王子様と落ちこぼれ魔道士 へっぽこ無能だと思っていた魔道士が実は最強すぎた

島崎 紗都子

文字の大きさ
49 / 78
第5章 本領発揮編

10 エーファ、イェンに口説かれる

しおりを挟む
 そんなことを思い出しながら、イェンは笑って再び酒瓶に口をつけた。
 その時、遠慮がちに扉を叩く音が聞こえ、視線を扉の方に向ける。
 ややあって、静かに扉が開き、エーファが顔を覗かせた。

「何?」
「忘れ物を届けにきただけだ」

 愛想のない口調で、エーファは強引にヤンを押しつけられる。
 ヤンは嬉しそうに羽を広げ、イェンの頭へと乗った。

「宿の廊下で迷子になって鳴いていた。ちゃんと面倒をみろ」
「ああ……」
「それと」
「まだ何か用?」
「助けてもらったこと、礼を言う! あの子を、リプリーを救ってくれて感謝している。もしも、あの子を失ったらと思うと……」

 考えるだけでも恐ろしい、とエーファは強く自分の肩口を両手で抱いた。

「そうだな……」

 視線を斜めにそらしてイェンは苦い表情を浮かべた。
 その整った顔に暗い影が落ちる。
 エーファは怪訝そうに眉根を寄せた。

「だが、貴様に対する見方は変わらない。私は貴様が嫌いだ。それに、大技しか使えない魔道士など役にもたたないのと同じ。しょせん、貴様はへっぽこ」

 辛辣なエーファの言葉にイェンは何も答えず、ただじっと相手の目を見つめ返すだけであった。
 もの音ひとつない夜の静寂。
 淡い月の光が部屋を仄かに照らし、窓の外、緩やかな風にもてあそばれる木々が白い壁に揺れて影をつくる。
 何か言い返してくるだろうと身がまえていたエーファであったが、相手の予想外の反応に少々、面をくらったようだ。
 しばし、互いに会話を交わすことなく見つめ合う。
 しだいにエーファの顔に戸惑いの色が表れた。
 落ち着かなげに瞳を揺らし、すっとイェンから視線を外す。

「それだけだ」

 と、言い捨て、くるりと身をひるがえし大股で扉に向かって歩き出す。
 取っ手に手をかけ手前に開きかけたその扉を、歩み寄ってきたイェンが背後から押さえつけた。
 エーファは息を飲む。
 イェンはベッドにおろしたヤンをかえり見て、口元に人差し指をあてふっと息を吹きかけた。途端、ヤンはすやすやと身を丸めて眠り込む。

「何のつもりだ。私は部屋に戻る」

 怒り。
 否、かすかに怯えの混じったエーファの声。
 触れあうか合わないかの距離に、エーファの身体が緊張に強張っているのが感じとれる。

「その手をどけろ……」

 跳ね返す声もどこか弱々しい。

「いやだと言ったら?」

 見れば扉の取っ手にかけられたエーファの手が、小刻みに震えていた。
 イェンはくすりと笑い、扉に添えていた手をゆっくりと落としエーファの手に重ねた。

「俺のこと、意識しちゃってる?」
「誰が貴様になど!」
「男慣れしてないのが丸わかりなんだよね。いつも俺に食ってかかってきたあの勢いはどうしたの? エーファ」

 背後からエーファの耳元でその名を囁く。
 エーファは首をすくめ、身を強ばらせた。

「俺にすがりついて泣いた時のあんたの顔、可愛かったよ」
「言うな! あの時は混乱していた。そうでなければ、誰が」

 貴様のような男にすがりついて泣いてしまったことが恥だというように、エーファは吐き捨てる。

「俺はあんたのこと嫌いじゃない」
「私は嫌いだ! 大嫌いだ!」
「今度は俺の腕の中で泣いてみる?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...