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世界をマッピングする
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サクサクと道を歩く。まばらな下生えの草は短い。
街を出てまだ一刻も経っていない。このあたりはまだまだ田園風景が続く。
ペンディエンテに住む人々の食糧を賄うためにはどこまでも広い農耕地と放牧地が必要だ。
魔物などから街を守る壁の外ではあるが、昼間はのどかなものだ。
日光の恩恵がない夜間や、死角の多い森にでも入らない限り、このあたりに魔物の脅威はほとんどない。
魔物の脅威がある場所へ赴く場合、複数名でパーティを組むか、腕っぷしに自信のある冒険者を護衛として雇うなどするのが一般的だ。
その例外、それがオレこと、イノー。
オレは一人で旅をする。もちろん魔物の脅威がある土地にも行く。一人で世界を回り、世界の地図を作る━━予定だ。
戦闘能力のないオレは冒険者のパーティに入れてもらうことができず、無一文のため護衛なども雇えない。
力もない、お金もない。だけじゃなく人脈もない。なぜならこの世界にやってきたばかりだからだ。
転移者、というのだそうだ。
あちらの世界で無念の思いを抱いたまま74年の生涯を閉じたオレは、気が付くとあのペンディエンテの街の大広場に立ち尽くしていた。
輪廻転生ではないようだ。オレは元の姿のままのオレだった。ただし二十歳そこそこの年齢に若返っている。前の人生では商家を切り盛りしていた頃か。酒と醤油の醸造だけでなく金貸しも行っていてとてつもなく忙しい毎日を送っていた時期だ。
ここが異国ですらない、完全なる別世界であるということを理解している。
死んだ後の事はどうにも思い出せない。あの世があったのかどうかも定かではない。誰かと──おそらくは閻魔大王か観音菩薩だろうが、何かを話したような気がする。だけどそのことについて思い出そうとするだけで、雲が散り散りに消えるかのように記憶は形を成さなくなる。
多分その存在に異国に転移することを告げられたのだろう。それから言葉だ。こちらの世界の言葉が理解し、話せる。それも習得したという感じではなく、日本語でを話すのと同じ感覚で話せるのだ。
それからもう一つ。オレは特殊な能力を獲得していた。これもやはり閻魔大王だか観音様だかに与えられたものだろう。それは生前のオレが何よりも欲していた能力━━つまり測量要らずの能力だった。
「マッピングなんてスキルだけじゃ冒険者になるなんてのはムリだぜ。そもそも戦闘スキルじゃないし、武器や道具を作れるわけじゃねえから、クラフトスキルの中でも完全にハズレじゃねえか」
先ほどの街での一幕が思い出される。
様々な地を冒険する冒険者なる職業の事を知り、何とかその寄り合い所を探そうと聞き込みをしていたところで、一人の偉丈夫な男と出会った。物々しい鎧を身にまとった男だ。
冒険者組合に行きたい理由を聞かれたので、冒険者になりたいという希望と、ついでにマッピングというスキルを持っている事を話したら、返ってきたのが先の言葉だった。
男は続けた。
「だいたい地図なんてのは一枚あれば事足りるし、ダンジョンの地図でも金出せば買えるんだ。その見た目からして剣も魔法も使えないんだろうし、冒険者ギルドになんざ行くだけ無駄だろ」
スキルを持っていると話した瞬間の驚きと羨望と嫉妬が入り混じった表情はあっという間に消えていた。代わりに出てきた見下したような目と口ぶりを隠そうともしない。
「分かった、もういい。自分で探す」
そう言って鎧の男から離れたオレは一人街を彷徨った。
街を出てまだ一刻も経っていない。このあたりはまだまだ田園風景が続く。
ペンディエンテに住む人々の食糧を賄うためにはどこまでも広い農耕地と放牧地が必要だ。
魔物などから街を守る壁の外ではあるが、昼間はのどかなものだ。
日光の恩恵がない夜間や、死角の多い森にでも入らない限り、このあたりに魔物の脅威はほとんどない。
魔物の脅威がある場所へ赴く場合、複数名でパーティを組むか、腕っぷしに自信のある冒険者を護衛として雇うなどするのが一般的だ。
その例外、それがオレこと、イノー。
オレは一人で旅をする。もちろん魔物の脅威がある土地にも行く。一人で世界を回り、世界の地図を作る━━予定だ。
戦闘能力のないオレは冒険者のパーティに入れてもらうことができず、無一文のため護衛なども雇えない。
力もない、お金もない。だけじゃなく人脈もない。なぜならこの世界にやってきたばかりだからだ。
転移者、というのだそうだ。
あちらの世界で無念の思いを抱いたまま74年の生涯を閉じたオレは、気が付くとあのペンディエンテの街の大広場に立ち尽くしていた。
輪廻転生ではないようだ。オレは元の姿のままのオレだった。ただし二十歳そこそこの年齢に若返っている。前の人生では商家を切り盛りしていた頃か。酒と醤油の醸造だけでなく金貸しも行っていてとてつもなく忙しい毎日を送っていた時期だ。
ここが異国ですらない、完全なる別世界であるということを理解している。
死んだ後の事はどうにも思い出せない。あの世があったのかどうかも定かではない。誰かと──おそらくは閻魔大王か観音菩薩だろうが、何かを話したような気がする。だけどそのことについて思い出そうとするだけで、雲が散り散りに消えるかのように記憶は形を成さなくなる。
多分その存在に異国に転移することを告げられたのだろう。それから言葉だ。こちらの世界の言葉が理解し、話せる。それも習得したという感じではなく、日本語でを話すのと同じ感覚で話せるのだ。
それからもう一つ。オレは特殊な能力を獲得していた。これもやはり閻魔大王だか観音様だかに与えられたものだろう。それは生前のオレが何よりも欲していた能力━━つまり測量要らずの能力だった。
「マッピングなんてスキルだけじゃ冒険者になるなんてのはムリだぜ。そもそも戦闘スキルじゃないし、武器や道具を作れるわけじゃねえから、クラフトスキルの中でも完全にハズレじゃねえか」
先ほどの街での一幕が思い出される。
様々な地を冒険する冒険者なる職業の事を知り、何とかその寄り合い所を探そうと聞き込みをしていたところで、一人の偉丈夫な男と出会った。物々しい鎧を身にまとった男だ。
冒険者組合に行きたい理由を聞かれたので、冒険者になりたいという希望と、ついでにマッピングというスキルを持っている事を話したら、返ってきたのが先の言葉だった。
男は続けた。
「だいたい地図なんてのは一枚あれば事足りるし、ダンジョンの地図でも金出せば買えるんだ。その見た目からして剣も魔法も使えないんだろうし、冒険者ギルドになんざ行くだけ無駄だろ」
スキルを持っていると話した瞬間の驚きと羨望と嫉妬が入り混じった表情はあっという間に消えていた。代わりに出てきた見下したような目と口ぶりを隠そうともしない。
「分かった、もういい。自分で探す」
そう言って鎧の男から離れたオレは一人街を彷徨った。
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