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第3章 生きている人間も、怖い?
6 赤いレインコートを着た女
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「送ってくれてありがとう。家に寄ってく?」
翔流は苦笑しながら首を横に振る。
「そっか」
菜月はしょんぼりとして足元に視線を落とす。
「ばあちゃんが夕飯を作って待っているから、帰らないと」
「そうだね。私も今日は何作ろうかな。お父さん、仕事で遅くなるみたいだし、もしかしたら職場で済ませるだろうから、てきとーに作ろう」
「……あのさ、着替えたら、僕の家に夕飯食べにくるか?」
「え?」
「菜月の父さん、仕事で遅くなるんだろう? 一人で飯食うの寂しいかなと思って……今日はいろいろあったし、もちろん、菜月さえよかったらだけど」
翔流は指先で頬のあたりをポリポリとかく。
「翔流くんちの夕飯はなに?」
「肉じゃがを作るって、ばあちゃんが言ってた」
「肉じゃがか。おいしそう」
「ばあちゃんの肉じゃがは絶品だ」
そういえば、久しく肉じゃがを作っていないかも。
「思い出すなあ、ママの肉じゃが。パパの大好物なの。ママと同じ味を出したいのに、なかなかうまくできない。パパを喜ばせたいのにな」
「なら今度、肉じゃが作り、手伝ってやる」
「もしかして翔流くん、お料理得意なの?」
「いや、やったことない」
菜月はぷっと吹き出した。
「えー、なにそれ。お料理やったことないのに手伝ってくれるの?」
「まあ、楽しみにしていろ」
菜月に笑われても、翔流は気を悪くするわけでもなく、ふっと笑う。
「はいはい、楽しみにしてるね」
菜月は視線を足元に落とした。
「翔流くんのおばあちゃんの肉じゃが食べに行きたいけど、パパが心配するといけないから、やめておく。でも、今度ご馳走になりにいってもいい?」
「ああ、ばあちゃんも喜ぶ。じゃ、また明日」
「うん、明日。暗くなってきたから気をつけて帰ってね」
去って行く翔流の姿が見えなくなるまで手を振った。
菜月は玄関の前に立ち、カバンの中から家の鍵を取り出す。
鍵を開けようとして、背後に人の気配を感じ振り返った。
「翔流くん?」
用事を思い出した翔流が、戻って来たのだと思ったのだ。
「……っ!」
門扉脇の街灯の下、赤いレインコートを着た女がたたずんでいた。
手にはカッターナイフが握られている。
レインコートの女は、カッターナイフの刃をカチカチ鳴らしながら出し入れをしていた。
目深にフードをかぶっていたせいで、相手の顔は見えない。
「だ……誰かっ!」
悲鳴を上げ、助けを求めるため逃げ出そうとした菜月の頭に、強い衝撃が走る。
そこで、菜月の意識は途切れた。
翔流は苦笑しながら首を横に振る。
「そっか」
菜月はしょんぼりとして足元に視線を落とす。
「ばあちゃんが夕飯を作って待っているから、帰らないと」
「そうだね。私も今日は何作ろうかな。お父さん、仕事で遅くなるみたいだし、もしかしたら職場で済ませるだろうから、てきとーに作ろう」
「……あのさ、着替えたら、僕の家に夕飯食べにくるか?」
「え?」
「菜月の父さん、仕事で遅くなるんだろう? 一人で飯食うの寂しいかなと思って……今日はいろいろあったし、もちろん、菜月さえよかったらだけど」
翔流は指先で頬のあたりをポリポリとかく。
「翔流くんちの夕飯はなに?」
「肉じゃがを作るって、ばあちゃんが言ってた」
「肉じゃがか。おいしそう」
「ばあちゃんの肉じゃがは絶品だ」
そういえば、久しく肉じゃがを作っていないかも。
「思い出すなあ、ママの肉じゃが。パパの大好物なの。ママと同じ味を出したいのに、なかなかうまくできない。パパを喜ばせたいのにな」
「なら今度、肉じゃが作り、手伝ってやる」
「もしかして翔流くん、お料理得意なの?」
「いや、やったことない」
菜月はぷっと吹き出した。
「えー、なにそれ。お料理やったことないのに手伝ってくれるの?」
「まあ、楽しみにしていろ」
菜月に笑われても、翔流は気を悪くするわけでもなく、ふっと笑う。
「はいはい、楽しみにしてるね」
菜月は視線を足元に落とした。
「翔流くんのおばあちゃんの肉じゃが食べに行きたいけど、パパが心配するといけないから、やめておく。でも、今度ご馳走になりにいってもいい?」
「ああ、ばあちゃんも喜ぶ。じゃ、また明日」
「うん、明日。暗くなってきたから気をつけて帰ってね」
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目深にフードをかぶっていたせいで、相手の顔は見えない。
「だ……誰かっ!」
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そこで、菜月の意識は途切れた。
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