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冷徹な剣

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 レナの防御魔法とエルフ達の精霊結界により飛来する炎の槍を3本、4本、5本と弾き返す。
 かなり強力な魔法攻撃で、一撃ごとに空間が歪む程の衝撃が加わるが、どうにか受けきれる、と思ったその時。
 ゼロが躱した一撃の炎の槍、他に受けたものと桁違いの魔力が収束された異質の槍が一直線にレナに向かう。

「主様っ!」

 ゼロに付き従っていたアルファが後方に飛び退いてレナの前で両手を開いた。
 アルファがレナを守るように立ち塞がった瞬間

  バキンッ!!

魔法防御と精霊結界が貫かれ、更にアルファの胸に風穴を穿った。
 直後、レナの胸に鋭い痛みが走る。

「えっ?」

 視線を落とすとローブの胸の真ん中に焼け焦げた穴が、そこから血が吹き出した。
 胸に手を当てる、痛みは一瞬だったが、炎の槍はレナの身体を完全に貫通していた。
 ゼロが自分を振り返っている。

「・ゼロ・・・ごめんなさい・・」

 自然と出た言葉。
 魔法防御を貫かれたことか、自分が倒れることか・・・。
 いや、ゼロにどこまでもついていくという決意を果たせないことか。
 何に対しての謝罪なのか、レナにも分からない。
 全身の力が抜け、膝をつく。

(ゼロ・・・)

 薄れゆく意識の中、レナは振り返ったゼロを見つめ続けた。
 視界がぼやけ、暗くなる中でレナが見たのはいつもと変わらぬ冷静なゼロの目だった。

(・・ゼロらしい目・・・私、あの目が好きだった・・・)

 瞳に涙を浮かべながらレナは倒れた。

 倒れたレナを目の当たりにして殺気立ったのはオックス達だった。

「叩き潰してやるっ!」

 オックス、ライズ、コルツが残された精霊結界から飛び出そうとし、リリス達がレナに駆け寄ろうとする。

「待ちなさい、精霊結界を出てはいけません!リリスさん達は精霊結界を維持して援護を継続してください」

 ゼロの声にオックス達が思わず足を止めた。

「ゼロッ!そんな悠長なこと言ってられるか!早くそいつをなんとかしないと手遅れになるぞ!」

 何時もと変わらぬゼロの声に苛立ちながらライズが叫ぶ。

「浮き足立つとこちらが崩れます。奴は私が始末します。それに集中させてください」

 ゼロは腰に差した剣の鞘をライズに放り投げた。

「鞘の先の金具を外すと治療薬が隠してあります。効くかどうか分かりませんがレナさんに使ってください」

 言われたとおり鞘の金具を外すと中には白く輝く薬品が隠してあった。
 明らかにそこらの治療薬とは違う。
 ライズはその薬をレナの傷口にかけ、更に口に含ませた。
 それを見届けたゼロは傍らに立つアルファを見た。
 魔力が込められた攻撃だったために胸に開いた穴が修復していないが、彼女は無表情でゼロの指示を待っていた。

「ダメージは問題なさそうですね?貴女はレナさんに代わり精霊結界と併せた魔法防御に回りなさい。いいですか、必ず皆さんを死守してみせなさい」
「かしこまりました、主様」

 ゼロの命令にアルファは深々とカーテシーを見せると後方に飛び退いて精霊結界の周りに氷結魔法による防御を展開した。

「オメガ、ジャック・オー・ランタン、ウィル・オー・ザ・ウィスプ、スペクターはなんとしても奴を私の剣の間合いに引きずりおろしなさい」

 ハーレイを包囲しているオメガ達にも命令する。
 命令を下すゼロはどこまでも冷静、冷徹だった。

「承知しました、マイマスター!」

 オメガ達は再び四方八方からハーレイに襲い掛かる。

「なめるなよ!虫けら風情が!」

 襲い掛かるアンデッドに対してハーレイは炎槍を叩き込み、次々と消滅させていくが、消滅したアンデッドは次々と再召喚されて襲い掛かってくる。
 間断なく繰り返されるアンデッドの攻撃に加え、オメガが必殺の一撃を狙って切りかかる。

「小癪な!キリがないならば、召喚者を殺すのみ!」

 ハーレイが攻撃目標をゼロに変え、目を向けた時、空中にいたハーレイを見上げていたゼロがハーレイに向けて駆け出した。
 駆けながらハーレイ目掛けて何かを投擲する。
 ゼロが予備動作無しで投擲したのでハーレイの反応が一瞬だけ遅れ、投げつけられた物を避けるのではなく片手で受け止めてしまった。

 ジャリンッ!

 ゼロが投擲したのは鎖鎌に取り付けてあった仕掛けのボーラだった。
 それをまともに受け止めてしまったハーレイはその鎖に絡め捕られてしまった。

「ふんっ、このような小細工・・・何っ!」

 ゼロの意図を読み取っていたオメガがハーレイの背後から鎖を掴み取り、そのまま走り込んできたゼロの目の前の地面まで引きずりおろす。

 目の前にゼロの剣が迫る。
 ハーレイはボーラの鎖を引きちぎり、ゼロの攻撃を避けようとした。

 一閃!

 駆け抜けたゼロの切っ先がハーレイを捉えた。
 ハーレイの首を狙っていたゼロだが、回避動作に入っていたハーレイに対して無理な追撃をせず、一瞬の判断で狙いを変える。
 ゼロの剣を避けきれなかったハーレイの左腕が宙に舞った。

「貴様ぁ!」

 激高したハーレイがゼロに向けて炎槍を撃ち込むと同時に振り向いたゼロが光熱魔法を放った。
 ハーレイの炎槍とゼロの光熱が激突するが、高魔力の炎槍にゼロの光熱魔法が押し負けて消し飛んだ。
 炎槍がゼロに向かって飛ぶが、ゼロの前に立ちふさがったオメガによって弾き飛ばされる。
 その隙を突いてオメガを飛び越えたゼロの斬撃が二撃!三撃!ハーレイの左肩から袈裟切り、右下肢を刈り取った。

「がっ!ぐわぁっ!」

 魔人であるハーレイもたまらず声を上げる。
 ゼロは攻撃を止めない。
 倒れたハーレイを踏みつけて剣を逆手に持ち、ハーレイの胸を刺して地面に縫い付けた。

「ギッ、ヤァァッ!」

 悶絶したハーレイの魔力が暴走し、ゼロが吹き飛ばされる。

 「お、おのれっ!・・・ッ!」
 
 胸に刺さった剣を抜き捨てたハーレイが目にしたのはおぞましい光景だった。

 斬り飛ばされたハーレイの左腕と右下肢に群がるアンデッド。
 争うようにそれを貪り喰らう姿だった。

「くっ、喰っている」

 自らの身体の一部を喰らうアンデッドの姿に血の気が引いたハーレイだが、彼が魔人として真の恐怖を刻み込まれるのはこれからだった。
 奪い合うようにハーレイの腕と下肢を喰らったジャック・オー・ランタン、ウィル・オー・ザ・ウィスプ、スペクターが目を向けたのはハーレイ自身。
 ケタケタと笑いながらジャック・オー・ランタンが、ローブの奥の髑髏を剥き出しにするスペクター、ただの火の玉の筈なのにハーレイを喰らおうとするウィル・オー・ザ・ウィスプが迫る。

「ひいっ!」

 後ずさろうとしたハーレイだが、いつの間にか背後に立っていたゼロに蹴飛ばされてアンデッドの前に転がされた。
 ゼロはアンデッドに命じる、いや、許可を出す。

「喰らい尽くしなさい」

 ゼロの許しを得たアンデッドがハーレイに群がった。

「ギャアッ!やめろっ!やめてくれ・・」

 ハーレイは生きたまま喰われる恐怖の中で剣や魔法に倒れるのですらなく、群がるアンデッドに喰らい尽くされた。
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