令嬢は元暗殺者に恋をする ─ 私が愛した人は異国の暗殺者だった人でした ─

島崎 紗都子

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不穏

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「分かってるよ。長同士の殺し合いは組織の掟として絶対に禁じられている。だが……黒天自らが自分の命を差し出すと言ったのだから、問題はないはずだ」
「好きになさるといいでしょう」
「ふ、余裕だな。その余裕の意味は何だ? 俺がおまえを殺すわけがないと思っているからか? ああ、そうだな……貴様が土下座をして許しを請うなら、命だけは助けてやってもいいぞ。黒天の座を降り、俺の下として働くというのならな。この俺が思う存分貴様をこき使ってやる」
「ご遠慮いたします」
 即座に切り返したレイに、炎天はぎりぎりと歯を鳴らした。

「ならば死ね! 安心しろ、貴様が死んだ後、黒天の座はハルに継がせる。俺が奴を教育し直して可愛がってやるよ。おまえの代わりにな」
 怒りにまかせて剣を抜こうとする炎天の手首を銀髪の少年がつかんだ。つかまれた手首の痛みに炎天は顔を歪める。

「おまえの、推測にしかすぎないどうでもいい話を延々と聞かされたけど、まだその人物がハルだと確定したわけじゃない」
「本気でそんなことを言っているのか? もはや、決まったようなものだ」
「なら、三年前と同じ事をおまえに言ってやる。レイに手をかけようとするなら、この僕がおまえの相手をしてやる。この場でおまえを肉塊に変え狼の餌としててレザンの山に捨ててやる」

 少年の石灰色の瞳が冷たく光る。
「言っておくけど僕、強いよ。おまえなんかよりもね」
 それまで強気だった炎天がたじろいだ。
 レイをのぞく他の者も、椅子から腰を浮かせる。
「白天やめるんだ」
 先ほど炎天を止めた男が今度は少年を止める。

「僕を止めさせたいならこいつを説得しな」
 炎天から視線をそらさずに少年は言う。
 炎天はふん、と忌々しげに顔を歪め、つかまれた少年の手を振り払い剣にかけていた手を解く。途端、少年はにっこりと笑みを浮かべた。
 分かればいいんだよ、わかれば、というように。
「まあいい。どのみちハルを捕まえればすべてが分かることだ。奴を拷問にかけ三年前、組織を抜けた時のことを洗いざらい吐かせてやる。貴様を殺すのはそれからでも遅くはない。奴の目の前で貴様を殺してやるよ」
 炎天はくつくつと肩を揺らして笑い、大きく右手を払いみなに言い聞かせるように声を上げる。

「ハルを連れ戻す!」
 それに対し、反対する者はいなかった。
「それと、ハルとかかわりのあるトランティアの小娘も一緒に連れて来い」
「その子は関係ないんじゃない? あまり、無関係な人間を巻き込むことに僕は反対だね。それに、サラって子はトランティア家の唯一の跡継ぎでしょ? その子が行方不明ってことになると、いろいろ組織にとっても面倒くさいことになるよ」
「おまえは黙っていろ。関係ないかどうかは会ってから俺が決める」

「なら、僕が行くよ」
「おまえがだと?」
「そう、僕がハルを連れ戻す。おまえや、おまえの配下の人間じゃ、ハルを捕らえるなんて無理。返り討ちにあうだけだからね。無駄死にしたくないでしょ?」
「おまえは信用できない。おまえも黒天と同様、ハルに目をかけていた者のひとりだからな」
 少年は肩をすくめた。

「それはそうと、サラという娘。まだ十五、六歳の小娘だってな。世間知らずの貴族のお嬢様がいったい何に自分が首を突っ込みかかわってきたのかわからせてやる。ハルの目の前で、奴の心が壊れるまで、思う存分その女をいたぶってやる」
「相変わらずいい趣味してるよね」
 銀髪の少年が心底嫌そうに顔を歪めた。
「ハルの奴がどんな顔をするか、どんな声で泣き叫ぶか想像するだけでもぞくぞくするよ。そうだ、女はいためつけた後、俺の奴隷にでもしてやろう」
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