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古城に在りし者2

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 2日目の夜を迎えた。
 前日は見張りをアンデッドに任せていたが、この夜はアンデッドだけに任せず、ゼロとライズ、イズの3人が交代で見張りを行うこととした。
 アンデッドもオメガ、ジャック・オー・ランタンに警戒させて万全を期した。

 夜半過ぎ、オメガとジャック・オー・ランタンが反応した。

「マスター、魔物達が近づいてきます。ミノタウロスが16体、いくつかの集団に別れて我々を包囲せんとしています」
「わかりました」

 ゼロは休んでいたパーティーに声をかけて魔物を迎え撃つ準備を始めた。
 オメガやジャック・オー・ランタンの索敵の能力ならばミノタウロスが来るまでにまだ時間はあるはずだ。

「周囲から複数のミノタウロスが近づいています。私達を多方向から包囲しようとしているようです」

 体制を整えるメンバーに状況を説明する。

「包囲されるまで悠長に待っている必要はありません。この夜営地を基点にして二手に別れて相手の出鼻を挫きましょう。私はアンデッドと西側から時計回りに敵を掃討して回ります。他の皆さんはライズさんの指示で東から反時計回りに動いてください。双方が合流したら南に回って残りの敵を片付けます」

 案の定ゼロの作戦にレナとイズ、リズが食いついた。

「ゼロ!貴方また勝手に!」
「「ゼロ様!我々はお供させてください!」」

 しかし、ゼロは首を振った。

「いえ、敵は強力なミノタウロスの群です。しかも我々を包囲しようとする程度の知恵が働く奴らです。私はオメガやバンシー、スケルトンナイト等の上位アンデッドと行動しますので心配ありません。むしろ、皆さんの方の戦力を厚くしたいのです。更に、そちらの組は前衛がライズさんしかいません。中衛と前衛を兼ねるヘルムントさんがいても2人です。体力バカのミノタウロス相手にはやや心ともないのでイズさんにもそちらに回ってもらいます」

 確かにゼロと上位アンデッドならばミノタウロスの2体や3体を無理なく相手にできる。
 そうはいってもミノタウロスは決して油断していい相手ではない。
屈強な肉体から繰り出される一撃は人間など容易くバラバラに吹き飛ばす。
 それを考慮した上での人的被害を食い止める作戦だ。
 そこまで言われるとイズとリズは引き下がるしかないのだが、引き下がらないのはレナだ。

「私は貴方の左目の代わりでもあるから私だけは付いていくわ」

 こうなったレナはどうあっても意見を変えることはない。
 ゼロは諦めた。

「分かりました。レナさんは私達の組でお願いします。その分ライズさん達の組の魔法戦力が不足しますからジャック・オー・ランタンを2体そちらにつけます」

 方針が決まれば直ぐに行動を開始した。
 東に向かうのはライズを中心にしてイリーナ、ヘルムント、イズ、リズ、ジャック・オー・ランタン2体だ。
 この戦いでは前衛に回るヘルムントはメイスを装備しているが、ヘルムントの体格に合わせて拵えられたそのメイスは重厚さが尋常でない。
 まるで戦鎚のような迫力のそれを片手で軽々と担いでいる。

「そんな凄いメイスを軽々と扱うなんて、ヘルムントさんならば肉弾戦でもミノタウロスと渡り合えるんじゃないですか?」

 ゼロの冗談にヘルムントは真面目な顔で答えた。

「いや、流石に素手でミノタウロスを相手にするのは、ちとばかし骨が折れる」

 ヘルムントの答えにその場にいた全員が
(無理だ!って否定はしないんだ)
と思った。
 一方でゼロの組は前衛にゼロ、オメガ、スケルトンナイト2体、後衛にレナ、バンシー、ジャック・オー・ランタン1体、レナの防護に大盾装備のスケルトンナイト1体だ。
 こうなるとどちらの組もミノタウロス如きに遅れを取るようなことはない。
 アンデッドを秘匿したゼロとレナは気配を殺して夜営地の西に向かい、近づいていたミノタウロス3体に奇襲をかけた。
 レナの雷撃魔法で足を止め、更にゼロの剣撃とレナの魔法で先頭にいたミノタウロスを葬る。
 虚を突かれたものの直ぐに体勢を立て直した残りの2体だが、突然目の前に現れたアンデッドの猛攻を受けた。
 大剣を振りかざすオメガはジャック・オー・ランタンと連携して1体を倒し、残りの1体はスケルトンナイトとバンシーの連携の前に倒れた。

「さすがですね」

 アンデッドの働きを賞賛するゼロだが、オメガやバンシーは恐縮したような表情を浮かべた。

「ありがたいお言葉ですが、マスターに比べたら私の力などまだまだです」
「はい、私達は主様と魔導師様の戦い様を真似しているだけです」

 恐縮して見せるアンデッドも妙なものだ。

「そうはいってもオメガの力は私よりも遥かに上ですよ」

 しかし、ゼロの言葉にオメガは首を振る。

「いえ、私の力などマスターには遠く及びません。剣技ではマスターに、魔法ではそちらの魔導師様に敵いません。私が強く見えるのは様々な能力を中途半端に持ち、それにヴァンパイアの特殊能力を織り交ぜて戦っているからです」

 謙遜するオメガだが
(そういう総合力こそが強みだと思いますが)
ゼロは思ったが口にはしなかった。

「はい、それに主様の真の強さは剣技や死霊術だけでなく私達を操る統率力にあります」

 バンシーもオメガの意見と同じ考えのようだが、どういうわけかレナまでもが背後で頷いている。

 その後、ゼロ達は予定どおり時計回りに移動して夜営地に近づいているミノタウロス達の横合いから奇襲をかけて掃討しながら進んだ。
 ライズ達に合流するまでに倒したミノタウロスは7体でライズ達の方はといえば5体を倒したとのことだ。
 ライズ達も熟練の冒険者だけあって危なげなく戦い、ゼロがサポートにつけたジャック・オー・ランタンの出番はなかったらしい。

「さて、残りは4体ですね。そろそろ夜営地に到着しているでしょうから虚を突いて一気にけりをつけましょう」

 ゼロ達は気配を消して元の夜営地に戻った。
 夜営地では襲撃が空振りになった4体のミノタウロスが目標の冒険者を探して彷徨いている。
 ゼロは敢えてアンデッドを使わずに奇襲を掛けた。
 レナの魔法とイリーナとリズの弓矢と精霊魔法で先制してミノタウロスを混乱に陥れ、その隙を突いてゼロ、ライズ、イズ、ヘルムントが突入し、連携してミノタウロスを倒した。

 戦いが終わって周囲を見渡すゼロは眉をひそめた。

「やはり解せません」
「解せないって、どういうことだ?」
「はい、先ずはミノタウロスです。彼等は主にダンジョン等に生きる魔物ですし、通常はあまり群れないはずです。これは魔物の生態が変わった影響かもしれません。そしてもう1つ、ミノタウロス程の強力な魔物の襲撃なのですが、本気度というか、やはり作為的なものを感じます」

 レナが首を傾げる。

「本気度?」
「はい、本気で我々を殺そうとしているように見えませんでした。当然ながら頭の弱い魔物のことですから直接戦闘で攻撃を受ければ命に関わるでしょう。しかし、夜営地の包囲網に一箇所だけ隙がありました。まるで我々を追い返したいようです」

 ヘルムントも同意する。

「此度の戦闘は我々の側が逆に奇襲したから奴らも混乱の極みに陥ったが、確かに夜営地の南西方向からは敵が来ておらなんだ。仮に我々が奇襲を受けたとしてもその方向に脱出することも容易だったであろう」

 ゼロは頷いて南を見た。

「やはり私達が城に近づくのを快く思っていない何者かが存在しているのでしょうね」
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