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15.深慮 1
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「すこし距離を置かせて欲しい」
一週間経ってようやく正気を取り戻せた朝、郁は別居を切り出した。夜ハウスキーパーが用意していった朝食を温めなおしてテーブルに置いていたが、スープもホットサンドも話しているうちに冷めていった。室見は郁の申し出を容易には受け入れなかった。
「できない。いつヒートが来るかわからない身体の郁を一人にできない。身体はこんなに俺を求めているのに、どうして……」
郁の口から別れをほのめかす言葉が出たことに動揺して、室見の顔色は蒼白に近かった。同時に郁を服従させようとする階級分化フェロモンを発してみせる室見を、郁は直視できなかった。室見のフェロモンを浴びながら苦しそうな顔を見ると否応なしに胸が締め付けられる。郁はテーブルの上の手をつけられない朝食を見つめて話した。
「このままでは、俺は室見を受け入れられない。頭の中を整理する時間が欲しい」
「……今の俺たちの関係は壊れてるの?」
哀願するような声で室見は郁に聞いた。
「そう思ってる。室見が黙って俺に薬を飲ませたことが、許せない。八年前のことと、今もまた同じようにしたことも」
「……」
室見は何か言いかけて口をつぐむと、長い時間黙って、やがて震える手でテーブルの上に置かれた郁の手を向かいの席から握った。
「それって何日?」
「今明確に答えられない」
「そのまま帰って来ないかもしれない?」
「……それはわからない。でも、もしも別れたいと思っても、必ず相談する」
「……別れたいと、思うかもしれないんだね」
それには答えずにいると、向かいのテーブルに水滴が何粒も落ちたように見えた。
「今、一度離れなければ、郁の心が俺を愛せるかどうかわからない? そうなんだね?」
頷くと、室見は名残惜しそうに郁の手を離した。
「……わかった。でも、郁はこの部屋に残って。俺がこのマンションの空いてる部屋に移る。譲歩できるのはそこまでだよ」
同じマンションに居るのでは距離が近すぎると思ったが、急なヒートになった時に心配だからと室見は譲らなかった。
「すこし距離を置かせて欲しい」
一週間経ってようやく正気を取り戻せた朝、郁は別居を切り出した。夜ハウスキーパーが用意していった朝食を温めなおしてテーブルに置いていたが、スープもホットサンドも話しているうちに冷めていった。室見は郁の申し出を容易には受け入れなかった。
「できない。いつヒートが来るかわからない身体の郁を一人にできない。身体はこんなに俺を求めているのに、どうして……」
郁の口から別れをほのめかす言葉が出たことに動揺して、室見の顔色は蒼白に近かった。同時に郁を服従させようとする階級分化フェロモンを発してみせる室見を、郁は直視できなかった。室見のフェロモンを浴びながら苦しそうな顔を見ると否応なしに胸が締め付けられる。郁はテーブルの上の手をつけられない朝食を見つめて話した。
「このままでは、俺は室見を受け入れられない。頭の中を整理する時間が欲しい」
「……今の俺たちの関係は壊れてるの?」
哀願するような声で室見は郁に聞いた。
「そう思ってる。室見が黙って俺に薬を飲ませたことが、許せない。八年前のことと、今もまた同じようにしたことも」
「……」
室見は何か言いかけて口をつぐむと、長い時間黙って、やがて震える手でテーブルの上に置かれた郁の手を向かいの席から握った。
「それって何日?」
「今明確に答えられない」
「そのまま帰って来ないかもしれない?」
「……それはわからない。でも、もしも別れたいと思っても、必ず相談する」
「……別れたいと、思うかもしれないんだね」
それには答えずにいると、向かいのテーブルに水滴が何粒も落ちたように見えた。
「今、一度離れなければ、郁の心が俺を愛せるかどうかわからない? そうなんだね?」
頷くと、室見は名残惜しそうに郁の手を離した。
「……わかった。でも、郁はこの部屋に残って。俺がこのマンションの空いてる部屋に移る。譲歩できるのはそこまでだよ」
同じマンションに居るのでは距離が近すぎると思ったが、急なヒートになった時に心配だからと室見は譲らなかった。
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