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8.再会 7
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「西条とは今日別れて」
理科準備室で八年ぶりに交わった後、室見は丁寧に郁の身体に残っていた汗や愛液を拭きとり、甲斐甲斐しく服を着せるのも手伝った。それは優しく慈しむ手つきで、郁は情事の後の気だるさもあって、うっとりと身を任せていた。しかし、最後に発せられた室見の言葉に目を見開く。
「一緒に暮らすために部屋を用意してあるから、今日からそっちに帰ろう。明日引越し業者を手配してるから、荷物のことは心配しないで」
仕上げに乱れた髪を撫でてキスをすると、室見は微笑んだ。
「西条と暮らしてたことは、怒ってないよ。俺がいなくて寂しかったんだろ。ヒートが来ない郁とずっと居たと思うと、本当は殺したいくらい憎いけど……宣言した通り、西条は俺が迎えに来るまで郁を他の奴らから守っててくれたんだから、その点は一応感謝してる」
「西条先生とは、ルームシェアしていただけで付き合っていたわけじゃ……」
「郁はそのつもりでも、あいつはそうじゃないよ。同期だからとか、友達だからって言って、郁が弱音を吐いた時とかに、不意打ちでキスしてきたり抱き締めてきたりしただろ」
「そんなこと、ない……」
そう答えたものの、確かに西条はスキンシップが多いように思えた。肩を組まれることがよくあり、最初の頃はそっと逃れていたが、段々と慣れてきて、いつからか振りほどかなくなった。きっとオメガでなければ、これが普通の友達の感覚なのだろうと思っていた。
「じゃ、郁が寝た後とかにされてたんだよ」
「……」
オメガだから、西条を知らないうちに誘惑してしまっていたのだろうか。室見と番になった郁は、室見以外に有効なフェロモンを発しない筈なのに。考え込む郁に、室見は苦笑した。
「……フェロモンは関係ないんだよ。とにかく、もう西条には会わせない」
一瞬で冷たい表情になって、室見は言い放った。しかし、家賃や光熱費など折半していたものを、突然相談もなしにやめられたら西条は困るだろう。
「いきなりは、無理だ。お金のこともあるし、相談しないと」
「お金のことは心配しないで。西条には別の部屋に移るまでの間の折半分の家賃は渡すし、何だったら西条の引越し費用も出すから」
「そんなことはしてもらえない」
「俺がしたいんだよ。郁と安心して暮らすためにも。西条には俺が話すから。お礼も言いたいしね……」
少しも譲る気がなさそうな室見に、郁は言葉を失う。
「郁は俺と暮らすのはいや?」
「いや……では、ない……。でも、わからない。ご両親は、一緒に暮らすのを了承されているのか?」
「言ってあるよ。親はもう俺のすることには口を出さないから大丈夫。深く傷ついてる俺のために、一緒に暮らしてくれるんだね、郁。嬉しいよ」
室見は郁の額に口づけると、晴れやかな笑顔を見せた。
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「西条とは今日別れて」
理科準備室で八年ぶりに交わった後、室見は丁寧に郁の身体に残っていた汗や愛液を拭きとり、甲斐甲斐しく服を着せるのも手伝った。それは優しく慈しむ手つきで、郁は情事の後の気だるさもあって、うっとりと身を任せていた。しかし、最後に発せられた室見の言葉に目を見開く。
「一緒に暮らすために部屋を用意してあるから、今日からそっちに帰ろう。明日引越し業者を手配してるから、荷物のことは心配しないで」
仕上げに乱れた髪を撫でてキスをすると、室見は微笑んだ。
「西条と暮らしてたことは、怒ってないよ。俺がいなくて寂しかったんだろ。ヒートが来ない郁とずっと居たと思うと、本当は殺したいくらい憎いけど……宣言した通り、西条は俺が迎えに来るまで郁を他の奴らから守っててくれたんだから、その点は一応感謝してる」
「西条先生とは、ルームシェアしていただけで付き合っていたわけじゃ……」
「郁はそのつもりでも、あいつはそうじゃないよ。同期だからとか、友達だからって言って、郁が弱音を吐いた時とかに、不意打ちでキスしてきたり抱き締めてきたりしただろ」
「そんなこと、ない……」
そう答えたものの、確かに西条はスキンシップが多いように思えた。肩を組まれることがよくあり、最初の頃はそっと逃れていたが、段々と慣れてきて、いつからか振りほどかなくなった。きっとオメガでなければ、これが普通の友達の感覚なのだろうと思っていた。
「じゃ、郁が寝た後とかにされてたんだよ」
「……」
オメガだから、西条を知らないうちに誘惑してしまっていたのだろうか。室見と番になった郁は、室見以外に有効なフェロモンを発しない筈なのに。考え込む郁に、室見は苦笑した。
「……フェロモンは関係ないんだよ。とにかく、もう西条には会わせない」
一瞬で冷たい表情になって、室見は言い放った。しかし、家賃や光熱費など折半していたものを、突然相談もなしにやめられたら西条は困るだろう。
「いきなりは、無理だ。お金のこともあるし、相談しないと」
「お金のことは心配しないで。西条には別の部屋に移るまでの間の折半分の家賃は渡すし、何だったら西条の引越し費用も出すから」
「そんなことはしてもらえない」
「俺がしたいんだよ。郁と安心して暮らすためにも。西条には俺が話すから。お礼も言いたいしね……」
少しも譲る気がなさそうな室見に、郁は言葉を失う。
「郁は俺と暮らすのはいや?」
「いや……では、ない……。でも、わからない。ご両親は、一緒に暮らすのを了承されているのか?」
「言ってあるよ。親はもう俺のすることには口を出さないから大丈夫。深く傷ついてる俺のために、一緒に暮らしてくれるんだね、郁。嬉しいよ」
室見は郁の額に口づけると、晴れやかな笑顔を見せた。
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