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決着

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 観客席でゼロの戦いを見ているシーナは両手を組んで神に祈っていた。

(シーグルの女神様、ゼロさんに加護を・・・)

 国民の大半が信仰している3神教、シーナもシーグル教徒であるのだが

(・・・でも、相手のリングルンドさんって聖務院聖騎士団の方ですよね?しかもシーグル教の。それどころかゼロさんはネクロマンサー。って女神様が加護をくれます?)

 シーナはその手にアミュレットを握りしめて神への祈りではなく、ゼロの勝利のみを信じることにした。

 ゼロは斬撃の構えを取る。
 ゼロを守っていたアンデッドもイザベラを包囲せんと周囲に散開していく。

「ヘルムント、この邪魔なアンデッドをどうにかしてください!」
「承知!」

 イザベラの声にヘルムントが新たな祈りを始めた。
 その場にいる7体のアンデッドの足下に聖なる光が浮かぶ。

「これはっ!皆、戻りなさい!」

 危険を察知したゼロがアンデッドを冥界の狭間に逃がそうとしたが間に合わなかった。

「イフエールの神よ、彼等を捕縛されよ!」

 アンデッド達が光に捕らわれて身動きができなくなる。

「くっ!戻りなさい!」

 ゼロはアンデッドを返そうとし、アンデッド達も脱出しようともがくが光から逃れることができない。

「無駄ですわよ。ヘルムントが使ったのは浄化でなく拘束の祈りですの。浄化することが出来ない分これに捕まったら動くことはできません。もはやアンデッドの力は当てにはできませんのよ」

 イザベラは余裕の表情でサーベルを構えるとゼロに向かって駆け出した。
 時間をかけるつもりはなさそうだ。
 ゼロの光熱魔法とレナの雷撃魔法で勢いを止めようとするが効果はない。
 剣の間合いに飛び込まれた瞬間、ゼロは剣を横一閃に繰り出すが、その剣筋を飛び越えられ、頭上からイザベラのサーベルが走る。
 ゼロは剣でサーベルを受け止めた、が、即座に胸ぐらを掴まれて膝蹴りを食らう。

「ガッ!」

 意識を飛ばしかけるが辛うじて踏みとどまり、逆にイザベラに当て身を食らわせて間合いを取る。

「まったく、足癖の悪い方ですね」
「あら、貴婦人に向かって失礼ではありませんの?」

 ゼロの言葉にイザベラは呆れ顔だが、まだまだ余裕が感じられる。
 一方、ゼロはといえば、余裕など全くない。
 憎まれ口を言うのが精一杯である。

(これ以上時間を掛けるとこちらが手詰まりになりますね。一気に勝負に出ますか・・・)

 ゼロが勝負に出る。
 間合いを詰めると斬撃、突き、蹴り、当て身を次々と繰り出す。
 そのことごとくを躱されるが、攻めの手を緩めない。

(反撃の隙を与えてはいけません)
「そう思ってますわよね?」

 狙いを読まれたゼロの剣が一瞬遅れたその時、イザベラのサーベルの切っ先がゼロの肩に食い込む。
 致命傷ではないため魔導具は反応しない。
 だがしかし

「グッ!ガァッッッ!」

 ゼロが倒れて苦しみ、のたうち回る。

「ゼロッ?」

 レナが困惑する程の尋常でない苦しみ方だ。
 イザベラは苦しみ回るゼロを蹴り飛ばし、今度は足にサーベルを刺す。

「ギッ、アァッッッ!」

 更に苦悶の表情を浮かべるゼロを見下ろしたイザベラが確信の表情を浮かべた。

「やっぱり。貴方、聖なる加護を受けた攻撃に弱いのですね。私のサーベル、聖なる力を宿していますのよ。傷口に焼き鏝を差し込まれたような苦しみですよね?」

 レナや観客席にいたマイルズは思い出した。
 死霊の気を纏ったゼロは聖職者の祈りが効かないばかりか、聖水等の聖なる加護を受けた物が触れると拒絶反応をすることを。
 イザベラの言うとおり焼き鏝を傷口に刺し込まれたのと同じである。

「ゼロッ!もういいわ!降参しなさい!」

 レナが叫ぶ。
 周囲で拘束されているアンデッド達もゼロの苦しむ様を目の当たりにしてゼロを守るべく異様な程暴れていた。
 スケルトンナイトは無理に拘束を逃れようと身体に異常な力が加わり身体の各所にヒビが入り、数カ所の骨は折れてしまっている。
 精神体であるスペクターはその形状を維持できず、全身が歪み悍ましい姿になっている。
 ウィル・オー・ザ・ウィスプは元々が火の玉である上に拘束の檻の中で火炎魔法を暴走させて炎が渦巻いている。
 そして、バンシーは本来は美しい女性の姿であるはずが、拘束を振りほどこうと暴れたために皮膚が崩れ落ち、身体のあちこちで骨や臓器が露出している。
 それでも彼女の最大の攻撃である泣き声による精神攻撃は行わなかった。
 観客にまで被害が及ぶ可能性があるためにゼロに厳命されていたからで、彼女はそれを忠実に守っていた。

「クッ!何という抵抗力だ」

 アンデッド達を拘束しているヘルムントは予想外の抵抗に動揺していた。
 如何に抵抗しようと拘束を逃れることはない。
 それでも抵抗を止めないアンデッド達に背筋が寒くなった。

 イザベラもこれ以上ゼロをいたぶるつもりは無いらしく、サーベルを抜き払うとゼロから離れた。

「彼女の言うとおりです。降参なさい」

 イザベラはゼロに降参の機会を与えた。

「ゼロさんっ!もう十分です。降参してください」

 いたたまれなくなり闘技場の間際まで駆け下りたシーナも叫ぶ。
 だがしかし、倒れていたゼロはゆっくりと立ち上がる。

「止めてください!もう止めてっ!」
「シーナさんの言うとおりよ!降参しなさい!」

 致命傷ではないにしろこのまま見ていられない。
 レナとシーナが叫ぶが、ゼロは再び剣を構えた。

「よろしいのですね?たかが闘技大会ですのよ?」

 イザベラもサーベルを構え直す。

「はい、たかが大会ですが、私にも意地がありますからね」

 剣を肩に斬撃の構えを取ったゼロは真っ直ぐにイザベラを見据えた。

「まったく、バカですのね。分かりましたわ、徹底的に打ちのめして差し上げます」

 イザベラの表情から余裕が消えた。
 レナも気持ちを切り替える。

(本当にバカ。でもいいわ、最後まで付き合ってあげる)

 レナはゼロの真後ろに移動して魔力を集中した。
 次の瞬間、ゼロは無造作に駆け出し、一直線にイザベラに向かう。
 ゼロの真意を読んだレナは最大の魔力を込めて雷光の槍をゼロの背中に向けて放つ。

(ゼロならば!)

 槍がゼロに直撃する直前、ゼロが横に飛ぶ。
 射線の開いた先にいるのはイザベラだ。

「ヒッ!」

 虚を突かれたイザベラは咄嗟に魔法防御を展開する。
 ヘルムントも危険を察知し、アンデッドの拘束を解き、イザベラの前に魔法防御を展開した。

パキンッ!

 レナの魔法は1枚目のイザベラの防壁を容易く貫き通し、2枚目のヘルムントの防壁で辛うじて受け止められた。

「止めましたの?」

 イザベラが息をついたその時、横に飛んだゼロがイザベラの喉元を狙って剣を突き出してくる。
 しかも周囲からは拘束を逃れたアンデッド達が一斉に飛びかかってくる。
 ヘルムントが再度拘束しようとするが間に合わない。
 イザベラも目前まで接近された8方向からの攻撃には対処が追いつかない、覚悟を決めて目標をゼロにのみ定め、サーベルを突き出した。

シャリンッ!

 ゼロの剣とイザベラのサーベルの切っ先が衝突してそれぞれの軌道が逸れた。
 直後、ゼロが後方に吹き飛ばされて転がる。
 イザベラは即座にアンデッド達に対応しようとするが7方向からの同時攻撃だ。

「間に合わないっ!」

 咄嗟に防御姿勢を取った。
 が、アンデッドの攻撃を受けることは無かった。
 イザベラに殺到した7体のアンデッドは目前で動きを止めている。
 静まり返った会場に獣人の娘の声が響き渡った。

「勝負ありっ!勝者、聖騎士団所属イザベラ・リングルンド!本大会の優勝はイザベラ・リングルンド!」

 倒れて意識を失っているゼロが身に着けていた魔導具が砕け散っていた。
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