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19.室見 2
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トコトコ歩いていく黒藍色を目で追って、生徒たちがへぇ~、と感心したようなため息をつく。
「それって、運命だね」
誰かが呟くと、周りの生徒がわっと騒いだ。
「でたよ、室見の運命好き」
呟いたのは室見で、からかわれてむっと顔をしかめていた。
「雌のハナバチの身体にうまく乗り移れなきゃ幼虫のまま死ぬってことだろ。俺と一緒だ」
黒縁眼鏡をずり上げて、周りが茶化す声もものともせずに郁のことを見上げて室見は続ける。
「先生にこたえてもらえなかったら、俺は死ぬんだよ」
ツチハンミョウの幼虫に共感するとは虫が苦手な室見にしては意外だが、表情は真剣だ。
「室見……それじゃ、俺はハナバチの雌、か……? おまえ、俺の大事な卵を食べて、寄生する気なのか」
郁がまじめに答えると、室見は噴きだした。そういうとこ、先生らしい、すき。と言ってひとしきり笑ってから真顔に戻って言う。
「俺は先生のだったら食べられる」
「うわ。何かそれちょっと引く」
「意味わかんねー」
「カニバリズムってやつ?」
「室見ならやりかねないな」
聞いていた生徒たちが笑いながら室見を小突く。室見の意図することが解らず、郁は困惑しながら生徒たちを眺めた。もみくちゃにされた室見が、他の生徒たちの手から逃れて郁の前に一歩歩み出てくる。
「なんだよ、その顔」
むくれた室見が、郁の困ったような顔を見て唇を尖らせて言う。
「俺、本気だよ。わかってもらえるまで、何度だって言うから」
室見は大まじめに郁を口説いていた。
周りの生徒たちが、ピュウと口笛を吹く。この、純粋な一人の生徒の気持ちに、教師として応えることはできない。
「それって、運命だね」
誰かが呟くと、周りの生徒がわっと騒いだ。
「でたよ、室見の運命好き」
呟いたのは室見で、からかわれてむっと顔をしかめていた。
「雌のハナバチの身体にうまく乗り移れなきゃ幼虫のまま死ぬってことだろ。俺と一緒だ」
黒縁眼鏡をずり上げて、周りが茶化す声もものともせずに郁のことを見上げて室見は続ける。
「先生にこたえてもらえなかったら、俺は死ぬんだよ」
ツチハンミョウの幼虫に共感するとは虫が苦手な室見にしては意外だが、表情は真剣だ。
「室見……それじゃ、俺はハナバチの雌、か……? おまえ、俺の大事な卵を食べて、寄生する気なのか」
郁がまじめに答えると、室見は噴きだした。そういうとこ、先生らしい、すき。と言ってひとしきり笑ってから真顔に戻って言う。
「俺は先生のだったら食べられる」
「うわ。何かそれちょっと引く」
「意味わかんねー」
「カニバリズムってやつ?」
「室見ならやりかねないな」
聞いていた生徒たちが笑いながら室見を小突く。室見の意図することが解らず、郁は困惑しながら生徒たちを眺めた。もみくちゃにされた室見が、他の生徒たちの手から逃れて郁の前に一歩歩み出てくる。
「なんだよ、その顔」
むくれた室見が、郁の困ったような顔を見て唇を尖らせて言う。
「俺、本気だよ。わかってもらえるまで、何度だって言うから」
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周りの生徒たちが、ピュウと口笛を吹く。この、純粋な一人の生徒の気持ちに、教師として応えることはできない。
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