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戦いの終わり
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一瞬にして阻止線は構築された。
大きな盾を持ったスケルトンが横一線に並び防御壁となり、さらに一斉に前進して敵の集団に襲いかかった。
盾の上を飛び越えようとする敵は着地点に構えるスケルトンの槍兵によって串刺しにされる。
突然の猛攻に即座に対応出来なかったコボルドと人狼は一気に押し戻された。
その混乱の最中、女性冒険者を陵辱することに夢中になっていた魔物が逃げ遅れてスケルトンに滅多刺しにされ、襲われていた冒険者はスケルトンの盾の内側に引きずり込まれた。
「敵が崩れた!今だ、捕まっていた者を救い出せ」
重戦士の合図で冒険者達が飛び出し、4人の冒険者が救出された。
4人とも、怪我は酷いが命に係わる程ではない。
精神的なダメージから回復するか否かは彼女達自身によるだろう。
「残りはコボルドが28、人狼が5」
ゆっくりと歩み寄るゼロは魔物の群れを観察した。
「ゼロさんっ!来てくれましたね」
シーナが駆け寄る。
「彼が頑張ってくれました。あと、馬も」
ゼロの背後ではゼロを連れてきたギルド職員が馬の上から転げ落ちている。
相当無理をしたようだ。
「さて、相手を押し戻してみたものの、まだまだ厳しい状況ですね」
コボルドだけなら残りの冒険者とゼロのアンデッドでどうとでもなるが、人狼が居るとなると話は別だ。
人狼5体だけでもゼロのスケルトンは瞬く間に殲滅されてしまうだろう。
スケルトンウォリアーでも歯が立たない。
それでも膠着状態になっているのは魔物達にまだ余裕があるからだろう。
隊列の後方に人間の姿の男が立っている。
厚い筋肉に包まれた肉体で余裕の笑みを浮かべながらことの成り行きを眺めている。
「指揮官は彼奴ですか。少し、気に入りませんね。獲物を何時でも仕留められるからといたぶるような行為は」
シーナとレナはゼロの声が一段低くなっていることに気が付いた。
(ゼロさん?)
(もしかして、怒っている?)
ゼロは歩みを止めず、スケルトンの防壁までたどり着く。
その時、ゼロが指揮官と見た男が歩み出てきた。
「クククッ。おいおい、折角兵達の士気高揚をしていたのに、邪魔をするんじゃねぇよ。虫けらが」
人狼の指揮官は冒険者やスケルトンなど眼中に無い様子で余裕を見せてスケルトンの阻止線の前に立つ。
「まあ、今更テメェが来たところで何も変わらねえよ。兵達にくれてやる食料やおもちゃが少し増えただけだ。まあ、新しいおもちゃを2人も連れてきてくれたんだ、特別にテメェの目の前で2人をいたぶってやるよ。せめてもの褒・・」
「・・・れ。犬っころ」
ゼロが人狼の言葉を遮り、それを聞いた人狼の笑みが消えた。
「あっ?何か言ったか?」
「黙れって言ったんですよ。犬っころ」
「何だと?人間の虫けら風情がナメた口を叩くじゃねぇか。魔王軍で無敵を誇ったこの俺様相手によ」
「虫けらと蔑む人間の真似をしている貴様が何を吠える?魔王に尻尾を振って飼い慣らされていただけでしょう。しかも大戦時には尻尾巻いて逃げ回って、今は野良犬に成り下がりましたか?」
人狼の指揮官は怒りに震えながら狼に姿を変えた。
「よほど死にたいらしいな!だったら貴様は俺が殺してやる。俺の爪と牙で引き裂いてやる。楽には死なせないぞ」
「だから、うるせぇっ!て言っているんですよ。キャンキャンキャンキャン耳障りなんですよ」
ゼロも剣を抜いて歩みを進める。
「ゼロ、待って下さい。貴方1人では・・」
ゼロを止めようとしたレナはゼロの表情を見て息を飲んだ。
(何?この恐怖感は)
ゼロは無表情であった。
視線を真っ直ぐに人狼に向けているだけ。
その口調からゼロが怒っているのは感じられる。
そうでありながら、怒りを表情に露わにしているわけでも、人狼を睨みつけるわけでもなく、ただ人狼を見ているだけ。
しかし、まるで全てを飲み込む闇のような気配を纏っている。
怒りの矛先が向けられているわけでもない筈のレナは冷や水を浴びせられたような寒気と恐怖を感じた。
「レナさん、彼奴は私が倒します。他の奴等は焼き払ってもらって結構ですのでお任せしますよ」
ゼロと人狼は真正面で対峙した。
人狼は牙を剥き、長い爪を翳してゼロを威嚇する。
「さあ、どこから引き裂いてやろうか?右腕か、それと・・グワッ!」
未だに余裕を見せていた人狼が顔面から血飛沫を吹いてのけぞった。
周りで見ていた者どころか当の人狼ですら意表を突く勢いでゼロの剣が走り、人狼の鼻先を横一線に切り裂いた。
「いつまでごちゃごちゃ言っているんですか?まさか弱い犬程よく吠えるっていうのを実践しているわけじゃないでしょうね?」
不意の一撃により激昂した人狼がゼロに飛びかかる。
ゼロの剣と人狼の牙と爪が激しく切り結んで火花を散らす。
ゼロの剣戟を人狼が躱わし、人狼の攻撃をゼロが往なす。
人狼の牙を掻い潜りゼロが足払いを繰り出せば、人狼が跳躍しながらゼロの頭上から食らいつき、それをゼロは転がりながら避ける。
一旦は距離を取るも双方が即座に次の一撃を繰り出すべく間合いを詰め、人狼の爪がゼロの肩口を切り裂き、ゼロの光熱魔法が人狼の足を貫いた。
それでもお互いに攻撃の手を緩めず、真正面からのぶつかり合いを繰り返す。
「ゼロ・・・」
背後に控えるレナは即座に援護が出来るように魔力を高めるが、2人の戦いに圧倒された冒険者と魔物の双方が動けずにことの成り行きを見守っていた。
そんな中、一瞬の隙を突いて人狼の爪がゼロを捉えた。
ゼロは剣を弾かれ、その身体は吹き飛ばされるも、即座に体勢を立て直して立ち上がる。
人狼の爪に切り裂かれたゼロの顔面からは夥しい量の血が流れていた。
「ゼロさん!」
シーナが思わず声を上げたが、ゼロはそれに応えることなく腰から鎖鎌を取り出し、右手で分銅を回し始めた。
鎖の先にある2つの分銅が不気味な風切り音を上げる。
人狼は僅かに後退して分銅の間合いから外れた。
「そんな得物で俺に対抗できると思っているのか?」
人狼はゼロが分銅を投擲するタイミングを狙ってゼロの間合いに飛び込んで一気に勝負をつけるつもりだった。
そのために鎖鎌の分銅の間合いを計り、ゼロの方から間合いに踏み込んで来るのを待つ、筈だった。
しかし、ゼロは間合いを詰めることなく分銅を投擲した。
予想外のことにほんの一瞬、反応が遅れたことが人狼の運の尽きであり、油断だった。
ゼロが投擲したのは鎖鎌の分銅ではなく、鎖鎌に連結しているように見せかけた投擲武器のボーラだったのである。
これがゼロの鎖鎌の細工だった。
鎖鎌の分銅の先にボーラを連結し、相手に誤認させてボーラを投げつける。
決して正々堂々な戦いではないが、そんなことはゼロは気にしない。
ボーラを避けられなかった人狼は2つの鉄球が繋がれた鎖に絡み取られ、動きを止めた。
その瞬間を狙いすましたゼロは人狼の間合いに飛び込み、その脳天を目掛けて鎖鎌のスパイクを叩きつけた。
「ギャンッ!」
頭部を叩き割られた人狼は悲鳴を上げながら仰け反り、その喉元にゼロが鎌を叩き込む。
これが決着の一撃だった。
頭を割られ、喉元深く鎌を食い込ませた人狼はそのまま倒れ込み、数度の痙攣を経て力尽きた。
人狼を倒したゼロは鎖鎌を手放し、落ちていた自らの剣を拾うと魔物の群れを見た。
「さて、貴方達の指揮官は死にました。次は貴方達の番ですよ。一匹たりとも見逃しませんよ」
ゼロの気迫にコボルド達は戦意を喪失したが、残された4体の人狼は牙を剥いてゼロを取り囲む。
「さあ、誰からですか?あまり時間は掛けられませんからね」
ゼロは剣を構えるが、顔面と肩口からの出血は危険な程の量に達していた。
「そこまでですっ、ゼロ!後は私達が!」
「そうだっ、後は俺達に任せろ!」
レナと冒険者達が飛び出してきて人狼に襲いかかった。
レナの火炎魔法が人狼を炎で包み、他の人狼にはそれぞれ複数の冒険者が立ち向かう。
そんな中でゼロは最後の気力を振り絞り、アンデッド達にコボルドの殲滅を指示する。
周囲は冒険者、アンデッド、人狼、コボルドが入り乱れた乱戦となった。
しかし、指揮官を失った魔物の群は統率を欠き、劣勢に陥り、程なくして殲滅された。
魔物の群れが殲滅され、生き残った冒険者達が勝利の雄叫びを上げる中、ゼロはその場から離れて倒れ込んだ。
「ゼロ!しっかりしてください!」
倒れ込むゼロをレナが受け止めた。
ゼロは荒い息で口を開いた。
「危なかったですが、なんとか勝てましたよ」
ゼロの体力と気力は限界に達し、召喚していたアンデッド達も姿を消していたが、ギリギリのところで意識だけは保っていた。
「ゼロさん、出血が酷いです。動かないで」
セイラと他の聖職者がゼロに回復の祈りを捧げるも、案の定ゼロの身体は祈りを弾いてしまう。
「ああ、すみません。相変わらず私に祈りは効かないんですよ。困ったものですね」
自虐的に笑いながらゼロは自分の手持ちの傷薬を取り出すが、手に力が入らずに取り落としてしまう。
慌ててシーナが拾い上げ、封を切って薬をゼロの傷口に振り掛けた。
「大丈夫です。自分のことは自分で分かりますが、とりあえず死にはしないでしょう」
そう言ってゼロは立ち上がった。
「さて、戦いは終わりましたが、やることは残っていますよ。犠牲者と魔物の遺体の処理と負傷者の後送。他に北の戦いの状況確認ですか」
ゼロは周囲を見回す。
「それは大丈夫だ、後のことは俺達に任せてくれ。犠牲者の遺体は収容するし、怪我人の面倒も俺達が見る。元々は俺達が不甲斐なかったことが原因だ。あんたは休んでいてくれ」
重戦士が冒険者を代表して言った。
それを聞いたシーナやレナも同意する。
「そうですよ。それに北方は大丈夫です。先程勝利の烽火が上がりました。向こうも無事に終わったようです」
「コボルドの死体は私が焼却して全て灰にします」
それを聞いたゼロは
「分かりました。それでは皆さんにお任せします」
と話し、離れた場所に移動して座り込んだ。
「少し休ませてもらいます」
戦いは終わったが、冒険者達が為すべきことはまだ残されていた。
犠牲者の収容、魔物の死体の処理、遺品や戦利品の回収と、皆が手分けして戦いの後始末を進める中、誰も気付かない間に休んでいた筈のゼロが姿を消していた。
ただそこには東に向かう血痕だけが点々と残されていた。
大きな盾を持ったスケルトンが横一線に並び防御壁となり、さらに一斉に前進して敵の集団に襲いかかった。
盾の上を飛び越えようとする敵は着地点に構えるスケルトンの槍兵によって串刺しにされる。
突然の猛攻に即座に対応出来なかったコボルドと人狼は一気に押し戻された。
その混乱の最中、女性冒険者を陵辱することに夢中になっていた魔物が逃げ遅れてスケルトンに滅多刺しにされ、襲われていた冒険者はスケルトンの盾の内側に引きずり込まれた。
「敵が崩れた!今だ、捕まっていた者を救い出せ」
重戦士の合図で冒険者達が飛び出し、4人の冒険者が救出された。
4人とも、怪我は酷いが命に係わる程ではない。
精神的なダメージから回復するか否かは彼女達自身によるだろう。
「残りはコボルドが28、人狼が5」
ゆっくりと歩み寄るゼロは魔物の群れを観察した。
「ゼロさんっ!来てくれましたね」
シーナが駆け寄る。
「彼が頑張ってくれました。あと、馬も」
ゼロの背後ではゼロを連れてきたギルド職員が馬の上から転げ落ちている。
相当無理をしたようだ。
「さて、相手を押し戻してみたものの、まだまだ厳しい状況ですね」
コボルドだけなら残りの冒険者とゼロのアンデッドでどうとでもなるが、人狼が居るとなると話は別だ。
人狼5体だけでもゼロのスケルトンは瞬く間に殲滅されてしまうだろう。
スケルトンウォリアーでも歯が立たない。
それでも膠着状態になっているのは魔物達にまだ余裕があるからだろう。
隊列の後方に人間の姿の男が立っている。
厚い筋肉に包まれた肉体で余裕の笑みを浮かべながらことの成り行きを眺めている。
「指揮官は彼奴ですか。少し、気に入りませんね。獲物を何時でも仕留められるからといたぶるような行為は」
シーナとレナはゼロの声が一段低くなっていることに気が付いた。
(ゼロさん?)
(もしかして、怒っている?)
ゼロは歩みを止めず、スケルトンの防壁までたどり着く。
その時、ゼロが指揮官と見た男が歩み出てきた。
「クククッ。おいおい、折角兵達の士気高揚をしていたのに、邪魔をするんじゃねぇよ。虫けらが」
人狼の指揮官は冒険者やスケルトンなど眼中に無い様子で余裕を見せてスケルトンの阻止線の前に立つ。
「まあ、今更テメェが来たところで何も変わらねえよ。兵達にくれてやる食料やおもちゃが少し増えただけだ。まあ、新しいおもちゃを2人も連れてきてくれたんだ、特別にテメェの目の前で2人をいたぶってやるよ。せめてもの褒・・」
「・・・れ。犬っころ」
ゼロが人狼の言葉を遮り、それを聞いた人狼の笑みが消えた。
「あっ?何か言ったか?」
「黙れって言ったんですよ。犬っころ」
「何だと?人間の虫けら風情がナメた口を叩くじゃねぇか。魔王軍で無敵を誇ったこの俺様相手によ」
「虫けらと蔑む人間の真似をしている貴様が何を吠える?魔王に尻尾を振って飼い慣らされていただけでしょう。しかも大戦時には尻尾巻いて逃げ回って、今は野良犬に成り下がりましたか?」
人狼の指揮官は怒りに震えながら狼に姿を変えた。
「よほど死にたいらしいな!だったら貴様は俺が殺してやる。俺の爪と牙で引き裂いてやる。楽には死なせないぞ」
「だから、うるせぇっ!て言っているんですよ。キャンキャンキャンキャン耳障りなんですよ」
ゼロも剣を抜いて歩みを進める。
「ゼロ、待って下さい。貴方1人では・・」
ゼロを止めようとしたレナはゼロの表情を見て息を飲んだ。
(何?この恐怖感は)
ゼロは無表情であった。
視線を真っ直ぐに人狼に向けているだけ。
その口調からゼロが怒っているのは感じられる。
そうでありながら、怒りを表情に露わにしているわけでも、人狼を睨みつけるわけでもなく、ただ人狼を見ているだけ。
しかし、まるで全てを飲み込む闇のような気配を纏っている。
怒りの矛先が向けられているわけでもない筈のレナは冷や水を浴びせられたような寒気と恐怖を感じた。
「レナさん、彼奴は私が倒します。他の奴等は焼き払ってもらって結構ですのでお任せしますよ」
ゼロと人狼は真正面で対峙した。
人狼は牙を剥き、長い爪を翳してゼロを威嚇する。
「さあ、どこから引き裂いてやろうか?右腕か、それと・・グワッ!」
未だに余裕を見せていた人狼が顔面から血飛沫を吹いてのけぞった。
周りで見ていた者どころか当の人狼ですら意表を突く勢いでゼロの剣が走り、人狼の鼻先を横一線に切り裂いた。
「いつまでごちゃごちゃ言っているんですか?まさか弱い犬程よく吠えるっていうのを実践しているわけじゃないでしょうね?」
不意の一撃により激昂した人狼がゼロに飛びかかる。
ゼロの剣と人狼の牙と爪が激しく切り結んで火花を散らす。
ゼロの剣戟を人狼が躱わし、人狼の攻撃をゼロが往なす。
人狼の牙を掻い潜りゼロが足払いを繰り出せば、人狼が跳躍しながらゼロの頭上から食らいつき、それをゼロは転がりながら避ける。
一旦は距離を取るも双方が即座に次の一撃を繰り出すべく間合いを詰め、人狼の爪がゼロの肩口を切り裂き、ゼロの光熱魔法が人狼の足を貫いた。
それでもお互いに攻撃の手を緩めず、真正面からのぶつかり合いを繰り返す。
「ゼロ・・・」
背後に控えるレナは即座に援護が出来るように魔力を高めるが、2人の戦いに圧倒された冒険者と魔物の双方が動けずにことの成り行きを見守っていた。
そんな中、一瞬の隙を突いて人狼の爪がゼロを捉えた。
ゼロは剣を弾かれ、その身体は吹き飛ばされるも、即座に体勢を立て直して立ち上がる。
人狼の爪に切り裂かれたゼロの顔面からは夥しい量の血が流れていた。
「ゼロさん!」
シーナが思わず声を上げたが、ゼロはそれに応えることなく腰から鎖鎌を取り出し、右手で分銅を回し始めた。
鎖の先にある2つの分銅が不気味な風切り音を上げる。
人狼は僅かに後退して分銅の間合いから外れた。
「そんな得物で俺に対抗できると思っているのか?」
人狼はゼロが分銅を投擲するタイミングを狙ってゼロの間合いに飛び込んで一気に勝負をつけるつもりだった。
そのために鎖鎌の分銅の間合いを計り、ゼロの方から間合いに踏み込んで来るのを待つ、筈だった。
しかし、ゼロは間合いを詰めることなく分銅を投擲した。
予想外のことにほんの一瞬、反応が遅れたことが人狼の運の尽きであり、油断だった。
ゼロが投擲したのは鎖鎌の分銅ではなく、鎖鎌に連結しているように見せかけた投擲武器のボーラだったのである。
これがゼロの鎖鎌の細工だった。
鎖鎌の分銅の先にボーラを連結し、相手に誤認させてボーラを投げつける。
決して正々堂々な戦いではないが、そんなことはゼロは気にしない。
ボーラを避けられなかった人狼は2つの鉄球が繋がれた鎖に絡み取られ、動きを止めた。
その瞬間を狙いすましたゼロは人狼の間合いに飛び込み、その脳天を目掛けて鎖鎌のスパイクを叩きつけた。
「ギャンッ!」
頭部を叩き割られた人狼は悲鳴を上げながら仰け反り、その喉元にゼロが鎌を叩き込む。
これが決着の一撃だった。
頭を割られ、喉元深く鎌を食い込ませた人狼はそのまま倒れ込み、数度の痙攣を経て力尽きた。
人狼を倒したゼロは鎖鎌を手放し、落ちていた自らの剣を拾うと魔物の群れを見た。
「さて、貴方達の指揮官は死にました。次は貴方達の番ですよ。一匹たりとも見逃しませんよ」
ゼロの気迫にコボルド達は戦意を喪失したが、残された4体の人狼は牙を剥いてゼロを取り囲む。
「さあ、誰からですか?あまり時間は掛けられませんからね」
ゼロは剣を構えるが、顔面と肩口からの出血は危険な程の量に達していた。
「そこまでですっ、ゼロ!後は私達が!」
「そうだっ、後は俺達に任せろ!」
レナと冒険者達が飛び出してきて人狼に襲いかかった。
レナの火炎魔法が人狼を炎で包み、他の人狼にはそれぞれ複数の冒険者が立ち向かう。
そんな中でゼロは最後の気力を振り絞り、アンデッド達にコボルドの殲滅を指示する。
周囲は冒険者、アンデッド、人狼、コボルドが入り乱れた乱戦となった。
しかし、指揮官を失った魔物の群は統率を欠き、劣勢に陥り、程なくして殲滅された。
魔物の群れが殲滅され、生き残った冒険者達が勝利の雄叫びを上げる中、ゼロはその場から離れて倒れ込んだ。
「ゼロ!しっかりしてください!」
倒れ込むゼロをレナが受け止めた。
ゼロは荒い息で口を開いた。
「危なかったですが、なんとか勝てましたよ」
ゼロの体力と気力は限界に達し、召喚していたアンデッド達も姿を消していたが、ギリギリのところで意識だけは保っていた。
「ゼロさん、出血が酷いです。動かないで」
セイラと他の聖職者がゼロに回復の祈りを捧げるも、案の定ゼロの身体は祈りを弾いてしまう。
「ああ、すみません。相変わらず私に祈りは効かないんですよ。困ったものですね」
自虐的に笑いながらゼロは自分の手持ちの傷薬を取り出すが、手に力が入らずに取り落としてしまう。
慌ててシーナが拾い上げ、封を切って薬をゼロの傷口に振り掛けた。
「大丈夫です。自分のことは自分で分かりますが、とりあえず死にはしないでしょう」
そう言ってゼロは立ち上がった。
「さて、戦いは終わりましたが、やることは残っていますよ。犠牲者と魔物の遺体の処理と負傷者の後送。他に北の戦いの状況確認ですか」
ゼロは周囲を見回す。
「それは大丈夫だ、後のことは俺達に任せてくれ。犠牲者の遺体は収容するし、怪我人の面倒も俺達が見る。元々は俺達が不甲斐なかったことが原因だ。あんたは休んでいてくれ」
重戦士が冒険者を代表して言った。
それを聞いたシーナやレナも同意する。
「そうですよ。それに北方は大丈夫です。先程勝利の烽火が上がりました。向こうも無事に終わったようです」
「コボルドの死体は私が焼却して全て灰にします」
それを聞いたゼロは
「分かりました。それでは皆さんにお任せします」
と話し、離れた場所に移動して座り込んだ。
「少し休ませてもらいます」
戦いは終わったが、冒険者達が為すべきことはまだ残されていた。
犠牲者の収容、魔物の死体の処理、遺品や戦利品の回収と、皆が手分けして戦いの後始末を進める中、誰も気付かない間に休んでいた筈のゼロが姿を消していた。
ただそこには東に向かう血痕だけが点々と残されていた。
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