52 / 108
16.西条 3
しおりを挟む
「正直、わからない。あの事故があって、もしも再会したら……室見のために何でもしてあげたいと思って……いた……けど……」
「どうしたんだよ」
顔をあげられず、西条の視線から逃げるように郁は俯いた。
「八年前の、あれは事故じゃなかったと室見に言われて……当時、室見が……俺の給食に……誘発剤を入れたんだと……言って……」
西条が息をのむのが空気で伝わる。突然肩をぎゅっと抱かれ、郁の瞳にたまっていた水分が散った。
「ごめん、俺のせいだ……」
言わんとすることが解らず顔を見ると、西条は苦しげに眉を寄せていた。こつ、と額を郁の肩口に付けて西条は口を開く。
「あの時……八年前のあの時、俺が室見を煽ったんだ。理科室前の廊下でお前と室見に会った時、郁のことは俺が守ると言ったせいで、室見は焦った。その数日後に事故があって……理科準備室で二人を見つけた時、室見は気を失ってる半裸の郁を俺に見せないように必死で……俺を殺すような勢いで威嚇してきた。怖かったよ。中学生に睨まれただけなのに、本当に」
その時を思い出したのか、西条はぶるっと震える。
「教師を八年やって色んな子供を見てきたけど、室見はやっぱ異質だと思った。当時の俺は傲ってたよ。中学生なんか簡単に言うこと聞かせられるって。そういう俺の態度のせいで、室見を思い詰めさせて……。何もしてやれなくてごめん。何かできることがあったら、何でも言ってくれ」
優しい言葉に、張りつめていた緊張の糸がぷつりと切れるようだった。室見とのことについて相談できる相手は限られている。西条以外には役職者と仕事上でしか話したことはない。その西条でさえも室見が会うなと言えば、偶然以外で会うこともできない。この機会に西条にすべてを打ち明けて、室見とのことを相談したかった。しかし、その前に気にかかることがある。
「西条……は、俺のことを恋愛対象として、見てはいないよな?」
同居していた時に西条を意識したことはなかったし、西条からもそういう素振りはまったくなかった。しかし、室見に指摘されてわからなくなった。オメガとはいえ抑制剤を常用しているので誰彼かまわず誘惑することなどはないとは思うが、人より鈍いと言われる自分が解っていないだけの可能性もある。黙ってしまった西条に、もしかしたらとんでもなく見当違いのことを聞いてしまったのかと恥ずかしくなって、郁は取り繕う。
「ごめん。俺は全然……的外れなこと言ってるよな。よく鈍いと言われてしまうから、念のため、というか……」
「……もし、俺が郁のことを好きだったら、どうする?」
郁の肩口に額を乗せたままの西条が、静かに言う。その声色に、郁もすこし落ち着いて答えられた。
「もしも……そうなら、俺は西条を頼れない。気を持たせるようなことはできない」
「どうしたんだよ」
顔をあげられず、西条の視線から逃げるように郁は俯いた。
「八年前の、あれは事故じゃなかったと室見に言われて……当時、室見が……俺の給食に……誘発剤を入れたんだと……言って……」
西条が息をのむのが空気で伝わる。突然肩をぎゅっと抱かれ、郁の瞳にたまっていた水分が散った。
「ごめん、俺のせいだ……」
言わんとすることが解らず顔を見ると、西条は苦しげに眉を寄せていた。こつ、と額を郁の肩口に付けて西条は口を開く。
「あの時……八年前のあの時、俺が室見を煽ったんだ。理科室前の廊下でお前と室見に会った時、郁のことは俺が守ると言ったせいで、室見は焦った。その数日後に事故があって……理科準備室で二人を見つけた時、室見は気を失ってる半裸の郁を俺に見せないように必死で……俺を殺すような勢いで威嚇してきた。怖かったよ。中学生に睨まれただけなのに、本当に」
その時を思い出したのか、西条はぶるっと震える。
「教師を八年やって色んな子供を見てきたけど、室見はやっぱ異質だと思った。当時の俺は傲ってたよ。中学生なんか簡単に言うこと聞かせられるって。そういう俺の態度のせいで、室見を思い詰めさせて……。何もしてやれなくてごめん。何かできることがあったら、何でも言ってくれ」
優しい言葉に、張りつめていた緊張の糸がぷつりと切れるようだった。室見とのことについて相談できる相手は限られている。西条以外には役職者と仕事上でしか話したことはない。その西条でさえも室見が会うなと言えば、偶然以外で会うこともできない。この機会に西条にすべてを打ち明けて、室見とのことを相談したかった。しかし、その前に気にかかることがある。
「西条……は、俺のことを恋愛対象として、見てはいないよな?」
同居していた時に西条を意識したことはなかったし、西条からもそういう素振りはまったくなかった。しかし、室見に指摘されてわからなくなった。オメガとはいえ抑制剤を常用しているので誰彼かまわず誘惑することなどはないとは思うが、人より鈍いと言われる自分が解っていないだけの可能性もある。黙ってしまった西条に、もしかしたらとんでもなく見当違いのことを聞いてしまったのかと恥ずかしくなって、郁は取り繕う。
「ごめん。俺は全然……的外れなこと言ってるよな。よく鈍いと言われてしまうから、念のため、というか……」
「……もし、俺が郁のことを好きだったら、どうする?」
郁の肩口に額を乗せたままの西条が、静かに言う。その声色に、郁もすこし落ち着いて答えられた。
「もしも……そうなら、俺は西条を頼れない。気を持たせるようなことはできない」
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
恭介&圭吾シリーズ
芹澤柚衣
BL
高校二年の土屋恭介は、お祓い屋を生業として生活をたてていた。相棒の物の怪犬神と、二歳年下で有能アルバイトの圭吾にフォローしてもらい、どうにか依頼をこなす毎日を送っている。こっそり圭吾に片想いしながら平穏な毎日を過ごしていた恭介だったが、彼には誰にも話せない秘密があった。
【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる
grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。
幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。
そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。
それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。
【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】
フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……?
・なぜか義弟と二人暮らしするはめに
・親の陰謀(?)
・50代男性と付き合おうとしたら怒られました
※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。
※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。
※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!
愛のない婚約者は愛のある番になれますか?
水無瀬 蒼
BL
Ωの天谷千景には親の決めた宮村陸というαの婚約者がいる。
千景は子供の頃から憧れているが、陸にはその気持ちはない。
それどころか陸には千景以外に心の決めたβの恋人がいる。
しかし、恋人と約束をしていた日に交通事故で恋人を失ってしまう。
そんな絶望の中、千景と陸は結婚するがーー
2025.3.19〜6.30
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~
つきよの
BL
●ハッピーエンド●
「勇利先輩……?」
俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。
だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。
(どうして……)
声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。
「東谷……」
俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。
背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。
落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。
誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。
そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。
番になればラット化を抑えられる
そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ
しかし、アルファだと偽って生きていくには
関係を続けることが必要で……
そんな中、心から愛する人と出会うも
自分には噛み痕が……
愛したいのに愛することは許されない
社会人オメガバース
あの日から三年ぶりに会うアイツは…
敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる