教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

文字の大きさ
47 / 108

15.深慮 1

しおりを挟む


「すこし距離を置かせて欲しい」

 一週間経ってようやく正気を取り戻せた朝、郁は別居を切り出した。夜ハウスキーパーが用意していった朝食を温めなおしてテーブルに置いていたが、スープもホットサンドも話しているうちに冷めていった。室見は郁の申し出を容易には受け入れなかった。
「できない。いつヒートが来るかわからない身体の郁を一人にできない。身体はこんなに俺を求めているのに、どうして……」
 郁の口から別れをほのめかす言葉が出たことに動揺して、室見の顔色は蒼白に近かった。同時に郁を服従させようとする階級分化フェロモンを発してみせる室見を、郁は直視できなかった。室見のフェロモンを浴びながら苦しそうな顔を見ると否応なしに胸が締め付けられる。郁はテーブルの上の手をつけられない朝食を見つめて話した。

「このままでは、俺は室見を受け入れられない。頭の中を整理する時間が欲しい」

「……今の俺たちの関係は壊れてるの?」

 哀願するような声で室見は郁に聞いた。
「そう思ってる。室見が黙って俺に薬を飲ませたことが、許せない。八年前のことと、今もまた同じようにしたことも」

「……」

 室見は何か言いかけて口をつぐむと、長い時間黙って、やがて震える手でテーブルの上に置かれた郁の手を向かいの席から握った。
「それって何日?」
「今明確に答えられない」
「そのまま帰って来ないかもしれない?」
「……それはわからない。でも、もしも別れたいと思っても、必ず相談する」
「……別れたいと、思うかもしれないんだね」
 それには答えずにいると、向かいのテーブルに水滴が何粒も落ちたように見えた。
「今、一度離れなければ、郁の心が俺を愛せるかどうかわからない? そうなんだね?」
 頷くと、室見は名残惜しそうに郁の手を離した。
「……わかった。でも、郁はこの部屋に残って。俺がこのマンションの空いてる部屋に移る。譲歩できるのはそこまでだよ」

 同じマンションに居るのでは距離が近すぎると思ったが、急なヒートになった時に心配だからと室見は譲らなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

恭介&圭吾シリーズ

芹澤柚衣
BL
高校二年の土屋恭介は、お祓い屋を生業として生活をたてていた。相棒の物の怪犬神と、二歳年下で有能アルバイトの圭吾にフォローしてもらい、どうにか依頼をこなす毎日を送っている。こっそり圭吾に片想いしながら平穏な毎日を過ごしていた恭介だったが、彼には誰にも話せない秘密があった。

【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる

grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。 幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。 そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。 それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。 【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】 フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……? ・なぜか義弟と二人暮らしするはめに ・親の陰謀(?) ・50代男性と付き合おうとしたら怒られました ※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。 ※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。 ※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!

愛のない婚約者は愛のある番になれますか?

水無瀬 蒼
BL
Ωの天谷千景には親の決めた宮村陸というαの婚約者がいる。 千景は子供の頃から憧れているが、陸にはその気持ちはない。 それどころか陸には千景以外に心の決めたβの恋人がいる。 しかし、恋人と約束をしていた日に交通事故で恋人を失ってしまう。 そんな絶望の中、千景と陸は結婚するがーー 2025.3.19〜6.30

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~

つきよの
BL
●ハッピーエンド● 「勇利先輩……?」  俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。  だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。 (どうして……)  声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。 「東谷……」  俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。  背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。  落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。  誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。  そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。 番になればラット化を抑えられる そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ しかし、アルファだと偽って生きていくには 関係を続けることが必要で…… そんな中、心から愛する人と出会うも 自分には噛み痕が…… 愛したいのに愛することは許されない 社会人オメガバース あの日から三年ぶりに会うアイツは… 敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

処理中です...