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ネクロマンサーの御守り1
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聖務院特務兵との戦いを生き延びたゼロ達は一旦王都に戻ることとなった。
王都に戻ることについてゼロは難色を示したが、レナが魔導院の師に必ず戻ることを約束していたことと、ゼロの装備品が魔導院に保管してあるので戻らざるを得なかった。
レナの案内で魔導院に立ち入ったゼロは魔導院の応接室に通され、そこでレナの師たる賢者と魔導師に面会することになったのである。
なお、ライズとイリーナは王都に戻った時点でギルドに用があるから戻ると言い出して別れていた。
ゼロが御礼をするために引き止めようとしたが
「後でお前の力が必要な時に手伝え。足りない分は後で奢れ」
と言い残して去ってしまったのだった。
応接室で賢者と魔導師に面会したゼロは丁寧に礼を述べたが、その席で賢者から魔導院に籍を置くことを薦められた。
魔導院に席を置くといっても特に何らかの制限があるわけではなく、魔導院の幹部や職員には支払われている賃金も在籍するだけの魔法使いには支払われない。
新しい魔法の開発や研究成果を報告すればある程度の報酬は支払われるが、所属する魔法使いの殆どが冒険者として働いたり、自分で作った薬や魔導具を販売したりして収入を得ている状況にある。
それでも魔導院に所属する理由は、魔導院に所属すれば、様々な知識や資料を共有できることにある。
基本的に魔法使いは知識欲の塊のような者が多いため、膨大な魔導資料を有し、その資料が所属する魔法使いには広く開放されている魔導院に所属するのであった。
また、魔導院に所属すれば冒険者ギルドだけでなく魔導院からも身分を保障される。
因みにトルシア、シーグル、イフエールの聖職者の冒険者はギルドと聖務院から身分を保障されているのだ。
聖務院から目を付けられているゼロにとって自分の身を守る上で非常に好条件であるし、ゼロも死霊術の他に幾つかの魔法を操るという面においては魔法使いと言えなくもないので魔導院に所属しても何も問題はない。
しかし、ゼロはその提案については固辞した。
例によって自分にとって余計なしがらみを持ちたくなかったからだ。
しかし、そのままでは魔導院に対する恩義に応えることが出来ないため、代替案としてゼロが持つネクロマンサーとしての知識の一部を魔導院に提供することと、魔導院における死霊術研究について、ゼロの知識や経験が必要な場合において、ゼロが手透きの時に助言をすることを提案した。
最終的にゼロの提案が受け入れられ、その連絡員として魔導院に所属するレナが指定された。
その後、レナが預けていたゼロの装備品を受け取った2人は風の都市に帰ったのだが、ギルドに戻った2人を見てシーナが感極まって泣きながら飛びついてくるというハプニングに見舞われたことは余談である。
なお、レナは今までの実績の積み重ねと貴重なネクロマンサーとの繋がりを得た功績により魔導院より魔術師から魔導師に任じられ、それに伴って冒険者の等級が紫から銅等級へと昇格することになった。
風の都市に帰還したゼロは早速モースの鍛冶屋を訪れ、モースの組合に対して大量のアクセサリー製作を注文した。
注文を受けたモースは
「儂は彫金師じゃないぞ!」
とぼやきながらも受注し、自身や組合員の適任者の手によってゼロの注文どおりの品を作成してくれた。
発注したのは大量のアミュレットで、それを受け取ったゼロは自分の解放に尽力してくれた人達に挨拶に回ることとした。
先ずは風の都市の冒険者ギルド。
「綺麗なアミュレット。お礼ですか?」
ゼロにアミュレットを渡されたシーナは平静を装いながらもその表情は高揚していた。
シーナの手で輝くのは銀製の小さなアミュレットで中心にトマトの実をデザインした可愛らしいものだった。
「面白いデザインですね?」
「はい、死霊術師の嫌いな物をあしらった御守を持つと死後の魂は死霊術師に捕らわれることなく永遠の安らぎを得られるといわれています。まあ、俗説ですけど」
「と言いますと、このトマトは?」
「私の苦手な物です」
「プッ!ゼロさんってトマト嫌いなんですか?」
シーナは堪えきれずに吹き出した。
「はい、あの風味というかなんというか、むしろあれを食べられる皆さんの方が信じられません」
ゼロの話をクスクスと笑いながら聞いていたシーナだが、ふと表情を曇らせた後に悪戯っぽく笑った。
「でも、この御守を持っていると、ゼロさんのアンデッドになれないんですね」
「縁起でもないことを言わないでください。嫌ですよ、知人の魂を使役するなんて」
「それもそうですね。御守としても良いですけど、アクセサリーとしても可愛いですね、ありがとうございます。大切にします」
シーナは嬉しそうにアミュレットを受け取った。
アミュレットには鎖や紐を通す穴がこしらえてあったのでシーナはその日の勤務後に早速アクセサリー店に赴き、奮発して白金の鎖を購入し、アミュレットに通してネックレスにしたのであった。
また、ゼロはギルド長を始めシーナ以外のギルド職員や水道局の担当職員にも感謝の言葉と共にアミュレットを配って回ったのであった。
冒険者ギルド職員と水道局への挨拶を済ませたゼロはギルドの食堂でレナに会っていた。
「ネクロマンサーの御守?」
ゼロに渡されたアミュレットを眺めた。
「まあ、興味ないけど、折角の気持ちだから貰っておくわ」
レナはアミュレットを懐に入れた。
「それから、レナさんには危ないところを助けて貰ったので、もう一つ受け取ってください」
そう言ってゼロが差し出したのは一つの指輪だった。
その指輪を手に取ったレナは表情を変えた。
「ゼロ!この指輪はっ!」
「はい、私が着けている腕輪と同じ素材で出来た指輪です。魔力制御効率が高いので余程特殊な魔法でなければ無詠唱で行使できますし、消費する魔力も相当節約できますよ」
指輪は魔法使いならば垂涎の的である希少な金属で出来ていた。
その素材となる金属は、特殊な技法により溶かされた金剛石と複数の希少金属を混ぜ合わせたものといわれていて、その製法を知る者は王国中を探しても見つからないだろうし、世界中を見ても数人いるかどうかという程だろう。
ゼロの腕輪のように魔法補助の魔導具に加工すればその価値は更に跳ね上がるし、指輪サイズでも売れば一生遊んで暮らしても使い切れない程度の金になる筈だ。
「こんな貴重な物は受け取れないわ。っていうか、貴方なんでこんな貴重な物を持っているの?しかも腕輪と指輪の2つも」
初めて目にする貴重な魔導具に動揺するレナだったが、ゼロは涼しい顔をしている。
「私は製法を知りませんが、昔師匠が作って私にくれたものです。指輪は私にはサイズが合わないので使い道が無かったんですよ。折角ですから使ってください。私が持っていても家にしまっておくだけですからレナさんに使って貰った方が有意義ですよ」
その価値が分かっているのかいないのか、飄々と話すゼロに呆れ果てたレナは諦めてその指輪をはめた。
指輪をはめた途端に身体の中の魔力の質が変わった。
今までは多大な魔力が自分の身体に蓄積されているイメージだったが、指輪をはめた途端にその魔力が凝縮されていくような感覚だった。
「すごい、魔力が強まるというよりも圧縮されて容量が増えたみたい。ありがとうゼロ。大切に使わせて貰うわ。でも、これは貰ったんじゃなくて、貴方から預かっただけよ」
ゼロは肩を竦めた。
「どっちでも、使って貰えればいいですよ」
その時、レナに一つの疑問が浮かんだ。
「そういえば、聖務院に捕まっていた時、その腕輪はどうしたの?よく見つからなかったわね」
レナの問いにゼロは笑いながら答えた。
「拘束された時には最初から着けていませんでした。実はあの日、ギルドに監察兵団が押し掛けた時に腕輪は外してアンデッドに託して私の家に隠しておいて貰ったんですよ」
抜け目のないゼロの説明を聞いてレナも声を上げて笑った。
王都に戻ることについてゼロは難色を示したが、レナが魔導院の師に必ず戻ることを約束していたことと、ゼロの装備品が魔導院に保管してあるので戻らざるを得なかった。
レナの案内で魔導院に立ち入ったゼロは魔導院の応接室に通され、そこでレナの師たる賢者と魔導師に面会することになったのである。
なお、ライズとイリーナは王都に戻った時点でギルドに用があるから戻ると言い出して別れていた。
ゼロが御礼をするために引き止めようとしたが
「後でお前の力が必要な時に手伝え。足りない分は後で奢れ」
と言い残して去ってしまったのだった。
応接室で賢者と魔導師に面会したゼロは丁寧に礼を述べたが、その席で賢者から魔導院に籍を置くことを薦められた。
魔導院に席を置くといっても特に何らかの制限があるわけではなく、魔導院の幹部や職員には支払われている賃金も在籍するだけの魔法使いには支払われない。
新しい魔法の開発や研究成果を報告すればある程度の報酬は支払われるが、所属する魔法使いの殆どが冒険者として働いたり、自分で作った薬や魔導具を販売したりして収入を得ている状況にある。
それでも魔導院に所属する理由は、魔導院に所属すれば、様々な知識や資料を共有できることにある。
基本的に魔法使いは知識欲の塊のような者が多いため、膨大な魔導資料を有し、その資料が所属する魔法使いには広く開放されている魔導院に所属するのであった。
また、魔導院に所属すれば冒険者ギルドだけでなく魔導院からも身分を保障される。
因みにトルシア、シーグル、イフエールの聖職者の冒険者はギルドと聖務院から身分を保障されているのだ。
聖務院から目を付けられているゼロにとって自分の身を守る上で非常に好条件であるし、ゼロも死霊術の他に幾つかの魔法を操るという面においては魔法使いと言えなくもないので魔導院に所属しても何も問題はない。
しかし、ゼロはその提案については固辞した。
例によって自分にとって余計なしがらみを持ちたくなかったからだ。
しかし、そのままでは魔導院に対する恩義に応えることが出来ないため、代替案としてゼロが持つネクロマンサーとしての知識の一部を魔導院に提供することと、魔導院における死霊術研究について、ゼロの知識や経験が必要な場合において、ゼロが手透きの時に助言をすることを提案した。
最終的にゼロの提案が受け入れられ、その連絡員として魔導院に所属するレナが指定された。
その後、レナが預けていたゼロの装備品を受け取った2人は風の都市に帰ったのだが、ギルドに戻った2人を見てシーナが感極まって泣きながら飛びついてくるというハプニングに見舞われたことは余談である。
なお、レナは今までの実績の積み重ねと貴重なネクロマンサーとの繋がりを得た功績により魔導院より魔術師から魔導師に任じられ、それに伴って冒険者の等級が紫から銅等級へと昇格することになった。
風の都市に帰還したゼロは早速モースの鍛冶屋を訪れ、モースの組合に対して大量のアクセサリー製作を注文した。
注文を受けたモースは
「儂は彫金師じゃないぞ!」
とぼやきながらも受注し、自身や組合員の適任者の手によってゼロの注文どおりの品を作成してくれた。
発注したのは大量のアミュレットで、それを受け取ったゼロは自分の解放に尽力してくれた人達に挨拶に回ることとした。
先ずは風の都市の冒険者ギルド。
「綺麗なアミュレット。お礼ですか?」
ゼロにアミュレットを渡されたシーナは平静を装いながらもその表情は高揚していた。
シーナの手で輝くのは銀製の小さなアミュレットで中心にトマトの実をデザインした可愛らしいものだった。
「面白いデザインですね?」
「はい、死霊術師の嫌いな物をあしらった御守を持つと死後の魂は死霊術師に捕らわれることなく永遠の安らぎを得られるといわれています。まあ、俗説ですけど」
「と言いますと、このトマトは?」
「私の苦手な物です」
「プッ!ゼロさんってトマト嫌いなんですか?」
シーナは堪えきれずに吹き出した。
「はい、あの風味というかなんというか、むしろあれを食べられる皆さんの方が信じられません」
ゼロの話をクスクスと笑いながら聞いていたシーナだが、ふと表情を曇らせた後に悪戯っぽく笑った。
「でも、この御守を持っていると、ゼロさんのアンデッドになれないんですね」
「縁起でもないことを言わないでください。嫌ですよ、知人の魂を使役するなんて」
「それもそうですね。御守としても良いですけど、アクセサリーとしても可愛いですね、ありがとうございます。大切にします」
シーナは嬉しそうにアミュレットを受け取った。
アミュレットには鎖や紐を通す穴がこしらえてあったのでシーナはその日の勤務後に早速アクセサリー店に赴き、奮発して白金の鎖を購入し、アミュレットに通してネックレスにしたのであった。
また、ゼロはギルド長を始めシーナ以外のギルド職員や水道局の担当職員にも感謝の言葉と共にアミュレットを配って回ったのであった。
冒険者ギルド職員と水道局への挨拶を済ませたゼロはギルドの食堂でレナに会っていた。
「ネクロマンサーの御守?」
ゼロに渡されたアミュレットを眺めた。
「まあ、興味ないけど、折角の気持ちだから貰っておくわ」
レナはアミュレットを懐に入れた。
「それから、レナさんには危ないところを助けて貰ったので、もう一つ受け取ってください」
そう言ってゼロが差し出したのは一つの指輪だった。
その指輪を手に取ったレナは表情を変えた。
「ゼロ!この指輪はっ!」
「はい、私が着けている腕輪と同じ素材で出来た指輪です。魔力制御効率が高いので余程特殊な魔法でなければ無詠唱で行使できますし、消費する魔力も相当節約できますよ」
指輪は魔法使いならば垂涎の的である希少な金属で出来ていた。
その素材となる金属は、特殊な技法により溶かされた金剛石と複数の希少金属を混ぜ合わせたものといわれていて、その製法を知る者は王国中を探しても見つからないだろうし、世界中を見ても数人いるかどうかという程だろう。
ゼロの腕輪のように魔法補助の魔導具に加工すればその価値は更に跳ね上がるし、指輪サイズでも売れば一生遊んで暮らしても使い切れない程度の金になる筈だ。
「こんな貴重な物は受け取れないわ。っていうか、貴方なんでこんな貴重な物を持っているの?しかも腕輪と指輪の2つも」
初めて目にする貴重な魔導具に動揺するレナだったが、ゼロは涼しい顔をしている。
「私は製法を知りませんが、昔師匠が作って私にくれたものです。指輪は私にはサイズが合わないので使い道が無かったんですよ。折角ですから使ってください。私が持っていても家にしまっておくだけですからレナさんに使って貰った方が有意義ですよ」
その価値が分かっているのかいないのか、飄々と話すゼロに呆れ果てたレナは諦めてその指輪をはめた。
指輪をはめた途端に身体の中の魔力の質が変わった。
今までは多大な魔力が自分の身体に蓄積されているイメージだったが、指輪をはめた途端にその魔力が凝縮されていくような感覚だった。
「すごい、魔力が強まるというよりも圧縮されて容量が増えたみたい。ありがとうゼロ。大切に使わせて貰うわ。でも、これは貰ったんじゃなくて、貴方から預かっただけよ」
ゼロは肩を竦めた。
「どっちでも、使って貰えればいいですよ」
その時、レナに一つの疑問が浮かんだ。
「そういえば、聖務院に捕まっていた時、その腕輪はどうしたの?よく見つからなかったわね」
レナの問いにゼロは笑いながら答えた。
「拘束された時には最初から着けていませんでした。実はあの日、ギルドに監察兵団が押し掛けた時に腕輪は外してアンデッドに託して私の家に隠しておいて貰ったんですよ」
抜け目のないゼロの説明を聞いてレナも声を上げて笑った。
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