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第38話:後始末
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「――アホなのかいあんたは!?」
試合から数日後、学園長室に年老いた婆さんが出したとは思えない怒声が轟いた。
それだけでなく、何万もの敵を屠ってきた拳が頭蓋骨を打った音もした。
「痛ーっ!?」
「なんで魔族がいるって知りながら私に知らせないんだい!」
今、俺は絶賛説教中である。
というのも、カッとなった俺はあのあと全観衆の注目を集めるくらいには力を出し……試合をぶち壊したのだ。
ウチの逆転勝ちという形で。
それを見た、第7クラスの人の親や賭け事をして負けた貴族から、俺が第20クラスに在籍していることについて批判が殺到したのだ。
さらに、これはまだ婆さんには言っていないが、他国のスカウトの注目も集めてしまい、俺の元に勧誘の書類が多数届いたのだ。
「だって、魔族はみんなから嫌われてるって聞いたから……」
「だとしてもだねえ……。まあ、あんたが目立ったせいであの子への注目はだいぶ逸れたんだがね……」
「せいってなに。俺のおかげでしょ?」
「この学校にあんた以上に大切な子がいるもんかい。学園長としては失格だろうけど、どうしてもあんたを可愛がってしまうのさ」
前に、軍の駒にされるのは嫌だって言ったから、婆さんはそう言ったのかもしれない。
俺が目立たなければ、国からの厄介な勧誘などもないのだから。
なんだか嬉しくなって頬を緩ませた。
「とはいっても、魔族が入学してるっていう事実に、あの子への、ひいては学校への批判は多いんだけどねえ」
たぶん、サニャクルシアの在学を容認すれば、この学校の評判はガクンと落ちるだろう。そして、入学志願者も相当減るはずだ。
それは受験料も多いな収入源である学校にも悪影響を及ぼすわけであり、それでも婆さんはサニャクルシアを退学にしないだろう。
俺がしたことが、サニャクルシアと関係しているとわかっているはずだから。
だからこそ、婆さんは頭を悩ませているのだ。
「まあいいさ。とりあえず、あんたとサニャクルシアって子は一週間停学だよ」
「えっ」
「当たり前じゃないか。二人とも良くも悪くも目立っちゃってるんだからねえ」
サニャクルシアは体面的にも納得できるとして。
「俺もなの?」
「そりゃあね。貴族たちの反感を買うのも面倒だし、あんたは『力を隠して入学した生徒』って形で停学だね。それ自体は褒められはせずとも、校則違反ってわけじゃあないからあんたには悪いんだけど……」
合宿からの前評判はあったものの、大きな実力差を俺単体に覆された相手とその親がその不平不満を俺にぶつけることは容易に想像できた。
その最低限の対応として、俺の停学なのだろう。
「まあ、出世を目指してるわけじゃないから気にしないよ」
宮廷魔導士でも志している者ならば一日でも多く出席しておきたいはずなのだが、あいにくと俺は人と触れ合うために入学した身だ。
この停学が将来に響くことはないだろう。
「そう言ってくれると思ってたよ。それじゃ、話は終わりだよ」
婆さんは手を払い、俺に退出を催促する。
大方、これから試合についての書類でも処理するのだろう。
邪魔をするわけにもいかないので、俺もさっさと部屋を出た。
今日は、試合の疲れを落とすという名目で休日になっていた。
学校に来てから肉体的な鍛錬があまりできてなかったので、それに充てるのもいいかもしれないな。
――と考えてこの前使った闘技場に来てみたのだが、先客がいた。
「まだ、まだッ!」
「踏み込みが甘いわね~」
本気で振るわれた鉄の剣を、ブロンズの大人の女性――モーラが硬い音とともに素手で弾く。
上段から振るった剣を跳ね返された少年――ラークはばんざいをし、その隙を突かれて胸を掌底された。
「もう一回!」
このようなことを何回か繰り返しているのを見ていたが、回を重ねるごとにラークの攻撃のキレが増し、魔法を絡めた攻撃のバリエーションが増えている。
モーラの指導が的確なのか、ラークの飲み込みが早いのかはたまたどちらともなのかはわからないが、休日に熱心なことだ。
意識高い系である。
しかし、魔法はこの学校の教師なら言わずもがな、モーラが近接戦も戦えるのは初めて知った。
「シアン君!」
「ん? リアか」
何気なく打ち合う二人を眺めていると、最近話せていなかった気がするリアが後ろに立っていた。
「久しぶりね」
「うん」
見ると、リアの面持ちは固い。たしか、リアたちのクラスにも下克上の申し入れがあったそうだから、その緊張だろう。
「リアのクラスも、もうすぐ試合らしいね」
「そうね。第6クラスとやるの」
どうやらリアたちのクラスも彼女たちより上のクラスと戦うらしい。
「試合方法は?」
「一騎討ちの五本勝負に決まったんだけど、私も選ばれちゃったんだ。それも大将に」
闘技場の中央で、打ち合いの音が響くと、リアの視線も釣られるように動く。
「それだけの力があるってことだよ。自信持って!」
「で、でも……もし私まで回ってきて、負けたらと思うと……」
不安がリアの顔を包む。
クラスメートからの信頼や実力で殿に選ばれた以上、やはり周囲からの重圧は生まれるものだろう。
「精一杯やって負けたなら、誰も責めないよ。それに、まだ戦ってもない相手なんだから、結果はわからないよ」
「……うん、そうよね。まだ負けたって決まったわけじゃないわ!」
「その意気だよ!」
特に俺ができることはないが、少しでも気が晴れたのならよかった。
「それで、お願いがあるんだけど……」
リアの少しつり目がちな眼差しが俺を見据えた。
あ、なんとなくこの先の展開が……。
「魔法を教えてほしいの」
だろうな。
まあ、リアになら教えても大丈夫だろう。
「わかったよ。でも、今までの魔法とは全然違うから覚悟してね」
それから、俺はリアに魔法を教え込んだ。
悪い知らせが俺の耳に届いたのは、俺が寮に帰ってからだった。
試合から数日後、学園長室に年老いた婆さんが出したとは思えない怒声が轟いた。
それだけでなく、何万もの敵を屠ってきた拳が頭蓋骨を打った音もした。
「痛ーっ!?」
「なんで魔族がいるって知りながら私に知らせないんだい!」
今、俺は絶賛説教中である。
というのも、カッとなった俺はあのあと全観衆の注目を集めるくらいには力を出し……試合をぶち壊したのだ。
ウチの逆転勝ちという形で。
それを見た、第7クラスの人の親や賭け事をして負けた貴族から、俺が第20クラスに在籍していることについて批判が殺到したのだ。
さらに、これはまだ婆さんには言っていないが、他国のスカウトの注目も集めてしまい、俺の元に勧誘の書類が多数届いたのだ。
「だって、魔族はみんなから嫌われてるって聞いたから……」
「だとしてもだねえ……。まあ、あんたが目立ったせいであの子への注目はだいぶ逸れたんだがね……」
「せいってなに。俺のおかげでしょ?」
「この学校にあんた以上に大切な子がいるもんかい。学園長としては失格だろうけど、どうしてもあんたを可愛がってしまうのさ」
前に、軍の駒にされるのは嫌だって言ったから、婆さんはそう言ったのかもしれない。
俺が目立たなければ、国からの厄介な勧誘などもないのだから。
なんだか嬉しくなって頬を緩ませた。
「とはいっても、魔族が入学してるっていう事実に、あの子への、ひいては学校への批判は多いんだけどねえ」
たぶん、サニャクルシアの在学を容認すれば、この学校の評判はガクンと落ちるだろう。そして、入学志願者も相当減るはずだ。
それは受験料も多いな収入源である学校にも悪影響を及ぼすわけであり、それでも婆さんはサニャクルシアを退学にしないだろう。
俺がしたことが、サニャクルシアと関係しているとわかっているはずだから。
だからこそ、婆さんは頭を悩ませているのだ。
「まあいいさ。とりあえず、あんたとサニャクルシアって子は一週間停学だよ」
「えっ」
「当たり前じゃないか。二人とも良くも悪くも目立っちゃってるんだからねえ」
サニャクルシアは体面的にも納得できるとして。
「俺もなの?」
「そりゃあね。貴族たちの反感を買うのも面倒だし、あんたは『力を隠して入学した生徒』って形で停学だね。それ自体は褒められはせずとも、校則違反ってわけじゃあないからあんたには悪いんだけど……」
合宿からの前評判はあったものの、大きな実力差を俺単体に覆された相手とその親がその不平不満を俺にぶつけることは容易に想像できた。
その最低限の対応として、俺の停学なのだろう。
「まあ、出世を目指してるわけじゃないから気にしないよ」
宮廷魔導士でも志している者ならば一日でも多く出席しておきたいはずなのだが、あいにくと俺は人と触れ合うために入学した身だ。
この停学が将来に響くことはないだろう。
「そう言ってくれると思ってたよ。それじゃ、話は終わりだよ」
婆さんは手を払い、俺に退出を催促する。
大方、これから試合についての書類でも処理するのだろう。
邪魔をするわけにもいかないので、俺もさっさと部屋を出た。
今日は、試合の疲れを落とすという名目で休日になっていた。
学校に来てから肉体的な鍛錬があまりできてなかったので、それに充てるのもいいかもしれないな。
――と考えてこの前使った闘技場に来てみたのだが、先客がいた。
「まだ、まだッ!」
「踏み込みが甘いわね~」
本気で振るわれた鉄の剣を、ブロンズの大人の女性――モーラが硬い音とともに素手で弾く。
上段から振るった剣を跳ね返された少年――ラークはばんざいをし、その隙を突かれて胸を掌底された。
「もう一回!」
このようなことを何回か繰り返しているのを見ていたが、回を重ねるごとにラークの攻撃のキレが増し、魔法を絡めた攻撃のバリエーションが増えている。
モーラの指導が的確なのか、ラークの飲み込みが早いのかはたまたどちらともなのかはわからないが、休日に熱心なことだ。
意識高い系である。
しかし、魔法はこの学校の教師なら言わずもがな、モーラが近接戦も戦えるのは初めて知った。
「シアン君!」
「ん? リアか」
何気なく打ち合う二人を眺めていると、最近話せていなかった気がするリアが後ろに立っていた。
「久しぶりね」
「うん」
見ると、リアの面持ちは固い。たしか、リアたちのクラスにも下克上の申し入れがあったそうだから、その緊張だろう。
「リアのクラスも、もうすぐ試合らしいね」
「そうね。第6クラスとやるの」
どうやらリアたちのクラスも彼女たちより上のクラスと戦うらしい。
「試合方法は?」
「一騎討ちの五本勝負に決まったんだけど、私も選ばれちゃったんだ。それも大将に」
闘技場の中央で、打ち合いの音が響くと、リアの視線も釣られるように動く。
「それだけの力があるってことだよ。自信持って!」
「で、でも……もし私まで回ってきて、負けたらと思うと……」
不安がリアの顔を包む。
クラスメートからの信頼や実力で殿に選ばれた以上、やはり周囲からの重圧は生まれるものだろう。
「精一杯やって負けたなら、誰も責めないよ。それに、まだ戦ってもない相手なんだから、結果はわからないよ」
「……うん、そうよね。まだ負けたって決まったわけじゃないわ!」
「その意気だよ!」
特に俺ができることはないが、少しでも気が晴れたのならよかった。
「それで、お願いがあるんだけど……」
リアの少しつり目がちな眼差しが俺を見据えた。
あ、なんとなくこの先の展開が……。
「魔法を教えてほしいの」
だろうな。
まあ、リアになら教えても大丈夫だろう。
「わかったよ。でも、今までの魔法とは全然違うから覚悟してね」
それから、俺はリアに魔法を教え込んだ。
悪い知らせが俺の耳に届いたのは、俺が寮に帰ってからだった。
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