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魔王ゴッセル・ローヴ
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レオン達は広大な城内を駆け抜けた。
城内のそこかしこには魔物達の死体が転がっている。
先行した勇者達との戦いの末路なのだろうが、倒れている死体の中には少数ながら冒険者の死体も混ざっている。
激しい戦いの痕跡なのだろう。
遅れて城内に飛び込んだレオン達ですら幾度となく魔物達の襲撃を受け、その度に激しい戦いを繰り広げながら撃退し、又は魔物の猛攻を食い止めるために行動を共にしていた聖務院聖監察兵団の隊員がその場に踏みとどまってくれた。
最後まで残っていた小隊長も3人の部下を率いて後を追ってきた魔物の集団に斬り込んで行ったまま戻らない。
残っているのはレオンのパーティー4人と聖女セイラと護衛士アイリア、聖騎士のイザベラとアランだけだ。
このとき、レオンは覚悟を決めていた、つもりであった。
(先に行った人達が魔王を倒してくれていればいい。でも、そうでないならば、俺はこの槍で魔王に戦いを挑むことに迷いはない。俺達を送り出してくれた人達、俺達が守るべき人達のためにも)
ここまで来たら引き返すことはできない。
生きるにせよ倒れるにせよ、魔王との戦いから逃れることはできないのだ。
「この先ですわよっ!この先からとてつもない魔力を感じます。まだ終わってはいないようですわね」
イザベラが叫んだ。
彼等の走る先に一際大きな扉がある。
謁見の間への扉だ。
扉の前には扉を守っていた衛兵なのか、黒衣の騎士が倒れている。
「みんな、行くぞ!」
レオンは先頭に立ち、扉の中に飛び込んだ。
広大な謁見の間は異様な静けさと鼻を突く血と臓物の匂いに包まれていた。
そこでは戦いは行われていないどころか、動く者すらいない。
先に行った筈の勇者や英雄、そのパーティーの者達の死体が部屋中に散乱している。
ある者は身体を両断され、ある者は頭部を吹き飛ばされており、人の姿を留めていない肉塊と化している者もいる。
そして死体の中に立つ巨躯の男がいる。
いや、とてもではないが人間などではない。
3メートルはあろうかという身体に赤く光る目、そして、桁外れの禍々しいまでの魔力を身に纏っている。
疑う余地もない、魔王ゴッセル・ローヴだ。
凶悪なまでに巨大で分厚い鉈のような剣を手に、赤く不気味に光る目で新たに飛び込んできた人間達を見ている。
「また矮小なる羽虫が迷い込んできたか。哀れなものよ・・・」
地の底から沸き出すような声にレオン達は竦み上がった。
イザベラとアランですら緊張、いや恐怖の表情を浮かべている。
(・・・駄目だ、勝てる気も逃げられる気もしない。足が動かない・・・)
レオンは先程までの決意も吹き飛び、槍を構えることすらできない。
槍の穂先を向けただけで一息に殺されそうな恐怖に震えている。
(どうする・・・。諦めるしかないのか・・・いや違う!)
心が折れかけたレオンの脳裏に1人の冒険者が浮かぶ。
常に背中を追い続けてきた黒等級のネクロマンサーの姿。
(勝てないと諦めてはだめだ。勝てない絶望的な中からでも勝つための道を探し出すんだ!)
レオンは槍を握りしめ、その先を魔王に向けた。
「俺は英雄レオンだ!絶対に退きはしないし諦めもしない!」
精一杯の虚勢を張るレオン。
「ほう、余を前にして声を上げるか。その胆力に敬意を示してやろう。余がゴッセル・ローヴである。余に名乗らせたこと、死ぬまでの僅かな時間、誇りに思うがよい」
レオンは歯を食いしばる。
(恐いけど、恐れては駄目だ!)
深く深呼吸をしたレオンは腹に力を入れた。
全身の震えは止まらないし、恐怖に涙も滲み出るが、腹は決まった。
「みんな、まともにやり合って勝てる相手ではない!でも、俺達は退くわけにはいかないんだ!俺の指示に従ってくれ!奴には俺が当たる!ルシアとカイルは祈りと魔法で防御と回復に専念してくれ、2人の攻撃が通じるとは思えない。マッキは通用しなくてもいい、弓矢での援護だ。セイラさんも祈りと加護で俺達を守ってくれ、アイリアさんはセイラさんを守ってくれ。イザベラさんとアランさんは・・・」
必死に考えて指示を出すレオンの左右でイザベラとアランが剣を構えた。
「お任せなさい!貴方だけに戦わせはしませんのよ」
「大した根性だ。指示も悪くない。俺とイザベラもお前と共に行くぞ。英雄レオンよ」
半ベソをかきながらも槍を構えて前に出るレオン。
この時、レオンは真の英雄に、経験不足の中位冒険者の英雄へと成長を遂げた。
レオン達が魔王ゴッセルに対峙したその頃、短い眠りについていたゼロが目を覚ました。
額に当てられた冷たさはゼロを膝枕しているアルファの手によるものだ。
体温の無いアンデッド故の冷たい手が心地よい。
目を開けばゼロの顔を覗き込むアルファの顔と周囲を警戒しているオメガの背中。
「どの位眠りましたか?」
立ち上がりながらアルファに訊ねる。
傷は癒えて体力もある程度は回復している。
「半刻も眠られていませんでした。その間に特異なことはありません」
アルファの報告にゼロは頷いた。
「行きましょう」
アルファとオメガを従えてゼロは歩き出し、地下墳墓の最深部に立ち入った。
地下墳墓の最深部は広々とした空間になっていた。
幾つかの棺が安置されており、奥に祭壇が設けられている。
その祭壇の上に1人の少年が座っていた。
年の頃12、3歳に見える少年は赤く光る目でゼロのことを見ながらクスクスと笑っている。
「君、ベルベットを殺したんだね。凄いや」
無邪気に笑う少年だが、内に秘めたる魔力が桁違いだ。
さすがのゼロも不用意には近づかない。
「私は魔王に用件があってここに来ましたが、貴方でよいのですか?」
油断なく剣に手を掛けるゼロ、背後に控えるオメガとアルファも敵意を剥き出しにしている。
「そうだよ。僕が魔王ゴッセル・ローヴだよ」
少年は自らを魔王だと名乗った。
ゼロは剣を抜いた。
「貴方が魔王ゴッセルならば、私は貴方を殺しに来たのです」
ゼロの言葉にゴッセルは大袈裟に驚いたような表情を浮かべる。
「嫌だよ。僕は何も悪いことはしていないよ?何で僕が殺されなければいけないの?悪いのはゴッセルの方だよ」
馬鹿にするように笑うゴッセルは剣を抜いたゼロにもまるで警戒していない。
「貴方のおふざけに付き合うつもりはありませんよ」
剣を構えるゼロ。
その様子を首を傾げて笑いながら見ているゴッセル。
「非道いや。どうしても僕を殺すっていうの?」
「・・・・」
「もしもそうならば・・・仕方ないな。可哀想だけど、君を殺すよ?」
表情を変えないゴッセルは静かに立ち上がった。
立ち上がったゴッセルを中心に凄まじい魔力が渦巻き始めた。
城内のそこかしこには魔物達の死体が転がっている。
先行した勇者達との戦いの末路なのだろうが、倒れている死体の中には少数ながら冒険者の死体も混ざっている。
激しい戦いの痕跡なのだろう。
遅れて城内に飛び込んだレオン達ですら幾度となく魔物達の襲撃を受け、その度に激しい戦いを繰り広げながら撃退し、又は魔物の猛攻を食い止めるために行動を共にしていた聖務院聖監察兵団の隊員がその場に踏みとどまってくれた。
最後まで残っていた小隊長も3人の部下を率いて後を追ってきた魔物の集団に斬り込んで行ったまま戻らない。
残っているのはレオンのパーティー4人と聖女セイラと護衛士アイリア、聖騎士のイザベラとアランだけだ。
このとき、レオンは覚悟を決めていた、つもりであった。
(先に行った人達が魔王を倒してくれていればいい。でも、そうでないならば、俺はこの槍で魔王に戦いを挑むことに迷いはない。俺達を送り出してくれた人達、俺達が守るべき人達のためにも)
ここまで来たら引き返すことはできない。
生きるにせよ倒れるにせよ、魔王との戦いから逃れることはできないのだ。
「この先ですわよっ!この先からとてつもない魔力を感じます。まだ終わってはいないようですわね」
イザベラが叫んだ。
彼等の走る先に一際大きな扉がある。
謁見の間への扉だ。
扉の前には扉を守っていた衛兵なのか、黒衣の騎士が倒れている。
「みんな、行くぞ!」
レオンは先頭に立ち、扉の中に飛び込んだ。
広大な謁見の間は異様な静けさと鼻を突く血と臓物の匂いに包まれていた。
そこでは戦いは行われていないどころか、動く者すらいない。
先に行った筈の勇者や英雄、そのパーティーの者達の死体が部屋中に散乱している。
ある者は身体を両断され、ある者は頭部を吹き飛ばされており、人の姿を留めていない肉塊と化している者もいる。
そして死体の中に立つ巨躯の男がいる。
いや、とてもではないが人間などではない。
3メートルはあろうかという身体に赤く光る目、そして、桁外れの禍々しいまでの魔力を身に纏っている。
疑う余地もない、魔王ゴッセル・ローヴだ。
凶悪なまでに巨大で分厚い鉈のような剣を手に、赤く不気味に光る目で新たに飛び込んできた人間達を見ている。
「また矮小なる羽虫が迷い込んできたか。哀れなものよ・・・」
地の底から沸き出すような声にレオン達は竦み上がった。
イザベラとアランですら緊張、いや恐怖の表情を浮かべている。
(・・・駄目だ、勝てる気も逃げられる気もしない。足が動かない・・・)
レオンは先程までの決意も吹き飛び、槍を構えることすらできない。
槍の穂先を向けただけで一息に殺されそうな恐怖に震えている。
(どうする・・・。諦めるしかないのか・・・いや違う!)
心が折れかけたレオンの脳裏に1人の冒険者が浮かぶ。
常に背中を追い続けてきた黒等級のネクロマンサーの姿。
(勝てないと諦めてはだめだ。勝てない絶望的な中からでも勝つための道を探し出すんだ!)
レオンは槍を握りしめ、その先を魔王に向けた。
「俺は英雄レオンだ!絶対に退きはしないし諦めもしない!」
精一杯の虚勢を張るレオン。
「ほう、余を前にして声を上げるか。その胆力に敬意を示してやろう。余がゴッセル・ローヴである。余に名乗らせたこと、死ぬまでの僅かな時間、誇りに思うがよい」
レオンは歯を食いしばる。
(恐いけど、恐れては駄目だ!)
深く深呼吸をしたレオンは腹に力を入れた。
全身の震えは止まらないし、恐怖に涙も滲み出るが、腹は決まった。
「みんな、まともにやり合って勝てる相手ではない!でも、俺達は退くわけにはいかないんだ!俺の指示に従ってくれ!奴には俺が当たる!ルシアとカイルは祈りと魔法で防御と回復に専念してくれ、2人の攻撃が通じるとは思えない。マッキは通用しなくてもいい、弓矢での援護だ。セイラさんも祈りと加護で俺達を守ってくれ、アイリアさんはセイラさんを守ってくれ。イザベラさんとアランさんは・・・」
必死に考えて指示を出すレオンの左右でイザベラとアランが剣を構えた。
「お任せなさい!貴方だけに戦わせはしませんのよ」
「大した根性だ。指示も悪くない。俺とイザベラもお前と共に行くぞ。英雄レオンよ」
半ベソをかきながらも槍を構えて前に出るレオン。
この時、レオンは真の英雄に、経験不足の中位冒険者の英雄へと成長を遂げた。
レオン達が魔王ゴッセルに対峙したその頃、短い眠りについていたゼロが目を覚ました。
額に当てられた冷たさはゼロを膝枕しているアルファの手によるものだ。
体温の無いアンデッド故の冷たい手が心地よい。
目を開けばゼロの顔を覗き込むアルファの顔と周囲を警戒しているオメガの背中。
「どの位眠りましたか?」
立ち上がりながらアルファに訊ねる。
傷は癒えて体力もある程度は回復している。
「半刻も眠られていませんでした。その間に特異なことはありません」
アルファの報告にゼロは頷いた。
「行きましょう」
アルファとオメガを従えてゼロは歩き出し、地下墳墓の最深部に立ち入った。
地下墳墓の最深部は広々とした空間になっていた。
幾つかの棺が安置されており、奥に祭壇が設けられている。
その祭壇の上に1人の少年が座っていた。
年の頃12、3歳に見える少年は赤く光る目でゼロのことを見ながらクスクスと笑っている。
「君、ベルベットを殺したんだね。凄いや」
無邪気に笑う少年だが、内に秘めたる魔力が桁違いだ。
さすがのゼロも不用意には近づかない。
「私は魔王に用件があってここに来ましたが、貴方でよいのですか?」
油断なく剣に手を掛けるゼロ、背後に控えるオメガとアルファも敵意を剥き出しにしている。
「そうだよ。僕が魔王ゴッセル・ローヴだよ」
少年は自らを魔王だと名乗った。
ゼロは剣を抜いた。
「貴方が魔王ゴッセルならば、私は貴方を殺しに来たのです」
ゼロの言葉にゴッセルは大袈裟に驚いたような表情を浮かべる。
「嫌だよ。僕は何も悪いことはしていないよ?何で僕が殺されなければいけないの?悪いのはゴッセルの方だよ」
馬鹿にするように笑うゴッセルは剣を抜いたゼロにもまるで警戒していない。
「貴方のおふざけに付き合うつもりはありませんよ」
剣を構えるゼロ。
その様子を首を傾げて笑いながら見ているゴッセル。
「非道いや。どうしても僕を殺すっていうの?」
「・・・・」
「もしもそうならば・・・仕方ないな。可哀想だけど、君を殺すよ?」
表情を変えないゴッセルは静かに立ち上がった。
立ち上がったゴッセルを中心に凄まじい魔力が渦巻き始めた。
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