きみを見つけた

山鳩由真

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「じゃ、予定通り来週水曜はバーベキューパーク集合で。各自駅から軽く歩いて、腹空かせてくるように」
「はーい」

 オススメルートとポイントが記された画像データを配り、成井田とさつきがスケジュールを説明してミーティングは終了した。
 来週の活動には、成井田、さつき、桐島、飯島の四名が参加する予定で、集合場所は遊園地の中にあるバーベキューのできる施設とした。昼に集合してバーベキューをした後に、近くの緑地を散歩する。周辺には遊歩道と広大な緑地が整備されているので、腹ごなしにちょうど良い量の散歩が出来るだろう。
「晴れるといいね」
 さつきが微笑むと、成井田も頷いて見せた。
 電車で別れた時のようなやるせない雰囲気は微塵も見せない成井田に、元の関係に戻ることが出来たのだとさつきは安堵した。


✳︎
 週の半ば、平日の遊園地の入場者はまばらだった。
 元々休日でもひしめく程混雑するような遊園地では無かったが、それでもヒーローショーをやる時間帯などは子供が山のようにたくさん居た記憶がある。
 入場口から集合場所まで歩きながら、さつきはこの遊園地に幼い頃一度だけ母親に連れてきて貰ったことを思い出していた。
 小さい子供向けのアトラクションがたくさんあり、あの時、通り過ぎてもそのエリアを何度も何度も振り返った。
 しかし、乗り物に乗ったり、ヒーローショーを見ることが、その時は出来なかった。母親の目的は遊園地内にあるホールで催された教育講演会であり、それをさつきに聴かせる事だった。
 乗り物に乗って騒ぐ子供を、好意的ではない形相で一瞥する母親に、『乗ってみたい』などとは、とても言えなかった。
 ジェットコースター、コーヒーカップ、メリーゴーランド、ゴーカート、観覧車……歓声をあげている人々の様子を、さつきは羨ましく思いながら目の端に映して通り過ぎた。

 
 バーベキューパークの入り口が見えてきた時、ポケットの中の携帯が震えた。画面を見ると、成井田からの着信だった。
「先輩、もう着いてますか?」
「うん。今、バーベキュー場の入り口だよ。ナルは?」
「着いてて、準備しようと思ったんですけど……」
 そこまで話したところで、さつきは手を振る成井田を視認して駆け寄った。
 この施設では、受付で道具の借用や具材を購入するだけで全ての材料が揃い、バーベキューが出来る。
 予約してあるため、受付で名前を言えば道具その他を受け取れる筈だが、成井田は受付の列には並ばず、少し離れた位置に立っていた。
「どうしたの?」
 さつきが見上げると、成井田は「ええと」と呟くばかりで歯切れが悪い。
「予約し忘れてた?」
 心配するさつきに、携帯画面をチラチラと見ていた成井田は「いえ」と言う。
「じゃあ、準備する?」
 首を傾げるさつきに、それでも成井田ははっきりと答えない。
「何か連絡があった……?」
 そう聞かれて、ようやく成井田は携帯画面から目を離してさつきを見た。
「実は……桐島たちが、来れないと」
「えっ、飯島も?」
 成井田が頷いて、桐島とのメッセージ画面を見せた。
『すみませ~ん! すっごく行きたかったんですけど、洗った靴が乾かなくて行けません! 飯島もそうみたいです! すみません!』
 さつきがそのメッセージを読んでいる間にも、追加で桐島からのメッセージが送られてきた。
『デートうまくやってくださいね! 応援してます! (らぶらぶ)』
 最後に、猫のキャラクター同士がキスをしてハートを出しているアイコンが送られてきて、成井田は細く息を吐き出した。
「あいつら……」
 さつきは、心臓がきゅっと縮まるような感覚がして、手のひらの汗ごとTシャツの胸の辺りを握りしめた。
 成井田は、さつきと二人きりにされて迷惑に思っているかもしれない。もしも、自分と過ごさなければならないことを苦痛に感じていたら。成井田に、冷たく「それじゃあ、さよなら」と切り捨てるように言われたら。あっさりと拒絶されるのが怖い。
 だから、自分から言おうと思った。
「ふた、二人じゃ、出来ないよね。バーベキュー……」
「そうですねー。キャンセル料はかからないんで、バーベキューは断ってきますね」
「う、うん……ありがとう……」
 成井田は受付に行き、手早くキャンセルの手続きをすると、すぐに戻って来た。
「それじゃ、行きましょうか」
「あ……う、うん……」
 成井田がずんずん進む後を、さつきは置いていかれないように早足でついていく。成井田は、バーベキューパークから遊園地の方向へ、その先の退場口のある方へ向かっていた。
 帰るんだ。今日は、メンバーが揃わないから。
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