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3回戦 レナの一撃

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 ドゴーンッ!!

 倒れているゼロ目掛けて巨大ゴーレムの拳が振り下ろされ、轟音が響き渡る。
 その瞬間に誰もが勝敗が決したと思った。
 しかし、またしても勝利宣言はなされない。
 なぜならば、振り下ろされた拳の下にゼロの姿が無かったからだ。
 ゼロは少し離れた場所に倒れており、その周囲にはアンデッド達が集まり守りを固めていた。
 一体何が起きたのか?それを行ったのはレナだった。
 ゴーレムの拳が振り下ろされる直前にレナは威力を調節した衝撃魔法を倒れているゼロにぶつけ、ゼロをその場から弾き飛ばしたのである。

「まだ目を覚まさない?ならばもう一発!」

 レナはアンデッドに囲まれた隙間を狙いすまして小威力の雷撃魔法を再びゼロにぶつけた。
 不意に雷撃を食らわされたゼロが跳ね起きる。

「グッ!何が・・・っ!」

 意識を取り戻したゼロは直ぐに自分が置かれた状況を把握し、体勢を立て直す。
 更に増援のアンデッドを召喚して守備を増強した。

「危なかった!レナさん、助かりました」
「いいから!前を見なさい!」

 礼を言うゼロをレナが叱咤する。
 ゼロは頷くとゼロは手駒を再編成した。
 スケルトンウォリアーの剣士部隊10体、槍部隊10体、大盾の守備部隊10体、それぞれをスケルトンナイトが指揮する。
 更にスペクターとウィル・オー・ザ・ウィスプを魔法部隊として各2体。
 大盾隊と槍隊が連携して前衛に出る。
 剣士隊と魔法部隊は遊撃だ。

 対するゲイルは巨大ゴーレム3体を前面に出し、巨大ゴーレムに小型ストーンゴーレムが続いて一気に攻勢に出る構えだ。

 2つの軍勢が前進し、再び衝突しようとする直前、ゼロの魔法部隊が巨大ゴーレムに魔法を浴びせる。
 スペクターの衝撃魔法とウィル・オー・ザ・ウィスプの火炎魔法だ。
 それらは巨大ゴーレムを倒すには至らないものの、火炎と衝撃波が混ざった猛烈な攻撃に巨大ゴーレムが足を止める。
 スケルトンナイト率いる剣士隊が左右から背後に回り込んでゲイルとゴーレム達を分断した。
 そしてスケルトンナイトがサーベルを構えてゲイルに向かう。
 サポートの魔術師が闘技場に竜の牙を投げ込んで竜牙兵を作り出してゲイルの守りにつかせた。
 アンデッドとゴーレムが乱戦に陥り、スケルトンナイトと竜牙兵が激突する、その隙にゼロが戦場を駆け抜けてゲイルに向かう。
 あと僅かで剣の間合いに飛び込める、その寸前に巨大ゴーレムが後退してきてその拳でゼロを捉えようと腕を振り下ろした。
 レナの防御魔法がゼロを包み、ゼロはゴーレムに対峙して剣を構えた。

「刃が通りますか!」

 狙うはゴーレムの肘関節の稼動部。
 次の瞬間、見ていた全ての者が目を疑った。
 ゼロが剣を振り抜いた直後、ゴーレムの腕が落ち、更に片脚が膝からずれ落ちてその巨体が倒れた。
 一瞬の剣捌きでゼロがゴーレムの腕と脚を「斬った」のである。
 例え関節を狙ったとしても岩でできたゴーレムである、剣で破壊するなどは容易ではない。
 それをゼロは卓越した剣技で成したのである。

「すげぇ、あいつ、剣だけでゴーレムを倒しやがった」

 観客が呆気に取られる。

「やはりただ者じゃねえな。戦っている時には気が付かなかったが、あの剣技、確か遥か東方の島国の剣士サムライの剣だ」

 観客席でミラーが呟いた。

 ゲイルもまた剣のみでゴーレムを倒したゼロに驚きと僅かな恐怖を感じ、そこに一瞬の隙が生まれ、自分に向けられた魔力に気付くのが遅れた。
 ゲイルが異様な魔力の流れに気付いた時、闘技場の対面に立つ魔導師の周囲の空気が帯電して小さな稲光が生じていた。
 そして彼女の目は真っ直ぐにゲイルを見ている。

「しまった!」

 ゲイルは戦況が崩壊するのも構わずに巨大ゴーレムを後退させて自分の前に立たせる。
 次の瞬間

「プラズマランスッ!」

 レナの構える杖の先から彼女の最強魔法が放たれた。
 撃ち出された雷光の槍は一直線にゲイルに向かい、間に立つゴーレムの胴体に直撃したかと思うと容易くゴーレムを貫通し、更にゲイルが咄嗟に展開した障壁魔法すらも貫いた。

バキンッ!!

 魔導具の破壊音が響き渡り、同時にゲイルが吹き飛ばされた。

「勝負あり!風の都市の冒険者ゼロの勝利!なんと勝利の決め手はサポートの魔法による一撃でした!」

 湧き上がる会場だが、戦いの様子を貴賓席から冷静に見ていた者が2人、いずれも軍務省の高官である。

「使えるな」
「ああ、おそらくは大隊規模の運用が可能だろう」
「正規軍の大隊程の能力は期待できないだろうが、使い捨てが可能だ。そういう意味では貴重な存在だな」

 ゼロが会場を去るのを見届けると2人の男も貴賓席を後にした。

 ゼロ達が控え室に戻るとシーナが駆け寄ってきてゼロの身体を弄り始めた。

「ちょっ、シーナさん?」
「ゼロさん、怪我していませんか?あんなに大きなゴーレムの攻撃をうけたんですよ?意識を失う程のダメージでしたよね?」
「大丈夫ですよ。レナさんの防御魔法に守られましたから」

 ゼロの身体を調べ上げ、更に説明を聞いたシーナはようやく安心の表情を浮かべた。

「良かった。私は見ているだけなので心配で仕方ないんですよ」
「でも、この闘技大会へ私を出場させたのは貴女ですよ」
「そうなんですけど、聞くと見るとでは大違いですし。やっぱり心配になっちゃいますよ」

 落ち着きを取り戻したシーナは改めてレナを見た。

「でも、レナさんの最後の一撃!凄かったですね。ゴーレムだけでなく防御魔法まで貫通してしまうなんて。大会役員の人に聞きましたけど、サポートが勝負を決めるなんて例がないみたいですよ」

 レナは肩を竦めて笑う。

「いや、あの一撃も凄かったですけど、私にぶつけられた雷撃魔法も強烈でした。一発で目が覚めましたよ」

 レナが顔を赤くする。

「なっ!仕方ないでしょう。ゼロがいつまでも闘技場の真ん中で目を回していたんですから」
「はい、本当に助かりましたよ。私にしてみれば最後の魔法よりもあの雷撃魔法の方が勝負の一撃でしたね」

 そう話すゼロはレナの目が据わってきていることに気付いていない。
 シーナがそれに気付いて慌てる。

「ゼロさん、もうその辺で・・」
「むしろ、私が出場するよりもレナさんが出場して私がサポートの方が・・ガッ!」

 ゼロの顔面にレナの強烈な一撃が炸裂し、ゼロは再び目を回した。

「あ~あ、ゼロさん、闘技場の外でダメージを受けちゃダメですよ」

 シーナが呆れ顔でゼロを見下ろした。
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