心を知りたかった。何故かはわからない。雫はただ、灯を知りたかった。
灯「そうだね。ここは寂しいし、とても退屈で死んでしまいたいって思うこともあるよ。でもね、私はここから外の世界を見ることが出来るの。外の世界は戦争だとか貧困だとか苦しい辛いことがいっぱいある。それでも悪いことばかりじゃなくてとても大きな列車や、美味しそうな食べ物が並んで…祭りっていうのかな、すごく楽しそうで…。この死に溢れた世界に抗い続けている人達のためなら、私はいつまでもここに居るよ。」
雫は心を動かされていた。自己犠牲は正義ではない。本当の正しさというのも分かりはしないのだろう。ただ、それでも灯の言葉には強く、優しい覚悟を感じた。だが、その覚悟を尊重したうえで、灯を救いたい。少しの間だけでもいい。永遠にも等しい時間の中で他人を思いやる彼女の心を救いたい。それが雫の本心であり、雫にとっての正義だった。
雫「…今夜、僕が住んでいる鬼灯村で祭があるんだ。鬼神を祀る村だから君の祭だ。灯、君も行ってみないか?今まで1人きりで頑張ってきたんだ。少しくらい自分自身のために時間を使ってもいいんじゃないかな。」
灯「でも、私がここを出たらどうなるか分からない。祭りには行きたいよ。ここから出る方法も分かってる。けど…」
灯にとって外の世界は憧れであり恐怖だ。それに神籠を離れることでどこまで世界への影響があるかも分からない。少なくとも神籠の中では願うだけで衣食住は叶うし、安全な場所から世界を見ることが出来る。それでも雫の目を見ると、心が熱くなる。
産まれたときから1人だった。自分の使命も世界の仕組みも神籠に満ち溢れる光が教えてくれた。顔も知らない誰かのために生きてきた。一度だけで良い。少しだけわがままを言ってみたい。
雫の言葉は灯にとって、雲の切れ間から流れ出る光のように眩しく、強く心を照らしてくれる。
灯「行きたい!私、君と一緒に祭へ行きたい!」
灯は雫の手を握る。
雫「どこへだって君を連れていくよ」
たとえ、どんな世界でも君を連れていくーー。
第3幕 ひとときの夢
風が頬を撫でると鈴の音がなる。
気がつくと2人は鬼灯村の祭会場への林道に居た。聴こえてくる祭囃子が心を踊らせる。
雫「行こう!」
灯は初めての外の世界に興奮と恐怖を感じたが、雫に手を引かれると勇気が湧いてきた。
鳥居を抜けると、眩い光が2人を包んだ。色とりどりに煌めくその景色は雫と灯に大きな感動を与えた。食べ物や娯楽の出店が立ち並び、賑やかな音と匂いが人々を笑顔にしている。
灯はつい先程まで感じていた外の世界への恐怖を忘れ、屋台へと足早に向かう。
雫「焦らなくていいから!迷子にならないでよ。」
灯「りんご飴2つください!雫!お金!」
雫「そうか僕が払わないといけないのか…。貯金足りるかな。」
灯「雫!串焼きだよ!串焼きがあるよ!!」
数分間のうちに食べ物ばかりを雫は買わされていた。貯金のほとんどが灯の食費で消えていく。雫は小説家でかなり稼げてはいるのだが、収入の8割を鬼灯村に譲渡しているため貯金は多くはない。そのおかげで村人は安定して生活を送る事が出来、祭りの資金にも貢献している。しかし、これはまずい。面白いほどに金が消えていく。
雫が灯の気をそらそうと、出店の釣り屋に行く。そこでは20歳ほどの青年が店を取り仕切っていた。
「いらっしゃい!って…あ!雫じゃないか!雫が女の子を連れているなんて珍しいね。」
雫「案内してるだけだよ。この子は灯。外から来た子だよ。」
灯「ねぇ、釣り屋って何!?」
雫「釣り屋は生け簀から魚を釣るゲームだよ。この人はタツ。夜煌祭という傭兵の1人だ。」
灯「よろしく!タツさん!私釣りって初めて!!」
タツ「よろしくね、灯。釣りは簡単だよ。釣り糸を垂らして、糸が動いたらすぐに釣り上げる!釣れた魚はここで調理してそのままあげるから、ぜひ挑戦してみてね!」
2人は釣り糸を垂らす。灯はすぐさま釣り上げて魚を焼いてもらう。
タツ「はいどうぞ~!まだまだ祭りは続くから楽しんでいってね~!」
灯「美味し~!あ、あそこにもまだ行ってないお店あるよ雫!」
魚を食べながら灯は怪しい出店を指さす。
雫「食べてから話しなよ。あそこは…ダメだ。やめた方がいい。」
タツ「うん、命が惜しいならあそこには行かない方がいいね。なんたってあそこはラキさんが…」
忠告も虚しく、灯はすでにその店に足を運んでいた。
灯「すみませーん!ハリセン焼きひとつくださーい!」
タツ&雫「話聞いてた!?」
看板にはLaki’s kitchenと書かれている。知る人ぞ知るやばい雰囲気を醸し出している。
「お!お客さん通だね~!このラキアルさん特性のハリセン焼きをご所望とはお目が高いね!」
ラキと名乗る若い店主は調理台から聞こえるはずのない音を出しながら話す。
ラキ「女の子は1つで、雫はいらないのか?」
雫「遠慮しとくよ…。灯はまあきっと本当に神様だし、ラキのハリセン焼きも素材は知らないけどきっと焼くだけだろうから大丈夫だ。きっと。それに一応止めたからね。」
笑顔で待つ灯の隣で、雫は問題ないはずだと自分に言い聞かせていた。
ラキ「はい出来上がり~!」
魚らしき何かの物体を手渡す。モザイクかけた方がいいんじゃないのかこれは。
灯「いただきまーす!パクッ…オrrrrrrrrr」
灯は1口食べると店の隣で、秒で吐く。
ラキ「ありゃ、フグの毒を抜き忘れてた。」
雫「フグ!?誰だこの人に出店任せたのは!」
ラキ「大丈夫大丈夫、さぁこれでも飲んで。」
怪しげな瓶を灯に手渡す。灯と雫はそのガラス瓶の液体の色がおかしいことに気がついていなかった。
灯「い、いただきますぅ…ゴクッ…オrrrrrrrr」
チ───(´-ω-`)───ン
雫「嫌ァ!人殺し!じゃなくて神殺し!!
いったい何飲ませたの!?」
ラキ「え?滋養強壮の毒マムシ。」
雫「何てことを!!」
灯「少し楽になってきたけど、死ぬかと思った…。」
ラキ「毒を以て毒を制s」
ブスっと鈍い音がした。
言いかけたところでラキの眉間に矢が刺さる。
チ───(´-ω-`)───ン
灯「嫌ァ!人殺し!」
雫「大丈夫この人定期的に撃たれてるから。」
「射的屋でーす。どうですお客さん1発殺って行きませんか~?」
ラキと同年齢、21歳くらいの白髪で琥珀色の瞳をした人殺し…もとい射的屋が弓を持って物騒な客寄せをしている。
雫「助かったよザック。せっかくだしやっていくよ。」
シュタッと的の中心に矢が当たる。雫は剣よりも弓の方が得意だった。
灯「えぇ、なんでそんなに当てれるの~!?」
灯の放つ矢は的を外れている。
雫「集中して風を読むんだよ。でも僕よりザックの方がすごいんだよ?弓の達人なんだから。」
ザック「…手で弓を引くんじゃない。体全体で引いてみろ。」
灯「体で?」
ザック「そうだ。足を肩幅まで開き、腰落として胸を張れ。手は弓に添えるだけだ。そして風の音が止めば、それが合図だ。」
今度は命中した。
灯「やった~!!当たったよ~!!」
ザック「覚えが早いな。雫に教えた頃を思いただすよ。」
雫「ザックの教え方が上手いんだよ。ラキやかけるに剣を教わったときは、ズパっと真っ直ぐ斬る感じ~みたいな…」
ザック「そいつらは教えるのが下手なだけだ。特にラキは俺が知る中でも、いや今はどうかは分からないか。」
談笑をしていると、若い男がやってきた。
青い瞳に、紫と黒が入り交じった髪の男だ、
「やあ、雫とザック。それと…君は外からのお客さん…確か灯ちゃんだったかな?」
ザック「なんだ、無名。お前も射的をやりに来たのか?」
灯「むめい?私のことを知ってるの?」
無名「うん、訳あって無名と名乗ってるんだ。君のことはそこでのびてたラキから聞いたよ。」
雫「よく聞き出せたね。」
無名「まあね、大変だったよ。そうそう、遊びに来た訳じゃなくてちゃんとした用事で来たんだ。」
ザック「何かあったのか?」
無名「…特別傭兵、夜煌祭は全員、神殿前の広場に集合するようにと村長から。今夜は外の化け物も活発になっている。なんだか嫌な予感がするよ。」
その場にいた4名は神殿前の広場へと向かった。
第4幕 不穏
4人は祭り会場の最終地点にある神殿広場へと歩を進める。
無名「ラキは先に向かわせたけど、途中でかけるを見つけないと。」
ザック「あのバカは食い逃げで捕まってたぞ。」
雫「かけるはいつも落ち着きがないね…。」
灯「かけるって人も変な人なの?」
無名「変人には変わりないけどね。かけるは竜人なんだよ。僕と一緒に育った兄弟のような存在だ。仲良くしてやってくれないかな。」
灯「もちろん!でも、竜人って鬼を食べた人の末裔なんでしょ…?私、食べられないかな…。」
雫「竜人が人であるときに鬼を食らったのは、はるか昔。その代償に龍のような角と翼が生えただけで、今は鬼や人を食べるようなことはしないよ。まあ翼はあっても飛べないけど、その代わりに人の2倍の力を持つと言われてるね。」
無名「灯、君は鬼神だと聞いたけど、絶滅危惧種の鬼とは少し違うみたいだね。でも出来ればそのことは秘密にしておくべきだ。僕達はどうとも思わないけど、ほとんどの人間は鬼や竜人を強く恨んでいるからね。」
灯「うん…そうだよね。」
ザック「おい、あれみろよ。」
出店から離れ、ザックが指さす方には簡易的な鉄格子で阻まれた牢屋があった。中には赤く鋭い目、角と翼を持つ青年がいた。
かける「よう!お前ら!こんなところで会うとは偶然だな!!頼みがあるんだが、助けてくれないか?」
明るく助けを乞う変人のようだ。
灯「お、おはこんばんにちわ…!灯と申します!!」
灯は天敵かと警戒し、強く緊張していた。
かける「見ない顔だな!よろしく!!俺はかける!」
無名「開けてやるから早く出てくれ。これから神殿広場へ向かう。」
雫「いつもこの人はこりないね…。」
灯「ねえ、かけるの好きな食べ物は何!?」
かける「食えるものは全部好きだが、強いて言うなら…串焼きかなぁ。」
灯「私も!」
意気投合しつつ、神殿広場に到着した。一行は広場中央にいるアサヒ村長とラキアルと合流する。
アサヒ「来たか。ラキアルから灯については聞いている。それと、外部警備の者からの報告では村の外では辺り一体がいつも以上に化け物どもで埋め尽くされているそうだ。本来、村の外からの客人は歓迎しているし、祭の開催前に怪しいものがいないか検問も怠ってはいない。だが今夜は日暮れ時に列車を止め、門は閉ざした。その上で、怪しいものがいるとの報告が上がっている。灯については夜煌祭による警備と調査、雫の同伴が前提だが、問題は無いと思っている。しかし、不穏な空気が漂っているために君たちをここへ呼んだ次第だ。」
無名「灯については不思議なことに神隠しから雫を連れ戻したと聞いた。数十年前から神隠しは存在するし、鬼神であるというのも信じられなくもない。ただ、怪しい者というと、検問をすり抜けたことになるよね。」
ラキ「壁でもよじ登ってきたんじゃない?」
かける「腹減った~。」
灯「った~。」
ザック「検問をすり抜けるとなると、一理あるな。過去には俺とラキはよじ登って入ってきた。道具があっても常人じゃあまず無理だから、それなりの手練だぞ。」
各々が考えを深める中、花火があがる。空に響き渡る轟音、煌めいて散りばめられた星屑のような火薬。灯は初めての光景に息を飲んだ。
アサヒ「おい待て、まだ花火が上がる時間ではないぞ。」
少しの沈黙が、夏の夜風に確かな冷たさを残した。
神殿の入口、大広間になっている壇上には怪しげな男が立っていた。髪の7割が白く、3割が黒く変色している。瞳は黄色く光、凍りつくような目だ。まるで歴戦の兵士のような隙の無さに、恐怖と静寂を与える異質な空気をまとっている。
上がり続ける花火を背に、夜煌祭は武器をかまえる。が、誰一人として男の間合いに踏み入ることが出来ずにいる。
「鬼神祭をお楽しみの皆様、今晩は。私はファースト。この決してあけることの無い夜の始まりに立ち会わせて頂くものです。」
ザック「何者だよアイツ。」
ラキ「あれは今の私たちじゃ勝てないな。」
アサヒ村長「誰も手を出すな!…ファースト、話を聞こう。君は何者で、何が目的なんだ?」
ファースト「我々は呪哭。(ジュコク)世界を呪い、死を与え哭く、世界の理です。私はその始まりにすぎない。目的は人類の滅亡。この世界にもう夜明けが来ることはありません。」
不穏の先には、恐怖が待っていた。
第5幕 脱兎のごとく
ファーストの冷酷な目を見てしまった灯は生まれて初めて死を意識した。
ファースト「皆さんは光栄にも世界で最初に呪哭と共に旅立てるのです。間もなく外より彼等がやってきます。どうか残された3日間、死を楽しむといい。」
打ち上がる花火に紛れて一際大きな音が大地を揺らした。まるで爆弾のようなものが起爆したように思える。無名がいち早くその音を察知した。
鬼灯村、居住区域の東西にそびえたつ壁が破られた音だった。
無名「今の音、もし壁が破壊されたなら外の怪物が押し寄せてくるよ…!爆弾だとしたら多分あの男の仲間だ!敵は複数いる!!」
アサヒ「警備の者は住民と客人の避難誘導!この場にいる全てのものを列車に乗せろ!猶予は20分だ!それまでに誰一人見捨てることなく駅まで走らせろ!!」
既にパニックになった住民をなだめつつ、アサヒ村長が周囲に呼びかけ、避難誘導を開始する。
ザック「かけると俺は敵の牽制をするべきか!?」
アサヒ「いや、君たちがこの場で一番戦える…。だからこそ優先して逃げ遅れた者たちを誘導してくれ!君らが列車にたどり着いたら出発する!」
無名「それに牽制する必要はないみたいだ。どうやらあの男は鬼灯山の山頂に向かってる!きっと仲間と落ち合うんだ。ならこの機を逃さず僕らは逃げることに専念すべきだ!」
かける、ラキアル、タツは会場で避難誘導をしている。辺りからはゾンビや死者のような呪哭と呼ばれる怪物が現れている。一同は呪哭を迎撃しながら、駅までの避難および逃亡を完了しなければならない。
混乱の中、雫に助けを求める少年がいた。ナツだ。
ナツ「助けてくれ!雫兄ぃ!大変なんだ!妹が…ハナが!」
怯えるナツの肩に両手をかけ、膝をつき目線を合わせる。
雫「落ち着くんだ!大丈夫だから、落ち着いて話してくれ!」
ナツ「…ハナが、ウチにいるんだ!花火を父ちゃんと母ちゃんに見せたいからって、2人の写真を取ってこようとして、1人で大丈夫だと言うから、ついて行かなかったんだ…俺のせいだ!」
雫「大丈夫!ハナは強い女の子だ。きっとまだ家にいる。今すぐに助けに行くから!」
しかし、一人で少年を守りながら救出に行くには危険すぎる…。雫は思考を巡らせる。後悔のないように、今できる最善の選択を…!
雫「タツ!かける!僕と一緒に来てくれ!ハナがまだ家にいるんだ!助けに行く!」
2人が応答しつつ敵を薙ぎ払う。
その場にいる生存者は皆無事に広場を抜けたようだ。
だが、灯はまだ恐怖にのまれ、動けないでいた。光る炎、呪哭と呼ばれる怪物…死者の哭く声、恐怖を加速させる悲鳴、うまく息が出来ない…。少しずつ声が聞こえてくる。
雫「り…!灯!」
灯はようやく正気に戻った。
灯「わ、私…」
雫「灯もついてきてくれ!大丈夫、怖くても僕がいる。皆がいるから!」
雫は灯の手を取って脱出を目指す。
無名「僕とザック、ラキは病院の患者の救出に行く!きっと動けない患者がいたら、バリケードを設置して数分間は耐えるはずだ!後で落ち合おう!」
一同は神殿前の広場を後にした。
神殿の奥には鬼灯山の頂上へ通じる山道がある。普段は封鎖されているが、ファーストはそこへ向かっていた。頂上には底の見えない、地底へと続く大きな大穴が存在する。鬼灯村の伝説にはかつて、呪われた魂がそこへ落とされ、地獄へ落ちると言われている。いわば地獄の門になりうる場所なのだった。
穴の前にファーストは立っていた。
ファースト「この場所は思い出すことのない記憶なのだろう…。しかし、私にとっては忌まわしい過去の終焉だ。お前たちもそうだろう?」
どこからか、ファーストと同じような風貌の2人の男女が現れる。
ファースト「首尾はどうだ、サード」
サード「東西の壁に穴を開けておいたぞ。ハハッ!」
サードと呼ばれる男は不気味に笑っている。長い髪を後ろでくくり、中性的な顔立ちとはうってかわって、無駄のない均整のとれた筋肉をしている。狂気に触れたような笑みを浮かべ、その口の両端に縫い目が存在する。
サード「セカンドは『何だか満足行かないわ!』って顔で滑稽だなぁ!」
もう1人の呪哭の女性は、肩まである髪をなびかせ、サードを睨む。その場にいる3人は、容姿から推測できる年齢は20代前半だろうか…。しかし、彼らからは若者にはない、ただならぬ気迫がある。
セカンド「…うざ。でも、確かにそうよ。先に厄介そうな連中は始末しておけばよかったのよ。逃がして泳がせるなんてつまらない。早く殺してあげたらよかったのに。」
ファースト「私たちが手を下すほどでもないだろう。それに、レイからは先に地獄を開門するように指示を受けている。」
セカンド「だとしても、障害になりそうな存在は排除しなければ後から痛い目にあうわよ。」
ファースト「こちらにはサードもいる。現世の呪哭が人類ごときに負けることはない。地獄の門が開門する3日後、我らが呪哭の王、レイがこの門を通る時、夜は完全に世界を包み込む。彼らの勝機は万に一つもないだろう。」
呪哭の3人は一呼吸おくと、穴へと手を伸ばす。
数秒後、奈落のような穴の底から赤い光が溢れる。
世界から夜明けが奪われる。地獄の門が開門し、人類の滅亡まであと3日。
第6幕 終わりの始まり
鬼灯山から放たれる光は祭会場まで逃げている灯の瞳にも映っていた。
目まぐるしく変化する目の前の光景に、誰もが恐怖を隠せなかった。特に、灯にとっては初めて触れる世界への興奮と、死への恐怖による感情が思考を停止させていたのだろう。しかし、灯の心には何よりも罪悪感が深く巣くっていた。
なぜなら今、この現状を引き起こしてしまったのはーー。
かける「気をつけろ灯!」
ゾンビの呪哭が灯に襲い掛かった瞬間、かけるが剣で攻撃をそらす。
即座にその頭をタツが撃ち抜く。
雫、ナツ、灯、タツ、かけるは敵を迎撃しながら住居区域へと向かっている。
タツ「さっき警備から予備の武器をもらってきた!雫と灯はこれで自分の身を守ってくれ!さすがにザックやラキがいないと全員を守り切れる余裕がない!」
タツはそう言うと2人に弓と剣を手渡した。
かける「使い方はわかるな!?教えてる暇はないぞ。」
灯「うん。大丈夫。今は大丈夫だから、ありがとう。2人とも。」
雫は灯の変化に気が付いていたが、自身の不安を伝播させないように振舞うので精一杯だった。
雫「…急ごう!ナツの家は居住区域の東南だ!」
呪哭をかいくぐり、祭会場から居住区域に繋がる林道へと5人は走り抜ける。
タツは懐かしい青年とすれ違ったような気がした。振り返らずに突き進むタツを、優しい蒼い瞳が見つめている。
「それでいい。振り向くな、タツ…。」
雫たちが先行して居住区域へと向かい、数分後には神殿広場での避難誘導は完了していた。
ザック、無名、ラキアルは迅速に敵を迎撃しながら逃げ遅れたものがいないかを確認する。夜煌祭の中で最も実力のあるザック、豊富な知識と判断力に優れた無名がいたからこその芸当だ。アサヒ村長は警備の者を何人か連れて住居区域の中央エリアへ、ザックたちは同エリア内の西南部の病院へと向かった。
鬼灯村、居住区域、病院内。1階では荷を積んでバリケードしていた痕跡がある。
3人は一つ一つの部屋を確実にチェックする。中に入り込んでいる呪哭を倒しつつ、二階廊下で合流する。
ザック「…血痕もない。見回りの警備が無事に避難させたようだな。」
無名「こっちにも誰もいないみたいだ!」
ラキアル「怪我人もいるかもだろうから、倉庫から医薬品をとってきておいたよ。」
本来、武器を扱える者は基本的には弓、または剣を使用しているがラキアルは木の棒を使っている。普段から使用し、殺傷能力の高いザックの使う斧や弓とは違い、ラキアルは武器としての用途に期待の出来ない棒を使い、呪哭を相手取っている。
ザック「ラキ、今は緊急を要する。さっきの男を見ただろ?剣を握らなければ守れるものも守れない。そろそろ覚悟を決めとけよ。」
ラキ「…わかってる。」
ラキアルの手は震えていた。武器を手に取ることは簡単なことでは無い。外敵から命を守るための道具は、時として相手の命を奪うこともある。戦わなければ生きていけない世界で、皆、それを理解しているからこそ生きている。だが、ラキアルは死を知りすぎているからこそ剣を握ることが出来なかった。
無名「住宅地に火の手が回ってきている。壁の爆破から引火に繋がったのかもしれない。急ごう!」
どこからか回る火が村を包んでいる。熱い炎は生暖かい風にのり、人々への恐怖をさらに煽っていく。雫たちはナツの家へ到着していた。家の前には呪哭がうろついている。タツとかけるを中心に呪哭を一掃する。
弓矢がゾンビの頭を貫く。灯の矢だ。
タツ「雫はここでナツを守れ!俺とかけるで脱出経路を確保する!灯が中でハナを見つけてくれ!」
かける「中に敵はいないと思うが急いでくれ!」
灯は玄関のドアを開けると目の前の階段へと駆け上がる。鍵はかかっていなかったが、侵入者の形跡は無い。人の気配は上だ。2階廊下の奥の部屋へと向かう。
ハナ「怖いよ…お父さん、お母さん…。」
静かに震え、泣いている少女を見つける。灯は少女に手を伸ばす。
灯「もう大丈夫!下でお兄さんが待ってる。さあ行こう!!」
ハナ「…うん!」
家を飛び出すと、かける達が呪哭と応戦している。ナツがハナへと駆け寄り抱きしめる。
ナツ「良かった!心配したんだぞ!ごめんな兄ちゃんが付いててやれなくて…。」
ハナ「大丈夫。お姉さんが助けてくれたから。」
タツ「2人とも怪我は無いね?行こう!ここから駅まで走るんだ!」
雫「ありがとう灯。ハナを見つけてくれて。」
灯「私の方こそ、ハナちゃんに勇気をもらった気がするよ。」
住民の逃げ遅れがいないかを確認しつつ、雫たちは鬼灯村の南端にある駅へと到着する。駅の入口では先に到着していたザックたちが呪哭の侵攻を防いでいる。
ザック「急げ!お前達で最後だ!」
一同が列車に乗ると直ぐに発車する。夜煌祭5名と灯、雫はアサヒ村長を探し、先頭車両へと向かう。ナツとハナは村の大人に預けて落ち着かせることに。
アサヒ「皆、よくやってくれた。灯にも危険な状況下での協力を感謝する。被害状況についてだが、鬼灯村に居た120名から行方不明者および確認できた死亡者は8名。本当に残念だが、脱出開始から発車までの猶予は30分が限界だった…。皆はよくやってくれていた。これは私の責任だ。」
沈黙が空気を重くする。
無名「…怪我人や避難した病人は?」
アサヒ「ああ、全員避難している。人数は怪我人が18、病人が4だ。足腰の悪い老人が3人いる。」
灯「山の光について何か知ってる…?逃げる時に見たの。」
アサヒ「詳しくはわからない。ただ、私が代々伝えられてきたのは、山頂には地獄へ繋がる大穴があるということだけだ。落下の危険があるため封鎖していたのだが、ファーストと名乗る男がそこで何かをしたのかもしれない。」
無名「ファーストは自らを呪哭だと言っていた。外の怪物をそう呼んでいたのは昔の事だったはずだ。それにファーストとその仲間には知性や目的があった。敵の規模は分からない。呪哭は太陽に弱いが、奴はもう夜は明けないと言った。もしファーストの言葉を信じるのなら、世界の終わりまであと3日。そしてここが始まりだ。」
雫「…終わりの始まりだ。」
鬼灯村は壊滅。世界を包む闇は人の心をも飲み込んでいく。どんな絶望にも光が差すのなら、諦めずにいられるだろうか。走る列車は月灯りに照らされてーー。
第1章 月灯りに照らされて [完]
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