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死の森の主2

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 ゼロは先導するスペクターを追いながらその様子に違和感を感じていた。

「なんですか。スペクターの様子が・・・焦り?」

 感情の起伏が無いに等しい筈のスペクターが一刻も早くゼロ達を案内しようとしている。
 この先にいるスペクターとバンシーは何と戦っているのか?
 ゼロは足場の悪い森の中を必死に走った。
 イズ達はゼロの頭上の木の枝から枝へと跳び移りながら進んでいる、その方が早いのだ。
 実際にこの中でゼロの足が一番遅く、スペクターもイズ達もゼロの速度に合わせている。

 やがて目的の場所にたどり着いたゼロはその光景を目の当たりにした。
 そこでスペクターとバンシーが戦っていたのは巨大な魔物だった。
 体長は10メートルを軽く超える程で4対の脚が大地を踏みしめ、まるで小型のドラゴンのようだが、赤黒くテラテラと光沢のある皮膚、その姿は爬虫類よりはイモリ等の両生類に近い。
 そんな魔物が長い舌でスペクター達を牽制している。
 ゼロ達を案内したスペクターも戦いに加わっていく。

「なんですか、こいつは。確かギルドの魔物図鑑で見た記憶が・・・」

 ゼロが必死で記憶を辿る中、傍らにいたイズが呟いた。

「エレメンタルイーター、まさか・・・」
「エレメンタルイーター?そうか!精霊喰らいですか!」

 イズの呟きでゼロの記憶の歯車が合致する。
 エレメンタルイーター、精霊喰らいとは、その名のとおり精霊を捕食する魔物である。
 非常に希少な魔物であり、出現事実の記録も殆ど無い。
 分かっているのは精霊を捕食するため、エレメンタルイーターが出現した地は精霊の力を失って死んでしまうこと。
 幼体は数センチであるが、精霊を捕食してその力を吸収しながら成長し、いくらでも巨大化する。
 吸収した精霊の力によってその姿は大きく変わり、共通するのは4対の脚を持つことだけ。
 個体によって攻撃能力や耐性が違うため討伐方法が確立されていない厄介な魔物である。
 見たところ、スペクターやバンシーの魔法攻撃が効いている様子はない。
 魔法を避けることもせずにバンシーやスペクターに長い舌を伸ばしている。

「魔法がまるで効いていない?・・・そうか!バンシー、スペクター!そいつから離れなさい!喰われますよ!」

 ゼロは命令を下す。
 精霊喰らいと呼ばれているが、精霊のみを捕食するとは限らない。
 精霊ではないが精神体や半精神体のスペクターやバンシーを捕食しても何ら不思議ではない。
 現に彼等に向かって舌を伸ばしているのは攻撃や牽制ではなく捕食しようとしていたのかもしれない。
 だからこそゼロ達を案内したスペクターも焦りを覚えていたのだろう。
 ゼロの命令に即座に反応して3体のアンデッドがエレメンタルイーターから距離を取り、ゼロの下に戻ろうとした。
 が、僅かに遅れたバンシーがエレメンタルイーターの舌に捕らえられた。
 巻き取られまいと氷弾魔法を放つバンシーだが、エレメンタルイーターには効果がない。
 その最中にバンシーの赤い瞳がゼロを見た。
 助けを求めているのではない、それはアンデッドの筈の彼女が死の間際に自らの主を目に焼き付けようとしているかのように。

「くっ!」
「ゼロ様っ!危険ですっ!」

 イズが止める間もなくゼロが飛び出した。
 バンシーがゼロに向かって手を伸ばすが、ゼロはその手を掴むことなく、エレメンタルイーターの眼前に飛び込むとその舌を中程から切り飛ばした。
 バンシーは切り飛ばされたエレメンタルイーターの舌を振りほどいて自由になる。
 舌を切られたエレメンタルイーターは怒りにまかせて残された舌を振り回し、それがゼロに直撃、ゼロの体は吹き飛ばされた。

「「ゼロ様っ!」」

 イズ達の声をよそに地面に叩きつけられて転がったゼロは即座に体制を立て直した。

「スペクター、バンシー、戻れ」

 エレメンタルイーターと相性の悪い3体を狭間に戻す。
 スペクターはその姿を消し、バンシーも去り際にゼロをしっかりと見た後に姿を消した。
(・・・す・さま・・)
 バンシーの去り際にゼロの脳裏に僅かに声が聞こえたような気がしたが、そんなことに気を取られている暇はない。
 即座に10体ものウィル・オー・ザ・ウィスプを召喚した。

「焼き払いなさい!」

 ゼロの命令でウィル・オー・ザ・ウィスプが一斉に火炎を放つ。

グゥオオォ!

 火炎攻撃に包まれたエレメンタルイーターは不気味な声を上げて暴れ出した。

「効いていますか。しかし、弱い」

 炎は一定の効果があるようだが、直ぐに消えてしまい、エレメンタルイーターの体に取り付いて燃え広がる迄には至らなかった。
 ウィル・オー・ザ・ウィスプの火炎では力が足りないのだ。
 それどころかエレメンタルイーターはウィル・オー・ザ・ウィスプまでを捕食しようと舌を伸ばす有り様だ。

「一定の距離を保ちなさい」

 ウィル・オー・ザ・ウィスプを下げながら更に多数のスケルトンを召喚する。
 スケルトンウォリアーから更に進化したスケルトンナイトが2体と大盾を装備したスケルトンが10体、スケルトンナイトは件のサーベルを装備した右目に傷がある個体と槍を装備した個体であった。

「盾を装備のスケルトンはウィル・オー・ザ・ウィスプを守りなさい。スケルトンとウィル・オー・ザ・ウィスプは対になって奴の攻撃範囲外から攻撃を続行。スケルトンナイトはそれぞれ5対ずつを指揮して奴を包囲してください」

 森の中で精霊を喰らったエレメンタルイーターは風、水、地の精霊の力を取り込んで、その耐性を得ている筈である。
 残された有効な攻撃は火であるが、万が一にもウィル・オー・ザ・ウィスプが喰われたら火の耐性まで得てしまう可能性がある。
 そこでゼロはスケルトンにウィル・オー・ザ・ウィスプを守らせながらアウトレンジから攻撃を加える戦法を取った。
 そして自らはエレメンタルイーターに真正面から光熱魔法を放ってみる。
 一条の光がエレメンタルイーターを貫き通し、頭部に風穴を穿つ。
 しかし、その穴は直ぐに塞がってしまった。
 その間に攻撃を援護するようにリズが矢を放ち、エレメンタルイーターの体に次々と突き刺さしていくがまるで効いていなそうだ。

「困りましたね。手詰まりですよ」

 エレメンタルイーターの周囲をアンデッド達が包囲して攻撃を続けているが、そのダメージは微々たるものである。
 一方のエレメンタルイーターも舌の届く範囲外から攻撃されるので捕食することも逃げ出すこともできない。
 戦闘は膠着状態の睨み合いに陥った。
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